生理になったら下着を見られた。
ふと目を覚ます。
ベッドの上にいた。
起き上がってみると、ネグリジェに着替えさせられている。
家の中の雰囲気と、高そうな調度品に見覚えがある。
(この感じ……アンリの家かな)
そういえば、気を失う前にそんなことを言っていた。
朝みたいな気がするし、半日以上寝ていたってことか。
リツキは、どうしてるだろう。
アンリは問題ないだろうけど、リツキは多分、また泣いてる。
あの正気じゃない感じは、たぶん神聖力を奪う石のせいだろう。登るのを嫌がってたことを思えば、理由はそれしかない。
私も怖かったけど、最後に見たリツキの顔は絶望と形容していい表情だった。
(誰も、悪くない)
深く息を吐く。
(だけど怖かったから、会った時、態度に出たらと思うと怖い)
ぼんやり考えていると、部屋の扉が開いた。
「あら、聖女様! 目が覚めたんですか?」
明るく、くりくりに跳ねたのオレンジ色の髪を一つにまとめた女性が、部屋の中に入ってきた。
メリハリのある身体で年齢は30代に見えたが、朗らかそうでホッとする。
「もう身体の具合は大丈夫ですか? 月のものが来ていたので、下着は用意したものに変えましたが」
洗面器を持ったまま、こちらに歩いてくる。
月のもの?
生理かなと思って下半身を触ってみると、いつもの下着とは違う感覚だった。
(この世界でも生理ってくるんだ)
嫌だなぁと思いながら、ネグリジェの襟ぐりが大きくひらいているので、下着を見てみる。
股のサイズに合わせて軽く切った布を、腰の両端で縛っただけのような下着だった。股の部分がゴワゴワしているので、布か何かが挟まっているらしい。
「すみません。汚しちゃいましたか?」
「いえ。身体を拭こうとして脱がせた時に気が付きましたので。ぜんぜん問題ありませんよ」
「良かった。ありがとうございます」
人に身体を拭かれたのはショックだけど、入院患者だってそのくらいされてるんだから、ありがたいことだ。
「いいえ。アタシが急ごしらえで作ったので適当でごめんなさいね」
あ、下着ってこの人が作ってくれたんだ!
「すごく助かります。この形、いつもよりぴったりしてて」
この世界の下着は紐を横で結ぶタイプのショーツで布面積が少ない。生理の時になんて穿いたらよれて血だらけになってしまう。
「貴族用でしたら、コルセットに付いてるタイプもあるのですが、コルセットは苦手だと聞いたので」
「ありがとうございます。締めつけすぎるのって苦手で」
私の言葉に女性はニコッと笑って、洗面器を台の上に置いた。
「お食事持ってきますね」
「あ、ありがとうございます」
お礼を言いながら、外に出ていく女性を見送る。
(このショーツなら、多少しっかりしてるから布ナプキン作ってくっつけられそう)
昔、布で生理用品を自分で作る文化があると知って、一時期調べたことがある。記憶はあるので作れそうだ。
布団から起き上がって、ネグリジェの裾をあごに挟むと、下着を少しおろして、どうなってるかを確認する。
(なるほど、中はいらない布を挟んでるだけなんだ。まだ量は出てないけど大きく動いたら漏れちゃうな)
ショーツを上に上げて、腰の上部分で結んでいるのをきつく結びなおす。
切りっぱなしの布だから、下着としてはどうなんだと思うけど、しっかりしてていい。
(うーん。紐よりずっといい。結んでるとこをボタンにして、作ってみようかな)
見た目もなかなか良くないかなと思いながら、鏡で見てみようと顔を上げる。
顔を上げたので、ばさりとスカートの裾が降りた。
目の前に、アンリがいる。
「あの。今、来たばっかり」
止まってる私に、アンリは弱弱しい口調で言った後、赤面したまま後ろに下がった。
「下着おろしたとこまで見た?」
「見てない。たぶん見てたら怒られるから逃げた。だから見てない」
アンリはブンブンと首を横に振る。
生理の血を見られるのは嫌だけど、下着だったら恥ずかしいけどまぁいいか……。
アンリとは下着を見られることより恥ずかしいことしてるし、覚悟くらいはしてたし。
「じゃあ、よくないけどいいや」
「ミユは本当に体に合わない、ゴミみたいな下着をつけるよね……」
怒られないと知って、アンリは酷いことを言った。
「これは私が生理だと知って、アンリのとこの使用人さんが作ってくれたの。悪く言ったらだめ」
「生理って?」
「女の人は一ヶ月に一回、体の中の赤ちゃんができる部屋が新しくなるの。その時に古い部屋が血になって外に出る現象」
この世界の人に伝わるか分からないけど、ちゃんと説明してみる。
「ああ、血が出るって聞いたことはある。じゃあミユは子どもが産めるんだ」
「うん、それは。上手くいけば」
逆にできないと思ってたのかな? まぁ健康でもできにくい人もいるから、絶対じゃないけど。
アンリは、すこし考えた後に、おもむろに伸びをした。
「まぁ、とりあえず。下着は人に頼んでちゃんとしたの作ろう」
前、ブラを見た時と同じような顔をしていた。
そんなにひどかった? でも今日お店に行くのは嫌だ。
「替えがないし、血がでてるのに下着を見せるのは嫌だよ。あんまり動きたくないし」
「なるほど。じゃあ作ってくれた人に、ちゃんとした替えを作ってもらおう」
アンリから、絶対にちゃんとした下着をつけろという意志を感じる。
そんな酷い? 私作ったブラは酷いものだったけど、これは切っただけだからそんなにひどくないけどな~。
人が好意で作ってくれたものに文句を言うのも、違うと思うし。
ちょっと不満に思っていると、部屋がノックされた。
「あ、食事だ」
ドアを開けに行くと、ドアの向こうにオレンジ色の髪の女性が立っていた。
「ありがとうございます。開けてくださらなくても大丈夫ですよ」
女性は微笑みながら食事が乗ったワゴンを室内に入れる。
「ぼっちゃん。もういらしていたんですね」
アンリをみつけると、女性は微笑みながらテーブルに食事を用意する。
「さぁさ、冷めないうちに。坊ちゃんの分もお菓子と紅茶を用意しておりますよ」
言われて席に着くと、ササっと具沢山のスープとパンが出てきた。
昨日吐きすぎて、あまり胃の具合がよくないだろうから、ちょうどいい。
手を洗って食べる。
「ミユ。下着を作ったのはこの人?」
「え、あ、うん」
食事中に言われて、驚きながら答える。
恥ずかしいから、人前でそんなこと聞かないで欲しい。
「ジュディ。ちゃんと手当ては出すから、ミユにちゃんとした下着を作って」
「どういうことです?」
意味が分からないという顔をしながら、ジュディが私とアンリの顔を見る。
このままじゃ、私が部屋に来た男性にいきなり下着を見せつけた変な女になってしまう。嫌だそんな不名誉なことは。
「あの。違うんです。見せたくて見せたわけじゃなくて、えっと、下着がどんな感じか見てたらアンリが部屋の中にいて」
「ぼっちゃん。女性の部屋に勝手に入ったんですか? いけませんよ」
「そんなことをしてるとは思わなくて」
「ちゃんとドアの外でノックしてから入ってください」
「わかった」
ジュディに言われて、アンリは仕方ないという顔をした。
「聖女様、その下着で良いんですか? それは布を切っただけですから、ちゃんとしたものは作れますが」
「普通に売ってる下着よりしっかりしているので嬉しいです。結ぶんじゃなくてボタンが良いですけど」
「ああ、ボタンのほうが横がスッキリしますものね」
なぜ食事の時に下着の話を……と思いながら、話し続ける。
ジュディは使用人ではなく、友達という感じで気さくで話しやすくて嬉しかった。
食事が終わって、ジュディが食器をワゴンに乗せて部屋から出ていく。
部屋の中には、私とアンリが残っている。
ジュディに作りたいものがあるから、針と糸と捨てるような布が欲しいと言うと、笑顔で引き受けてくれた。
下着につかう布を買った後に、また部屋に来てくれるらしい。
ジュディは女性の知り合いがいない私には嬉しい、仲良くできたらなと思える人だった。




