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リツキとデート ~万感の愛情~

リツキのデートの日。

他の二人と違い、服の指定などはなかったから、普段着っぽい可愛い服を朝から着ておいた。

案の定、仕事が終わったらすぐに馬に乗ることになり、ビックリする。


大きな馬にのせられて二人乗りで走っていく。

まだ陽が暮れていないので、道にいる人たちがはっきりと見えた。


「せっかくのデートなのに、オシャレとかし直さなくてよかったの?」

「別にミューはなに着ても可愛いし。今日はいつもより可愛いかったから、これ以上オシャレされると隠したくなるんだよな」

「前もそんなこと言ってたけど、馬に乗れる服にしていて良かった」

「ミューは横乗りなのに乗れない服なんてあるんだ?」

「あるよ。乗れなかったら瞬間移動するところだった」

「デートなのにあまりにムードがない……」


しょんぼりしながら馬を走らせるリツキに笑いながら、馬に揺られる。

リツキの馬はとても大きいので、それだけで非日常だった。


「今日はどこにいくの?」

「なんか……郊外に面白いイベントがやってるっていうから、そこに行く! そこで食事も食べよう」


いつもどおり嗅覚はいいけど、雑な答え方で笑ってしまう。

リツキは色々私が好きそうなものを探してきてくれることがあるので、不安感はなかった。



日が暮れていく中、人が多くなっていって、バイオリンを基調にした軽快な音楽がどこからか聞こえてくる。

接地された鉄柵の向こうに、サーカスのようなテントのような大きなシルエットが見える。

看板には、トータラ・トトルと書いてあった。

なんの意味かは分からなかったけど、流石にワクワクしてきた。


(サーカスかな? 曲芸とかかも。雰囲気がそんな感じだし)


馬車が止まっているところに、馬を預ける。

瞬間移動をしないで、二人で歩いて場内に入る。

ライトに彩られた屋台には、色とりどりの飴やお菓子売っていて可愛い。

リツキを見て女の子達がキャッキャしていたので、慌ててゾーイに教えてもらった人目につかなくなる神聖力をかけた。

私じゃなくてリツキが自衛をしてほしい。アンリとかゾーイと違って不安すぎる。


「リツキ、なんかよく分からないドーナツみたいなの売ってる! 食べよ」

「ミューはそんなに食えないから、半分ずつ食べよう」


気分を変えようと、屋台でドーナツみたいなものを買う。

リツキが私に包装紙の部分を持たせたあと、もぎッと半分素手で割って持っていく。

硬いチュロスみたいな食感でシナモンに近い味がして美味しかった。

食べながら園内を歩く。


「フリークショーだって」

「見世物小屋的なものかな」


見に行くと、人体の一部が奇形の人たちがするショーだった。

身体の上半身が二人分あったり、手足が木の様に肥大化していたり、小さな身長のおじさんであったり色んな人がいた。

小さなおじさんたちは戦っていたりして、それも目玉になっているようだった。


「現代なら怒られそうだね」

「でもさぁ。よく見ると自信もって仕事してたし、嫌じゃないなら悪いことじゃないよなぁ」

「神聖力じゃ治らなそうだし、見た目で勝負できるのは美人だけじゃないって証明でもあるもんね」


働いている人たちは、全員自分の身体を魅せることに自信がありそうだった。

嫌な人達は今後制度を作って支えたり、細かく治療できるようにしないといけないけど、現状はまだ課題は山積みだ。


「ミューも、沢山いる美女の中でも俺の一番にずっといるんだから凄いよな」


真面目なことを考えていたら、ぼそりとリツキが呟いた。


「……? いま悪口いった?」

「なんで?! 褒め言葉だけど?!」


リツキって、女心が分からないところあるよね、と思いながら立ち上がって歩く。

後ろを振り向くと、リツキは何も気にしていないような様子で付いてきていたので、気楽~と思った。

お酒を飲んで本音を言ってしまってから、一番動揺していたのはリツキだった。

それはもう、病気の飼い主のまわりをぐるぐる回る飼い犬の様に隣にいたり私のまわりでウロウロしていた。

ただ、私が言わないから伝わらないだけで、リツキはやっぱり優しい。


(やっぱり、悪く捉えすぎてたみたい。だって、考えてみたらリツキは勝手に盛り上がっても、言えば聞いてくれたし)


「ミュー、あっちお化け屋敷だって。行く?」

「私達、血がいっぱいあっても大丈夫だし、あんまり興味ないかも。動物みたい」

「確かに作り物が本物を超えるのは難しいしな。じゃあ動物みるか」


二人でホットドックを買って食べながら動物を見に行く。

牛乳の代わりに使っているトリカカポを初めてみたが、足が6本あるカバというイメージだったけど、そのうえ下あごに大きい牙が二本生えていて怖い。めちゃくちゃ足が早くて、怒ると蹴ってくるらしい。怖い。


「食欲がなくなる見た目をしてるな。巨乳すぎて足が何本だか分からないし、三メートルくらいある」

「確かに。でも性格が穏やかだから、牛みたいなんだろうね」


動物を色々見る。

魔族領の動物だからか全体的に元の世界の動物より怖かった。

魔王城の杯のポーションが枯渇したら、凶暴になった動物が神聖国を襲ってくるという話を思い出して、恐ろしいなと思う。

元の世界でもゴリラやチンパンジーも人間を敵視してきたら死ぬらしいし、危なかった。


「この世界に来て良かったよね。杯も満たされたし」

「……本当に?」


少し暗い声が聞こえて、リツキを見上げる。

真顔でこちらを見ていた。


「どうしたの?」

「なんか、ミューには嫌な人生を押し付けたなって。こうなるなんて思ってなかったけど」


溜息のように息を吐くのを見て、気にしてたんだと思う。

私がお父さんとお母さんに対して後ろめたさがあるように、リツキにも同じような感情があるのかもしれない。


「私もお父さんとお母さんがあんなことになると思わなかったし、仕方ないよ」

「ん……でも、俺、いま幸せだから、また同じことが起きても同じ世界にミューを呼んじゃう。ごめんな」

「次はちゃんと出会えるか分からないよ? ちゃんと迎えに来てくれる?」

「もちろん。今回だって毎日探してたら見つかったし」

「なら、いいよ」


動物の檻の前で話しているのは邪魔なので、リツキの手を掴んでゆっくり歩く。

リツキと一緒の時は他の二人とは違って、本当に恋人って空気にならないなと思う。

なんでエッチな時だけあんなにネットリしてるんだと思いながら、手をひいてるリツキを見上げた。


「え、何?」

「なんかリツキだと恋人っぽい甘い雰囲気にならないなって」


リツキはキョトンとした顔をして止まった後、ハァ? という表情に変わってため息をついた。


「怖がらせたくないから、我慢してんの! なんなの、他の二人とはイチャイチャしてるんだ? 嘘だろ」

「えっ、我慢してるの?」

「大前提として、俺は他の二人と違って特殊な訓練をしてるから、普通の態度になりがちなんだけどさぁ」


そういうと、リツキは私を抱き上げた。


「ちょ、恥ずかしいっ」

「恥ずかしいくらい我慢しな。こっちは我慢してたのに他の奴とはいい雰囲気してたって聞いて嫌なんだから」


仕方ないと思いながら、いつもどおり落ちないように神聖力をかける。

最初は無意識に落ちないようにかけていたけど、最近は太ったと思われたら嫌だなと思って意識的に軽くなるようにもかけていた。


「でも、恥ずかしいって言えるようになっただけ良かったよな~ミューは自分のこと言わないからな」

「確かに……今まで言ってなかった」

「ちゃんと意見をいいな~。俺はね、確かに言われなきゃ分かんないよ。超能力とかないし。エロいことになるとそっちにいくし。でも、ミューが口に出したことはちゃんと守ってるし優先してるよ」


抱えられたまま会場の端まで連れていかれる。

少し暗くなっている会場の端はなにもなくて、人もほとんどいなかった。


私を抱きかかえたままリツキは腰を下ろす。

腕が離れたので、座ったままリツキの方に身体を向けた。


「この世界に来てから、ミューって自分が考えてることをちゃんと実行して、成功してるよね? なんでそんなに自信が無いの?」


優しい声で聞かれて、意味が分からなくて戸惑う。


「俺らは本当にだめなこと以外はミューを尊重してるけどさ。ミューは、ちゃんと俺らを見てる?」

「み、見てると……思うけど」

「そうかな。ミューは両親といる時より、俺らといる時の方が、考えすぎてるなって思う時がある」


リツキの言葉に、そんなことないけどなと思う。

確かに、両親といる時はかなりリラックスできているけど、三人の前でもリラックスはできている、はずだけど。違うのだろうか。


「俺はね、ミューを愛してるよ。ミューも聞いたら俺を愛してるってたぶん返してくれる」


突然、リツキの瞳が涙に揺れる。


「だけど、ミューはさ。どんなに言葉を尽くしても別れるかもしれないって思ったりする……たぶん、心の奥底には俺らの言葉は届いてないし、俺らを心から好きになるのも難しいんだ」


ボロ、とリツキは涙を落とす。

言われたことに対しても、泣いている事実に対しても、驚いてしまって言葉が出なかった。


「そんなこと……」


言葉は、最後まで出なかった。

確かにいなくなるなら好きになりたくないと思っていたけど、三人に対してはちゃんと好きだと思っている。

そうじゃなければキスも嫌だ。

だけど、心の片隅で腑に落ちている自分もいた。


(全然違うとは、なぜか思えない)


昔、リツキが正気を失ってアンリの家に避難した時に、アンリが誰を想って、誰を見ているのかと泣いたことがある。

リツキも今、自分を見ていないと泣いている。


もしかしたら、私は。

あの頃も、今も、目の前の人間を、ちゃんと見られていないのではないのだろうか。

ジュディがこの前言った、人を愛することを罪だと思わず人の愛情を信じてほしいという言葉を思い出す。

やっぱり罪だとは思わないけど後ろめたさと怖さがある。

私の恋愛感情が正しいかなんて、比べるものがない自分には判断できない。

でもジュディからもそう見えているのなら、三人から見た私はどう見えているのだろうか。


(傷つけないように、ちゃんと愛したい)


心が成長していけば、そのうちどうにかなるのかすら、今は分からないけど。


腕で顔を隠しているリツキの頬を撫でると、リツキが顔をあげた。

ハンカチで顔を拭いてあげると、大人しく目を閉じる。

その顔に、顔を寄せてキスをした。


唇を離す。


「リツキのこと、ちゃんと愛してるよ。これが世間一般でいう愛かはわからないけど。でもね。ちゃんと私の中の特別」


頬を撫でた手に、リツキは顔を摺り寄せてキスをした。


「うん。分かってる。ごめん」

「いつか、ちゃんとしたら、もう一度伝えるから」

「うん」


リツキが、顔を寄せてきたので、目を閉じて唇を合わせる。

久しぶりにしたキスは、隠れたがっている感情を引き出すような、情熱的なものに変わった。


(なんか、心が、前と違う、かも)


別に前が緊張していたとか身構えていたとか、そういうわけではないけど、安心感のような気持ちがあった。

正しく心を判断するのは難しい。ただ、リツキは、本当に私を嫌いにならないという気持ちが前より強い。


(嬉しいけど、切ない)


目の端から流れた涙を見て、リツキが止まる。

その顔を見て、違うのにと思いながら、また私からキスをした。


(やっと、いなくならないって思えた気がする)


納得したんじゃなくて、当たり前だと思える感覚に震える。

私は、人を信じることが難しくて、逃げたかったのかもしれない。




やっと、幸せになれる気がした。









意見を言えない人って大体ちょっと変なことが多いんですが、ミユキもいきなりブラを見せたり、ちょっと変わってる人として書いてます。人間は多少変でもいい。幸せになってきて何よりです。作者は姉弟でイチャイチャしはじめたので書いててビックリしてます。そんな作者に励ましのブクマやご評価などお願いします。

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