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【完全完結】制限付きの大聖女 ~弟に溺愛されて困っています!~  作者: 花摘猫
【二部】大聖女は倫理の狭間で揺れる編
158/180

胸に秘めていた本音は、汚い自分を責めていた。

次の日

ジュディにできたトランプの試作品をもらった。

数字と記号の部分はシンプルで分かりやすく、イラストの部分もオシャレでかわいい。

説明書もトランプサイズで可愛い。必要な言語を選択して、木箱にトランプと一緒にしまえるようになるらしい。


「すごく可愛い!! すごいね。もうできた」

「お金の力は凄いですよ。サンプルで1000個作ったので、聖女様の力で紙を強化していただけませんか?」


ジュディは笑いながら床に置いた大きな箱に手を置く。

箱を開くと、トランプは一つ一つお札のように紙でくくられて留められていた。


「まかせて」


一気に神聖力で紙を強化する。

紙の表面がピンとして、ちょっとつるつるになった。


「素晴らしい。アーロン様も喜びますね」

「でもサンプルで1000個なんて多すぎない? お金足りてる? 大丈夫?」

「アーロン様が出してくれてます。こちらにいただけるお金も多いですよ。すごく優しいんです」

「なんか、ジュディのこと好きみたいだから……でも大丈夫? 嫌ならどうにかするよ」

「嫌じゃないですよ。デートもしましたし。けっこう年上なので多少何を言ってもこちらに甘いですし、聞くとなんでも教えてくれます」


ジュディが恥ずかしそうに笑う。

なんか幸せそうなので、本人たちが幸せなら歳の差もありなのかもと思った。


「もうデートしたんだ。ジュディが幸せなら見守るね」

「ありがとうございます。トランプ、聖女様は何個いりますか?」

「ドロテアが欲しいって言ってたし、たぶんボニーさんも欲しいと思うし……とりあえず、注文取ってくるから、十個もらってもいい?」

「わかりました。こちらの言語で十個ですね」


ジュディは別に置いてある箱から木箱を取り出すと、トランプと説明書を詰めて、十個分渡してくれた。

木箱には焼き印で女性のマークが書かれていて可愛い。凄く嬉しい気持ちになった。


「アーロンさんだけには話していいけど、これからアカタイト国との貿易が盛んになるの。アカタイトには私みたいなトランプを知ってる人が何人かいるから、これはすごく売れるようになるよ」

「そうなんですか?」

「アーロンさんに話してもいい理由は、技術者があちらの国に多いし、インフラ整備も頼まれてるから。これからアーロンさんはすごく忙しくなる。備えてって言っておいて」

「いんふら……? わかりました。言っておきます。聖女様、3日くらいいないと思ったら国交に行ってたんですか?」

「ううん。アカタイトの悪いトップを倒して国を救ってきた」

「3日で?! なんでそんなに普通の顔してるんですか? 国救ったなら、もっと誇ってくださいよ」

「それ以外が大変すぎて、それどころじゃなかった」

「国を救うより大変なことってなんですか。国を救ったならめちゃくちゃいい貿易になるのに、聖女様は自分を誇ってください」

「私は人をたぶらかすから……でもお父さんとお母さんも奴隷で捕まってたし、救えてよかったよ」

「えっ、ご両親がいたんですか?! 人救いすぎですって。もう飲みません? お昼から。居酒屋バロボロンで。話を詳しく聞かせてください」


「いいね。自分も飲む!」


突然横から声が聞こえて、ジュディと一緒に声の方向を見る。

ゾーイがいた。


「あっ、聖女様を狙ってるヤバい女」

「酷い言われよう。でもデートしにきたから当たってるけど」

「アタシは聖女様が一番大事なので。人妻をデートなんていけませんよ」

「でも、アカタイトでのことは、ゾーイがいなかったら全滅だったから助かったの」

「そうだよ。だからユキの恋人に昇格したんで、こっちも大事にして」

「こ」


ジュディが固まる。

私は顔を両手で隠してソファに転がった。


「どういうことです聖女様。本当に? 坊ちゃんも弟さんもいるでしょう?」

「どうにもならなかった……」

「なんなんですか! みんなして聖女様を変な目で見て! こんなの酒を飲みながらでしか聞いていられない!!」


ジュディが叫ぶ。

そんな感じで飲みに行くことになった。





居酒屋バロボロンは、昼営業もやっていた。

店主のおじさんは、ボニーが国に帰ったことを知っていて、私達が来たことを歓迎してくれた。


全員で花酒を飲む。

ゾーイが私達のまわりだけガードをかけてくれた。

店主のおじさんは出入りだけできるようにしてある。

ジュディが食べておいしかったものなどを選別して出してもらった。


「この前は具合が悪かったからあんまり食べられなかったけど美味しいね!」


私の話を聞きながらどんよりしているジュディとは正反対に、ゾーイはニコニコしている。

ジュディはずっと、ええ? そんな酷いことが? 大変でしたねと相槌をうってくれるので話しやすい。

お酒を飲みつつ、アカタイトの話と昨日までの話をした時には、ジュディは泣いていた。


「聖女様……こんなに苦労して優しいから流されて、坊ちゃんと弟さんときたら! それにゾーイさんも!」

「優しいっていうか、たぶん欲張りなだけだと思う。三人は不幸だよ」

「みんな幸せだっていうのに、ユキは頑なに認めないんだよね」

「まぁでも、一般的な幸せを求めるより、聖女様についた方が幸せだとは、私も思いますけどね」

「だよね。合わせてくれるし、優しいし、仕事も斡旋してくれるし、しかも何しても反応も可愛い」


ジュディは思いっきりゾーイの背中を叩く。


「痛っ!」

「この女ァ、生えてるんじゃないですか。情緒というものがない。腹が立つ。聖女様を変な目で見るな!」

「生えてない。生やすなって誓約書にサインさせられたし。変な目で見なかったら友達でよかったし」

「ハァ。坊ちゃんがしたことも一理ありですよ。聖女様がなにされるか分かりませんし」

「ゾーイは自分からはそういうことあんまり言わないから、ご褒美とかそういうのがなかったら大丈夫だったんだけど」

「ご褒美でキスとかを提案されること自体おかしいと気付いてください。本当に腹が立ちます」

「さっき家から出た時、ジュディがゾーイに怒ってるから飲みに行くっていったら、アンリがそりゃ怒るだろうねって言ってた」

「それはそうですよ。アタシは聖女様の親友なんですから」

「なんかユキの親友っていう奴、みんな自分に怒るんだよな。でも自分の幸せを探求した結果これに行きついたんだからいいじゃん」

「聖女様が二人で悩んでなかったらいいですけどね。聖女様は真面目なので」

「でも、私は幸せだよ。ジュディもいて、皆もいて。贅沢すぎる」


頭がくらくらするなと思いながら話す。

フッと目の前にいたゾーイが消えて、隣に来た。


「もう飲むのやめて、こっちきな」


呼ばれたので、よじ、とゾーイの上に乗る。酔っているので甘えたい気分だった。

よしよしとゾーイに撫でられるのを、ジュディが心配そうな目で見ていた。

大丈夫だよという感じで、またお酒を飲む。


「で、ジュディはさ、どうやってユキと会ったの?」

「アタシですか? えぇと、まず私は身体を売ってたんですけど」

「いきなり重いな」

「そんな女いくらでもいますよ。で、ちょっとヤバい客に当たって殴られてですね。そこを覗いていた坊ちゃんが助けてくれました」

「覗いていた……?」

「アンリ、私とつきあってから、いろんな人の行為を覗き見してたから」

「ウィリアムソン、話しには聞いてたけどガチで変態じゃん。嫌だなあんなキレイな顔して変態なの」

「で、助けてくれたんで、時間いっぱい知識を言葉で! 身体で教えたんじゃないですよ! 言葉で教えたんですけど、そこで付き合ってる女の子をそのうち家で生活できるようにしたいけど、自分には女の子の知識が薄いから働いてくれないかって言われたんですよね」

「私のためだったんだ」

「そうです。で、会いたいなと思ってたら、吐いたもので髪まで汚れて気絶したまま連れてこられたのが聖女さまだったってわけです」

「初対面が最悪すぎるぅ」

「可哀想に……幸せにしないと」

「アンタのせいで聖女様は昨日も困ってたんですけどね!」


怒るジュディに、ゾーイは何も言わずに笑った。

その様子を、ボーっとした頭でながめる。


「ジュディは今幸せ?」

「幸せじゃないと思いますか? 聖女さまがこの国に来なかった時のことを考えるとゾッとしますよ」

「自分も、ユキが居なかったら、塔から出られたとしても最悪だったと思うし、本当にいて良かった」

「きっと、普通の女の子だった時もそういう所があって、弟さんも曲がったし、ご両親も心配して色々対策してくださったんでしょう」

「……? そんなこともないけど」


たぶん、家族が優しかったのは、私が可哀想な人間だったせいだとおもう。

ひっしにやってきたから、ふたりがそう思ってくれるのは嬉しいけど。

お酒を飲んでぼんやりした頭で考えた。


「大聖女みたいな、欲でできた人間、本当のことを知られたら、みんな軽蔑すると思うし。ジュディならわかるでしょ」

「聖女様」

「国を救っても、なにをしても。その神聖力の源がなにかなんて。隠さないと、はずかしい」


心に押しとどめていた、泥のような感情が溢れ出る。

ジュディとゾーイなら、きっと私の本音を知っても離れていかない。そんな気がしていた。


「愛とか、恋とか……幸せだし。それがなにか分かるけど。蛾を蝶だっていってるような。大聖女も似たようなものだよね」

「聖女様。違います。アタシは聖女様を身近で見てきていますから、なにを言わんとしているかは分かります。でも、絶対に恥ずかしいことじゃないですよ。生物の歴史なんて、そうやって受け継がれていってるものなんですから」

「でも。私は。愛ってもっときれいなものだと思ってたよ」


へら、と笑ってみせると、ジュディは心配そうに私の手を握る。


「なにも知らない人間はね、聖女さまみたいな状態だったら、そりゃあバカにする人も嫌な目で見ることもあると思います。自分のことなんて棚に上げて、自分を聖人の様に普通の一般論とか自分の不幸だった過去と他人の罪を当てはめてね。そんなものなんです。人間なんて馬鹿な生き物なんですから」

「けれど、聖女様はたくさんの人を幸せにしています。まわりの人たちだけじゃないですよ。この国も、魔族領も、アカタイトもです。だからちょっと人と違うところくらい、いいじゃないですか。断じて恥ずかしいことじゃないです。周りの人が幸せだというのを信じて、ご自分がしてきたことを良いことだと認めてください。まわりじゃなくてご自身を見て愛してください。私達があなたを愛しているように」

「愛には、きれいなのと、欲があるもんね」


愛されてるって嬉しいなと思いながらお酒を飲んだ。

自分を認めるってなんだろう。みんなが幸せならうれしいけど、私だけの力じゃないしよくわからない。

でもジュディが私を好きでいてくれるのは分かった。


「欲も、どちらも好きであれば当然だし、別に悪いことじゃないんですけどね」

「ジュディは、私を好きでいてくれるの?」

「もちろんです。まぁ、三人の好きとは種類がちょっと違いますけど。でも三人の好きの方が、私の好きよりずっと献身的ですよ。多くの人が思い描く幸せなんてね。その中で色々な苦しみがあって成立しているものなんです。人それぞれ違っていて、家庭だって、それぞれいろんな事情があるでしょうよ。大切な人が魅力的で、独り占めできないなんてのもあるでしょう。それを乗り越えて家族になるんです。乗り越えられなかったら離れるだけですよ。だから、聖女様が人の幸せなんて考えなくたっていいんです」


ジュディの言葉に、じゃあ私は乗り越えられないと思う。だって、私は失敗する確率がたかいから。

家族という言葉が頭に残る。

嫌な記憶が、昔の記憶が、さっき可哀想な自分と思ったことでどうしても出てきてしまう。

ああ嫌だな。忘れていたのに。


「家族……欲しいな。私だけの」

「聖女様はもう結婚してるんだからいるでしょ」


そうなのかな、と思う。

でも、同棲してたころと変わらないし、紙切れ一枚で離れる関係で、私なんてそれもないのに。


選んだのは私だけど。

頭が働かない。ぼーっする。呂律も回らない。


「二人は、たぶん私に飽きるから……ゾーイも飽きるだろうし」

「こういう関係、難しい……ひとりとひとりじゃないと壊れるでしょ」

「お母さんも私に飽きたから男の人と出ていったし……でもそういう目的だったから、すぐわかれたって」


ぽつ、ぽつ、と言葉を選んで話す。

ゾーイは何も言わなかったけど、頭を撫でてくれていた。


「弟さんは義理だって言ってたから、前のお母さんのことですね?」


ジュディの言葉に頷く。

考えるのが疲れたなと思う。


「リツキは弟だったのに、家族じゃなくてそういう目的だったから……だめだとおもう」

「ちゃんとしないと、みんないなくなるのに」

「いなくなるなら、好きになりたくない。でも凄く好きって言われると嬉しくなる。すぐなくなるってわかってても」

「いやしいから、そばにいてほしくて、ほしくなるけど、でも三人も……でも欲張りだから、つきはなせない」

「だって、ひとりは。しぬかもしれない」

「ひとりは辛いってわかるし、そんなことできない、たいせつなのに、むずかしい」

「私の血がきたない」

「わかってたのに。だからがんばったのに」


かなしい、と思う。

それは、湧き上がるものなんかじゃなくて、昔から分かっていたと思えるような諦めの気持ち。

二人には絶対言えなかった。飽きられると分かっていても、多いなと思っても、だって二人を選んだ私が悪いから。

だけど結局、そういう目的がなくても好きでいてくれる人がほしくて、もう一人手に入れてしまった。


最悪。


私は、自分の家族がほしかったのに。自分からできない道を選んでしまった。


「家族ならそういうことが目的じゃないから、ずっと一緒にいてくれる……のに」

「だから……、……? なんだっけ」


頭が働かない。お酒を飲みすぎたみたいだ。


「ユキ。疲れた? 寝る?」


聞かれて頷く。

チョコレート味の神聖力を感じて意識が落ちた。






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