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ゾーイとの新婚旅行 ~重愛の幸福~


ゾーイとの新婚旅行の日になった。


仕事帰りに大急ぎで新婚旅行に行く。

バラリウムは、神聖国と違って行ってみたら暖かかった。

栄えている国なので、町中にステンドグラスのようなランプが輝き、夜でも明るい。

立ち寄った時は気付かなかったが、昔テレビで見たチェコっぽい雰囲気だなと思った。


「綺麗な街だね。夜がすごく素敵」


ゾーイが予約したホテルは、大きくて中央にプールがあるような立派なものだった。

部屋も立派で、美しく薄い布がドレープを描いて室内を飾っていて、その布をキラキラしたガラス細工の留め具が飾っている。


「すごい。綺麗!」

「綺麗だよね。喜んでもらえて良かった」


そう言いながら、ゾーイは髪を肩より長く伸ばした。


「わ、凄い。似合う」

「お揃いの服もドレスも買ってきた。着よう。ユキ、化粧して。分かんないから」

「私の下手な化粧でいいの?! 技術ないけど」

「自分よりはマシだからね」


バッグから白いドレスを二着取り出すと、続けて聞いて買って来たらしい化粧品をパラパラとベッドに置く。

渡されたドレスを着てみると、ワンピースという感じでシンプルな感じでセクシーすぎず、誰にでも似合いそうな感じだった。

ゾーイにお化粧をすると、私の上手くない化粧でも美しくなったので、本当に整った顔をしているんだなと感心する。

髪を伸ばしてドレスを着て化粧をしたゾーイは、ドロテアにも劣らないほどの美人だった。


「普段からこういう格好したらいいのに。凄くきれい」

「嫌だ。リツキンとかウィリアムソンに必要以上に女みたいに見られるのも嫌だし動きにくい。だからユキにだけ見せる」

「恋人の特権すぎる~」


隣に並ぶ私はただのちんちくりんのアジア人すぎて恥ずかしい。

化粧をしたところで上限が決まっているところがつらい。

でもそんなことは言えないので、気を強くもつことにした。


二人で食事をする。

コースじゃなくて、色んな料理を頼んでテーブルに並べて食べた。

化粧をしたゾーイはすごく女性で、改めて私って女の子と結婚するんだなと思ってしまった。

でも食べ方は綺麗なのにガサツなのが面白い。


「めちゃくちゃ見られている。そういうことは部屋に帰ってからだよ」

「違うよ! 見た目はすごく女の子なのに食べ方は男っぽいなと思っただけ」

「身に沁みついたものは簡単にはね。直そうとは思わないけど。スカートも足さばきが楽だけど慣れないし」

「ゾーイの個性だから悪いとは思ってないよ」


私が言うと、ゾーイはキョトンとした後に、フ、と表情を和らげて笑う。


「ユキのそういう所好きだな」

「え? どういうとこ?」

「自分じゃ分かんないか。自分さぁ、やっと女っぽい格好したら負けみたいな呪いみたいなものが解けたんだよな」

「そんなものあったの? 趣味だと思ってた」

「前からあったけど、ガラレオに行ってから強くなった。女だからこんな目に遭うんだなとか。性別で変に注目されるのは損だなぁとか、あとスタイルがよくないなとか思ってたし」

「スタイルはいいよ。そんなことないのに」

「女の需要って肉付きの良さだし。でもユキがそう言うし、触りまくってくるし色々してる間に気にならなくなった」

「私がスケベおじさんみたいな感じの言い方してる!」

「ユキは触るけど純粋なんだよな。でもそのおかげで、まぁ喜んでるし……別に男になれるわけでもないしなって思って、今はこんな格好ができる」

「それは良かったけど不名誉すぎる」


感動したらいいのか、拗ねたらいいのか全然分からない。

そもそも服装も趣味だと思ってたし。人間の性別は二つだけど人間を一人として見た場合、その人が魅力的であれば好きに生きたらいいと思う。


「ゾーイは男の人になりたかったの?」

「うーん……それも違うけど。恰好は好みではあるけど、なりたいかと言われてもな。でも女って枠も嫌だなみたいな」

「複雑なんだ。でもゾーイは魅力的だから、どんな格好してても、惹かれる人は出ちゃうと思うけど」

「ま、道端に落ちてる石も綺麗なら拾うだろうしね。とりあえず受け入れて苦手意識を無くしていこうかなと」


そういってゾーイは微笑む。

正直、彼女が何を感じて、何を受け入れられたのか分からない。


(だけど結果的に本人が一歩進もうと思えたのなら、気持ちが分からないとしても、それでいいのかも)


人の気持ちなんて完全には分かり合えないのだから、分からない前提で理解をしようとするだけでいい。

間違った理解は相手を傷つける可能性があるけれど。それでも理解しようと思うことが大事だと思えた。


「難しいことは分からないけど、ゾーイが幸せならそれでいいよね」

「うん。それでいい」


諦めとは違う穏やかな気持ちだった。



その日はそのままホテルに帰ってイチャイチャしたけど、ゾーイは髪の毛が絡まると怒りながら髪をまっすぐにしていた。

そうなるとゾーイというより、ただの性格がさっぱりした美女で、美女とエッチなことしてると思って必要以上にドキドキしてしまった。

改めて自分って好きなら受け入れ範囲が広すぎるかもしれない。




次の日。

同じドレスで観光をした。

ゾーイが声をかけられるの嫌だと神聖力で上手くやってくれたので、変な人に絡まれることもない。

朝から頼まれて初恋とか新鮮味の効果がある神聖力をかけたので、ずっとゾーイは口数が少ないものの私にくっついていた。


沢山のお店が並ぶ市場の中を二人で歩く。

異国って感じで楽しかったし、食べ歩きも楽しい。

服に合うバッグをお揃いで買って変えたり、色々楽しかった。

ずっと静かで時々楽しそうに笑うゾーイを見てると、これが素なんだろうなという気がしてくる。


「ゾーイってこの神聖力をかけると元気がなくなるのに、よくかけてほしがるよね」

「なんか、建国する前から自分の気持ちに気付くまでの色んな気持ちを思い出して切なくなって、幸せな気持ちで上書きしたくなるんだよね。昔は好きだとは思ってなかったけど」

「アンリはゾーイはよく耐えられたって言ってたから、本当にゾーイが気付かないだけだったんだ」

「虐待と一緒で、いきなり色んな感情を与えられても分かんないものなのかもしれない」


肉入りのケバブみたいなものを食べながら、ゾーイの感情ってわりと複雑で層があるんだろうなと思う。

二人で市場を出て、ぶらぶらと浜辺を歩いていると、いつの間にか夕方近くになっていた。


「食べ歩きしすぎてお腹減ってないね」

「ユキが美味しそうになんでも食べるから釣られたけど、夜は要らないな、これは」

「途中から私のを一口食べるだけになってたもんね」


もうすぐ日が暮れていくんだろうなという空の色は綺麗でロマンチックなのに、色気がない会話をする。

ゾーイは突然よし、と気合を入れた。


「ユキと最初にキスした島まで行こう。そのためにここにしたんだし」

「今から? あのただの岩っていうか、何もない島に?!」

「そうだよ」


鮮やかに笑いながら言うと、私の腰を抱えて瞬間移動する。

突然のことに文句をいう暇もなかったけど、スイスイと海上を移動する嬉しそうな顔をみると、どうでもよくなってしまった。


ゾーイにとってはあれが正式なファーストキスだから島に行きたいのだろう。

そう思うと可愛いし、なんでも許せる気持ちになってしまった。


(ファーストキスがあんなに激しいなんて、ちょっとおかしいけどゾーイだし)


この容姿で頭脳なら、誰からでも手を差し伸べられる人間なのに、変なアジア人に惚れちゃって。

神様も残酷だよね。同性に惚れさせちゃうなんてさ。まぁこの世界の白い神様ってポンコツだから仕方ないんだけど。




色々考えている間に、キスをした島に到着した。

本当に何もない島だけど、暮れていく空と相まって、この世界に私達しかいないような気持ちになってしまう。


「何もないけど、綺麗だね」


お互い水平線を見ながら話す。

少し風があるせいか、お互いの髪とスカートが揺れていた。


「ユキ、さっきまで何考えてたの?」

「ゾーイって素敵なのに、こんなにめんどくさい同性に惚れさせちゃうなんて神様って残酷だなって」

「馬鹿だな。関係ないよ。それに自分の神はユキだし。神様に祈っても何もしてくれなかったけど、ユキは救ってくれたからね」


神。この三人といかがわしいことをしている私が神。大聖女もどうかと思っているのに。


「塔から救っただけで神は言いすぎだよ~」

「塔のことだけじゃないけど。でもユキはきっと言っても大したことない扱いなんだろうな」


そう言いながら、ゾーイはカバンから木箱を取り出して私に見せる。

私はその箱に見覚えがあった。


風が止む。


「それって」

「魔王に作ってもらった」


開けると、黒い石の中央にオレンジ色が入った石が付いたペンダントトップがが入っている。


「ネックレスを出して」


言われて、首に隠してあるネックレスを出す。


「効果は自動発動だから言わない。ただ、無理はしないで」


ゾーイはそういうと、ネックレスにペンダントトップを近づける。

三つ並んでいるペンダントトップの中央の下にペンダントトップがくっついて、翼を開くように銀細工が花咲いて鎖を補強した。


「あの時、本当は胸が苦しかったんだ。これであの頃の気持ちが救われたら嬉しいんだけど」


話しながらゾーイは自分のネックレスを出す。ゾーイ側は留め具部分が変化していて、二度と外れないようになっていた。

それが何を意味するか理解できてしまって、胸が苦しくなる。


(ああ、私が一人になるのを怖がったから)


恋なんて分からないと言っていたのに、胸が苦しかったことは覚えているなんて。

私は、何も知らなかったのに。

塔から連れ出したあと私が彼女の賢さを利用しなければ、他の人と幸せになれたのだろうか。

けれども、今そんなことを考えても意味がないし、私もこうならなかった未来は考えられない。

目の前の綺麗な笑顔と、不平等な幸せに涙腺が緩む。


「これ……効果が発動してもゾーイは、危なくないの?」

「さぁ。でも大聖女だから、使うことは一生ないと思う」


日が完全に暮れて、全てが暗闇に包まれる。

涙で景色が歪んだと思ったら抱きしめられて、何も分からなくなった。

無言で抱き合いながら崩れるように腰を下ろす。

波の音だけが聞こえていた。


命を与えることは魔王が断ると言っていた。

だけど、ゾーイはアンリみたいに聞き分けがいいわけじゃない。似たような効果があるのかもしれない。


「ゾーイって、もっと賢いと思ったんだけど」

「ユキは馬鹿だな。賢いからこうしたんだよ」


震える声に、震える声が返ってきて。

初めての時は無遠慮に貪られた唇が、今は優しく誘うように重なる。


心が戻ったからこそ、相手の気持ちや覚悟が理解できて心が苦しい。

首に飾られた繊細な銀細工が、鎖のように心を縛る。

病める時も健やかなる時もなんて曖昧な言葉より、重い愛の形が私にとっては嬉しかった。


うわ言のように名前を呼ぶと、唇が解放される。

好きと言った時には合わせなかった視線を合わせて、愛してると囁く。

長いまつ毛が戸惑うように揺れるのを見た後に、こちらから契約のように口付けた。


間違えたと言っていたあの日のキスの記憶が、間違いじゃなかったと修正されて補強される。

何もない、名前すらないこの小さな島が私たちにとっては忘れがたい場所になる。

きっと、思い出はこういうことの繰り返しだ。


結婚式に、ゾーイの親族は呼んでいない。

彼女がそれを望んでいなかったから。

いつかの夏の日。私が何も持っていなかったように、彼女も何も持っていなかったのかもしれない。

だからこそ縋るように努力してここまで来てしまった。


「一生、傍にいるから」


唇を離してから言うと、綺麗な瞳が揺れて、涙が零れ落ちる。


「……うん」


震える小さい声が切なかった。


「居場所も、愛も、ユキが全部くれた」


涙を落としながら、ゾーイが呟く。

中性的な彼女も、女性らしい彼女も、どちらも愛しい。






月明りの下、手を重ねたまま二人で夜空を見上げる。

潮騒が永遠を表すように繰り返し聞こえていた。








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