女同士の恋愛論と運命論
神聖国に両親を連れてきて、昔の家に両親を案内した。
両親はとても喜んでくれて、リツキは近くにある食料品店に案内した後、馬車に乗れる場所に案内して、こんど荷馬車を買おうか聞いていた。
両親ともに自動翻訳で言葉は話せていたし、文字も私が神聖力で少しのあいだ読めるようにした。
翻訳ができる道具は近々渡せばいいと思っている。
本来なら、神聖国についたその日は、皆で仲良くご飯を食べたかったけど、それは明日にしようという話になった。
あまりにも私の元気がなかったからだ。
私も気持ちを隠そうと頑張ったけどダメだった。
本当にゾーイとのやりとりやリツキに抱えられたのを見られたことで、色々、生々しすぎるとメンタルがきつかった。
瞬間移動で街中に両親を連れてきて、簡単に案内をして別れる。
ブラと下着が買えるお店に案内したり、最初にリツキと一緒に来た居酒屋を教えたり、馬車の場所を教えたりしたので、一日は大丈夫だろう。
そして夕方。
夕食の時間より早い時間のダイニングで、ガードをかけて話し合いを始めた。
全員バラバラの席に座っている。
「お前のせいでミューが可哀想な感じになって元気がなくなった。本当に最悪だよ」
「自分だってユキを辱めたかったわけじゃないけど、別に秘密にすることでもないと思ったから」
「そもそも。ゾーイは友達のはずなのにミユと恋人になることが確定と思って動いているのがおかしい」
「そうだ。それに仲間にはなれないよ。だってゾーイは女だから、俺らみたいな感じは無理だし」
二人は機嫌悪くゾーイを責める。
ゾーイの方はといえば、バツが悪そうだが、いつも通り飄々としていた。
飄々というより、目標が達成できないなら全てがどうでもいいようにも見えて、大丈夫なのかなと思ってしまう。
「分かってるよ。でも孕ませられないし、自分って役立つから今も問題ない状態なんだからいいじゃん。邪魔はしないし」
「もっと言葉を選べよ。良くねーに決まってんだろ。確かにミューはそのうち俺らとの子供を作るよ。でもその時、お前は疎外感を感じないと言える?」
リツキの言葉に、ゾーイはグッと黙る。
「建国して一年は子どもは無理だし、これから忙しいから少し無理だろうけど、子供は作る予定だし、お前も年をとるんだよ。そん時に相手を作ろうったって、いい奴はとられてて難しいぞ」
「そもそもゾーイは男は無理なわけ? そこらへんから学ぶ必要がありそうだ」
「うーん……。自分も最初は異性が恋人になるんだろうなって思ってたんだけど、ユキと関わってるうちに怪しいなと思いはじめて、ちょこっと遊んだ時は、女の子はまぁまぁいけそうかなって思ったけど、男は興味が……」
いつの間にか遊び人になりかけてる!
ジッと顔を見ていると、ゾーイはこちらを見て少し慌てた顔をした。
「あっ、浮気とかじゃないよ。何もしてないし! ただ、ほら、ユキは結婚してたし。困らせたくなくて!」
「まぁ、気持ちは分かるよ。俺も似たことをしたことがある」
「リツキンと一緒ってなんか嫌だな……」
「じゃあ、女が好きって前提で話を進めるけど。僕らは女の子が好きだから、ゾーイがミユとイチャイチャしてるのを見て、こっちが変な気持ちになるのも嫌なんだ。それも困る」
アンリの言葉に、ゾーイは心底意外という顔をした。
「えぇ? 二人が自分をそういう目で見る可能性があるってこと?」
「俺らだって嫌だよ。でも見える場所でミューとエロいことされたら、嫉妬以外にそういうのが出る可能性もあるだろーが。男だもん」
「こればっかりは分からないよ。本能だし。僕はそういうの薄いけど、男より女の子の方が甘くなるしさ。現にゾーイに甘い」
嫌々話す言葉に、ゾーイは困ったように頭をまわす。
「自分は二人と何もしたくないけどな。ハグも嫌だし」
「俺達だって今んとこ嫌だけど、そうならないようにしたいって話をしてる。だから難しいんだって」
「僕らの関係だって、まだお互い嫉妬はあるし、ミユもたぶんすごくやりにくいから僕らのことを不幸だと思ってるし。たぶんゾーイにもそう言ってるだろ? ミユはずっと僕らが幸せじゃないと思ってるから、ゾーイも不幸にしたくないんだと思う」
「まぁ、言ってるけど。でも二人は幸せだろ? そうだな。ちょっと自分の考えを話していい?」
ゾーイの言葉に、二人は無言で頷く。
「自分は、フォーウッドに二年くらい塔に閉じこめられてたんだけど、その時にもう他人に人生の選択肢は握らせたくないって思ったんだ」
「でも多くの場合、自分を幸せにしてくれる相手ってそんなに選べないだろ。さっきリツキンが言ったみたいにさ」
「ユキは塔から出してくれたし、人生の道は教えてくれるけど無理強いはしない。なのに助けてもくれるじゃん。受け入れる間口も広いし自分を犠牲にすることもあるし、解決する力もすごいのに偉ぶらないすごく良い子だ。それにちょっと間抜けで変だし、口出してほしくないことは口出さないし」
話を聞いてる二人もうんうんと頷く。
私はどういう顔をしていいのか分からなくて、机に突っ伏した。
「最初は、なんでユキがモテてる理由が分からなかったよ。だって可愛いけどめちゃくちゃ可愛いかって言われたら普通だし。でも慣れるとめちゃくちゃかわいい。なんか勝手に楽しいこと見つけて楽しんでるし。人のためにも工夫するし、みんなにそれを分け与えたりもする。凄く合わせてくれるのに時々大胆。責任感も強い」
「自分は、男と結婚して子を孕んで育ててそれを楽しめなんて強要されるなんて冗談じゃないんだよ。それじゃ塔にいる時と一緒だ。そういうのはずっと甘えたいって子がやるべきで自分じゃない。じゃあ女でそれなりに美人を選んだって、自分は、自分を好きでずっと甘えたいって子の相手は難しい。自分だってやりたいことあるし。愛し愛されてイチャイチャして、恋愛のことだけ話す関係ならそれでもいいけど、それだけの子は安定が欲しいから、誓う法的な約束もできない自分にたぶん病んで離れて行くよ。子どもが欲しくなったらすぐ心変わりしそうだし、男もちょっと年食ってても拾うだろうし、性格になるとユキみたいな子なんて全然いないしさ。こっちだって一年、色々探してきたけど無理だった」
「それはそうだよ。ミユみたいな優しい子はいるようでいないんだから」
つらつらと話すゾーイに、アンリはツッコミを入れる。
私程度の人間は日本人と大聖女という点を除けばいくらでもいると思うけど、口には出せなかった。
「一年以上ユキといて思ったのは、自分を幸せにできるのは、ユキが最適解だってこと。だって勝手に子供も生まれるしね」
「子供ができる前提で考えたのかよ」
「だって結婚したし。もちろんこっちだって独り占めしたいよ。でも、男って最初はいっぱいするけど、あとは冷めるっていうじゃん。それなら自分がそこに入ってもいいかなって」
「確かに数は落ち着いたけど別の理由だし、今も二人いるからミユは大変だし僕は冷めないよ」
「ユキは大聖女なんだから、ずっと人に愛されてた方が国的にもいいじゃん。女は愛情があればイチャイチャしたい生物な気がするし」
(ああ、赤裸々……! いやだぁ)
「もしゾーイに好きな奴ができてミューと別れても、ちゃんと王宮の仕事はすんの?」
「するよ。契約書を書いてもいい。だけどユキは大聖女だし国王だよ? ユキが自分を捨てるなら無理かもしれないけど、逆はない」
ゾーイはキッパリというけど、私はついていけてない。
「ゾーイの気持ちはわかったけどさ。でも私、三人もは多いし、色々大変だし、人に知られるの恥ずかしいし、嫌だよ。二人いるのだって多いと思ってるんだから」
「今さらじゃない? 二人より一人多い方が、女が一人多いから普通に見えるよ。自分を入れて四人でいこう」
そんなものなのだろうか。ふしだらだと思う。
二人と性的なことをするのだって得意じゃないのに、一人追加なんて、気持ちも身体ももたない。
「気持ちの折り合いがつかない。無理だよ。私みたいな子なんてたくさんいるのに、綺麗に見すぎだと思う」
「そうかな。他の女なんて大体人を利用しても自分の為にピーピー泣いてるし、誰かに幸せにしてもらいたいって思ってるけどね」
「別にそれが悪いとも思えないけど……」
どうしようと思いながら考えていると、アンリはこちらを見てため息をついた。
「でも、ミユがキスしていいって提案したのは、ミユがしたかったからだろうし、すごく複雑な気分だ」
「違う。あれはアンリが攫われたから」
「理由はそうかもしれないけど、ミユは嫌なことは提案しない」
アンリは不満げだった。
これならゾーイは来るだろうと思ったから提案したから違うけど、嫌じゃなかったから、したかったのかな。
確かにモーリスだったら絶対無理だし提案しなかった気がするから、ものすごく複雑な気分。
でも、本当に最初からあんな激しいキスをするつもりはなかった。だって色々壊れちゃうし。
もう壊れてよく分からないことになってるけど。
でも、はっきり断ってると思うけど、これってどうなったら穏便に収まるんだろう。
でも穏便に収まるってどういう状態? ゾーイが消えた状態? それもそれですごく嫌だから、結論も出したくない。
「でも、コイツと僕が同時期にイチャイチャしてるって気付いた時よりはマシなんだよ。あの時は本当に心が壊れるかと思って辛かった」
「俺もだよ。本当にヤバかった。今も思い出すとキツイ。でも今思うと見た目が違うのにグイグイいって酷いことをした……」
「私はあの時も今も私はなにやってるんだろって思う時あるよ。でも最初よりは本当にマシになった。最初は本当に自分がゴミみたいな気分だったもん」
「ミユ、自分が汚いって泣いてたもんな。あれからもいろいろあったけど、ゾーイまで来て同じ感じになってるけど、今回は泣いてないからな」
「お前らユキになにやったの? マジで嫌なんだけど。自分は強引に見えてもちゃんと言葉をかけて気持ちをついていかせてるよ」
「でも、別れてたら俺は、どうなってたかな。この世界を壊してたと思うな。だってコイツ殺したらミューは俺のこと嫌いになるだろうし」
「僕は……どうなんだろう。あの時は戦うって思ったけど。多分死んでたし。ミユに振られたら会社はどうでもいいけど、ミユと会えたとしても辛いし、モーリスは変な仕事してるし、僕もそういう仕事しなきゃいけないかもしれなかった。嫌だ。最悪だ。生きられない」
アンリがボロっと涙を流す。
「うわ、お前泣くなよ。本当によく泣くな」
「僕が最後までミユの側にいる。いいよコイツと一緒でも。ゾーイはちょっと考えておく」
「自分はユキと一緒にいたいし、他の奴が自分の立ち位置についても同じことになると思うから、自分にしておいたほうがいいよ。だって他の奴はユキを二人から取ろうとするだろうしね」
ゾーイの言葉にちょっとだけムッとする。
「私が二人を好きなんだから、取ろうとしてもとれないよ」
「でもユキ、こっちのことも好きじゃん」
そんな事実はないのに、なんでそんなに自信満々なんだ。
「友達として好きなの。キスしたくらいで調子に乗らないで。あれは軽くだと思ったから提案したのに」
「そうかなぁ。自分の運命の相手は自分で決めたいと思ったけど、塔から救ってくれたのはユキなんだから運命だと思ってるよ」
「違う。運命の相手は俺。だって親が連れてきたんだし、だからこの世界に連れてきたし」
「いや僕だよ。僕なんてミユから笑いかけてくれたんだから。それに僕はミユに一回も何も断られたことがないしね」
答えがないような話を四人で話す。
ふとアンリが時計を見た。
「ちょっとミユ。僕ら、ゾーイとちょっとミユのことで話するから、ご両親とご飯を食べてきてくれない? そろそろ食べてる時間だろ」
「え。なんで。私も話す」
「ゾーイが諦めそうもないから止めたいけど、聞かれたくないことを話すから」
「えぇ。私が関係あるのに、私は聞いちゃダメなの?」
「だめ。ゾーイはともかく、こいつは本当に下品なことも言うから、ミユには聞かせたくない。行って」
アンリの言葉に、他の二人は何の話か分からないと言った様子で頬杖をついて見守っている。
本当にここにいちゃまずい感じだった。
(ゾーイは、女の子一人で大丈夫なのかな……でも二人は絶対女の子に酷いことはしないだろうから大丈夫だろうけど)
もし何かするような性格だったら、もうとっくにあってるはずだ。
両親と食事をするなんて、アカタイトのこととか聞かれたら罪悪感でいっぱいになりそうだから行きたくないけど、いかないとまずいよね。
「えっと、じゃあ行ってくる……三人とも仲良くしてね」
両親のもとに瞬間移動をする。
どんな話をするのか分からないけど、いかがわしい内容なんだろうなと思って、ちょっと怖かった。
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