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【完結】制限付きの大聖女 ~弟に溺愛されて困っています!~  作者: 花摘猫
大聖女は自分で行動する編

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胸と本音を大切な貴方だけに。

アンリが消えた椅子を見ながら、呆然と考える。


(私は、酷いことをしていた)


会ってから数週間。付き合ってから一週間もなかったし、キスと抱き合うくらいしかしてない。

リツキは好きでいてくれた期間が長いから可哀想で、アンリにとっては大したことがないと思っていた。

好きにはなっていたけど、それは私の中だけの問題で、年頃のアンリにとって自分は欲求を発散できる都合のいい異性なだけなのだと思っていた。

でも、たぶん違っていた。


可哀想だから、状況が状況だから、アンリの前でリツキの話をしてもいいと思っていた。

そんなわけがないのに。


たぶん、ぜんぶ私は、自分から見た都合のいい解釈で考えていて、間違っていた。

私だって、リツキが過去に誰となにをしたのか気になってたのに、他人の名前を口に出すこと自体間違ってたんだ。


「……バカだ……」


どうしよう。瞬間移動をする神聖力もないから、アンリの場所も分からない。

分かったところで、なんていえばいい?

リツキとは会わないし、苦しんでいても無視すると言えばいいのか。


「……できない」


これがアンリでも、私は無視する道は選べないのに、できる気がしない。

できない約束なんて、しないほうがマシだ。


でも、神聖力を杯にいれるのだから、付き合い方は割り切れる。

リツキには厳しいかもしれないけど、私は割り切れる。

だけど残酷でも、遠くからでもいいから、生きているのだと確認して見守りたい。


(それじゃあ、許されないのかな。私の我儘でしかないのか)


「どうしたら……」


泣いたってどうしようもないのに、涙が落ちて嫌になる。


部屋に、ノック音が響いた。


「あ……はい、どうぞ」


返事をすると、ジュディが部屋の中に入ってきた。


「あら! 聖女様どうしたんです?」


こちらをみて、ジュディは驚いたという声を上げる。

涙を拭くものを何も持っていなかったので、服の袖で涙を拭いた。


「あの。ごめんなさい」

「いいんですよ。ぼっちゃんとなにかあったんですか?」

「私が自分勝手なことをしたから、アンリを傷つけたんです」


どうしようもないので、素直に話した。

こちらはすごく辛い気持ちなのに、ジュディは持ってきた荷物を置いてニマニマと笑っている。


(話すんじゃなかった)


「笑い事じゃないんです」

「ごめんなさい。ケンカですか? 聖女様とぼっちゃんって付き合ってるんですよね」

「はい、一応」


呆れられてさようならを言われる可能性はあるけど、まだ一応付き合ってはいる。

ジュディは私の言葉にオレンジの髪を揺らして笑うと、自分の胸を両手で持つと、ゆさっとゆらした。


「なら、おっぱい揉ませとけばなんとかなりますよ。下着で騒ぐんだから揉ませてませんよね」



おっぱい?



朗らかな言葉に固まる。


「お……そんな軽いものじゃ……怒られますよ」

「おっぱいは軽くないんですよ。重いんです。並の男は聖女様くらいあれば機嫌がよくなります」


えぇ……。そんなに大きくはないよ。CとDの間くらいだし。


「よしよしして頑張ったことを理解してるって伝えておっぱいでなんとかなります!」


ジュディは男性のことを馬鹿だと思ってないかな……。


「人間が人に怒る時って、上手くいかなかったり、自分の頑張りが認められなかった時が多いですよね。感謝を伝えてました?」

「ありがとうは言ってると思います……」

「足りないです。ありがとうはご褒美じゃないですよ。そうですね。ありがとうは花一本です。時々は言葉を花束にして伝えるものです」

「花束……」


私は、アンリの優しさに対してありがとうしか言っていない気がする。

考えてみれば、神聖力の練習から魔王のことまで、全部巻き込んで解決してもらっていたのに。

リツキは家族という関係があったけど、アンリはずっと赤の他人の私のために努力してくれていた。


(呼吸が難しい)


そして、吐いて倒れて連れてきてもらって、世話をしてもらってるのに、特別な感謝もしないで他の男の心配をしだす。


(……本当に、最低のことをしてる)


「私、甘えてました」


また泣きそうだ。

でも、私はいつだって簡単に泣いて本当に嫌だ。意志が弱い。

アンリが言う幸せな人間って私のような奴のことなのかもしれない。

強くなろう。泣いたってなにも解決しないんだから、精いっぱい向き合わないと。

ちゃんと、しないと。


「わかったら、早く謝りに行きましょう。こういうのは早く解決するのが一番いいんですから」


ジュディに言われて、席から立ち上がる。


上着を渡された。


「そろそろ詰め物が血で汚れてるから変えましょ。ついでに下着も変えてってください。ボタンの位置を印付けるので」



ジュディは、私のネグリジェを無遠慮にたくし上げると、布を結んでいる位置に印をつけた。


「これで、真ん中が二センチね。よし。じゃあ変えてきてください」


(当たり前にめくられた……)


新しい下着と詰め物と陶器の容器を渡される。

新しい下着は、軽く縫ってあった。

言われるまま上着を着せられてトイレに行って用を済ませてから取り換える。

下着は汚れてなかったが、間につめてある布は人様にお見せするような状態ではなく恥ずかしかった。

陶器の容器は、詰め物を入れるように渡されたので、それに入れて持って帰る。

頭の中でアンリに言いたいことを整理していて胸が苦しいのに、容器と下着の存在で現実に引き戻された。


(この気持ち……検便とか採尿の検査の気分に似てる)


はぁ……と思いながらトイレから出ると、ジュディが待っていた。


「さ、行きますよ。ちゃんとおっぱいを触らせる覚悟を持ってくださいね」

「あの、本当にそんな簡単な問題じゃなくって」


ジュディは私の話を聞かずに、ずんずんと階段を登って端の部屋に行く。

そして、思いっきりノックした。


返事はない。


ジュディは少しだけ部屋を開けた。


「ジュディさん、ダメですよ。勝手に!」


小声で言う。


「いいんですよ。ぼっちゃんは落ち込むとベッドに入って出てこないんですから」


ジュディはオレンジの髪を揺らして笑った。


「ぼっちゃん。聖女様が謝りたいんですって~! あとおっぱい揉ませてくれるみたいですよ~」


そう言うと、ドアを閉めた。

なんか勝手におっぱいを揉ませるのが確定してしまった!


「よし。餌は撒いたので、あとは頑張って。部屋で待ってますね」


ジュディは私から陶器の容器と下着を取り上げると、そそくさと廊下を走っていってしまう。

見事な素早さでビックリしてしまった。


部屋の前で、呆然と佇む。


「ミユ、いるの?」


ドアの向こうから声が聞こえた。


「うん。いま、私しかいないよ」


部屋のドアが開いて、腕が掴まれる。

簡単に室内に引き入れられてしまった。








引き入れられたアンリの部屋は、カーテンが厚く閉められていて暗かった。

いたるところに本があり、積んで置かれている。


(この部屋、はじめて抱き合った時に来たとこだ)


「別に、おっぱいに釣られたわけじゃないよ」


アンリは泣いていたのか、白目が赤くなっていた。

赤い目なので、ウサギみたいだった。

どうやって切り出そうか考えて、謝るしかないと思う。


「本当に、傷つけてごめんなさい」

「別に……」


頭をさげる私に、静かに返す声。


「私、いろいろ間違えてて。だから、全部話したい」


アンリは私の言葉を聞きながら、ベッドのへりまで手を引いて歩いていって、座らせてくれる。


「私、正直、この世界に来て色々ありすぎて、なにが恋だかあんまりわかってないかもしれない」


赤い目を見ながら、真剣に話す。


「でも、昨日、はじめて自分からキスしたいと思って、だからアンリのことは本当に好きだって思って」

「だけど、そう考えると、自分がしてきてることが汚すぎて、消えたくなる……」


苦しい言いたくない本音だった。

どうしても、目に涙が滲んでしまう。


「どこから間違えたのか分からない。仕方ないって思ったのは最初で、だけど選んだのは自分で」

「アンリは、いつでも正しくて、きれいだから、私のこの気持ちみたいな……汚れてほしくなかった」


役割だから仕方ないだけならよかった。なにしても苦しいだけなら良かった。

嫌なら、本当に嫌なら、その時点でやめていた。

自尊心を捨て去っても、倫理観を捨て去っても、受け入れて保ち続けていたのは自分だ。


「傷が浅くて済むなら、私の汚い部分なんて知らないでほしかった」

「もう手遅れだなんて知らなかった。だって、私にそんな価値なんてない……」


アンリが、私の肩を掴んで抱き寄せる。


「もう、いいよ。わかったから」


耳元に聞こえた声と、顔が見えなくなったことで、耐えていた涙腺が決壊してしまった。

私は、本当に、本当に、愚かだ。これで理解されて別れを切り出されてもおかしくはない。


「余裕がないと、目に見える方に、自分の傷にばかりに目に行く」


「だからアンリが傷ついてることにも鈍感だった……本当にごめんなさい」


好きな人にこちら側に来てほしくない想いは、本音だった。

私の心も、何もかも、保身が多くて、もう、なにも正しくないけど。


「でも、そのくらい、私にとっては幸せになってほしくて、大切な気持ちだった」


アンリは何も言わなかった。

静かに口づけをしてきたので、戸惑いながら受け入れる。

許された気がして胸が苦しくなる。


間違いだらけの世界で、正しいものは言葉でも欲でもなくて、目の前にある気がした。






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