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個別にイチャつきたい三人。

事の発端は、結婚式をすると決まった数日後。

小さな家でゾーイが意を決したように机をたたく。


「ユキが妊娠する前に一泊二日でいいから、二人きりで新婚旅行に行きたい!」


切実な顔だった。

そういえば、ゾーイはほとんど二人で過ごすという経験がない。

可哀想すぎる。


「そうだね。いこうか! 二人で過ごすのもいいよね」

「あ、俺も賛成。夜から行って二泊がいいな」

「僕も賛成だけど、じゃあ、結婚式の後から作ろうって話だから、ホテルの空きとか色々急いで手配しないと」

「ついでに全員忙しいから、この家でゴロゴロするのやめて、ご飯食べたら即、二人きりになる時間も欲しい。入浴剤の仕事は自分の時間に入れてもらうから」

「そんなにゾーイは二人きりの時間がほしかったの……?」

「当たり前だろ。付き合ってからずっと寝る時以外、リツキンかウィリアムソンがいる。邪魔すぎる」


確かにそうだ。

なんてことだ。私のみんな仲良しがいい~という謎の我儘にずっと付き合わされている。


「それいいな。俺も前の家でやってたようなミューといちゃいちゃする時間が欲しい」

「ぼくも欲しいけど、じゃあミユと会わない時に仕事詰めないとイチャイチャできないな」


アンリとゾーイは小さい家にいる間も、ずっと話しながら書類を捌いているのですごく忙しそうだ。

リツキは勇者の力は小分けする作業を人に委託したため、私と一緒でそんなに忙しそうではない。


「わかった。私でよければ、いくらでも付き合うよ」


胸をドンと叩く。

私の時間がないのはちょっと嫌だけど、この状態になったのは私のせいだし、今ではそんなに悪い気はしない。

それから、平日は一日ごとに交代というローテーションを組み、休日はみんなで集まるということになった。




平日、アンリとだけ過ごす日。

二人きりの時は、小さな家で過ごそうということになったので、今日は小さな家に二人でいる。

私は頼まれてミルクティーを作っていた。


「ミユは新婚旅行どこ行きたい?」

「アンリが行きたいところでいいよ。この世界に詳しくないし」

「わかった。あと、お屋敷とは別に、この小さい家みたいな別宅を作ろうと思うけどどう思う?」

「ずっとここを借りてるのも良くないもんね。お掃除もお屋敷から来てもらってるし、子ども出来たら手狭になるけどお屋敷は広すぎるし」

「うん。だからキッチンとかついた小さい家を作っちゃおうかなって。使用人の住居を作ってほしいって要望が出てるから、ついでにね」

「使用人の住居は街の近くのを一軒買ったけど、それじゃみんなイヤだったんだ」

「大聖女のガードで守られた屋敷の近くに住みたいらしい。普通は屋敷の最上階と地下に住んでもらうんだけど、うちは子どもが増える予定だし、地下も貯蔵庫とか、ポーションとか入浴剤の水槽を置いてるから、場所に余裕がない」


話しながら、アンリは間取り図を取り出す。

前の家と似ている、料理しやすいし居心地がよさそうな間取りだった。

部屋も前の家より多いので、物置部屋には困らなそうだ。


「すごく良さそう。この家はテーブルをみんなで使うとキッチンが使いにくいけど、リツキが借りてた前の家みたいな感じだね」

「ミユが気に入ってたし、僕もあそこは嫌いじゃなかったから。屋敷と渡り廊下で繋げようと思ってるよ」

「いいね。アンリって建物作るの好き?」

「好き。間取りを考えるのも楽しい。ミユとか他の奴はこういうの、あんまり好きじゃないみたいだから好きにできるし」

「そうだね~私も使いやすければ……リツキもあんまり気にしないみたいだし、ゾーイも内装を考えるのが好きくらいだからね」

「ゾーイはセンスがいい。あいつはなんか、フリフリのをミユの近くに置いておけば喜ぶから簡単」

「私はあんまりセンスがないから、任せると素敵なのができてくるから嬉しい」

「うん。任せて」


へらっと笑いながら、アンリは間取り図を硬い紙に挟んで片づける。

私が作ったミルクティーを出すと、同じような髪色のアンリは嬉しそうに髪を揺らした。


「ごめん。二人きりなのに家の話とかして」

「ぜんぜん。こういうのも楽しいよ」

「屋敷は間取りとかミユにあんまり話さないで作ったら、ミユにとっては動きにくそうだったから、今度は一番に見せようと思って」


そういいながら笑うアンリと一緒にミルクティーをのむ。

きっと家の間取りももっと自由に考えたかったけど、私が想像しやすいように前の家と似てるのかなと思うと、胸がジンと熱くなった。


「嬉しい。でもアンリは仕事しすぎじゃないかな。私がお屋敷とかのことについてはやろうか?」

「いや、ミユは僕たちの世話で大変だから、最近はあいつにちょっとずつ頼んでて楽になったし、上手く回りはじめた」

「リツキに? でもゾーイも入浴剤で忙しいからリツキくらいしか手が空いてないよね」

「あっちも人を使うってことを覚えて楽になったらしいよ。執事と仲が良くなってたし」

「私の知らない間にお屋敷が上手く回ってる……!」

「普通は奥さんがお屋敷のこととかをするんだけど、ミユは忙しすぎるからね。子育てもはじめることも考えたら、あっちに任せるのが一番だ」

「信頼してるんだね」

「性格はいいから。女関係以外は信用できるよ」


アンリは立ちあがると、私を連れて奥の土足厳禁の部屋に行く。

柔らかいラグがひいてあって、ふわふわのクッションに囲まれているところが最近のお気に入りらしい。

固定された机と壁の間にある場所で、隙間に挟まりたい時には丁度いいような場所だった。

今日はそこに白っぽい毛布のようなものが置いてある。


「寒くなってくるから、上にかけるものも用意したんだ」

「すごく柔らかくていいね。いつもありがとう」


二人でクッションに埋まりながら毛布をかける。

アンリといるとホッとする。幸せだなってよく思う。


「ミユとお墓に入る時は、こうやって胸の中に抱くから、僕が先に死んだときはミユがやって」

「物騒!! もっと平和なことを考えようよ」

「一番幸せな終わりを考えるのって平和だと思うけど」


ベッドとは違うぎゅうぎゅうとした感触の中、アンリが笑う。

死がふたりを分かつまでという言葉があるように、確かにそれは幸せなことなのかもしれない。

二人でもぞもぞとしながら、約束のようにキスをした。 







日をまたいで、ゾーイと過ごす日になった。


夕食後に、お屋敷の地下にあるポーションの水槽がある場所で、入浴剤に神聖力の効果を入れる。

ここに入れておくと、自動的に工場に持っていかれるのだ。

朝は忙しいのと、夕食後じゃないとどのくらい神聖力が残っているか分からないので、こうするしかない。


「夜勤の人は大変だね」

「夜勤って言っても、勇者の力は夜のうちに仕分けで朝に出荷らしいけど、他は別に急ぎじゃないからね。給金が高い分、夜型の人は嬉しいんじゃない?」

「それにしてもユキって、ずっと神聖力を出力してるのに、まだ数値が見えないね」

「おかげさまで。みんなに飽きられてもたぶん一年は大丈夫な気がしてる」


神聖力を入れ終わって、二人で小さい家に瞬間移動する。

二人減った空間は、前にゾーイの家に来た時みたいで懐かしかった。


「二人が飽きたら自分と一緒にいたらいいからね。そういえば旅行どこ行きたいとかある?」

「ない~。行ってみたらそれなりにどこでも楽しいと思うから」

「じゃあ、新婚旅行はバラリウムに行こう? アカタイトに行く途中にあった国。泊まろうと思ってたホテルが良かったんだよね」

「そうなんだ。忙しかったからぜんぜん記憶に残ってないけど、綺麗なところだったよね」

「うん。もうさ~マジでユキと繋がんないし、お金払った後で、いい感じだな~って思ったところでアカタイトに行ったから心残りがある」

「お金払っちゃった後だったの?!」

「そうだよ。でもまぁ金よりキスの方が上だったから仕方なかった。あれがなければ今こうならなかったし。チャンスは金より大事だよ」


だからあんなにしぶってたのか。

あの頃も今くらいアンリと仲良かった気がするけど、実はゾーイにとっては他人の価値はわりと低いのかもしれない。


「なんかごめん。来てくれてありがとね。なにか飲む?」

「要らない。水飲んでお風呂でいちゃいちゃしよ。そっちの方が楽しい」

「ゾーイって女の子だけど、そういうの好きだよね」

「他人の性事情は知らないけど、一週間に二回は少ないし足りない。まだ付き合ってそんなに経ってないし」


確かに、昔は他の二人も今よりスキンシップが多かった。

相手がひとりだけだったら私もそんなことを思わないのに、可哀想に。新鮮味がない相手のせいで!! ちゃんと満足させないと!


「そうだよね。じゃあ、満足してもらえるよう、新鮮な気持ちになれってかけよっか! 初恋効果~!」


明るく言いながら、神聖力を自分とゾーイにかける。

私にとっては、ドキドキと欲の自分が顔を出してスキンシップが楽しくなるけど、ゾーイにとってはどうなんだろう。


「ちょっとは新鮮な気持ちになった?」

「え……なんだろう。なにした? すごく切ない気持ちになって胸が苦しい」

「切ないの? 私はドキドキするくらいだけど」


ゾーイは少し考えるように私を見た後に、私を抱きしめる。

そして明かりを消すと、瞬間移動した。


移動した部屋は、見覚えがある部屋で、明かりはつかなかった。


「あれ? ゾーイの部屋だ。お風呂入るんじゃなかったの?」

「もういいかなって。別に身体とか浄化かければいいし」


窓から入る月明りの中、ニコリと笑う顔が綺麗で妖艶で。

新鮮な初恋効果なのに、初めて会った時のゾーイには戻ってないなとちょっと焦ってしまった。


(あんなに真面目で恥ずかしがり屋だったゾーイがエッチな人間に育ってしまった!)


でも、私だって今はスキンシップが楽しい状態だから、別に問題はないけど。

手を繋がれて連れていかれる間、反省しながら体中の浄化をかける。

でも、これが素なのかなと思うと、自分だけにこういう顔を見せてくれるのは、正直すごく嬉しかった。

初恋が成就したところで、ゾーイにとっては不平等な形で、だからこそ切なくなってしまうのかもしれない。


「こうなったこと、後悔してない?」


見上げながら聞くと、呆れた顔でこちらを見つめられる。


「後悔するくらいなら、こんなに頑張ってないけど、ユキは後悔してるの?」

「してないよ」


簡単な言葉に満足したように、抱きしめられてそのままベッドの上に転がる。


きっと、人間は人生で何人も本当に好きになるようにはできていない。

だから選びたくなかった。でも、それでも選んでしまった。

苦しさも切なさも喜びも、その全てを内包して、私達は生きていくのだろう。

でも、それでいいんだと思えた。






リツキの番になった。

勇者の力と私の神聖力を納品した後、小さな家に行く。


「今日は、念願だった風呂に入る! 朝からそうしようと決めてた」

「そんなに? じゃあ入れよっか」


お風呂にお湯とためていると、リツキがウキウキしていた。


「今まで俺以外とは入ってたから、正直、早く入りたかった」

「言えばよかったのに」

「なんか、ミューにそういうことばっかり言うのは! よくないかなって思ってしまった。でも今日言った!」


リツキは悔しいという感じで顔をしかめた。

優しいなぁと思う。


「色々気にかけてくれてありがとう。入ろうね」


溜まったお湯に、初恋~お肌プルプル~とか念じながら神聖力を溶かす。

これで二人の時と同じようなお風呂になった。


二人で服を脱いで、お風呂用に用意した木製の手桶のようなものでリツキにお湯をかけてあげる。

街を歩いていたら見つけたので買ったのだが、お鍋より軽くていい。

リツキも私にお湯をかけてくれたので、なんか面白い気分になってしまった。


リツキが先に入って、こっちに手を広げたので、誘われるように私もお風呂に入った。

ドキドキして楽しい気分すぎる。


「なんかミューの神聖力って効くよな。ドキドキする」

「私もドキドキする」

「新婚旅行、どこ行きたいかミューある?」

「ないよ~。リツキが行きたいところでいいよ」

「俺もないんだよな。ガラレオとか行っとく? 最近復興が終わったっぽいし。どうせ俺らのことなんて分かんないだろ」

「髪色変えたらわかんないと思う。そこでいいかも」

「今度飲み会があるから、観光とか貴族に聞いとくよ。まぁおススメがあれば他の所でもいいんだけど」

「今までほとんど旅行してないから、どこに行っても楽しいと思うんだよね」

「ずっと忙しいもんな~。それにミューがいるだけでいいし」

「なんで私なんかがいいのか分かんないけど、私も楽しいよ。髪を流してあげる」


ざばっと手桶で髪を流すと、リツキはスッキリした顔で笑う。


「俺もミュー流す。でも、ドキドキするけど、なんか爽やかな気分だな。楽しい」

「他の二人はエッチな感じだったけど、リツキだと爽やかな感じになるね」

「え~。なんでだよ。エロくなりたい」


文句を言いながら、リツキが私の髪を流してくれた。

胸板が近くてドキドキする。


「アンリもそんなにだったから、普段エッチな人ほど爽やかになるんじゃないかな」

「一番風呂がエロいのゾーイなのかよ。いやあいつムッツリだからだよ。ゾーイが廊下でミューにキスしてる所みたけど。ドエロかったもん」

「えっ、この前の? み、見てたの?」

「うん。アンリも見てた。すげぇ澄んだ目をしながら見てたから引いた。あとから聞いたら俺より女同士の方がマシらしい」

「嘘でしょ……」

「ゾーイに嫉妬も欲情もしたくなかったからサッサと移動したけど。声とか音とか色々エロすぎて感情が複雑すぎた」


この前、突然ゾーイが発情してしまって、いきなりキスをされたけど、見られているとは思わなかった。

途中でベチベチと叩いたら正気に戻ったけど、アンリとかリツキが我慢できているのに、ゾーイは我慢できないことがあって困る。

たぶん、まだそんなに期間が経ってないからだと思ってたけど……よく考えたら、アンリよりエッチかもしれない。けどこれは厳重注意しないと。


「ゾーイはリツキのキスを見本にしてるから……あんな子になっちゃった」

「俺? いや、そう言ってたけど、俺あんな? 俺かもしれないかぁ……」


ブツブツと話しながら、リツキは立ち上がる。

色々大きいなと思った。


「あっついな。もう出るか」

「もういいの?」


手を差し出されたので、手を掴むと持ち上げられる。

そして、繋いだ手の甲にキスされた。


「踊りましょうか、お嬢さん」


タオルを片手にキメ顔でニヤリと笑う。

全裸で言うセリフじゃないよと思って、思わず笑った。


リツキと一緒にいると、頭がからっぽな会話ができていい。

相変わらず、アンリと同じような甘い雰囲気はないことが多いけど、軽く笑えることが多かった。


(改めて考えると、肩車とかする良きお父さんみたいな感じになりそうだよね、リツキって)


見た目は昔と違うけど、中身はリツキのままだ。

女癖が最悪だったのは残念だけど、今は本当にないみたいだし、なんなら今は私の方がすごくおかしい。


「なんで顔をしかめてんの?」

「えっ、しかめてた? 私がこんな感じで申し訳ないのと、リツキって良いお父さんになりそうって思ってただけ」

「えぇ? あー、まぁ~俺は良い親になれるだろ」


リツキは少し複雑そうな顔をしたあと、恥ずかしそうに笑った。


「関係もなぁ。俺らにとっては嬉しくないけど、ゾーイが来てから俺らが反省したことがあって、ミューが結果的に子供を作ってもいいかなって心の変化があったんだから、結果的にプラスってところ」

「あの何もしなかった期間って、本当に関係あるのかな?」

「あるだろ。それまでミューに子どもの話をふっても暗い顔するからあんまり言えなかったのに」


そうなんだ。自分の顔は自分では見えないからわからなかった。

無意識とは怖いもので、自分では良い感じに応えられると思っていたのに。


「察してくれとか無理だから、思ってることがあったら言ってほしいって思うけど、ミューはたぶん無理するんだろうから、俺らは気付かない。ゾーイは気付くんだろうから、結局この関係がベストなんだよ。悔しいことに」


バスローブを着ていると、リツキがやってきて、腰の紐をギュッと結んでくれた。

大きくなったリツキの背は、過去の面影はないけど、好きな気持ちは同じで。


「ありがとう。ごめんね。ちゃんと自分でも言えるようにするから」

「謝りすぎる癖もやめたほうがいいな~」


リツキは苦笑しながら、ぐしゃぐしゃと私の頭を撫でた。

二人でリツキの部屋に移動する。

青色の世界の中、こちらを見ている顔をは穏やかで、絡ませた腕に誘われるように歩く。


思い描いてた未来とは全然違う今を認めてくれるのは、優しさがあってのことだ。

プラスとかベストとか、そんなふわふわした言葉を信じて自分勝手に驕れるほど愚かじゃない。

私は自分の幸せを想うより、相手の幸せを想える方が愛だと思うから。

これから私達は時間をかけて、人とは違う家族の形を模索していくけれど、少なくとも愛してくれた分だけでも返したいと願う。

そのくらい幸せな日々だと思えた。





ちなみにアンリはリツキが浮気したら性病が蔓延すると言って追い出すつもりである。ブクマ、拡散、評価などしていただけますと幸いです。どうぞよろしくお願いします。

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