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大切なのは母の尊厳か最善か。

拍手が鳴りやまない隠れ家のような洞窟内。

チハラサは手を上げると、拍手の音が止んだ。


「では、大聖女様、こちらへ。技術者以外の人も一緒にいらして下さい」


チハラサに案内されて、洞窟の奥に入り階段を登る。

二階は居住スペースとなっていて、リビングのような大きな部屋を囲むように、七つの部屋があった。

チハラサはそのうちのひとつの扉を開けて、中にみんなを誘導する。

中は、六畳ほどの部屋だった。

換気のためのパイプが壁についていて、ベッドと小さな棚が置いてある。


「大聖女。ガードを張ってください。私達だけ入れればそれでいいので。それが終われば元の姿に戻ってもいいですよ」


言われてガードをかけてから、元の姿に戻る。

父がギョッとした顔でこちらを見ていた。


「やっぱりミユキだった!」

「大聖女だとこんなこともできるんだよ~」

「すごい! こっちは食い物しか探せないのに」

「それはそれで大事な能力だよ」

「食いしん坊みたいでお父さん嫌だ!!」


げっそりと痩せているのに、父は父だと思ってしまった。


「私達、お母さんを助けに行ってから、そのあとにこの国の第一王子を殺してくるから、回復しながら待ってて」

「でも、治療院は本当に危ない。お父さんだって馬鹿じゃないんだ。捕まらないように行ったのに、どうやっても先回りされて見つかった」

「治療院は難しいっすね。王宮でも管理が堅めの場所なんで、普通の人間じゃ捕まるっすよ」

「それに、必ず妻を探しに来ると思っているので、敵の巣に入っていくみたいな形になりますね」


ボニーが難しい顔をして言ったあと、チハラサも力なく言う。

昨日の段階で死にかけで虫だらけの父を叩き起こして聞けば楽だったのだろうとは思うが、思い返しても、そんな酷いことはできない。


「頑張るしかないよね。ただ、私はボニーの神力も外せないからな……」


考えながら、アンリに近づいてギュッとハグする。

アンリはへらっと笑って、リツキはムッとした顔をした。


「えっ、なに。こんなところで恥ずかしいな」

「ボニーさん。この前みたいにやってみて」

「ああ。ゾーイさんにやった奴っすね。ほいほい」


ボニーが手を叩くと、アンリと私の身体がギュッとくっついた。

アンリがムッとした顔をする。リツキはもっとムッとした顔に変わった。


「これ、ゾーイとやったわけ」

「ボニーさんの要望でね。アンリはこれ外せる? ゾーイは無理だったし、私も無理だった」


言われてアンリは神聖力を使ってググっと外そうとする。


「無理っぽいな」

「チハラサさんが、私の力を細かくコントロールできれば神力に勝てるって。今から神聖力あげるから、そのまま使ってみて」

「うん。やってみる」


アンリに神聖力を渡す。アンリがグッと力を入れると、身体が簡単に外れた。


「本当にミユの力だと外れるんだ。じゃあ二人でいけばなんとかなる」

「俺もやる! 勇者の力なら、基本なんとかなるだろ。ほら、ミュー来て!」


言われて歩いて行って、リツキに抱きつく。

ボニーが手を叩いて、身体が貼りついた。


「別にこのままでもいいな! まぁでも、やらないと」


言いながら、べりっと身体を外す。

あまりに簡単に外れたので、みんな拍子抜けしてしまった。


「僕とミユは二人で動かないとマズいけど、こいつは一人でいいな」

「嫌だ! ミューといられないとやる気が起きない!」


二人がギャーギャーと騒ぐ中、チハラサは一人ホッとしていた。


「ザザィの力に勝てる力が二人もいるなんて、力強いですね」

「そんなに不安ですか? ガラレオの時は圧倒的な力差で五人もいたから、それに比べたら危ないかもしれませんが」

「大丈夫だとは思いますが、ザザィは神力も高く、運動面も良いので……刺客も数秒で全滅しています」

「そんなに」


楽には倒せないけど、これだけ簡単に外れるなら勝てると思っていた。

というか、勝算しかないと思ったから引き受けたんだけど、甘く考えすぎていたのかもしれない。


「まぁ俺、やろうと思えば世界壊せるっぽいし大丈夫だと思うよ。勇者だもん」

「ミユのご両親を助けないといけないなら、結局同じことになってたし、仕方ないよ」


反省している私を安心させるためか、二人は気楽そうな声で言った。


「治療院に助けに入るのは、夕食後っすかね。それまでは捜索の目をかいくぐるのが難しいし、夜すぎると、罠が敷かれた部屋に行くんで」

「罠が敷かれた部屋?」

「夫婦の片方を捕まえたら、片方は助けにくるんで、罠をかけて捕まえるんす。ザザィは性格が悪いんでね」

「父の時代の奴隷はまともだったのに、六年前に倒れてザザィが実権を握ってからはおかしくなってしまった」

「奴隷は奴隷っすけどね~。あたしは神聖国のほうがいいっす。ただ、この国はゴムが作れるんすよ」

「えっ、ゴムが作れるの?! 欲しい!!」

「技術者の一人が作ったっす。色々あって凄いっすよ。あとで見に行きましょう」

「見に行こう! あと、トランプ作ったから持ってきたんだ。あとでやろう」

「トランプ作ったんすか! やりたいっすね。あたしポーカーとか得意っすよ」

「ポーカーなんてやったことない」

「俺はできるから、ここにいるみんなで今度やろう」


生きていればと誰も言わなかった。

そんなことはみんな理解しているから。


それから洞窟の中で色々な発明品を見せてもらった。消しゴムとか、鉛筆とか作っていた。

黒鉛という資源がこの国には出ているらしく、いかに様々なことに利用できるかを説明されたけど、凄いな! と思うだけだった。

あと原油もあるらしい。ただ使い方がこの国の人は分からないから、資源がないと思っているらしい。

奴隷として酷い目にあわせていなければ、この国は発展できたのに、人をないがしろにしたから終わりそうになっている。

馬鹿な人間はチャンスに気付かず、国を滅ぼしてしまうのだろう。

夕食を食べながらそんなことを話した後、ボニーと一緒に母を助けることになった。





「瞬間移動は、相手の顔が分かればいけるんすね。じゃあお母さんのところまでは一気に行けると」

「うん。入ってガードをかけて誰も入れないようにしちゃおうと思ってる。そうすれば中にいる人を退治するだけでしょ?」

「うーん……扉の外にミユキさんはいるっていう風じゃダメっすかね。全員同じ場所にいると罠があった時に危ないのと、お母さんが見られたくない場合があるので」

「見られたくない」

「仕事する時間っすからね。見られたら嫌なことがある場合もあるかもしれません。あたしは詳しいことは知らないんですけど」


言葉を選びながら話すボニーに、やっぱりそういうことなのかなと思う。

聖女も水商売みたいな仕事してたし、風俗みたいなこともあったみたいだし、それなら見られたくないよね。特に娘には。


「俺が入るからミューは外側にいてよ。俺達はミューに記憶消してもらえるけど、ミュー自身は消せないし」

「わかった。私は扉の外から神聖力を送ってるから、お母さんを見ても大丈夫そうなら、こっちに脳内で声かけて」

「オッケ。じゃあ、声かけたら中に移動して」

「ミユとボニーは姿を消しておく。男が見られても危なくないけど、女の子は危なそうだし」


そう言いながら、アンリは私達に透明化をかけた。


「なんで?! 二人だって捕まったら、酷い目に遭う可能性があるよ! 姿消そうよ!」

「ミユの力の出力が僕だから、中にいる人間に逃げられた時はたぶん僕らを標的にするだろ。そしたら昼は別行動すればミユは安心だから。そのため」

「そうだな。まぁ今回は母さんを助けるだけだからザザィと戦うことはないだろうし、俺ら二人いるから、どっちかが捕まっても、ミューが無事ならザザィと戦えるだろ。明日にはゾーイが来るんだし」

「嫌。捕まったらすぐ助けるから、捕まらないようにしよう」


どの可能性も考えたくないけど、前回は圧倒的な力の差があったから一晩でどうにかなっただけだ。

確かに、今回は奴隷を助けるだけだから、ザザィとは会わない可能性が高い。

だけど敵陣に乗りこむことには変わりないし、私達の力がチハラサの神力より上だったとしても、ザザィの能力だってチハラサより上なのだ。色々な仮定を考えなければならない。


(アンリは私とは離れない方がいい。お母さんがどうでも、あとで記憶を消せば、本人にはわからない。見たことは私が気にしなければいい)


アンリに近づいて、自分の神聖力を渡しながら考える。

本人だけ覚えていないなんて、シャーリーでもやってることだ。

間違いじゃない。正しくもある。

人の気持ちより、成功を大事にするべきだ。そんなことは分かってる。


(でも、それは短期間の上にシャーリーがあまり考えていないから気にしないことで。お母さんが私の瞳の奥に、何かを勘づいてしまったら)


未来は、誰もわからない。

私は、なにも見ない方がいいのかもしれない。


「ミユ。もう神聖力は大丈夫。行こう」


言われて、ハッと顔を上げる。

三人が私の顔を見ていた。


(分からない。怖い。でも求められていることは、ドアの外にいることだから、今はそれに従おう)


母親の顔を思い出して、扉を一つ隔てるイメージで、瞬間移動をする。

目の前に、5mほどの、大きな扉が現れた。


「これは」


ボニーが呟いた瞬間、二人の姿が消える。


「まずい。嵌められた」


慌ててこちらを見るボニーの目が、見たこともないくらい不安に揺れていた。


「この装飾扉は、ザザィの宮にしかない」


呟いた言葉が、最悪という意味に聞こえた。




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