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ピチピチな正装と襲来

次の日、アンリは髪の毛を短くしてきた。



「本当に男の子に見える! いいね!」

「見えるんじゃなくて男だって」


そんなアンリを、リツキは冷めた目で見ていた。

アンリも今日はリツキに話しかけたりしていない。


「リツキはアンリが男の子だって知っても驚かないんだね」

「この前二人で会った時に分かったからね」

「二人で会ったんだ」


その割には仲が悪くなってるような……。

喧嘩でもしたのかな。


「ミユは知らなくてもいい話だよ。じゃあ、服を買いに行こうか」

「じゃあ私が瞬間移動する!」



バッグを肩にかけながらリツキに近寄る。

やっぱり私がお姉ちゃんだからね! 二人が喧嘩してるなら間をとりもつよ。


瞬間移動には、体の一部を触ればいいと分かってきたけど、ここは仲良くおててを繋ごう!


リツキの手を握ってから、アンリの手を握る


「あ」


アンリが声を上げた。


「どうしたの?」


アンリが私の頭上を見ながら、私の手を外して、それからもう一度握る。


「これ相乗効果で神聖力が上がるんだ。二人触ってたら二人分上がる」

「おしくらまんじゅうしたらあがるってこと?」

「おし……なに?」

「下に円を書いて、腕を絡めて背中で押しあって円から押し出すって遊び。元の世界にあったんだ」

「なるほど。スポーツか」

「でも、三人だと俺が一番でかいし力があると思うから、神聖力を上げるためには合わないかもね」


二人で話していると、リツキが話を割って入ってくる。

確かに。っていうか、三人でくっつく機会なんてあんまりないよね。


「とりあえず、服買いに行こうか」

「そうだね。この前に行った洋装店に行こう」


アンリに言われて、この前ブラを作った洋装店に瞬間移動をする。


店に入ると、この前会った店員さんが飛んできた。


「アンリ様。お待ちしておりました。ご用意してあります」


なんか話してあるらしい。

リツキとアンリとは別々の場所に連れていかれる。


「こちらが聖女様の正装の衣装になります。好きなものをお選びください」


なんか黒くて体にフィットしそうなドレスが何着か出てきた。どれも首まで布はあるけど、身体のラインがばれそうなスリムなデザインだった。

最初に貰った服は普通だったし、もっと修道女みたいな服を想像していたのに……。


「本当に? 体のラインが見えませんか? 聖女って、こう、神秘って感じじゃ……」


店員さんはなにを言っているんだという顔をしている。

ああ、本当にこれが正装ってことか。

確かにドロテアがこんな服を着てた。聖女のわりに貴族みたいな意識なんだなって思ってたのに正装だったのか。


(考えてみたら、聖女の正装なんて魔王の嫁確定の時だけな気がするし、身体のラインくらい見えてて当然か)


花嫁だって体のラインは見えている。これが美しさというものなんだ。

お尻の形をごまかせそうだなと思ったら、足の付け根部分まで切れこみが入っていたり、いかがわしいけど、これがスタンダードなのだ。


「じゃあ、これを試着します」


ギリギリコルセットを着なくても済みそうな、肩ひもが目立たなそうなドレスを選択する。


光沢のある生地で高級感があったし、首から胸部分までのボタンが手作りのレースで隠すように飾られていて他の服よりかわいく思えた。


着てみると、ピッタリとしているから腰の部分にいろいろ巻きたくはあったけど、他よりマシでかわいい。

肩幅も丈もちょうど合っているようにいるように思えた。


「合わせたサイズをお出ししたのですが、ぴったりですね! もう少しこの辺はフィットさせたほうがいいかもしれませんが」


店員さんがお尻の上のあたりをつまむ。

ええ! これ以上体のラインを出すつもり?!


「い、いいです!! 成長期なので!」


横に成長期だよ! 勘弁してほしい。


「ミュー着た? 見ていい? そっちと合わせたい」


部屋を隔てる布の向こうからリツキの声が聞こえた。

店員を見ると開けてもいいよという顔をしたので、歩いていって布を開ける。


「いいけど、合わせるの?」


布の向こうにいたリツキとアンリは、黒い服を着ていた。

どっちもかっこいいし、似合っている。みんな黒なら、もうお揃いな気がした。


「二人とも似合ってるね!」

「ミューは……体の形が見えすぎじゃない?」


リツキがボソッと言った。

そうなんだよね。なんでこんなに男女にセクシーの差があるのか本当に謎だよ。

ピッタリしてるから腰骨の形もばれそうで、すごく嫌だ。


「他のほうがもっとセクシーなんだよ。これも腰の形が丸見えだけどさ」


「良くないな。もっと腰から普通のスカートみたいに足部分が広がるようなデザインにしてほしい」


アンリが店員に注文をする。

店員は何も表情に出さずに、すぐに了承した。


「正装なのにいいの?」

「この聖女の正装はたぶん魔王の好みだから、一般的に使える正装にしたほうがいい」


アンリの説明に納得する。

そうだよね。やっぱりこれ普通じゃなかったんだ。よかった。

私はものを知らないと騙されるタイプだ。


買い物を終えて、店を出る。

リツキの服も私の服も、私のブラを売った売り上げの一部で賄えるらしくて、ほっとした。


「やったー終わった! 余分な神聖力をポーションにしてからお昼食べよう!」


目立つといけないので、路地に入ってカバンからポーションがたまってきた保存容器を取り出す。


「昨日の今日でけっこうためてるね。あとでオシャレなポーション瓶も買おう」


アンリの提案に頷きながら、ポーションを瓶の中にためていく。

蓋を開けていないので衛生面では大丈夫だと思うんだけど、本当に腐らないのだろうか。


「なんで俺が抱きついてないのに貯められるほど神聖力が残ってるの? おかしくない?」

「昨日、魔王に会った話はしたじゃん。その時にアンリが負けそうだったから、いろいろあって」

「こいつと抱きあったっていうの? 最悪なんだけど」

「なんか、リツキに悪いなって思っちゃって」

「そっちの方が嫌だよ……」


リツキが不機嫌になっていると、アンリが手をひらひらとさせる。


「昨日は緊急事態だったんだ。殺されることはなくても、敵にもならない状態でね。シールドも作っただけ壊されるし」

「そんなに強いのか……ミューからは魔王と会って、一週間後にまた会うから付いてきてしか聞いてないよ」

「ミユ、説明が雑過ぎる。まぁ、だから弟は勝とうと思わない方がいい。嫁になることは回避できた」


その説明に、少しだけリツキは機嫌が直ったようだった。


「この話はあとでしよ。路地裏でする話じゃないよ」


アンリと恋人ってことになってるとバレたら、またリツキの機嫌が悪くなるだろうし。

どうせ嘘ならいい感じに伝えて、適当にごまかしたい。


と、突然アンリの動きが止まった。


「……ッ!」


バッと顔を上げる。


「なにか、五人……別にまた五人来る」


呟いてぐるりと周囲を見回した。


「ここに来るまでに止めたいが。弟。ミユを守れ」


そういうと、アンリは屋根まで飛び上がった。

消えていく背中を、路地裏から見送る。


「なに? 何が来るの?」

「分からない。とりあえず神聖力を上げた方がよさそうだ」


とりあえずポーションをバッグに入れていると、リツキに後ろから抱きかかえられた。



大通りから、泣き叫ぶ声が聞こえる。

声の方向を見ていると、小さな子どもが三人、泣き叫びながらこちらに走ってきた。

ボロボロの服を着て、年齢は小学校の1年生くらいの小ささだった。

その後ろから、大人が二人追ってきている。


「助けて! お姉ちゃん!」


子どもの一人が私の足に抱きついた。


「えっと」


困っている間に、三人とも子どもに抱きつかれる。


「おなかへったよ」


そう訴える子どもの目はなぜか虚ろで、よく分からない酷い匂いがした。


(この子たち、なにか変……!)


追ってくる大人二人をリツキが見る。

次の瞬間、リツキは子どもを振り払って私を真上に持ち上げた。


いつもは見たこともない高さに持ち上げられた瞬間、身体を掴んでいるリツキの手が、ビクッと揺れる。


「ギッ……ッ!!」


身体の下でリツキが呻く声が聞こえる。


(えっ、なに?!)


下を見ると、リツキの足に子どもが噛みついていた。

違う。喰いちぎっている。


子どもにそんな力があるわけがない。

あるはずがないのに、それはピラニアのように喰いちぎっていた。






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