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【完全完結】制限付きの大聖女 ~弟に溺愛されて困っています!~  作者: 花摘猫
【二部】大聖女は倫理の狭間で揺れる編
153/180

残酷な私は、純粋な貴方を捕食する

涙で目が腫れてたし、向かい合わせで横になるのは恥ずかしかったけど、心がグラグラだったので安心感が勝っていた。

怖がらせないようにと思っているのか、少しだけ距離は離れていた。


「ユキはねぇ、人を幸せにしてるのに、大きな幸せを見ないで自分の責任を見すぎなんだ。もっと適当でいい」

「記憶なんて夢と一緒で思い出さなければ色褪せるものでしかない。嫌な記憶も夢だと認識すればなんとかなるってユキが教えてくれたから、自分も楽になった」

「みんな完璧に思い通りにいったら幸せだよね。でもそんなのないし。完璧を求めると不幸になるよ」

「それに。リツキンもウィリアムソンも自分も、自分の幸せは自分で分かる。人間なんて勝手に他人に夢見てガッカリして勝手に離れるんだ。それでもユキがいいって思って離れないんだから、ユキは幸せにしていると胸を張っていい」


ゆっくり話す言葉を聞きながら、優しいなと思う。

私は大したことはしてないけど、許されていい気持ちになってしまう。

でも一ヶ月前だったら、たぶんこんな感じで話してなかったのに、今では距離が近すぎて、どうしたらいいのか分からない。


「ゾーイは、なんで? 今のままじゃダメなの?」

「今でも幸せだけど、もっと幸せになりたいからユキを選んだ。見たこともない未来の相手とやらは知らない。どうでもいい」

「ゾーイの幸せって何? なんかエッチなことしたいのかなって思うけど、私達の関係を壊してまでしたいことなの?」

「ちょっと言い方が悪い。ユキと一年以上ずっと一緒にいるから、それくらいしか残ってないんだ。だから恋愛として好きなんだって分かった時、壊したくなかったけど、そういうことは性別はどうでも好きな人としたいって欲が出た。自分は、どっちも初めては勝手にされたからもう無いけど、でも自分の意思でやるなら初めては好きな人がいい。だから頑張って二人から許可もとった」


まっすぐな言葉に、胸がギュッとなってしまった。

相手が私だというのは苦しいけど、好きな人がいいのは当たり前のことだ。


「えっと。本当に私が好きな人なの?」

「うん。お泊りの日、ユキが優しくしてくれて、ずっと触ってキスも感覚同期もしたかったし、他の人間が邪魔だな~って思ってたら、恋愛感情だってユキが教えてくれた」

「確かにそんな話をした」

「だから頑張ったけど。でもユキがやりたくないのにやるのは、それは違う。ちょっと強引だったから傷つけたかもって思ってる」


(本当に私が好きなんだ)


恥ずかしいけど、そこは受け止めよう。


「ユキ。これだけは信じてほしいんだけど、今日、キスのお願いはしたよ。したけど、ご褒美に欲しいのは心であって、エロいことじゃない。自分だって、こんなのきついよ」

「今日キスって、本当にゾーイがしたいの?」

「ごめん。言えない。不確定なんだ。だから今日はやめようって言ったし、本音も言った。後悔がないように」


後悔、というのなら、もう二度とこういうことはない可能性もあるということだろうか。

たぶん、よく分からないけど、やっぱり二人の思惑もあって、ゾーイが挟まれてる気がした。


(本当に、これは、どうしたらいいの)


どちらにしろ、キスすることは確定してる。

その次にする予定もない。二度としないかもしれない。それなら、もういっそ。


(幸せになってほしいけど、その幸せが自分の手でしか現状は無理なら)


せめて今日くれた分くらいの優しさは相手に与えるべきではないのか。

ただキスしたいだけとかなら絶対しないけど、明日改めてするよりは、今日した方がずっと誠実な気がした。


「軽いキス以上は難しいけど、する……?」


涙で腫れた顔が治るように神聖力をかけながら言う。


「……いいの?」

「うん。それ以上は、二人がいいって言っても心がついていかないから無理だけど」


ゾーイは、慌ててなにか手を動かす。


「うん。じゃあ……どうしよう。このまま?」


身体が急に近づいて、そのままキスされる。

あまりに早くてビックリしてしまった。


「まだ口に浄化かけてない」

「自分はかけたし別にいいけど。もしかして軽いキスってこれだけ? 時間もたなくない?」

「うん……だから昨日は数秒で終わると思ってた」

「なるほどなぁ……」


口に浄化をかけながら答えると、ゾーイは困ったように笑った。

私の方が色々知ってるけど、でもアンリもリツキも私からするのは嫌だって言ってたし……。

ハグくらいはしようとハグをすると、チュッチュとされた。

どうしようかなと考えているのが、こちらから見てもわかる。


(ゾーイ。人に好き勝手にされて、アンリみたいに覗き見もしないから本当になにも知らないんだ)


どうしよう私も上手くないけど、これじゃあ軽いキスのガッカリ初体験になってしまう。

いつもだったら、それでも仕方ないかなと思ったかもしれないけど、さっき親身になって聞いてくれたのに、それはあまりに冷たい気がした。


どうしようと思いながら、肩に手をまわして背伸びをする。


「ユキ?」


わーっと軽く重なるようにゾーイの上にのった。


「なに、ん、ぅ」


長めに自分からキスをして、唇をなめる。

おでこにキスしたあと、耳にもキスをした。


「こういうの、ちょっと恥ずかしい?」


耳元で囁いてみる。

ズ、とゾーイの身体が焦るように動いた。


「これ、キス……?」


顔が真っ赤だった。

キスなのかな? 分からないけど、このくらいは軽いよね?

首をかしげてから、もう一度唇で相手の唇を噛むようにキスをする。

はむはむとしてると、急にゾーイとキスしてる! と我に返ってしまって恥ずかしくなってしまった。


(頭がおかしくなった。もう無理だよ、はずかしい。無理だよ)


ぎゅう、と抱きしめてから、グルンと転がろうとすると、ゾーイも合わせてくれた。

今度は横になる。


「あ、今度は自分? えっと、頭が働かない」


そう言いながら今度はゾーイが同じことをしてきた。

言葉を口にする余裕も、正解がどうかもよく分かってない中、呼吸音と衣擦れの音だけが耳に聞こえる。

抱き合ってるから恥ずかしいけど、してることは大したことないと思う。昨日の方がずっとエッチだ。

だけど、これはこれで、すごく恥ずかしい。

間近にみたゾーイの顔は泣きそうな、切ない表情をしていた。


「なんで? 泣きそう」

「……嬉しくて。自分だけでユキからはないと思ってたし。好きって、こんな気持ちになるんだね」


ぎゅ、と胸が苦しくなる。

そのままでいたいと思っていたのは、私の身勝手でしかないと実感した。


(でも、こんな状態も、ゾーイにとっては本当はよくない)


どうしたらいいのか分からない。

分からないまま、重なるように抱きしめた。


(何もかも分からない。でも、きっと、今日だけは許されてるなら、幸せな気持ちで終えてほしい)


相手の耳元に、自分の気持ちを囁く。

聞こえるか、聞こえないかくらいの声だったけど、ゾーイは少し震えた。


彼女にとっての初めてが今だというなら、幸せな思い出になってほしいから。

好きという言葉は様々な意味を持っていて曖昧で、人によって意味が変わる残酷な言葉でも。

それもまた、私の中の本心だった。


少し恥ずかしかったので顎のあたりにキスをして誤魔化す。

ゾーイが凄く汗ばんでることに気付いて顔を上げた。

泣いているかと思ったら、すごく扇情的な顔をしていたので驚く。


「えっと。もうやめよう、か。十分経ったと思うし」


我に返って、びっくりしてハグを止めて、ほんの少し距離をとる。

たぶんとっくに過ぎてるけど、時間を忘れていた。


「え、もう?」

「やりすぎなくらいだよ~」

「いきなりユキが冷めた。寂しすぎる」

「凄いなんか……見ちゃいけない顔をしてるし。これ以上はだめだよ」

「幸せだったのに。もっとしたい」


熱っぽい目で見てくる。

ドキドキするけどそんなことを知られたら危ないので、平気なふりをした。

満足な初体験でいい思い出になれたのなら良かったとは思ったけど、やりすぎた。

泣きそうな気持ちと、気丈にしなければいけないという気持ちが二つある。


「しないよ~。私はもう疲れたから寝たい」

「さっきまであんなに情熱的だったのに! 隣で寝ていい?」

「本当に何もしないならいいけど。でもリツキとアンリに会いに行かないと。きっと待ってるよね」

「大丈夫だよ。二人とも賭けに負けて機嫌悪いから会わないほうがいいよ」

「賭け? なんの?」

「ユキは知らなくていい。ネグリジェに着替えたら? 自分も着替えてくるから」


フ、とゾーイが消えた。

どういう意味だろうと思いながら、ネグリジェに着替える。


(やっぱり二人に話に行ったほうがいいよね)


でも、なんかやりすぎたから気まずいし、このままじゃいけないと思った。

どういう結果になるにせよ、ちゃんとキッチリしよう。


「ミユ」


気付くとアンリがいた。

ものすごく暗い顔をしている。


「アンリ。戻らなくてごめん」

「いいよ。それより今日はごめん。本当はいろいろ悩んでたのに、僕らが変なこと言って」


ゾーイが話したのかな?


「別にぜんぜん……」

「僕らはミユが取り乱してたところを見てたし、自分の気持ちを隠すって分かってたのに」

「両親の話?」

「うん。今日も落ちこんでたのに、それを利用しようとしたから、罰があたったんだ」


アンリが抱きついてきたので、慌てて私からも抱きしめる。

アンリの身体は細いけど、やっぱり男の子の身体をしていた。


「どういうこと?」

「なんでもない。今日はゆっくり寝て。でもゾーイとそういうことはしないでほしい」

「……うん。しないけど、なんか隣で寝たいって言ってたから、それはいい? アンリも一緒に寝る?」

「僕は無理。ゾーイは隣で寝るだけならいいよ。でも明日は僕と寝て」

「うん。ねぇアンリ。でもさ。なんか、今日のって、なんか特別な意味があった?」


アンリは私の身体を離す。

こちらを見て、少しだけ笑った。


「明日。明日話すから。今日はお休み」


フッとアンリが消えた。

やっぱり何かあったんだろうなと思いながらベッドに入る。

ゾーイが帰ってこないけど、本当に疲れていたから、明かりを消してベッドの中に入った。

ひとりになると、つい寝る前に考え事をしてしまう。


(どうしよう落ち着いてくると、切ないより心が痛い)


ベッドの中で丸くなりながら考える。


(ゾーイは、幸せになれるのかな。二人が許可したってしちゃいけないのに、なんで流されたの? 分からない。でも)

(やっぱり私ってそういう人間なのかな)

(絶対なりたくなかったのに)


相手の幸せを想うなら、手を出さない方がよかった。

こんなにバカみたいに流されて、優しい気持ちに絆されてしまった。

ぼろ、と涙が流れて、慌てて近くに置いてあったハンカチを手に取る。

まだ濡れている布で拭きながら、今日は泣きすぎだと思ってしまった。


(私、あんなにキスできるって……ゾーイのこと)

(最悪。もう嫌だ)

(こんな自分が本当に嫌だ。汚いし、苦しい……こんなの相手にも毒だ)

(一人だけを好きでいられたら、どんなに幸せで楽なんだろう)

(でも、選ばなかった人がそのあと幸せになれる保証もない)

(それが無理なら、みんなで家族になれたらいいのに)

(家族なら、私に飽きても、一緒にいてくれる)

(でも、そんなことを考える人間は、最後はひとり)


みんな幸せにしたいのに、こんなに現実は難しい。


(分かってる)

(……疲れたから、寝ちゃおう)


いくら情熱的にキスしたって。

本当は分かってたくせに。

最後だからと言い訳して、これで終わるわけもないのに。

私がやったことは、本当に毒でしかなかった。


けじめをつけなければいけない現実は迫っていて。

元に戻れない心も、擦り切れる心も、私だって同じで。

でも、どうにもならない。

胸に残るのは、寂しさだった。









今日は二つ連続更新なので、なにかおかしいなと思ったら前を読んで下さい。最後まで頑張りますので、ブクマや星などで応援していただけましたら幸いです。

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