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襲来と、リツキのキス

リツキは足を喰われながらも、私をけして下ろそうとはしなかった。


「リツキ!!!」


(喰われないように膜みたいなの!!!)


反射的に神聖力で、リツキの足に膜を張る。


「ヴッ」

「アァッ アーッ」


なぜか子供たちまで膜につつまれてしまった。


「ンャ!!!」


膜のようなものに包まれて苦し気に叫ぶ子どもの口の中にはリツキの足の肉片が残っている。


「リツキ、降ろして!!」

「だめだ! 危ない」

「いいから!!」


無理矢理暴れて降りる。

降りた瞬間、リツキの身体が崩れて倒れた。


「……ッ!!」


血だらけの足はいくつかえぐれていて、一つは骨が見えていた。


(こんなので立ってたの?!)


「今治すから」


直接触って最大出力で治す


「ミュー、いい、後ろ!!!」


リツキが叫ぶ。

うしろを振りかえると、大人の男が、私を捕まえようと大きく振りかぶって殴ろうとしていた。

怖さより苛立ちが上回る。


「うちの弟にこんなことして許されると思ってんの!!!!」


大きな身体を避けて、神聖力をこめて気絶しろと殴る

男は一瞬で意識を失い、地面に倒れこんだ。


もう一人が子供を置いて逃げようとしたので、追いかけて神聖力をこめて体当たりする。

見事に気絶して、地面に転がった。


「神聖力って便利!」


子どもがまだ騒いでいたので、気絶しろと軽くたたくと簡単に気絶する。

もともと死んでいる気がするから、完全に死んだかもしれない。そんな気がした。


リツキの元に戻ると、リツキは上半身を起こして座っていた。


「リツキ、痛いよね」


足を回復をする。

リツキは耐え切れないように、クククと笑っていた。


「こんな状態でなに笑ってんの。まだ足に穴開いてるよ」

「いや、うちの弟にって叫ぶから……」

「許されないでしょ。だって。ああ、もう神聖力が足りない。くっつくよ」

「いくらでも。俺はミューの所有物だし」

「言い方が悪い」


回復をしながら、抱きつく。

ふと、アンリのことを思い出した。


「やっばい!! アンリも死ぬ!!」

「あいつは大丈夫だよ。強いもん」

「そういう思いこみがいけないんだ!!」


カバンから、作ってたポーションの大きな瓶を取り出す。

もういい。贈り物だったけど、そんなことは言ってられない。

蓋を開いて一気に半分くらい飲んだ。


「あと半分はリツキにあげるから、自分で回復して。治らなかったら後でやるから」

「わかったけど、ちょっとこっち来て」


不服そうな顔をするので、リツキに近寄る。

グイッと頭を持たれて、顔が近づいた。


「……ッ」


ぶつかる感じで、キスされる。

舌で唇を舐められた。


顔が赤くなっているのを感じながら、後ろに後ずさる。


「な、なに!!」

「弟って思われてて、くやしいから」


顔が、もっと顔が赤くなる! 変なことを言わないでほしい。

今、めちゃくちゃ頑張るとこなのに!


「今そんな状況じゃないでしょ!!!」


さっきは笑ってたくせにと思いながら、叫んで瞬間移動をする。

世界がひっくり返って暗転する

その先にはアンリがいた。


「アンリ!」


私の声にアンリが驚いた顔をしながら振り向く。

その顔は血みどろだった。


「あ、ミユ」

「大丈夫? 怪我した? 治す?」

「ああ、ぜんぜん。これは相手の血」


そう言いながら、アンリは今まで見ていた方を見ると、大きな赤い血だまりに何かを投げる。

悲鳴のような、何か分からない声が聞こえた気がした。


よく見ると、アンリがいる向こう側にある血だまりだと思っていたものは、大量の血液といくつかの肉塊がグチャグチャになったものだった。



「化物かなにか? すごいね」

「そんなもの。ミユは気にしなくていいよ。帰ろっか」

「なんか縛るものない? こっち生け捕りにしたから警察に渡したい」

「警察? まぁ、うちで引き受けるよ」


アンリは軽く言いながら、リツキの元に瞬間移動する。

元に戻ると、リツキは足を完全に回復させていた。


「リツキ、治ったんだ」

「おかげさまで。ポーションは全部飲んじゃったけど」

「いいよ。あんなの消耗品だもん」

「じゃあ、アンリには余った神聖力あげよう」


膜を外しながら、子どもの死体を見るアンリの背中に手を置く。


「神聖力あげる~」

「ありがとう。この子ども見て。死体を使う魔術を使ってある」


子どもの背中には、魔法陣のようなものが書いていあった。


「魔術もあるんだ」

「同じく神聖力を使うから、大きな違いはないよ。見ててね」


アンリは空中から、光る小刀を出現させる。

ブツブツと何か小さく唱えながら、それを子どもの背中に突き立てる。


どこか遠くで、爆発音が聞こえた気がした。


「え、なにか聞こえた」

「やっぱり神殿が関与してるのか。めんどくさいな」

「どういうこと?」

「これは出力する魔法陣。それを逆からつっこんで入り口を爆発させた」

「そんなことしたら、アンリが攻撃したってバレちゃうんじゃない?」

「バレないと思うけど、別にばれてもいい。ミユに向けられた刃は刃で返さないと」

「これ、私が狙われてたの?!」

「そうだよ。だから神聖力をくれたんだと思ってた」

「ただの親切からでした……ええ、じゃあこの子達も私のせいで?」

「いや、たぶん貧民街の子っぽいから、病死でしょ。そこの二人が親で、ミユを食べさせたら生き返るとか言われたんじゃない?」

「じゃあ、この人たちも騙されたってこと?」

「無知で人を襲おうとしたんだから、騙されたとして罪がなくなるわけじゃない」


それはそうだけど。


「でも、子どもが三人も死ぬなんて正気じゃいられないかも」

「確かに多いね。そんなに致死率が高い感染症が流行ったわけでもないのに。まぁ後で聞いてみるよ」


アンリは興味がなくなったのか、子どもの死体を地面に転がしたまま子どもの親の元に行った。

子どもの背中に書いてある魔法陣は、皮膚を切って書かれている。死んだ後に書かれたんだろうけど、痛々しい。体も酷い匂いで、たぶん腐っている。


「子どもが死んで、こんな酷い見た目になったらかわいそう……綺麗にならないかな」


神聖力を使ってきれいになれとやってみる。

傷は治らなかったが、腐臭はすこしマシになった。


「死んだ者に治癒は効かないから、神聖力の無駄だよ」

「少しでも見た目が綺麗になったらいいなって思って」


アンリの言葉に、少し落ち込みながら子どもを床に寝かせる。

一応、あと二人の子にも同じことをした。


「後始末がもうすぐ来るから、うちに戻ろう。こんなに血だらけでは街は歩けない」

「あ、そうだね」


アンリに手を握られて、反射的に同意する。

と、反対側の手をリツキに握られた。


「服がないから、一回、どっちも自分の家に戻ってから再度集合した方がいいと思うけど」


反対側に手を軽く引きながら、リツキは不満そうな顔をする。


「た、確かに……」

「ミユの服は一通り用意してあるけど」

「えっ」


なにそれ聞いてない。

リツキの目つきが悪くなる。


「なんでだよ」

「ミユがお前に襲われた時に保護しようと思って」


リツキが止まる。

私は何も言えずにとりあえず目を閉じた。


(ああ~……空気が地獄ぅ!)


二人の手を同時に外す。


「とりあえず、リツキは瞬間移動できないから、今日は自分の家に帰るよ! いろいろ気を遣ってくれてありがとう! 再集合する?」


努めて明るく言う。

もう、これはスルーするしか道がない!

私は年長者だからね。ちゃんと明るくするよ!


「いや、今日はこれから用ができたし、明日もミユと会うからいいかな」


アンリは空気を読んでくれたようだ。


「じゃあ、また明日ね!」


手を振って、リツキの手を掴むと自分の家に瞬間移動する。

着いた場所は自宅のリビングだった。


ホッとしてソファに座る。

リツキが立ったままこちらを見ていた。


「えっと、座りたい?」

「違う。ミューはさ、やっぱり俺が襲うとかって思ってるの?」


真剣な顔で聞かれた。

真面目に聞かれてるんだと思って、すこし悩む。


「たぶんないと思ってるけど、急にキスしてくるし、よく分からない」


本音だった。急にキスしてくるような奴は、他のことも急にしてきそうな気がする。

それが自分の弟だとは思いたくなかったけど。


「酷いことしないけど! でも、キスくらいさ、いいじゃん!」


リツキは、誤解だと言わんばかりに大きな声で言った。

その言葉に、私は少し傷つく。


キスくらいってなに!


「私のファーストキスをキスくらいって言った!」


こっちはしたことないのに二回もされてるのに!

なんか腹が立ってきた。

勝手にしてきたくせに、そんな軽い気分なんて酷いじゃん!


「あ、それは……」


リツキは、しまったという顔をする。

この反応! しかもよく考えたら、いきなり初めての奴がするにしては手馴れてた!!!!

普通は急にしようって思ってもチュッとできないよ! だって私ができる気がしない!


「しかもリツキは初めてじゃない!!」


口に出して、自分でショックを受ける。

リツキは話題がとんでもない方向に飛んでいったなという顔をしていた。


「いや、それは、勝手にされて……」

「勝手にされて上手くできるわけないじゃん!」

「言い方間違えた。ごめん」


素直に謝られると、それ以上何も言えなくなってしまった。


「お風呂、先に入ってくれば」

「うん。そうする」


リツキがとぼとぼとお風呂に向かっていく。

なんで、弟のファーストキスが終わってるってことに対してショックを受けているのか、わからない。

自分の時。あの時はリツキも辛かったんだろうなと思って、キスされたこと自体、封印していた気がする。


でも、できるなら、ロマンチックなファーストキスがよかった。

少し考えて、絶望的な気持ちになって目を閉じる。


(誰と想像した……?)


経験がなかったから、相手が同じなんだ。そう思いたい。

ソファに腰かけたまま悩んで、深く息を吐いた。

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