得たものは、希望と禁断の果実。
翌週の休日。
小さい家の方に、ドロテアと魔王を招待した。
トランプもプレゼントしたいし、ポーカーなどを全員でプレイしてもらいたかった。
「きたわよ~」
スッとドロテアと魔王が来た。赤ちゃんもいる。
「狭いな。前の家より狭いじゃないか」
「いいじゃない。このくらいの狭さの方が」
「二人共いらっしゃい。赤ちゃんも。なんか前より大きくなってるね。もう毛がふさふさでかわいい」
「魔王の子どもは少しだけ成長が早いらしいのよね。大人になると止まるらしいんだけど」
赤ちゃんの髪色はドロテアと同じ淡い金色で、とてもかわいい。
「今日はトランプで遊ぶんだっけ」
「私はちょっと難しいからやらないんだけど、トランプのポーカーとかを二人にもやってもらいたくて」
「どうして?」
「お金をかけて一攫千金を狙うような施設をアーロンさんが作るんだけど、大丈夫かなって思ったから、みんなで一回やってみてほしい」
「チップとかルール一式はアーロンさんから預かってきてる。やってもらって大丈夫だったら、そのうち魔族領にも建てたいんだって」
「なるほどね。ミユキがやらないなら、子どもを見ておいてくれる?」
「分かった。赤ちゃんに事故がないようにする。二人の分のミルクティーもあるから飲んでね」
ドロテアから赤ちゃんを預かる。
抱かせてもらうと、重くて湿っていた。
「赤ちゃんってしめってる!」
「汗をかくのよね。生き物だわ~。そこのバッグに飲み物とおむつが入ってるから使ってね」
アンリがルールやチップの説明などをし始めるのを全員で聞く。
みんなキッチンにある四人掛けのテーブルでトランプをするらしいので、私は赤ちゃんを連れて、土足禁止のスペースに行った。
ちょっと立ったり歩きながら興味深げにいろいろ見ている赤ちゃんを目で追う。
赤ちゃんというより、ちょっとずつ子供になってる感じでおもしろい。
部屋の中はまだきれいだし、床に危ないものはない。頭をぶつけそうなものは、クッションで隠した。
と思っていたら、いきなりクッションを食べた。
もう歩けるのに食べることってあるんだ!
「食べちゃダメだよ~」
慌てて外そうとすると怒りはじめたので、生きてるな~と思う。
なんか動物と人間の間みたいでかわいいなと思った。
(アンリとリツキの赤ちゃんもかわいいだろうな~)
(どっちが先だろう。でも初体験はリツキだったし、嘘ついてたから、アンリだよね)
(リツキは、私が大聖女でリツキが勇者だから、たぶん魔王みたいに育つのが早そうだし)
にらめっこくらいしか知らないよと思いながら赤ちゃんと遊ぶ。
バッグから飲み物を持ってきて飲ませたり、いろいろ世話を焼いた。
赤ちゃんはわりと気分屋ですぐに飽きるし、言ってることはよくわからなくて意思の疎通が難しい。
すぐに物をなげるし、力持ちで重いものも持とうとするので、想像と違って目が離せなかった。
(やっぱりリツキは後だよね。だってリツキの子どもはたぶん力持ちだよ。初心者には難しい)
『ミユ、ひま?』
アンリが脳内に話しかけてきた
『暇じゃないし、最初の赤ちゃんはアンリがお父さんにしようと思う』
お茶を入れてほしいとかかなと思いながら、ちょっと驚かせようと思って話す。
向こうから、ゴン、という音が聞こえてきた。
その後、パッと横にアンリが現れた。
「あっ、靴!」
「ごめん。あの、どういうこと?」
こそこそと話しかけられる。
「なんか初体験はリツキだったから、赤ちゃんはアンリだなって」
「いや、なんかあんまり欲しくなさそうだったのに」
「そうかな……赤ちゃんのお世話してたから? でもまだだよ」
「そっか。わかった」
またアンリが消えていった。
靴があった場所をタオルで拭く。
でも確かにこの前まで、産まれたら色々大変だから今は無理って思ってた気がする。
修羅場が落ち着いてきたからかな?
それとも、たくさん話して心が落ち着いてきたから、心の木が育ったのかもしれない。
それにしてもゾーイはあれから何もしてないけど、どうにかしないと。
恋人になる練習って言ったけど、本当にキスもしてない。ただ相手の時間と優しさを貪って生きているだけだ。
(練習とか無責任なこと言ってないで、ちゃんと受け入れよう)
そのためには、恋人っぽいことをしないといけない。
子供なんてできて、落ちこんでも嫌だし。
お風呂とか一緒に入って慣れていこうかな。いきなりそういうのはあっちも緊張しそうだし。
そういえば今日はゾーイと寝る日だから今日がいいかもしれない。
『あの、お茶を入れてほしいんだけど』
脳内にゾーイから連絡が来る。
そういえばアンリが来たけどお茶を入れてなかった。
『わかった。あとゾーイ。今日一緒にお風呂に入る?』
向こうから、ゴ、という音が聞こえた。
赤ちゃんを抱っこする袋に入れてキッチンに向かう。
「お茶入れるからちょっとお邪魔するね」
「なんか、ミユキにお茶を頼んでもらったら、二人が凄いミスをして勝ちそうよ」
にこやかにドロテアに言われてアンリとゾーイを見る。
二人とも顔が赤かった。
リツキが怪訝な顔をしている。
「そういえば聖女ちゃん、赤ん坊作んないの?」
「なんか面倒を見てたらいいなって思って来たかもです」
魔王に言われて、サラッと返す。
リツキがガタ、と揺れた。
「えっ、本当に?! 今まで全然乗り気じゃなかったじゃん」
「そうかな? なんか、なんだろう? お世話してたからかな?」
うわぁぁ、とリツキが嬉しそうにしているから、二番目とは言いにくい。
お湯を沸かしていると、赤ちゃんが降りたがったので、下におろす。
机の端で中腰で固まっていた。
セミみたいと思ってたら、ちょっと空気が臭くなった。
「あ、ちょっと、おむつね。たぶん」
ドロテアが赤ちゃんを連れて、パッと消える。
お茶を入れるのが楽になったな~と考えながら、子どもが欲しくないように見えてたんだなと深々と考えた。
確かに、今までそういうことを言われても、なんか嫌だったから、今度と言っていた。
(未来を描くのが、怖くなくなったのかも)
そんな感覚が、心にあった。
育った心の木が、結実したのかもしれない。
ドロテアと魔王が帰った。
アンリとゾーイはボロ負けで、リツキはドロテアに負けて魔王に勝った。
ドロテアが二人で話したいのにみんなが邪魔だというので、今度二人でお話ししようと約束する。
お礼にトランプをプレゼントすると、三つ欲しいというので三つあげた。
リツキは機嫌よく外に走りに行ったし、アンリはモジモジとしたあとに一旦家に戻っている。
食器を洗っていると、ゾーイが来た。
洗った食器を拭いてくれる。
「あのー、ユキ。昼のさぁ」
「お風呂? 今日はゾーイと一緒に寝る日だから言っておこうかなって」
「うん。本気? いきなり裸で?」
「いきなりエッチなことする方が気にするかなとか、慣れておこうかなって」
「え~~~……普通はそうなのか」
「私の時はエッチなほうが先だったけど、お風呂はやめとこうか」
「でもさぁ、どっちもしたかったら先に入らなきゃいけないじゃん」
もじもじとしている。
どっちもしたいのか。そんなにもじもじとしているのに。
そしてそういうことするつもりなんだ? ぜんぜんそんな覚悟はしてなかったけど。
思ったより相手が期待しているし、待たせたしちょっとは期待には応えたいけど……もうお付き合いしてるんだし。
そっちを想像して恥ずかしいのかな?
それとも私は銭湯とかだと友達とも入るし普通だけど、ゾーイはネグリジェも透けてると嫌がる恥ずかしがり屋だから難しいのかもしれない。
「え~っと……じゃあタオルで身体を隠す?」
「それならいいかなぁ。なんでユキはそんな普通なんだ」
赤い顔をして言われて、少し考える。
(あ、そうか。恋人だからお風呂もイチャイチャする気なんだ!)
「あ、えっと。普通に入ると思ってたけど、イチャイチャ……する、の?」
「……ッ!」
ゾーイが真っ赤になって瞬間移動で消える。
まだ友達気分が抜けてないんだよね……と思った。
お覚悟を!
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