ゾーイとデート ~双翼の愛情~
修羅場は、だんだん落ち着いてきた。
ゾーイとのデートの日になって、ゾーイが選んだ服に着替える。
前日に私の服を引っ張り出して、ああでもないこうでもないとコーディネートしてくれた服は、貴族の服ではなく、私が普段着に着ている服をグレードアップした感じで街の中を歩くのには歩きやすい。私では考えられない組み合わせで、お洒落でかわいかった。
「うーん。可愛い。普通のシャツにフリルタイもいいし、脇のスリットからフリルが見えるスカートも合ってる。自分で着ないから楽しい」
「ゾーイも着ればいいのに」
「えぇ? まぁ、また今度かな。あんまり得意じゃない」
そう言いながら、私の肩に手を置いて瞬間移動をする。
出た場所は、家のポータルだった。
「魔族領に行くの?」
「うん。二人は神聖国だろうなと思って。昨日ドロテアにポータルの使用許可はとった。おすすめは夜市らしい」
「そうなんだ。ドロテアと仲が悪くなくて良かった」
「ドロテアがうるさいだけで、別に仲は悪くないよ。ドロテアは昔からああだから慣れてる」
「そうなの? 私にはあんまりうるさくないけど」
「ユキはストレスになることをしないから懐いているんだろ。本当に面倒くさい」
二人で魔族領に移動して、夜市に向かう。
魔族領は、神聖国のような西洋風の建物を少し残しつつ、少しインドっぽい空気もあって面白い。
所狭しと並んだ屋台は神聖国の料理とも少し違う感じで、どんな味がするのか想像がつかなかった。
ゾーイがナンパとかは嫌だからと、人目につかなくなる神聖力をかけてくれる。
「おしゃれしたから、屋台で汚したら嫌かも」
「レストラン予約してあるから行ってから歩こう。なんかお腹壊しそうな屋台多いし」
当たり前のように私に抱きつきながら言った。
ゾーイとはあれから、ハグだけして寝ている。
「なんか、始まる前に我慢させちゃってるよね」
「え、まぁー、早めに分かって良かったと思う。また泣かせたら辛いし」
「そんなことあったっけ?」
「えっ?! いや。あー、言い方間違えた。泣かせたら嫌だな―みたいな」
そんなに泣いてるイメージあるのかな。
キスする前に親のことで泣いたのがショックだったのかもしれないなと思いながら瞬間移動をする。
連れていかれたのは、現地民が行きそうな古ぼけた赤い看板のレストランだった。
中に入ると石作りの大きな店内には噴水が流れていて、通路の両端に川が流れており、赤い蓮のような花が水面に揺れていた。
「かわいい!」
「可愛いよね~」
笑いながら個室に案内される。
歩きながら見た店内は、とても混雑していて人気店だと嫌でも理解した。
「ユキ、なんか食べたいのあった?」
「どれが何の味かよく分かんないけど、あまり甘くない奴。ゾーイが食べたいの頼んでいいよ」
「じゃあ、適当に人気なものを三品くらい持ってきてもらおう。飲み物は、神聖国にもあるお酒にしよう」
ゾーイは適当にポンポンと頼む。文化は違うが言語圏は同じなので、注文は楽だった。
注文を取りに来た女性の店員さんは、真面目そうなのに腕にタトゥーみたいなものを入れていてオシャレだった。気さくにゾーイの質問に答えてくれて助かる。
「その腕の模様、お洒落ですね」
気になって、つい話しかける。
「ああ、これ? 可愛いでしょ。一週間くらいでとれちゃうし服にはつかないから、今、手軽なオシャレで流行ってるの。外にある店で30分くらいでできますよ」
機嫌良さそうに店員さんは答えて、店の奥に戻っていった。
タトゥーシールみたいな感じなのかなと思う。
「ユキって、ああいうの気になるんだ」
「うん。とれるなら可愛いし。あとで服で隠れるとこに描いてもらいたいかも。お揃いで描いてもらう?」
「自分も? まぁ……いいけど。どんなの描いてもらおうか」
聞かれて、模様なんて考えたこともないなと思う。
でも、二人で描いてもらうなら、お揃いとか、半分ずつ描いてもらってもいいかもしれない。
「ああいうのって柄の見本みたいなのがあると思うけど……ゾーイと私の腕に、半分半分にいれる?」
「半分? ひとつの模様を二つの腕にやるってこと?」
「うん。仲良しって感じで良くない?」
私の提案に少し考えた後、ゾーイは少し照れた顔をした。
「……なんかエロくていいかもね」
「そこは恋人っぽいっていうものじゃないの?」
まったく呆れた。仲良しというのが、なんでエッチなことになるの?
料理が運ばれてきたので、二人で食べる。
飲み物は、神聖国で飲んだお酒だったので飲みやすかったが、料理は甘いものが多かった。
「なんで甘いんだろう」
「ケーキもすごく甘かったから、甘さひかえめって言っておいて良かった」
「全体的に料理が甘めな国なのかもな。こっちも甘酸っぱい」
二人でモグモグと食べながら、どの辺に模様を入れるかなどを話す。
レストランを出て、目的の店の中に行くと、店の前に、どんな模様を入れるかの一覧表があった。
列に並んで待っている間に、どんな模様にするかを決める。
ハートっぽい、閉じた翼にも似た模様があったので半分半分ならこれが見栄えがいいかもねということで、それにした。
前の人が終わり、中に入る。
「いらっしゃいませ。どの模様にしますか」
「3の模様を私達の腕に半分ずつ一個の模様を入れてもらいたいんですけど、できますか?」
「あ、できますよ」
ニコッと笑ってくれたので、安心して腕を出す。
なぜかゾーイが椅子に座ってなかった。
「ゾーイ。どうしたの? 早く座ってよ。迷惑でしょ」
「え、いや」
後ろを見ると、少し気まずそうな顔をしていた。
「ゾーイ?」
店員さんが顔を上げる。
「あ、本当にゾーイだ。懐かしい。聖女宮であった以来じゃない」
聖女宮?
ゾーイが観念したように椅子に座る。
「聖女なんですか?」
「ええ。でも聖女の仕事は嫌になったから、魔族領で自分で仕事を始めたんです。ゾーイは時々話してた友達」
「元気そうでなによりだよ」
溜息をつきながらゾーイも腕を出す。
「手を繋いだ状態で模様を描く方もいらっしゃいますけど」
「じゃあそれで」
ゾーイは勝手に即答して私の手を握ると、台の上にのせた。
二人で腕先を合わせて筆で模様を描いてもらう。
「ペーストした薬草で模様を描いて、神聖力で定着させると赤黒く変色して模様になるんです。服にもつかないので安心してください」
「定着に時間がかかるかもって思ってたけど、便利ですね」
「そうですね。それで、二人は付き合ってるんですか?」
突然聞かれて、チロッとゾーイを見る。
いつもは簡単にキスした仲でーすとかいうくせに、ちょっと気まずそうにしていた。
「それって客に聞く質問?」
「だって、ゾーイってそういうの避けてたけど、聖女にも好かれてたし」
「そうだっけ。昔のことはあんまり覚えてないや」
ゾーイはすっとぼけた。
これは仕返しのチャンスだ、とひらめく。
「付き合ってます」
スパっと言い切ると、ゾーイはこちらをパッと見た。
「付き合う練習って言ってたのに?! いいの?」
「そこ? もう恋人だと思ってるけど」
「嬉しいけど! まだハグしかちゃんとは許されてないけど!!」
「あー、もう。ゾーイは動かないでよ。模様が汚くなった」
怒られて、ゾーイはスンと落ち着いた後に椅子に座る。
店員さんは、ハァとため息をついた。
「友達の恋愛事情から、進み具合まで全部分かってしまった……」
「別に知られても良かったけど、なんて説明したらとは思ってた。でも何回かキスはしてるよ」
「ゾーイは恥知らずだから、全部言う……」
仕返しにもならないと呆れながら、書いた模様に神聖力を流してもらう。
薄甘い蜜のような味がした。
書かれた模様は、本当に可愛くて、半分だけでもすごく可愛い。
二人で店を出て、手を繋いだまま歩いていると、ゾーイが機嫌良さそうに手をぶらぶらさせた。
「機嫌良いね」
「だって、ユキから付き合ってるって言ってくれたし」
「いくら私だって、受け入れるって決めたら、それは付き合ってるよ。ただ、そういうのが急には難しいってだけで」
「ま、ゆっくり普通の恋人としてやっていこうよ。気持ちがついてくるまでさ」
「最近、前より自分が好きじゃないっていうのが少ないから、なにか変わってきてるかも」
「ほんとに? っていうか基本的には自分の味方なんて自分しかいないんだから、大好きでいいはずなんだけどね」
確かに。元の世界は自分が好きな人だと叩かれがちだったけど、そういって叩く人は人を下に置きたい人が多かった。
叩かれることが怖かった私からみたら、平気になるのは難しいけど、いつかそうなりたい。
「普通の恋人って、こういう感じかな~」
「自分も知らないから、なんともな……別にこのくらいのことは前もしてたし」
「別にキスしてもいいけど、アンリとはしてないから気が引ける」
「そんな気分になってきてるんだ?」
にんまりと笑われて、少しかがんだと思ったら、おでこにキスをされた。
ビックリして呆気にとられたまま、目の前にある顔を見る。
「まぁ~、チャンスではあるけど。今日はこのくらいで」
笑われたので、私もゾーイの頭を抱えて、同じようにキスをした。
(なんか。心がほこほこする!)
顔を離すと、ゾーイも照れた顔になっていたので、たぶん同じ気分なのだろう。
二人とも楽しい気持ちで夜市を歩く。
双翼の翼は、手を繋がないと意味を成さない模様なんだなと不意に気付いた。
心の中にある木が育っていくのを感じる。
空が綺麗に見える夜だった。
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