昨日の秘密とリツキが両親に冷たくされる理由
朝起きる。
隣には誰もいなかった。
(やっぱりゾーイは来てなかったのかな?)
身体を起こすと物音が聞こえたので、ビックリして音の方向を見ると、三人が土下座をしていた。
「?! ……え、なに?」
「昨日のは、実は二人に見られてた」
頭を床につけながらゾーイが言った。
「え! みてたの?! でもゾーイのエッチな姿見たくないっていってたよね?!」
「見てない。ゾーイの声と姿は隠すようにしてた。でも音とかミユは見えてるから、大体は理解したけど」
「俺のせいで昨日は辛かったのに本当にごめん……」
アンリとリツキも頭を床につけたまま言った。
昨日のことを思い出す。
珍しく自分から色々行動したので、それを見られていたかと思うと、ものすごく恥ずかしい。
「ひどい! なんでそんなことするの!! 覗くのはだめっていったよね!!」
「昨日はミユに出かけてもらった後、色々話しあって、ゾーイを諦めさせるために賭けをすることにしたんだ」
「賭け?」
「ゾーイが本当に諦めないし、ミューの意見を聞けっていうし、無理強いするなら仕事辞めてどっかいくっていうからさ」
「だって本当に一方的な話だったから。だから、じゃあユキと今日キスできて自分から意思表示しなかったら諦めるけど、できたら口出すなって言った」
「昨日、ミューは落ちこんでたし、そういう時はされるがままって感じだったから、俺らは上手くいくと思ってたんだけど」
結果は……。
と考えたところで、私は両手で顔を隠した。
「昨日のは、ゾーイが自分からの意志での初めてが幸せになってほしいから、ああしたんだけど」
「理由はどうでもいいし、ユキはこっちも好きだったし、これでやっと問題なくなった。結婚って言っても気持ちだけで本当は建国だから関係ないしね」
「それは違う。関係あるから」
アンリがパッと顔を上げる。
端正な顔が殴られたようにボロボロに腫れていた。
「アンリ! なにその顔!!」
「俺と殴り合ったせい。ゾーイに治さない方が許されるって言われたから、一晩こうした」
リツキも顔を上げると、同じくらいボロボロだった。
なんならリツキの方が腫れあがっている。
「な、なんでそんなことになったの? 早く治しなよ!! 痛いでしょ!!」
「こいつが! 両親に嫌われてる理由を聞いたら、本当に腹が立ったから殴り合った」
「俺は勇者の力は使わなかったよ……しょうがないじゃんって思ってたけど」
アンリが怒り出す横で、リツキがため息をつきながら少し姿勢を崩した。
「リツキンは、ユキが仕事に行ってる間、家に女を呼んでエロいことをしてたのを親に何回も見つかったらしーよ」
「しょうがないじゃん。学校とか外じゃイヤだって言うんだから。ミューがいない時しか呼べないし、ミューのバイト終わりは迎えに行きたいし」
「しかも何人もなんだ。ミユが好きならミユに告白して好きになってもらうように努力しろ。すぐ体の関係ばっかりとか親も嫌に決まってる」
「少しはそういう経験あるって聞いてたけど、え~……」
私のブラを外そうとしてた時、外し慣れてない感じだから大したことしてないと思ってたのに、じゃあアレは緊張してただけってこと?
「違うんだって。だって親がミューはだめだとか、離婚するしかないとか、寮付きの学校に入れるとか脅すから! すぐ告白するにも難しいし、離婚したらミューが可哀想だから、じゃあ違う女で試すかみたいな」
「その発想がまずおかしいだろ。好きな子だから楽しいんじゃん。気持ち悪」
ゾーイは心から軽蔑した顔で言った。
「それにコイツ初めてじゃなかった! じゃあミユの最初は僕が良かった。本当に腹が立って殴るしかなかった」
「目とか隠せばミューに似てたからッ! でも声が違うからすぐダメになったし……数に入らないじゃん。そんなの」
(じゃあ、他の人じゃ無理っていうのも嘘なんだ)
「あ、ユキの顔がすごく険しい。もう話すのやめろ。他のは下品すぎるし聞かない方がいい」
私は今どんな顔をしてるか分からないけど、すごくむかついてることは確かだ。
だって、いつもリツキは自分の経験を隠そうとしてたし。じゃあ、頑張れば他の女ともできるじゃん。
なんで私が好きなのに、他の女の子を身代わりみたいにして、そこまでしちゃったら、失敗したら赤ちゃんできるかもしれないのに……誠実じゃない。
「リツキ、キスの時も嘘ついたけど、嘘つき! 信用できない!!」
枕をリツキの方にバンと投げる。
「ゴメンて、うわっ」
枕が当たった瞬間。神聖力を込め過ぎたのか、リツキの身体が後ろに倒れた。
「ご飯食べる。アンリの傷は今治すから一緒にいこ。ゾーイも。リツキは来ないで!」
ベッドから降りて、アンリとゾーイの手を掴む。
「ごめんって。こっちに来てから本当になにもないよ。信じてほしい」
「身体のことが嘘ばっかりな人のことなんて、何を信じたらいいの?」
怒りながら瞬間移動でダイニングに行った。
こんなんじゃ、親との仲直りなんて無理だよ。
そんな遊び人の息子が、姉を短時間で攻略したら飽きたら捨てる未来しか見えないもん。
使用人がいたので、料理を頼む。
アンリの傷を治しながら話をした。
「ほんとにリツキって女好きなんだ。ゾーイの裸は気まずいって言ってたから、ゾーイも危ないよ。怖い」
「ええ。見せたくないし、勝手にそんな想像しないでほしいんだけど。気持ち悪いな」
「僕は見たくない。ゾーイに見せたくもないし」
「ウィリアムソンの裸は助けた時に見たけど、ユキの方が恥ずかしかったし詳しく見たかったから、興味がないって分かったな」
「えっ、私の裸って見せたっけ」
「しょっちゅう着替える時にすぐ脱ぐし。ブラのつけ方教えてくれた時は隙間から丸見えだったし」
「すごい昔のことだった……そんなこと気にしてないよ。意識されてるとか思ってないもん!」
「まぁそのうち、ちゃんと全部見せてもらえるように頑張る」
「えぇ……浮気しないよ」
「もう浮気って障壁はないし、ユキは自分のこと好きだって言ってたし、問題は何もないよね」
「え、どういうこと……よく分からないことになってる……」
二人が口に出さないってことになったのはわかったけど、それは浮気ではないってことにはならないと思うけど。
色々思うところがあるけど、少し考えると気持ちがあっちこっちにいって、混乱してしまうので考えないことにした。
昨日のことも、自分の気持ちも、深く考えることが怖い。
部屋をノックされて、ゾーイが出ていくと、ワゴンを持って入ってきた。
アンリの傷も治ったし、今日は両親に色々教えないといけないからご飯を食べて気を引き締めよう。
みんなで食事を食べることにした。
四人分あったし、リツキがいないのが、ちょっとかわいそうだなと思うけど、今更どうしようと思う。
「ザザィの記憶、ミユに消してもらったけど、吐いて泣いたことはちょっと覚えてるから、なにされてたんだろ。最後まで脱がされてないから大丈夫だろうけど」
食事をテーブルに移動させながらアンリが言った。
さっき話していたことで、ザザィに攫われた時のことを思い出したのだろう。
「大したことされてないよ。でも一応ね」
「あの時、リツキンと戦闘の連携とろうとしたけど、リツキンがウィリアムソンの心配してて、ぜんぜん話を聞かなかったんだよな」
「リツキはアンリが泣くと、チラチラ見ながら泣き止ませようとするんだよね」
「ウィリアムソンってそんなに泣くんだ」
ゾーイの言葉に、アンリは恥ずかしそうに目を伏せる。
「ミユと出会ってから、幸せで感動も絶望もしやすくなった。幸せは人を弱くする」
「不幸は人を鈍くするってだけかもしれないけどね~」
ゾーイは少し笑いながら、スープをよそっていた。
「僕、ちょっと行ってくる」
アンリがフッと消えた。
たぶんリツキを呼びに行ったんだろう。
「たぶん、リツキンの顔の傷を治してからくるから、ちょっと遅れるだろうな」
「ちょっとくらい冷めてもいいよ。そのほうが幸せなら」
食器を並べながら言う。
「ところで、ゾーイ。昨日は帰ってこなかったよね」
「あ、え? 帰ったよ。でもユキ寝てたから」
少しだけ手を止めた後、こちらを向いて微笑んだ。
「まぁ、あんな後だから落ちつきたかったし、リツキンとウィリアムソンは殴り合ってたし」
「見たんだ」
「うん。面白かった。あんなに怒るウィリアムソンはユキが逮捕されたとき以来だ」
楽し気にゾーイが笑う。
そんなに殴り合ったのに助け合うなんて男の子はわからないと思いながらも、食べる準備を進める。
二人がやってきて、みんなで食卓を囲む。
昨日のことが見られてたのは腹が立つし、リツキがしょんぼりしてたって信じられないけど。
でも、なんか家族っぽいなと思って幸せを感じる自分もいた。
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