戴冠式とザザィの処刑
一晩明けたチハラサは、国王の部屋だと分かるような立派な部屋で、立派な衣装に着替えていた。
「チハラサさん。おはようございます! 立派な衣装ですね」
「父のものなのですが、少しの直しで使えるようになりました。一応、威厳というものを示さなければいけない時なので」
「ザザィを処刑するって聞いたけど、俺はどこで膜外します? 変に神力使われても面倒なんで」
リツキが自分から提案してきたので、チハラサが驚いて止まったあと、穏やかに笑う。
「式典の途中で出てきてもらっていいですか? 国を救ったという意味で四人とも出てきていただだきたいのですが」
「分かりました。でも、あんまりミューに残酷なものは見せたくないので、首を切るとかなら、ミューを下げてからがいいです」
「僕が目を塞いどくよ」
「私、別に大丈夫だけどなぁ。今回はゾーイも出る?」
「まぁ、ここにガラレオの奴もいないから出てもいいけど」
「では、全員出てきてください。もうすぐ式典ですので。リツキ君。首の喉ぼとけより上を出して、口だけ塞ぐという感じに変更することはできますか? 顔がわからないと国民も不安でしょうから」
「できますよ。移動させるだけなんで」
チハラサはフフ、と笑う。
いつものチハラサだった。
「もう神聖国には戻らないんですよね」
「国王ですからね。でも、ポータルを設置していただいて、神聖国と自由に行き来ができればと考えております」
「いいですね。まだ難しいことも多いので助かります。なにを取引するかとか、色々な設置場所を考えないといけませんね」
「はい。一応リストアップはしてあるので、あとでお選びください。あと、我が国も神聖国のような住み良い国内の整備をしたいのでご助言ください」
「インフラ整備ですね。確かにまだトイレとかも、穴に手酌で水ですもんね」
「お恥ずかしい限りです」
「恥ずかしいことなんてありません。綺麗な国ですから」
別に発展していなくても、美しい国は美しい。
文化の発展はある意味、国特有の個性的な美しさを失うものだから、この美しさは大切なものだった。
「大聖女様。お願いがあるのですが」
私の言葉に穏やかに笑ったチハラサは、少しだけ慎重な面持ちになる。
「なんですか? 大体は大丈夫ですよ」
「今日の式典は簡単ですが、戴冠式という形にしたいのです。私に王冠をのせていただけませんか?」
「私が? 違う国の王ですけど……」
「アカタイトを救って下さったのは大聖女様ですから。あなた以外にはいません」
いいのだろうか。でも、断ってもいけない気がしたし、王冠をのせるくらい私にもできる気がした。
「分かりました。ルール的なものを教えていただければ頑張ります」
「全員を会場にお呼びしますので、その際に私が膝をつきますので、ボニー嬢が持ってきた王冠をのせてもらうだけです」
そんな適当な。
まぁでも、予行練習とかしている暇はないから、落ちそうなら神聖力で落ちないようにすればいいよね。
「分かりました。頑張ります」
「ありがとうございます。それでは、皆さんが呼ばれるまでいる待機場所にご案内します。大聖女様は変身をしてください」
言われて大聖女姿になって、チハラサに待機場所に案内される。
案内された場所は、王宮の近くの大きな広場に近い建物の一室だった。
テーブルには沢山の軽食系の食事が用意されており、飲み物もたくさん用意されていた。
部屋からはバルコニーに出られるようになっていて、広場がよく見えるし、声がよく聞こえるくらい近かった。
広場には沢山の国民がひしめきあっていた。
少し奥にある高台は、周囲から1メートルほど高く、広さは10メートルほどの白い石造りで、花が飾られ、沢山の布で飾られており舞台のようにも見えた。
兵士が高台に近づかないように、周囲に何人も配置されている。きっとあそこで式典をするのだろう。
「あそこで式典をするんですか?」
「はい。戴冠式をするなら、もっと良い場所がいいと思いますが、そこを用意するには準備が必要なでしたので、ザザィが消えてすぐに用意できる場所がここしかありませんでした」
そうだよね。ザザィが倒せる見込みがあったとしても、王宮での準備はできないし、一般人が出入りできる場所しか用意できないだろう。その条件でここまで作り上げたのは本当に凄い。
「一晩でここまで出来上がるとは思えない仕上がりです。普通は無理ですよ」
「力尽きる前にザザィを処刑しなければいけませんし、大聖女様もお忙しいので、できることを最優先にしました」
チハラサはそういうと、軽く笑った。
「もう少しで私はパレードに行きますが、そこのドアの向こうに、皆さんが着てきた服を洗ったものが置いてあります。他にも衣装がかかっているので、ご自由にお使いください」
「この恰好で式は嫌だったから助かった」
リツキの言葉に、全員同じ気持ちだったので苦笑した。
「私達、式典が終わったら帰りますけど、親切にしていただいてありがとうございます」
「いえ。国を救っていただいたのなら当然のことです。船も用意しておきますのでご安心ください」
船、用意してくれるんだ!
「では、そろそろ時間です。皆さん。今日を迎えられたのは、本当に四人の力があってのことです。大聖女様がこの世界に来てくださったことに、感謝してもしきれません。本当にありがとうございました」
チハラサは深々と礼をすると部屋から出ていく。
私達はそれを見送ってから、隣の部屋に行った。
凄いのは三人なのに、私がずいぶん持ち上げられてるなと思いつつ、服を選ぶ。
アンリがいないので探すと、洋風の食事とサンドイッチがあったのが嬉しかったのか、一人でモグモグ食べていた。
ずっと食事が口に合わなくてお腹が減ってたんだろう。とてもかわいい。
隣の部屋は衣装がたくさんあった。
衣装をかけたラックが沢山ありすぎて、お互いの姿も衣装で隠れて見えないくらいだ。
「衣装がいろいろある。俺らが脱いだ服のサイズに合わせてるみたいだな」
「自分はウィリアムソンのサイズと似てるけど男女差があるから、合わなかったら一回戻るしかないな」
リツキはその場で着替えて、ゾーイは奥に衣装を持って、見えない場所で着替えている。
私は白いドレスを選んで、衣装の裏に隠れて着替えた。
みんなで着替え終わった。
全員白っぽい正装に似た服を着ていた。
ゾーイもアンリの為に用意された服を着ていたけど、問題ないようだった。
髪を全員で鏡を見ながら神聖力でセットしていると、パレードだと分かる音楽が流れてくる。
人がたくさんいすぎて、パレードの先頭と兵士が必死に人をかきわけているが、人が流れるスペースもない状態だった。
「こっちの建国の時は大変だったのに、チハラサさんは一晩で用意したんだな」
「ミユがザザィを倒すって信じて用意してたんじゃない? でも人が道塞いでるから大変そうだ」
バルコニーに出て、みんなで話す。
まだ馬車は豆粒みたいな大きさでよく分からなかった。
「道に人がいかないように、左右の方に神聖力で光の粒落としてあげよ。その下に行きたがるだろうから」
ドロテアと私の友情だけど、少しくらいはおすそ分けをしてもいいかなと神聖力で光の粒を出す。
みんなが、光の粒を拾おうと、道から少しだけ避けていった。
「じゃ、自分も花を散らしてやるかな。拾おうとする人がいるだろうから」
ゾーイも花を落とし、他の二人も光の粒を落とした。
馬車がどんどん近づいて、歓声と音楽がどんどん大きくなる。
馬車にチハラサとボニーが乗っているのが見えた。
「ボニーじゃん。あいつらやっぱ結婚してたのか」
「ほんとだ。髪の毛おろして可愛くしてるから、やっぱり奥さんだよねぇ」
ボニーは嘘をつくとドロテアが言っていた。
最初、紹介された時はチハラサが言っていたから、やっぱり本当のことだったのだろう。
ただ、結婚しているというと、色々ザザィ側にバレた時に面倒になるとかでごまかしたのかもしれない。
「なに言ってんだ? 結婚してるって元から言ってただろ」
リツキとアンリはよく分からないという顔をしていた。
ボニーとチハラサが、こちらに向けて手を振ったので、私達四人も手を振る。
式典が始まってからは、また飲み物をのんだり準備をしたりでわりと大変だった。
音声が大きくなるような仕組みがしてあるので、聞き取りやすくて助かる。
「ミユ、大聖女の話をしてる。もうすぐだ」
「よし、みんな準備はいいよね」
みんなを見ると、準備良さそうだった。全員でモジモジしながら並ぶ。
「それでは、大聖女様と、三人の賢者様! どうぞ!」
高台から声が聞こえる。
指示された場所に全員で瞬間移動をすると、割れんばかりの拍手で出迎えられた。
チハラサが手を差し出したので、手をのせる。
「今日、アカタイトが夜明けを迎えられたのは、ここにいる三人と、神聖国をも再生に導いた大聖女様のお力です。アカタイトは、神聖国と和を結び、両翼のように今後も長く信頼関係が続くよう尽力いたします」
そういうと、チハラサは私の前に膝をついた。
ボニーが王冠を持って現れる。
(王冠をのせればいいんだよね。ついでに良い感じのことも言った方がいいのかな)
緊張するけど、顔に出してもいけない気がするから、澄ました顔をしておく。
王冠を両手にとると、花と光の粒がパッと散った。
光の感じで三人がやってるんだろうなというのが分かる。
(あ、さっきの光の粒と花が、私達のしたことだとバレちゃうかも。でもいいか)
悪いことだとも思わないしと考えながら、王冠をのせると、チハラサの頭にぴったりとかぶさった。
風がそよぎ、舞い散る光の粒と花が、いつかのあの日を思い出す。
「共に発展し、奴隷などない、皆さんが幸せになれる素晴らしい国を作りましょう」
チハラサは奴隷という身分を無くすはずだよねと思いながら、言葉を紡いだ。
会場が、シン、とした。
滑った? でもちょっとは良いことが言えたかな、と思った途端、凄まじい歓声が起きる。
(やった! 新入社員みたいな時よりちょっとは威厳がありそうなことを言えたみたい)
手を差し出すと、チハラサは厳かにその手を持って立ち上がる。
ニコッと笑って手を離した。
ボニーがこちらに来て、今度はボニーが私の手をとって微笑む。
「アカタイトは、神聖国と強い絆で結ばれたこの日を忘れないでしょう。もう一度大きな拍手を!!」
チハラサの言葉に、大きく拍手が起きる。
王様が声を張り上げていいのかと思うが、昨日からチハラサの言葉は熱を帯びている。
圧倒的な中枢組織の人材不足を感じるほど、チハラサは一人でなんでもこなしていた。
(これから大変だろうけど、チハラサさんなら大丈夫だろう)
拍手と歓声に見送られながら、ボニーに連れられて、中央から端に連れていかれた。
「処刑なので、リツキさん以外、部屋に戻ってください」
リツキが頷き、私達は瞬間移動で元の部屋に戻る。
パッと移動して、みんなで緊張から解放されて、力が抜ける。
窓の外から、歓声が上がった。
全員でいそいそとバルコニーに向かう。
さっき私達がいた所に、ザザィがいた。
口だけ猿轡のようになっているが、頭が見えているのでザザィだと分かる。
膜を移動させた個所から、膜の中に溜まった血が漏れて落ちるが生きていた。
「フォーウッドもあんな感じで死んだなんて面白いよな」
ゾーイは楽し気だった。
チハラサは、ザザィの処分を国民に聞く。
殺せというコールしかなかった。私もアンリを薬漬けにしようとした性犯罪者は死んで良いと思う。
「それでは、粛清を」
アンリが私の手をひいて、室内に入る。
「私は大丈夫だよ」
「僕が怖いから」
あ、そういうこともあるのか。
アンリは人を殺すけど、処刑は苦手派なのかもしれない。
大丈夫だよと言いながら私も室内に入ると、アンリは窓を閉めた。
「ミユ。このジュース美味しいよ。軽いお酒で」
アンリに飲み物を渡された瞬間、後ろから、凄まじい拍手と歓声が聞こえた。
ああ、殺されたんだなと思いながら、飲み物を飲む。
ちょっと見たいけど、アンリが怖がっているのなら傍にいてあげよう。
「いやー、面白かった。最後逃げようとしてたところが最高だった」
窓を開けて帰ってきたゾーイは、私達と同じ飲み物を飲んだ。
「結局、処刑って娯楽なんだね」
「そりゃそうだよ。自分や大切な人を虐めた奴には惨めな死に方をしてほしいじゃん。でも火あぶりとかがなくて残念」
「ミユに残酷なことを教えるな。さて、もう帰ろう。ポータルができるなら、いつでも来れるし話し合いもできる」
「そうだね。チハラサさんも今日は忙しいだろうし。その前に、ちょっとリツキを連れてくるね」
下はすごい人ごみだし、あんなところから帰ってくるのは大変だ。
瞬間移動でリツキの近くに行き、熱狂的に騒いでいる人たちの中からリツキを探し出す。
騒ぐ人たちの中には、泣いて喜んでいる人もいれば、ザザィの悪行を並べてザマァ見ろと怒り笑っている人もいた。
アカタイトの夜明けは今なのだと、目が覚める思いだった。
「ミュー! なんでここに?」
リツキに手を掴まれて、どこでも見つけてくれるんだなと思う。
慌てて他の人に触らないようにしてから瞬間移動をした。
この国に来た時に着ていた服に着替えながら、思いを馳せる。
やっと、すべてが終わった気がした。
命乞いのターンを入れた方がいいかなと毎回思いながら、毎回そんな娯楽に読者をはまらせたらよくないかも……と緩やかにしています。ブクマ、星など、いただけますと幸いです。どうぞよろしくお願いします。