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花嫁は、結婚式で本当の幸せを手に入れる。

結婚式当日。


結婚式の朝は、雲ひとつない快晴だった。

アンリが作った建物は、薬屋をするにしては神殿に似ている、教会のような綺麗な建物だった。


「ここはたぶん商業区域になるだろうから、庭とかは作れなかったけど、大聖女を称えるみたいな建物にした」


得意げなアンリに、私は称えられるような人物じゃないけどなと思いつつ、微笑んで答えた。

内装はまだ店のような台などはなにもなく、綺麗に飾られた大きな白い花とヴェールのような白い布が室内を飾っている。

中央広場でオーケストラを演奏させて、室内にその音楽を流す準備までしていた。

室内には台座と、客が座れる椅子と丸テーブルが置かれており、準備に沢山の人が動いている。

奥にある扉のひとつはお屋敷の厨房と繋げられていて、料理長が私と考えたレシピを一生懸命調理していた。



私は自分の家で、結婚式のドレスに着替える。

ウエディングドレスは、基本は白地に銀の刺繍、リボンなどは銀色に黒い刺繍がしてあって美しい。


「ジュディも二か月後に自分の結婚式があるのに、ごめんね。ドレスも色々ありがとう」

「いやぁ。アタシもシャーリーも聖女様のドレスを作る役目を人には渡したくはないので。今回はちょっと人の手を借りましたけどね」


今回は、ブラの制作を契約しているお店で四人の他にドロテアの服を仕立ててもらってから、ジュディとシャーリーに装飾品を全て用意してもらった。

ドロテアのドレスはブルーで、三人が納得する範囲の変更が加えられているが、私のドレスと似ている。

ドレスは仕立ててもらってから、ジュディとシャーリーが刺繍をしてくれたので、本当に美しい仕上がりだった。

首を飾るのは以前プレゼントに貰ったネックレスで、けれども少しだけ美しく形を変えていた。

美しい銀細工が、刺繍の銀細工と合っていて美しい。


「ミユキ。あなたちょっと」


「わたくしと同じ花がミユキの頭に飾られているのは嬉しいけれど。どうして使用人のジュディが同じ刺繍のリボンをつけているのかしら」

「ジュディも私の親友だから。でも、ドロテアはドレスも髪飾りも私と似てるからリボンくらいいいでしょ?」

「まぁ、そうね。わたくしのドレスにも刺繍してもらってるし……でも、やっぱり嫌だわぁ」

「聖女様のまわりは、お友達も湿度が高すぎますね。アタシは心配ですよ」


ジュディはサラッと話すと、私の化粧を終えた。


「ユキ、そろそろ終わった?」


シャーリーに化粧をしてもらっていたゾーイが現れた。

ウェディングドレスのようだが、パンツルックという謎の格好だが、決まっている。

今日は髪もいい感じに整えてもらったらしく、少しくせ毛が伸びていてオシャレだった。


「ゾーイ、すっごく素敵だね」

「そりゃどーも。ユキもいつもどおり可愛いけど、これもいいね」

「あ、ゾーイ。入浴剤が切れたから、わたくしに30個売って。薔薇の香りがいいわ」

「薔薇は貴族に人気すぎて切れてるんだよな。とりあえず好きそうなやつをプレゼントするよ」

「ゾーイさんの入浴剤、すごく売れてますよね。使用人まわりでも安い方を使ってる子多いですよ」

「神聖力で清潔になって、肌と髪の触り心地がよくなるのは自分でもできるんだけど、香りもいいから気分が上がるのよね」

「おかげさまで寝不足。なんかウィリアムソンの仕事も手伝ってるし。ユキも全力で効能入れてるのに間に合わない」

「私、三日に一度、魔王のとこにある水槽みたいな奴に何個か効能入れてるんだけど、間に合わないんだよね。売れすぎだよ」


そう。ゾーイの入浴剤は売れに売れて、忙しくなり過ぎたゾーイはついにアイドル事業をディヴィスに譲渡した。

アイドル事業はもう軌道にのっていたので、真似する人は出ても上手くいっているらしく、最近は私達をオリジナル化した二次創作は減っている。


「ミュー! 時間だよ。ってかっわい! 結婚しよ」

「今日も可愛いけど、もうちょっと薄化粧でも良かったな。でももう時間か」


リツキとアンリが現れた。

二人共とてもかっこいい。

三人とも好きだと思ってから事あるごとにキラキラしていたが、今日は目に眩しいくらいだ。


「二人とも、かっこいいね!」

「だろ。俺はミューの隣に立つために生まれた男」

「トータルで僕とミユが合うようにできてるから、かっこよさはどうでもいい」


かっこつけてはいるけど、二人は昨日、遅くまで仕事をしていて眠らないと見た目が悪くなると焦っていた。

勇者の力は万能なので、気持ち悪いし高価でも神聖国に来られないレベルの重病人に凄く人気が出た。

ビンに詰めれば生モノだけど何日かは生きている。二人は二日処理する分を昨夜のうちに終わらせていた。

勇者の力は貧民街で無料で配布などの希望は却下されたけれど、神官は内臓を直すのが苦手なので神殿に依頼されて卸している。

平和になっても神聖力や勇者の力が利用されるのはいいことだ。


ガチャリと扉が開いて、シャーリーが顔を出す。


「聖女さま、もう準備が整ったそうです。あっ、みんな素敵……」


素直な言葉に、思わず笑う。


「シャーリーも来て。みんなで行こう」


シャーリーがニコニコと笑ってこちらに歩いてくる。

神聖力を使って、式場に飛んだ。





準備が終わり、私一人が式場の外に出る。

両親が両サイドにいて、扉が開くのを待つ。


建国式の時、万感の思いってこういうことなのかなと思っていた。

色々あったなとは思っていたし、緊張もしていたし、国民の見える感情は、心を揺さぶった。


それに比べると、今日の会場は狭く、本当に身近な小規模の人しか呼んでいない。

だけど、心は本当に差し迫るような想いでいっぱいだった。


「ミユキは緊張するな。母さんも泣くな。化粧が本当に酷い」

「だってお母さん、アカタイトで大変な時、絶対ミユキちゃんに力を返さないといけないし、無事を確認するまで死ねないって思ったんだもの」


お母さんは本当にべしょべしょに泣いていた。

私もグッと涙をこらえながら浄化をかけるけど、化粧の酷さはどうにもならないので崩れた化粧を消した。

両親も両親で苦労があって、私もみんなもそれぞれの苦労や悲しみがあった。

起きたことは変わらないし、罪も正しさも、何ひとつ正解がわからないけれど。

それでも手を取り合って胸を張って生きることができれば、幸せに続く道のように思えて、本当に切ない気持ちになってしまう。



室内から荘厳なオーケストラの演奏が聞こえる。

重い扉が開かれると、両側にいる招待客の向こうに三人の姿が見えた。


(なんか、本当に泣きそう)


一歩一歩、両親と共に歩く。

二人と抱き合ってた時は、友達もいなかったし、もうこういう人生なんだろうなという絶望感があった。

心がついて行かない触れ合いに、心が折れた日もある。

だけど建国祭の時は、人間は好きな人といれば幸せだなと思っていた。


けれども。

この気持ちはなんだろう。

三人がいて、私がいて、みんながいて。


(私、少しはみんなを幸せにできてるよね?)


頑張ったからって結果が伴うなんて思ってもいないけど。

だけど、胸に迫る想いが、心が、いつのまにか自分を許していた。



両親の手を離れて、三人の元に行く。


モーリスが誓いの言葉を話す間に、三人の額にキスをして、かわりに額にキスをされる。

指輪は四本。シンプルなデザインだけど、どうしても欲しくなったので、頼んで作ってもらった。

サイズを間違えたらまずいと思いながら、三人の指にはめる。

私の指輪は三人で上手くはめてくれた。


不均等な関係。

けれどやっぱり手を離せなくて大切で。

これでいいと、もう認めてしまおうと。

幸せならそれでいいと胸の鼓動が伝えていた。


結婚の宣言をして拍手が起きると、ウェディングケーキが運ばれる。

これは、考えた末にアンリの誕生日に出したものと同じケーキにした。


そして、ヴェールを外したあと四人で入刀して、パーティーが始まる。

ドロテアは魔王と一緒にいるか私と一緒にいた。

チハラサとボニーは別々に行動していて、チハラサは魔王やアーロンさんと外交の話をして、ボニーはゾーイにコソコソ話をしていた。

ジュディはアーロンさんやシャーリーと一緒にいて、こう見てみると歳の差もお似合いだった。

お母さんは化粧を直して、お父さんと一緒に料理を食べていた。

モーリスさんは、やっぱりあの子と文字と言葉を教えるという過程を経て付き合いはじめたらしいが、今日は連れてこなかったらしい。

和やかに会話をする光景を見ながら、幸せだなと思う。


幸せな時間に、幸せだと思える人たち。

大丈夫だと思っていても、いつか壊れたり離れてしまうかもしれないけど。


(でも、きっと、大丈夫)


今を大切に、共に生きていきたい。

泣きそうになる光景を見つめながら、素直にそう思えた。









ミユキがやっと自分を認められたようで良かったです。

あと二回ですので。引き続きお楽しみください。ブクマや評価などで応援していただけると、他の方にも読まれるようになるので、どうぞよろしくお願いいたします。

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