布ナプキンを売ったら、ドロテアとリツキに再会した。
聖女宮に商品を売る日になった。
私達三人は、お揃いの服を着て、化粧もしていた。
赤いシャツに緑のスカートは、チューリップみたいに目立っていてかわいい。
「お化粧をする必要ってあるのかな。しない方が無害そうでよくない?」
「女性向けの商品は、美しい同性が売った方がいいに決まってるじゃないですか」
二人は元気で華やかだけど、アジア人の私は私は美しいってより地味……。
でも、しないよりは全然マシな顔だ。ジュディは化粧が上手い。
「今日って馬車に乗らないの?」
私の部屋まで来たシャーリーはまわりを見回す。
シャーリーにとってはお屋敷にある調度品すべてが目新しいようだ。
「アンリが聖女宮まで送ってくれるって」
「アンリ、さん?」
「ここのお屋敷の主のぼっちゃんなので、失礼がないように」
キョトンとするシャーリーに、ジュディはぴしゃりと言った。
トントンとドアがノックされて、同時にアンリが入ってくる。
「準備できた?」
歩いてくるアンリに、シャーリーがガタっと立ち上がった。
「美しい~化粧したら一番美人なんじゃないですか? 商品が売れますよ」
「……誰」
近づいてくるシャーリーに、アンリが一歩下がる。
ジュディがシャーリーを羽交い絞めした。
「すみませんね。ぼっちゃん。うちの妹が。綺麗なものが好きなだけで、やましい気持ちはないんですよ」
「ああ、ジュディの妹か」
なるほど、と納得した後に興味をなくしたのかこちらを見る。
私を上から下まで見た後に、ニコッと笑った。
「うん。可愛いくて心配だから、聖女宮の仕事が終わったらすぐ戻ってきてね」
「たぶん、そんな心配するのはアンリだけだよ」
「帰りはタンクから神聖力出して戻って。一応ポーションも持って」
神聖力は四級に戻しておいたので、ポーションを渡される。
ジュディがシャーリーを羽交い絞めにしたまま、バカップルだなという顔で私達をみていた。
みんなで手を繋いで瞬間移動をする。
アンリとはジュディ達を介して、私の神聖力が上がらないようにしていた。
聖女宮に着くと、アンリはサッサと帰ったので、三人で受付を済ませる。
受付にいたのは、最初の頃、受付の玉を壊してしまった時にいた女性だった。
「あ、販売の方ですね! 話に聞いております。どんなものか見せていただいても宜しいですか?」
女性に言われて、説明しながら商品を見せる。
「私も買っていいですか……?」
説明を聞いた後、受付の女性は真剣な顔で言った。
「いくらでもいいですよ~!」
後ろからジュディが笑って言った。
「ここ、人が少ないし、椅子に座ったままお尻を動かすことも多いから、いつも大変で……」
「確かに大変ですね。いくらでもどうぞ」
ゆるゆる紐のショーツで今までどうやってきたんだろう。可哀想だ。
受付の女性は、1セットと、替えのパッドをいくつか買ってくれた。
聖女宮に通されて食堂の一角に案内された。
「いつも行商の方はここで販売しています」
「壁に説明とかを貼っても大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ」
壁があるから、これでポスターが張れる!
ペタペタと説明のポスターを貼る。粘着テープがこの世界にあって良かった。
準備をしていたら、お昼になってきたので、食堂にどんどん人が増えてきた。
聖女の数は思ったよりも多く、30人くらいがこの場所にいた。
遠目から私達を見て、ひそひそと聖女たちは話している。
「あの、見せてもらって良いですか?」
1人の聖女さんが話しかけてくれたことを皮切りに、どんどん聖女が集まってきた。
「着用した下着が見たい人は言ってください。つけてきました」
大声でジュディが話す。
「ええ! 見せるの?」
「イラストじゃ納得できないでしょうが」
わらわらとジュディのまわりに聖女が集まったので、ジュディがつけているスカートを脱いで見せる。
なんという勇気。凄い。
「なるほど」
「しっかりしてるし、後ろまでしっかりあるのね」
口々に言いながら、商品を手に取り買っていく。
「早くしないとドロテア達が来ちゃう」
「あの人たちに見られるの恥ずかしいから、早く買っちゃお」
口々にそう言いながら、下着のセットを買っていく。
あっという間にたくさん持ってきた商品がほとんどなくなってしまった。
「また作って来なきゃね」
ジュディがスカートを穿きなおしながら笑っている。
本当にジュディの勇気は凄いなと思った。
突然、室内がザワッと空気が変わる。
何人かの聖女が突然商品を置いて離れていった。
(ん? なに?)
何事かと見ていると、ドロテアと見目麗しい男性が数人室内に入ってきた。
(……リツキ?)
なぜか、男性の中の一人にリツキがいた。
元気そうでよかった。よかったけど、なんか会うのは気まずい!
「ごめん、私、あの人苦手で! 隠れます」
しゃがみながらシャーリーに声をかける。
「え? あ、はい」
人間関係の範囲が狭すぎると思いながら、しゃがんだまま外に出ようと出口に向かった。
「あら、義務を放棄した四級聖女さん。なにゴミムシみたいに床にいるの?」
聞きたくなかった声が聞こえて、思わず止まる。
なんで目ざとく見つけられるのか。
諦めて顔を上げて声の方向を見ると、ドロテアがニヤニヤとこちらを見ていた。
その後ろに、驚いた顔で停止しているリツキがいる。
「なんの用ですか?」
「へぇ、四級聖女だから、こんなものを売りに来たの? なるほどねぇ」
私を無視して、ドロテアは布ナプキンと下着をしげしげと見る。
使い方を見て、へぇ、と納得したような声を出した。
「いいじゃない? 残り、全部貰うわ。いいわよね」
「あ、はい。ありがとうございます」
枚数制限をしていないので、拒否はできないとシャーリーは判断をしたらしい。
後ろで、残念そうな声が聞こえた。
「また作ったら持ってきて。ごめんなさいね。みんな」
ドロテアはうしろに向かって優雅に手を振った。
残りは少ないと言っても6セット以上はあるし、替えのパッドも多いのに、そんなに必要なのだろうか。
もしかしたら、買った後に捨てるんじゃないかと嫌なことを思ってしまう。
「それで。初日に来たっきり、聖女の業務も怠ってる聖女さん。あなた、どういうことなの?」
お金をジュディ達に払いながらドロテアはこちらを見る。
業務ってなんだろう……聞いたことがない。
「話がよく分からないんですが、業務ってなんですか?」
「聖女にお給料が出るのは、それ相応の福祉業務をするからよ。だけどあなた、来たことがないわよね」
え……知らない。
「ごめんなさい。聞いたことがなくて」
「おかしいわね。学習先のウィリアムソン家には伝えてるんだけど」
ウィリアムソン家はアンリの家だけど、聞いたことがない。
ドロテアは目をギョロッとさせながらこちらを見る。
本当になにも知らない私は、ただただ恐縮してしまった。
「しょうがないわね。明日の私の福祉業務に付いてきなさい。四級でも使える場面もあるでしょう」
「え……?」
ドロテアは私のことが嫌いじゃなかったの?
それとも、意地悪をするために付いてこさせる気なのだろうか。
でも、みんながやってて私だけがやっていないなら、それは悪いことだ。やらなければいけない。
「わかりました」
返事をすると、ドロテアの後ろでため息をつく聖女達の声が聞こえた。
やはり私はいじめられるらしい。
でも、今まで義務を放棄してたというのなら、ガマンするしかない。
「聖女様。帰りましょう」
ジュディが声をかけて起こしてくれる。
商品は全部売れたが、暗い気分で屋敷に戻った。
屋敷に戻った後、アンリに今日あったことを話す。
リツキがいたことは言えなかったが、ドロテアに言われたことも全部伝えた。
「ミユの業務は免除されてるけどな。ミユのポーション売った代金も入れてそれ相応の寄付もしてるし」
不快そうにアンリは椅子に座ったまま足を組む。
「それに、何度かドロテアから書面での連絡は来たけど、それにもちゃんと返事はしたし」
「でも、今日のことで、私がサボってることになっちゃってるから、明日は行ってくるね」
アンリがちゃんとしていても、免除されてても、他人から見てサボりならサボりになってしまう。
お金を受け取っておいて、サボるような人間だと思われるのは心外だ。
「ミユなんて勉強する場にも半日しかいなかったのに、ドロテアは覚えてたんだな」
「ドロテアは、なんか私が最初にこの世界に来た時から目の敵にしてくるんだよね」
「大聖女って知ってるのかな」
「会った時はいつも、四級聖女くらいの神聖力しか持ってなかった気がするのに」
私の言葉にアンリは確かに……といいながら、深いため息をつく。
世の中は、自分の理解の及ばないことが多いなと心から思った。




