犯罪者アンリと縛られたリツキ
聖女宮での商品が足りなかったため、連日ずっとジュディは私の部屋で商品を作っている。
今日もジュディは部屋にいた。
「ジュディは、お屋敷の仕事とかしなくてもいいの?」
「私は聖女様付きの侍女になったんですよ。知りませんでした?」
「知らなかった……だから、ずっといるんだ」
別にジュディが部屋にいても、何も問題がないし、寂しくなくていい。
気も利くしフランクな性格は重くなくて良かった。
「聖女様、知らなかったついでに怖い話をしていいですか?」
「怖い話?」
「最近、ぼっちゃんにこの屋敷で付き合ってる人間はいるのかと聞かれるんですよ」
「はぁ」
「だから、知る限り教えたんですけど、夜中に付き合ってる二人が部屋に閉じ込められる事件が頻発してるんですよね」
前に、アンリが透明になって公園でキスする様子を観察しているという話を思い出す。
悪い予感がした。
「恋人だから、まぁ、そういう雰囲気になるじゃないですか」
「待って、それって」
口を挟もうとする私に、ジュディは話を最後まで聞いてという顔をする。
「で、終わると開かなかった部屋の扉が開くんですって」
「これって、私、犯罪に加担してますかね」
苦笑いするジュディに、私も苦笑いする。
「……たぶん」
犯人は間違いなくアンリだ。
軟禁は犯罪だって言ったのに!
部屋の扉がトントンと叩かれる。
「あら、誰でしょう」
ジュディが出ていくと、ドアの向こうにアンリがいた。
あ、犯罪者だと思う暇もなく、ツカツカと部屋の中に入ってきた。
「どうしたの?」
「ミユ。この前の蝋引き?ってやつ、事業にしていい?」
「蝋引き? こっち三人しかいないし良いけど。いいよね、ジュディ?」
「そうですね。使いたい場所はあるけど、加工が大変すぎて」
蝋引き加工は、個人でやるにはなかなか大変だった。
どちらかというと縫うのに特化しているジュディとシャーリーは布ナプキンとショーツ作りのほうが向いていた。
今は聖女宮に売る商品の方を頑張っているため、蝋引きに費やす労力はない。
「ミユと一緒にやりたい。共同名義なら色々やりやすいし」
「私と? いいけど、大したことできないから、お金の管理とかは、そっちでやってほしい」
「そうだね。それはこっちでやる。どうせ結婚したら同じだし」
当たり前のように言われて照れてしまう。
「お茶、入れてきますね」
ジュディが気をきかせて部屋から出ていった。
「じゃあ、蝋引き加工ってどうやるか教えて」
アンリに言われて、部屋の引き出しから、使っていた蝋引きの布と蝋燭を持ってくる。
「簡単に説明すると、蝋を均一に布にしみこませるんだけど、綺麗にできたのは、やっぱりゴリゴリ蝋を塗ったやつ」
布に蝋をゴリゴリ塗って熱を加えて溶かす。
「本当は溶ける温度まで熱を加えた鉄板とかで溶かしたほうが綺麗になるんだけど、この国にはないから」
「蝋を隙間なく表面に塗った感じにすると、水がしみないってことか」
「うん。でも何度も塗るとそのぶん硬くなるから用途に合わせて」
「なるほど。余った布ある?」
「あるよ。ジュディにもらった」
厚め生地でハンカチぐらいの大きさの布をアンリに渡す。
アンリは布をテーブルの上に置くと、ロウソクを空中で溶かした。
「均一……」
溶かした蝋を空中で薄く平べったくすると、そのまま下の布に置く。
蝋は布に置かれた途端、均一にしみこんでいった。
「熱で圧力をかける、でいいのかな」
グ、と圧力をかけると、アイロンをかけたように布が伸びた。
「神聖力でそんなこともできるんだ!」
「神聖力は高くなくてもいいけど、けっこうコントロール力がいる」
アンリは簡単に蝋引きの布を完成させると、手に取る。
私よりすごくきれいな出来だった。
「蝋をそもそも薄いシート状にしておけば、熱で圧力をかけるだけでいいな」
アンリは簡単に改善案を出しながら、布の半分にもう一度蝋をしみこませた。
「油紙は油が手につくけど、これはつかないし音が鳴りにくいから便利だ」
「なんで事業にしたいと思ったの?」
「ミユに攻撃してきたことに神殿が関与しているなら、神殿の仕事を減らしたほうがいいと思ってたから」
確かに、街で襲撃された時に子どもの背中にあった魔法陣に反撃した時に、アンリは神殿が関与していると言っていた。
「親を捕まえたけど、なんか情報って聞けた?」
「いや。でも親ではないと思う。捕まったと理解したら隠してあった薬で自害した。だけど普通の人間は自害はできない」
あの二人は死んでしまったのか。
確かに、普通に生きてる人には、致死量の毒物を用意することすら難しいだろう。
だけど、アンリの家が神殿と手を切るのは難しい気がした。
「でも、モーリスさんも神殿の仕事してるんだよね?」
「モーリスがミユの大聖女って情報を漏らした可能性もある。ただ僕は自分が手に入れた情報は話してないから、仮定だと思うけど」
「そうなんだ……味方ならいいけど」
「うん。でも、ミユの家も早めに盗聴とか防止できるようにしておいてよかったよ。他人は信用できないし」
「アンリがしてくれたんだ。ありがとう」
「料理を食べに行った時にね。ジュディの家にもしてるよ」
「アンリって、人の情事を盗み見るだけじゃなくて良いこともするから、怒れないよね」
水差しの水を取ってきたアンリの動きが止まった。
「勉強目的でもさ、お屋敷の人たちを閉じこめたらだめだと思うよ」
「楽しんでるわけじゃないし」
「それでもダメだよ。私とのことも人に見られたら嫌だったんだから、人にやっちゃダメ」
「わかった。あとは実践でがんばる」
「う……」
なんか墓穴を掘った気がする。
コンコン
背後から音がする。
コンコン
気のせいじゃないな、と後ろを向くと、鳥が窓をつついていた。
「鳥だ」
窓を開けると、赤と緑色のヨウムのような大きな鳥が室内に入ってきた。
首に大きめのプレートのようなものがかかっている。
プレートには私の名前が書いてあった。
「私の名前?」
プレートを鳥の首から外して手に取る。
突然、プレートが大きく震えた。
『早くわたくしの部屋に遊びに来なさい。そうじゃないと、弟君を食べちゃいま~す』
プレートから音声が聞こえて、ドロテアと手を縛られているリツキが映っていた。
上半身がはだけているので、センシティブな雰囲気がすごい。
「性犯罪!!!!!」
思わず叫ぶと、画像は消えた。
「別に、食べられてもいいんじゃない?」
アンリは冷めた顔をしていた。
「合意のない性行為は犯罪!! あいつ、昨日私にセクハラしたくせにっ」
「えっ、どういうこと」
「詳しくは言いたくない! アンリも一緒に来て! 一緒に殺そう。ああ、その前に神聖力!」
アンリに抱きつく。
「ちょっ」
バランスを崩して、床に押し倒してしまった。
「危ないだろ」
「ごめん、緊急事態すぎて」
ドアがトントン叩かれる。
「そろそろお茶飲めます~?」
ジュディが元気よく扉を開ける。
三人で目が合ってしまった。
「えーと……」
「まだ飲めませんね……」
ジュディが扉を閉める。
まぁ、飲める状況じゃないけどと思いながら、恥ずかしさで赤面していた。




