二人と抱き合うたびに潰れる心
ユウナギ邸に行く前日になった。
朝から、リツキのベッドで抱きつぶされてキスをされていた。
「はぁっ、もう、遅刻するでしょ!」
「もう休もうかな」
笑いながら、首筋を舐められる。
与えられる刺激に、声を抑えて震えた。
「どんどんエスカレートしてる! やだ」
バタバタとして腕の中から逃げて上半身を持ち上げる。
おかしい。同じようなことをするだけだったはずなのに、どんどん恋人っぽくなってる。
「ごめん。逃げないで~」
服を脱がしたりはしないが、リツキは密着して舐めたりするのが好きなので困る。大きい犬みたいだ。
恋人同士のキスをした翌日の夜から、1日二回はこういうことになっていた。
嫌なことの範囲は指定していたけど、私があまりにも恋人同士がするという行為が何を指すのか理解していなかった。
だから今までと同じだと思っていたことは、許可を出した後に予想より激しかったりして眩暈がしそうだった。
一時間という時間の制限は、リツキにも平等に指定していたので、分けてしているという感じだった。
リツキは、たぶんまだ余裕がない。
夜に余裕がある時は凄く優しくて話ができるけど、それ以外はそれ以上をしたいんだろうなと思わされる感じで、喰われているという感覚が近かった。
なんの障害もない恋人同士であれば、たぶんすごく楽しいんだろうけど、正直私はそこまで気持ちが追いついていない。
具合が悪くなるということはないが、不道徳な雰囲気で困ってしまう。
(首と顔を洗ってからアンリの家に行こうかな)
リツキが家から出た後、ポーションを作りながらぼんやり思う。
メンタルの具合がよくなかった。
魔王に会うまでの数日間。不本意だと言い訳をしながら二人と色々してきて、心が正しいことが分からなくなってしまった。
一日たった二時間でも、二人とこういうことをしていると、いくら好きでも罪悪感で潰れそうになる。
(逆かもしれない)
好きだと分かってきたからこそ、潰れそうなのかもしれない。
(ずっとこんなことしてる自分って、どう考えても汚い)
あーぁと思う。
嫌いなら良かったのに、そのたびに感情が動かされる私は、そういう欲の人間ってことだ。
罪を積み上げるように、神聖力を隠して集めた赤いポーションだけが溜まっていった。
その日は、神聖力を絞って出力する勉強をした。
リツキを食べた子供たちの気を失わせたり、足を治すのに妙に神聖力切れが早かったのは、出力調整ができていないかららしい。
アンリのような剣を作るには、出力調整などができていないとできないらしいので、頑張って練習する。
膨大な神聖力があったとしても、使いこなせなければ、ただ神聖力を発生させる装置になりそうな気がして怖かった。
夕方。
アンリとそういうことをする時間になった。
鍵を閉めた部屋。
キスをしながら、アンリの指が背骨を撫でられて震える。
「ミユって時々ビクッてするよね。なんで?」
口を放したアンリが笑う。
声を出したくなくて耐えた自分には何も言えない。
「……教えない」
「もっと色々したいから、キス以上のことを調べたかったけど、時間がなくて調べられないんだよね」
「調べなくていいよ。大変なことになりそう」
ああ、アンリの心はきれいだなと思う。
そういう心は、本当に好きな人に消費するものだと思ってしまう。
「私ね、アンリには幸せになってほしい」
「別に幸せだけど?」
「それなら、よかったけど」
アンリとのこういうことをしている時の方が、会話があって心が楽しかった。
それがまた罪悪感を加速させていた。
「明日さ、弟を連れていくのやめない?」
私を見つめながら、アンリが真剣な顔で言う。
「え?」
「弟は魔王がミユを勝手に連れていこうとしたときの護衛の意味で話に出したんだけど、触られたくないし」
アンリからは最初に弟と同時進行でも良いといっていたのは譲歩で、できるならしてほしくないという感情が見えていた。
告白の時は知らなかったので、同じようなことをしていますなんて、言えるわけもない。
なにも伝えていないけど、知られているのかもしれないと思うと怖かった。
「一応、話してみるけど、たぶん来ると思うよ」
「本当に失敗した」
落ちこんでいるアンリを慰めてから、屋敷を出る。
三日くらい前から、今の状況に耐え切れなくなって帰り道に行く場所があった。
郊外にある、小さな喫茶店。
夫婦がやっている喫茶店は、奥さんの趣味なのか、ぶさいくなぬいぐるみがたくさん飾られている。
この前、神聖力が落ちた時に見つけたのだけど、あまりのぬいぐるみのぶさいくさに覚えていた。
人が多いと神聖力がばれてしまうけど、いつもお客さんが2、3人しかいないので、たぶん知られることがない。
そこで、色々な飲み物を飲んでみるのが楽しみだった。
今日頼んだのは、キャラメル味のラテみたいな味の飲み物だった。
奥さんが、ニコニコとブサイクな猫のようなクッキーをつけてくれた。
「ありがとうございます」
お礼を言うと、奥さんはもう一枚クッキーを乗せてくれた。
それだけで、心がホッとした。
(友達がほしいな)
ぼんやり考える。
ずっと、生活と必要な勉強をする以外は、二人といちゃつくことしかしていない。
アンリも友達じゃなくなった。神聖力が高いと簡単に買い物もできない。
(寂しい。未来がこわい)
クッキーを食べると、スパイスの味がして美味しかった。
物事が、食べたら美味しいと思うくらいのシンプルさで済んだらいいのにと思う。
この世界にくる前は、働いてお金をためたら喫茶店をしてみたいという夢があった。
だから料理も苦じゃなかった。だけど、もう一生無理で、イチャイチャする未来しかない。
相手が好きだというのは最低条件で、世の中にはそれすら叶わない人もいる。だから恵まれていると言われたらそうだけど。
(なんでこんな狂った状況……)
二人といちゃつくのは、悪くない。でも楽しいと思った次の瞬間、罪悪感に堕ちる。
(魔王との問題がなくなったら、アンリとの関係は解消してあげたい)
親切心で言ってくれただけかもしれないし、リツキには私しかいないけど、アンリはたくさん大事なものがある。
それに、彼はこんなことして興奮とかしている私にはふさわしくない。
アンリのことは、二度と会えないと思うと苦しいくらいの想いはある。
だからこそ、幸せになってほしかった。
恋人になって数日しかないから傷が浅い。私には楽しいことしかないけど、楽しいことしかない分、たぶんアンリは苦しくない。
私の問題に、これ以上巻きこんだらいけない。都合よく触って遊んだくらいの気持ちでいいから、傷つかないでほしかった。
リツキより幸せな時もあるけど、一緒にいた期間が違いすぎて私はリツキを捨てられないし、たぶんリツキが壊れてしまう。
堕ちていくのは、私だけでいい。
そんな気持ちでいっぱいだった。
その晩、リツキに明日来なくてもいいと言ったけど、即却下された。
神聖力と魔王の問題があるから今の関係が維持されているのだから、当然の反応で。
そんな提案をした私は、リツキから見たら酷い人間だと思う。
だけど、それすらどうでもよくなるくらい、明日は酷い気分になるような、そんな嫌な予感がしていた。
大聖女に人権がないのか、余力があれば合わせすぎてしまう優しさが悪いのか。なんかたぶん、不安な流れだと思うので、あとで活動報告書きますね……。へへ……。




