四人で結婚式をしよう!
次の日
起きるとベッドの横に三人がいた。
「えっ、なに? ビックリする……」
「ミユ。昨日、僕ら考えたんだけど結婚式しよう」
「結婚式?」
朝からさらにビックリなことを言われて、頭が働かない。
「僕らまだ子どももいないし、恋人気分だから良くないんじゃないのかって話。ちゃんと家族になろう」
「そうそう。神聖力をかけるのも家族だから平等にとか、永遠に愛するとかしたら変に発情しなくていいのかもねって」
ゾーイの言葉に、確かにそうかもと思う。効果は薄く重ねて足せばいいし、それなら上手くいきそう。
やっぱり建国式じゃだめで、結婚式じゃないとだめだったのかもしれない。
それに、改めてみんなに紹介っていうのも大切かもしれない。前は知られたら恥ずかしかったけど、これが私の人生だし。
言われた通りに神聖力をかけてみる。
よく分からなかったけど、確かに不安定な気持ちが収まった気がした。
「うん。いい感じ。庭でちょっと式っぽいことやって食べるくらいでいいけど、みんなに紹介するのも大事だよね。両親もこっちに来てるし」
「あんなに人には知られたくないって言ってたミューが……」
「招待する人は知ってるだろうけど。それでもね。紹介するとしないじゃ違うかなって。こんなに好きなのに恥ずかしいのはおかしいし」
人数が多いとか、弟だったとか、知られていても見守ってくれている人はたくさんいて。
ここまで平和に生きてしまうと紹介しない方がおかしい気分だ。自慢しても問題ない相手なのだから。
「うん。しよう。前から僕もしたかったんだ。記念に結婚式の建物を建てるから半年くらい待って」
「建てるの?!」
「学校のまわりの土地の買取許可が出たから、薬屋だけど見た目はオシャレな教会にすれば結婚式に使える」
にんまり笑うアンリは楽しそうだった。
再利用できる建物なら無駄がないしいいかもしれない。
結婚式当日は料理長にお任せしないとだめだろうけど、一緒にレシピを考えるのも楽しそうだしワクワクした。
「結婚式は俺が一番かっこよく見えるようにしよーっと。まぁ俺が一番男っぽくて見栄えがするからな」
「未来が楽しみだな~。ドレスにしようか、タキシードにしようか間にするか迷う」
楽しそうな三人を見ながら、ひとりで悩むより人に助言を貰った方がずっとうまくいくんだなと思う。
(そういえば……ちゃんとドロテアに報告しないとな)
ゾーイの件も、両親が帰ってきてから何も話していない。
親友としてこれは良くない。ジュディの後になっちゃったけど、明日は休みだし、ちゃんと報告しなければと心に決めた。
次の日。
保管していたクリームチーズでチーズケーキを焼いた後、ドロテアに会いに行く。
どうしてもゾーイも付いてくると言ったので、ゾーイ付きだった。
けれども、行ってみるとチハラサと魔王が会談をしているとのことでボニーまで来ていた。
模様替えをしたドロテアの部屋の大きいソファに、ドロテア、私、ゾーイ、ボニーの順に座る。
ドロテアは渋い顔をしながら、私達にお酒をふるまった。
「えっ! やっぱりゾーイさんと付き合ってるんすか! やった~!」
お酒をみんなで飲んで、付き合っている報告をすると、ボニーは手を叩いて喜んだ。
「やった~じゃないわよ。わたくしの親友が、あとから来た女に抱かれているなんて耐えられない!」
「めちゃくちゃユキと相性いいよ。ドロテアは結婚したから仕方ないんじゃないの?」
「ミユキは大事だから、そういう関係になりたいわけじゃないけど、あんたは嫌よ。わたくしのほうが大事にできるのに!」
「まぁでも、ユキってドロテアにだけはお菓子を作っていったり、ドロテアが一番好きそうなんだよな」
「確かにドロテアに会いに行くとき、お菓子作りたくなっちゃうし、大切……なんでだろう」
「ミユキ……! ミユキはすぐにわたくしに懐いていたし一番の親友よ」
ドロテアにギュッと抱きつかれる。
もう酔っているのかもしれない。
「あたしが書いた小説が役に立ちましたかね。どうなんです? ミユキさん的には」
「言えるわけないでしょ。恥ずかしい」
「反応いいよ。でもあの小説は役に立ったな。なかったら困ってた」
ゾーイの背中をバシバシ叩く。
そういうことを人前で言うのは止めてほしい。
「本当に腹が立つ。わたくしがミユキを守ろうとしたのに台無しにして」
それにしても、ゾーイがおかしくなったのは、やっぱり小説とハグのせいなんじゃないかなと思ってしまう。
それとも満杯の水に水滴をたらしたように、そのうち気持ちが決壊して同じことになっていたのだろうか。
今となってはどうでもいいことだけど。
「結婚式するから、二人とも来てね。魔王もチハラサさんも呼ぶから」
「えっ、もうするんすか? 絶対いきますよ。公式が結婚するなんて最高過ぎる」
「ミユキ。色は違っていいから、わたくしとおそろいのドレスにしましょうよ。今度こそ友情を見せつけたいわ」
「三人がいいっていうなら良いよ」
「なんでドロテアが出てくるんだよ」
「ミユキ。二人はいいけど、この女とすぐ結婚はやめにしない? もっと見極めないとダメよ」
「一年見極めたんだから問題ないだろ」
「アンタの話は聞いてないのよ」
「でも、本当にゾーイは結婚しちゃっていいの? 二人に流されてない?」
「なんでそんなこと言うわけ?! 流されてないし、ユキと離れる選択肢はないんだから、するに決まってんじゃん」
ゾーイは酷く不機嫌な顔で言った。
ドロテアは正反対にニヤニヤとしている。
「ごめん。だって、付き合ってから本当にそんなに経ってないから……」
「そんな覚悟でこっちの身体を弄んだわけ。へぇぇ。傷つくな。こっちはそのつもりでヤッてんのに」
「もてあッ……私は嫌とか言ってないよ」
額に手を当てて、うなだれる姿を見て少し焦る。
「えっ、ミユキの方が、なわけ?」
「ちょっと、ええと、いっぺんに色々言わないで! 違う! そんなわけない」
私はゾーイみたいに恥知らずじゃないし、何倍もあっちの方が積極的なのに! 言えるわけない!
ゾーイを見ると、うなだれたまま舌を出していたので、腹が立ってそのまま頭にチョップをした。
「痛っ、暴力反対!」
「次はその舌を引っこ抜いてやる」
「ところで、このチーズケーキって美味しいっすね。ウェディングケーキも楽しみっす」
のんびりとボニーが話を変えたので、四人でキャッキャと話しあう。
「そういえば、ドロテアが怒ると思って入浴剤持ってきたんだ。ボニーがいるとは思わなかったから二人で分けて」
「入浴剤?」
「ユキがそういうの好きでさ。自分も入ったら良かったから商品にした。貴族用だから花の香りもいくつか分けてある」
そういうと、ゾーイはなにもない空間から手をクルっと回していくつか瓶と小さなコップを取り出した。
オシャレなガラス瓶には木の栓がしてあってピンク色の液体が詰まっている。
「この小さなコップ一杯分が、一般用のお風呂一杯分。薄めて使うんだ。肌と髪がうるうるつやつやになるよ。花の効能はラベルに書いてある」
「盛大な惚気をされている。わたくしだってミユキとお風呂くらい入れるのに」
「別に同性なら入っても普通だと思うけど、たくさん神聖力をお花のお水に溶かしてあるし、すごくいいよ」
ドロテアとボニーは瓶の蓋を開けて香りを確認する。
「けっこういい精油を使っているわね」
「貴族用はちょっと精油足してるけど、精油ってより作る時に出る水があるんだけど、それ使ってるよ。香りは神聖力で強くなるようにはしてあるけど」
「あたしはあんまり匂いがないのが好きなんで、この淡い香りの一本貰ってもいいっすか」
「一番いらなかったから、良かったわ」
「派手なの好きっすもんね。これっていつ頃販売するんすか?」
「一ヶ月もしないうちじゃないかな。ウィリアムソンも使ってから乗り気だし。ただ花の時期が終わったら作れないから、売り切れたらごめん」
そうなのだ。アンリが入浴剤を使ったら、一気に神聖力の効果が入れやすいようにと、防腐効果をかけた大きな箱を用意しはじめた。
ゾーイと私は、貴族用はまず各50個くらい作って売れたらいいねくらいで考えていたので、いきなり単位が上がったと引いている。
今はお花の水をたくさん作っている段階で、精油を作っている取引先は精油も水も売れるので、嬉しい悲鳴と材料がない悲鳴をあげていた。
安価なものは、子どもも使えるレベルに神聖力は低く、薬草や蜂蜜みたいなものを足しているらしいけど、やっぱり材料の調達が大変らしい。
来週からは仕事終わりにどんどん効能を入れる予定だ。
結婚式も楽しみだけど、過労で死ぬかもしれない。
「ミユキって、顔がいい神官にとっては本当に手放せない女よね。勝手に儲け話までもってくるし、なんでもひと工夫するし」
「自分にとってもユキといると、いいなってアイデアが出てくるからいいよ」
「褒めてもらってるのは前の世界にあったものだから私のアイデアじゃないけど、なければ作ろうが身に染みてるのかも」
連れ子の私は、おねだりすることが難しくて、なかったら作ることが普通だった。
材料はお小遣い内で買えたし、不器用だったから、それで知られて良いものを買ってもらえたことも多いけど、作ることは好きだ。
「ま、行動を起こせること自体が稀なんすから、胸を張ってくださいよ」
明るく言いながら、ボニーはもう一つチーズケーキを食べる。
四人で沢山話してから別れて、結婚式で会おうと約束した。
あと十話で終わります。ぜひ、最後まで私と一緒の足取りで一緒に最後までお楽しみ下さい。また、ブクマ、ご評価、拡散などしていただけますと嬉しいです。多少センシティブではありますが、似た人が幸せになれたらと思い書きました。どうぞよろしくお願いいたします。