残酷な私は、安心させる為にけじめをつける。
私は残酷だ。
リツキを見捨てることもできない。
中途半端に優しさを見せる。
アンリに隠せもしない。
だけど、それらは私にとっては、どうしても捨てられないものだった。
「今日は誕生日だし、日付が変わるまで一緒にいよう」
そう言ったのは私だった。
「僕の部屋に泊まれば?」
そう返したのはアンリだった。
「そうしようか」
生理だし。なにが変わるってわけではないだろうけど。
私が中途半端な考えだからアンリは私を軟禁して、敵対するものは死んで良いと思ってしまうのだろう。
たぶん、残酷な私が気持ちを明確にして安心してもらうには、そうするのが一番だと思った。
部屋で待っててと言われたので、身体を洗って気に入りそうなネグリジェを着る。
ジュディに説明したら、ニヤニヤされたので叩くふりをしたら、笑って出ていった。
蝋燭をひとつだけつけて待つけど、暇だ。
それにしても血の漏れが怖い。
(もしかして、生理痛が止められるなら、生理も軽くできるんじゃない?)
完全に止めるっていうのはだめだろうけど、数時間とか軽くなら……。
神聖力は十分にあるので、お腹にかけてみるけど、よくわからなかった。
(下着が落ちないようにとかも、やってみるか)
ゴムみたいな感じをイメージすると、いつもよりショーツがピッタリとした。
(こっちは成功! 神聖力があって良かった!)
これで朝まで安心だ! たぶん。
「ブラも外しとこう」
こそこそ外して枕の下に入れておく。
今日のネグリジェは肩がわりと見えるデザインなので、ブラがないほうが可愛いなと思った。
「ミユ」
声が聞こえて振り返るとアンリがいた。
かけよって行くと、アンリがへらっと笑いながら私の腕を掴む。
世界が反転して、アンリの部屋に移動した。
ロウソクの明かりだけが灯る室内。
アンリがベッドに入って布団をめくる。
別に何が変わるってわけじゃないけど、緊張してしまった。
「ミユ」
名前を呼ばれて、アンリに抱きつくようにベッドに潜る。
「なんか積極的じゃない?」
今まで抱きついていくこともあまりしなかったので、驚いていた。
「ありがとうって言葉は花一本なんだって」
「花?」
「ジュディが言ってた。感謝してるなら、言葉はときどき花束で渡しなさいって」
「だけど、私あんまり言葉が上手くないし、あんなことがあったし」
言葉では、たぶん伝わらない。
私の複雑な心境なんて、誰にも理解されないだろう。
「でも誕生日だし、態度で花束を渡したいなって」
だけど、せめて、自分が頑張れる範囲だけでも誠実に生きたかった。
「なにしてくれるの?」
「自分から触ったことないから、同じだけ……けど、がんばる」
アンリがふふ、と笑いながら、キスをしてくる。
その顔が煽情的で、綺麗な顔だなと思ってしまった。
私は残酷で正しくない人間だから、正しい人間で自分の穴を埋める。
願うなら、埋めてもらった穴分の何かを、私が与えられることを願いながら。
抱き合うだけで埋まってしまう幸せの穴が、できれば相手も埋められるように。
翌朝
起きるとアンリが隣で寝ていた。
当たり前のことでちょっとびっくりする。
(寝姿まで綺麗ってすごい)
私はちゃんと服を着ているけど、アンリの上半身は少しはだけていた。
前は美少女という感じだったが、今は美青年に見える。
(前は女の子っぽいと思ってたけど、ちょっと成長してる? それとも私の意識の変化?)
思い出すと照れてしまう。
アンリは全然男だったし、言われていろいろ触った。
慣れないこともしたけど、花束くらいにはなったのかなと思っている。
ふと、アンリの目がゆるく開いた。
「おはよう」
声をかけると、少しだけ顔をしかめた後、パッと目を開いた。
「ミユがいる……」
「いるよ。おはよう~」
「おはよ……」
へら、と笑った。
「私、そろそろ部屋帰るね。トイレとか行きたいし、ブラ付けたいから」
「嫌だ……」
すすす……と近づいてきて抱きついてきた。
(猫みたいだ。かわいい)
「アンリはさ、これでも満足なの?」
「何の話?」
「泊ったけど、もっと深いことしたくないのかなって」
「したいけど……まだ勉強できてないし、子どもができるなら結婚が先かなとか」
避妊方法がないのかな。それは大問題。
結婚なんて真剣に考えてなかったけど、魔王との交換条件で出た行方不明の聖女を探さないと、私が魔王の嫁になりそうだ。
「じゃあ行方不明の聖女さんたちを探すのが先だね」
「そうだね。探してるけど、神殿もドロテア周りも巧妙で足跡が残ってない」
「私も探すよ。自分のためだしね」
アンリの背中を撫でる。
「なんか、ほとんど人と触れ合ったりとかないから、これでも満足なんだ」
「抱き合ったりとか、ほとんどないの?」
「両親の記憶もあんまりないし、モーリスとも男だからそういうことしないし」
「そうなんだ」
寂しいね、とは言えずに口をつぐむ。
放置されて生きてきたとしたら、寂しすぎると思うけど、人には言われたくないかもしれない。
「じゃあ、朝ごはんも、夜ご飯も一緒に食べようね」
「そうだね。食べないと大きくなれないし。最近神聖力で背を伸ばそうと思ってるけど、伸びにくくて」
「伸びるんだ!」
「伸びるよ。もともと成長できる範囲だから、成長期に伸ばすのが普通だけど」
「無理しなくてもいいのに」
「前まではいいかなと思ってたけど、やっぱりミユの隣に並ぶとさ」
「じゃあ、ちゃんとご飯食べようね。ちょっとトイレに行きたいから、私は部屋に帰っていい?」
そろそろ本格的にいかないとまずいと思って笑って言う。
すす、と手が緩くなった。
「しょうがない……」
「大丈夫だよ。同じ家にいるんだから」
アンリの頭を撫でて、瞬間移動で部屋に戻る。
(自分が正しいと思える人間でありたい)
薄暗い部屋の中でブラをつける。
部屋のカーテンを開けた。
陽の光がまぶしい。
(ちゃんとした意志を持って生きよう)
リツキは私のせいで死にかけてたし、アンリは誕生日だったのに酷い目にあわせたけど。
人は完璧じゃない。私ももちろんそうだし、二人もそうで。
それは多分、私がちゃんとした意志を持って動いていたら防げたものもあると思う。
全員守れるような人間になりたいと、心から思った。
アンリといちゃつくだけに一話使うのはマジでバカだよ!と思いながら、次の話は普通の内容なので、くっつけられずに一話とることになりました……ごめん……ごめん




