両親に紹介したら、卑猥な想像をされていた件
朝から、大きなラッパを吹く音が聞こえる。
それから誰かの叫び声で目覚めた。
「ミユ、バカ! なんで! ゾーイも離れろバカ!」
ベシベシと誰かが布団を叩いている。
目を開けるとゾーイがこちらを見ていた。
「……おはよ?」
「おはよう~」
ぼーっとしながらゾーイが微笑むのを見ていると、身体が後ろに引かれて抱き起こされる。
アンリだった。朝から怒っている。
隣には、ボーっとして機嫌が悪そうなリツキがいた。
「定位置が変わってるせいで、朝からコイツに抱きつかれたんだけど!」
「えぇ……でもハグはいいことだよ。別に男同士でもしていいんだよ。二人は仲良しだし」
「俺ら仲良しじゃないし」
「仲良しだよ。困ってる時は助け合ってるもん」
二人とも微妙な顔をした。
「ユキ、もうちょっと寝よ。早すぎるよ」
ゾーイに手をひかれる。
「いや、なんでゾーイまで寝てるんだよ。狭すぎてミューがくっついてきてるんだと勘違いしたわ」
「一気に寝かせたら、ゾーイの部屋が分からなくなったから、まぁいいかなって」
「雑……ミユはいつも雑! 僕らだからいいけど異性と一緒に寝かせるのは、いくらゾーイでも危ないからだめだよ」
「それはそうだよ。二人のこと信用してるからだし」
「自分は幸せだと思ってユキに抱きついたら、鬼みたいな顔でウィリアムソンが見てたから驚いたし、そのあと叫んで面白かった」
「俺はミューだと思ったら堅かったし揉めるものがなかったから、朝から機嫌が悪い」
「こんな変態、ミユが可哀想だから、隣が僕で良かった」
ぼんやりしながら、でも目が覚めてしまったので全員で起きる。
あまり実感がないけど、今日がアカタイトの夜明けだ。
「三人とも。一緒に助けてくれて本当にありがとう。両親も助かったしアカタイトの国民にとっても、きっと今日は記念すべき日だと思う」
私の言葉に、三人とも微笑む。
ひとりずつ、ぎゅっとハグをしながら替えの服に着替えた。
想定外のことはあったけど誰が欠けてもこの結果にはならなかったし、誰も失わずにすんでよかった。
「ミユキちゃん、ちょっと」
扉を開けて、お母さんに呼ばれた。なぜか手に枕を持っている。
「なに~?」
「あの子がリツキって本当? しかも結婚してるらしいじゃない……しかも二人も。え、でもどっち?」
「リツキ~。お母さんがリツキか分かんないって」
リツキを手招きすると、リツキはえぇ~と言いながら歩いて来た。
「魂で気付いてくれよ。自分が産んだ息子だろ」
「でっか。でもリツキと言ってることは同じだわ。じゃあアンタ、ミユキちゃんがこの世界に来て右も左も分からないうちに襲ったんでしょ!」
「もっと自分の息子を信じてくれよ。まぁでも、ぜんぜん違うとは否定しきれない……」
「でしょうよ! ミユキちゃんなんて真面目なんだから! あとほかの二人もそんなことしなさそうじゃない! アンタが一番信用ない! 馬鹿!」
お母さんはバシバシとリツキを枕で叩いた。
そのための枕か。この光景、懐かしいなぁと思う。
お母さんは素手で叩くのは流石に良くないと、リツキが本当に悪いことをすると枕で叩くクセがある。
「どうせ、どっちかと付き合ってて、アンタが諦めなすぎて困ったミユキちゃんがどっちも受け入れたんでしょ。料理だってミユキちゃんに作って作って言って褒めるから、ミユキちゃんが根負けして夜ご飯とか作るようになっちゃったじゃない」
「ひ、否定できない……」
「ミユキちゃんはリツキに甘すぎる。もう何度も言ったけど甘すぎる!!!ブラコンだと思ってたら結婚しちゃって! で、もう一人はどっち!!」
朝から沢山言われて頭がグラグラしたけど、とりあえずアンリを指さした。
「アンリだよ。金髪の子」
「おはようございます」
アンリが営業スマイルで笑う。
「あら美しいのに男性なのね。リツキもかっこよくなったけど、あの子じゃ負けるわ」
「俺は男らしさで売ってるからいいんだよ」
「それで、もう一人がゾーイ。女の子でお友達だよ」
「おはようございま~す。ユキとはキスした仲です」
手をひらひらとしてゾーイが挨拶しながら爆弾発言をしたので、ギョッとした顔をしながらお母さんが私の肩を掴んだ。
リツキとアンリが、少し焦った顔をする。
「ミユキちゃん。この世界の常識でもね。友達はキスしないと思う。押しに負けるとか、騙されるとか、壺を買わされちゃダメよ」
「私もそう思ってるんだけど……なんか、そうなった……でも別にみんなそういう関係になりたいわけじゃなかったけど……」
「本当に大丈夫なの? 断るのも優しさなのよ! 相手の人生だって有限なんだから」
「私もわかってるし、断る時は断ってるけど……」
うぅ……もう殺すなら、いっそ殺してほしい。恥ずかしすぎるよ。なんなのこの状況は。
見かねてリツキがお母さんを私から引き離した。
「母さん。ミューってめちゃくちゃ優しいじゃん? こいつら全員諦めないの。俺も諦めないけど。だからミューのせいじゃないわけ」
「リツキみたいなのが三人いるってこと? 病人が三人に増えたってことじゃない。はぁ、もう、大変だわ」
お母さんはフラフラと引き返して、部屋に戻っていった。
全員の頭の上に病人……? という文字が浮かぶ。
朝から不名誉なことになったとしょんぼりしていると、ボニーが部屋に入ってきた。
「おはようございま~っす。朝食の時間っすよ」
そんなわけで、朝食を食べることになった。
洞窟の中の一室が食堂になっていて、私達の階は貸し切りなので人がいない。
食事がもう用意されていて、呼ばれたらそこにいって食べるという感じだった。
席に着くと、なぜだか父と母の間に座らされたので、雲行きが怪しいと思いながら食事を食べる。
食べながら、今は国王になったとか、三人が何をしているとかを説明すると、やっと両親の態度が軟化してきた。
「父さんな。お母さんと話して心配だったんだ。だから、三人がちゃんとミユキをサポートしてくれていると聞いて、安心した」
「心配? どうして」
「ミユキが結婚してるとか言ってたけど、よく分からないうちに、その。便利に、夜の相手をさせられてるんじゃないかって」
お父さんが離した内容に、ビックリしてスプーンを落としそうになる。
言われた三人も固まってしまった。
両親にあやしい奴隷みたいな扱いをされてると思われているのは流石に恥ずかしすぎるし、全員そういう人じゃないよ!
「そ、そんな……大聖女なのに? 国王でもあるよ?」
「ミユキの性格だと、大聖女でもなりかねない! 怒っても怖くないから」
「本当に、ミユキちゃんは幸せなのよね? こう、嫌なことされてないわよね? リツキが前はつきまとってたから心配で」
「されてないし、幸せだよ。神聖国に行ったら、リツキが最初に借りてたお家に二人で住んでね。すごく可愛い家だから」
「俺が借りてた家は買ったけど、そんな酷いことばっかいうなら、ミューがなんて言っても住まわせないからな。ホント助けたかいがないな」
リツキが少し怒りながら食事を食べる。
ゾーイも不満げだった。
「一緒にされて不名誉だよ。自分、めちゃくちゃモテるけど一途なんで一緒にしないでください」
「お父さん。お母さん。僕はミユキさんが嫌な顔をすることはしません。泣かせるのが嫌なので。ミユキさん名義の財産もあります」
アンリは酷く真面目な顔で言っていた。
なんか、三人にものすごく申し訳ない気持ちになってしまう。
「二人とも。三人に失礼だよ。真面目だった私がこんなことになってたら心配なのはわかるし、ありがたいけど、三人とも私にはもったいない相手だし人格も頭も優秀だから、朝から酷いことを言わないで。今回だって二人を助けるために頑張ってくれたし、命を懸けてくれたんだよ」
真面目な顔で両親に怒る。
リツキに酷いことを言ってもあまり怒らないからって、二人は少しリツキに厳しいところがあった。
その範囲がアンリとゾーイの伸びても嫌だし、私を大切にしてくれる好きな人は、私も大切にしたい。
「その。そうだよな……。助けてくれたのに、申し訳ない」
「言い方ってものがあるわよね。冷静になれなくて、酷いことを言ってごめんなさい」
二人が謝ってくれたのでニコっと笑う。
「大丈夫だよ。三人とも優しいから。今日か明日帰るから、一緒に帰ろうね」
みんなで穏やかに笑って食事を終える。
三人も、私が怒ったからか穏やかな表情になっていたのでホッとした。
「お食事が終わったならチハラサさんのところにいくっすよ。昼にザザィを処刑するんでね」
食事を終えた後、ぴょんとボニーが扉から出てきた。
あんまり実感がないけど、やっぱり昨日国を助けられたんだなと実感してきた。
「ご両親は一階に市場が開かれているんで見てきてください。お金はテーブルのところに支給されてます」
「お金、ですか?」
「ここにいる四人が国を救ったんで、少額ではありますがご両親にもと、チハラサさんが」
ボニーはそういうと、私の背を押して、部屋から出した。
両親は信じられないといった様子で自分たちの部屋に戻っていく。
「チハラサさんのとこに飛べばいいの?」
「はい。全員で飛べるのは便利っすね」
振り向いて、三人がいることを確認した後、全員でチハラサの元に瞬間移動した。
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