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魔王との取引で崩れる未来予想図。

次の日。午前中の自宅。


アンリが家に来てくれた。

今日からどのくらい神聖力をいれたら治癒完了できるかなどの訓練をする。

ただ、わざと傷をつけるのは良くないので、最初は神聖力を渡す練習をしながらコツを掴んでいくことになった。



「やっぱり、神聖力渡してもぜんぜんわかんない」

「治癒も相手の様子とか傷見た方が分かりやすいかもしれない。内部損傷を先に治す感じで」

「そうだね……ぜんぜんわからないから、コツとか練習とかでどうにかなるものじゃないかも」

「神聖力が多いとそこらへん分かりにくいらしいからね」


早々にお手上げだった。

仕方なく、二人でお昼を食べる。

お昼はアンリがサンドイッチを家から持ってきてくれていた。


「今日は、神聖力少なめだね」

「ありがと。なんか禁止とか言わなくても反省してくれて、今日は手を繋いだくらいだから」

「そうなんだ。よかったね」

「うん」


サンドイッチをもう一つとろうとしたアンリの手が突然止まる。

そして、目を玄関に向けると、私の手をとった。


「えっと?」


意味がわからなくてアンリの顔を見ると、緊張した表情をしていた。


突然、景色がぐるりと回る。

瞬きをしている間に、足元が斜めになった。


「わぁっ!」

「危ない」


アンリがバランスを崩した私を抱きかかえる。

まわりを見ると何もなく、足元を見ると、どこかの屋根の上に思えた。


「ご、ごめん。えっと、どういう……」

「チッ、移動制限か」


アンリは私の言葉を無視して、まわりを見回した。


(なんか……とんでもないことが起きているような)


とりあえず、手に持っているサンドイッチが邪魔なので、食べてお腹の中に入れる。


「ミユは緊張感がない」

「だって、邪魔だったから」


私の言葉に、アンリはちょっとだけ笑う。



「ごめん。神聖力こっちにあるだけ渡して。大丈夫だから」

「うん。わかった」


言われるままに、アンリの背中に手を置いて神聖力を渡した。

周りに、なにか膜のようなものが張られる気配がした。


と、同時に目の前に黒い長髪の男性が現れた。

緩くウエーブした髪は、毛先に行くほど銀色になっている。


「なんで、会いに来ただけで逃げるのかなぁ」


にこやかに笑う男性は、顔はいいけど怪しい雰囲気だった。


「この前は助けてくれてありがとね。聖女ちゃん。あ、大聖女か」


もう大聖女だってばれてる。どういうことだろう。


「えっと、誰ですか?」


アンリが前に出てこないように立っていたので、後ろから話す。


「魔王~って呼ばれてるから魔王なんじゃない?」


ええ、この人が魔王なんだ。

衝撃の事実に、アンリの服をギュッと掴む。


「この前さぁ、神聖力がなくなって頭がおかしくなってヘロヘロで倒れたところを、聖女ちゃんに助けてもらったんだよね」


ええ? そんなことした覚えがない。


「記憶にございません~!」


アンリの背中に抱きついて、後ろから叫んだ。


「たぶん、この前の屋根から落ちた奴」

「ああ、あの人! でもあんなに髪の毛長かったっけ」


アンリに説明されて、ひそひそと話す。

会いたくない魔王を知らない間に助けてるなんて、運が悪すぎる。


「神聖力のおかげで髪が伸びたんだよね」


ひそひそ声で話してたはずなのに、しっかり聞こえていた。

神聖力がなくなるとハゲちゃうのか。それは大変だ。


「この子はそちらに行きたくないみたいなんで、諦めてくれませんか?」


アンリが私を後ろに隠しながら言う。

魔王は、顎に手をあてると、私達をジロジロ見た。


「うーん……でも、神聖力が欲しいからねぇ」


そういうと、魔王は手を前に出す。

バチンと何かが壊れた。


「お~。凄い。アンリも成長したね。さすが最年少の天才。でも攻撃はしないでね。やり返すと聖女ちゃんまで傷つけちゃうから」


魔王は、少し笑って、バチンバチンと何かを壊していく。

だけど空中に何があるわけでもなく、何も分からない。アンリが脂汗をかいていたので、なにか神聖力を使っているのだとは思った。

どうしよう。ポーションでよければいくらでも作ってあげるんだけど。


「神聖力はあげますから、私のことは諦めてくれませんか?!」


魔王に向かって叫ぶ。


「結婚せずに、杯を満たせるつもり? 無理だと思うけど」


ハイってなに? わかんないな。

私がよく分からないという顔をしていたせいか、魔王がため息をついた。


「二人は付き合ってんの? それならしょうがないかもしれないけど」

「付き合ってます。だからダメです」



とんでもない質問に、アンリが間髪入れずに返す。

ビックリしながらアンリを見ると、私を見て話を合わせろという顔をした。

嘘は置いておいて、この世界は同性同士の恋愛でも、国で取引をしているようなものを止められるの?


「う~ん。ウイリアムソン家と揉めたくはないなぁ」


魔王は顔をしかめて考える。

そして、なにか思いついたのか、にっこり笑ってこちらを見た。


「じゃあ一週間後、お昼にユウナギ邸まで来てよ。ここじゃできない話をしよう」

「わかりました。大聖女の弟を連れて行ってもいいですか? 姉が大好きすぎて連れていかないとたぶん大騒ぎするので」

「嫌だけど。うるさそうだし」

「連れていくと、大聖女の神聖力を今以上に出すことができるんです」

「ええ、どういうこと? でも、今以上なら、多少杯は満たせそうだな……じゃあ連れてきていいよ」


なぜかリツキまで連れていくことになってしまった。

でも、今以上ってなんかしてたっけ。



「今以上?」

「ミユはなにも気にしなくていい」


少し照れた様子で、アンリは私から目をそらした。


「じゃあまた。アンリはそのふざけた格好でくるなよ。虫唾がはしる」

「わかりました」


アンリの返事を聞くと、魔王はフッと姿を消した。


「良かった」


アンリが膝から崩れ落ちる。

だらだらと汗が垂れて、流れ落ちていた。


(すごい汗)


ハンカチは持っていなかったので、服の袖で汗を拭く。


「うわ。汚いからやめとけ」

「汚くないよ」


だって、アンリの服は汗を拭けるような素材じゃないけど、こっちは普通の汗をよく吸う布だ。


「ミユのそういう態度が弟を狂わせたんだな」

「えぇ?」


人聞きが悪い。汗くらい誰でも拭くだろう。


「魔王って怖い人なの?」

「この街一個ふっとばしてミユを攫うくらいは躊躇いなくやれる人だよ」


目を閉じるアンリの言葉を聞いて、汗をふく手を止めてしまった。


「じゃあ、交渉ができただけでも凄いことだったんだ」

「うん。まぁ今の魔族領はウィリアム家の神聖力でもってるようなものだから、交渉材料にはなったね」

「同性と付き合ってても交渉できるの驚いたけど、良かったよね」

「……それは」


アンリは目線を下に落として、目をそらす。

そして、もう一度こちらを見た。


「ごめん。いつ言おうか迷ってたんだけど」


瞳が不安げに揺れていた。


「男なんだ」

「え?」

「僕の性別は、男」



……。


えええええ~~~~~~~~~~~~~!!!!



「ミユに出会った日は、神聖力のブレがある怪しい聖女がいるっていうから潜入してただけ」

「私じゃん」

「うん。でも悪気があるわけじゃないみたいだから、様子見してた」


なるほど……と思って記憶をたどる。

あることを思い出して、顔が赤くなった。


「待って! ブラ見せちゃったじゃん!」

「そこ?! あれはミユに見せられただけで!! だからプレゼントしたわけで!!」

「詫びブラだったんだ!!!!」

「知らない言葉……」


アンリはため息をつきながら、頭をかいた。

確かに改めて見てみると、男の子と言われたらそう見える気も……。


「どうするの?魔王の前で付き合ってるって言っちゃったよ!」

「魔王と結婚するより僕とした方がマシだろ」

「それはそ……え?」


アンリは立ち上がって私の手をとる。


「家まで送るから、一週間後ちゃんと来るように弟に言っておいて。明日も話すけど、準備がいる」


景色がひっくり返って、自宅に戻った。




結局、魔王からばれないようにというアンリの苦労は、私の安易な人助けですべて無駄になってしまった。

国とかにはバレてなさそうだから、まだお膳立てされて突き出されたりはしないだけマシかもしれないけど、未来が怖い。


「私の神聖力の味がばれてたから家もばれたのかな」

「そうだろうね。ミユの味は独特だし美味しいから。薄くてもわかる」


魔王が大聖女の存在を言わなくったって、神殿と通じていれば名前だけで個人情報が引き出されてしまう。

完全に私のミスだ。


「なんか、気を遣ってもらってたのに。本当にごめん」

「人を助けようとした気持ちは悪くない」


アンリは私の頭を軽く撫でた。


「じゃあ、今日は帰るけど、二人ともちゃんとした服を用意しといて」

「え、持ってないかも」

「じゃあ明日買いに行こう。ミユのブラの売り上げも入ってるし」


お金あるんだ!よかった!


「魔王の人、神聖力がほしいなら、ポーションとか作っといたほうがいい? 大きい瓶とかに」


アンリの家に行った時にはしなかったけど、他人の家に行くなら手土産を持って行った方がいい気がする。

この前、なんか漬けとこうと思って瓶を買っといたんだと台所からガラス製の保存容器を持ってきた。


見た目は良くないけど一リットルもはいるのだ。


「そうだなミユがよければ。でも神聖力は大丈夫か? 抱きついとく? すごくあがるってほどじゃないけど」

「アンリでも上がるの? なんで?」

「さぁ……人類愛じゃないかな」


床を見たままアンリが言った。


人類愛かぁ。


「アンリはさぁ、私とその……抱きついても大丈夫なの?」

「……別に。さっきもくっついてたし」


確かに~。


さっきまで女の子だと思ってたからそんなに深く考えてなかったけど、確かに抱きついてた。


「じゃあちょっとだけ」


なんか、リツキに我慢してもらって、また抱きついていいかなんて手のひら返し言えないし。

意を決して、正面から抱きつく。


「なんか照れる~」

「あ、正面からのほうが神聖力が上がりやすい」


動じない声でアンリは私の頭上を見ながら言った。


「密着度も関係あるかも」

「ふぅん。ミユは弟ともっと密着してるんだ」

「したくてしたわけじゃなくて、だって、いつもどっちかの体重がかかってる状態だから!」

「する?」


少しだけ照れた無表情でアンリが言う。

リツキみたいに興奮してると危機感が出てくるけど、ここまで冷静だとそのくらい良いかってなりそうだ。

でも、良い歳の男女は、そんなに簡単にくっついたらいけないと思う! くっついてるけど!


「しないよ! なんか……ダメな気がする!」

「でも、魔王と結婚しないとしても、それ以上のことを誰かとしないといけないんだよ?」

「えっ、そうなの?!」

「杯に神聖力を貯めるってことは、ミユの神聖力を極限まで出さなきゃいけないんだから、そういうことだろ」


そうか。ああ、ラブパワー……。


運命からは逃れられない……。


神様~くっそ~……なんて運命にしてるんだ~……!!!!


「抱き合ってるのに、そんな渋い顔することある?」

「心の準備ができなさすぎて」

「ミユもちゃんと考えて、気持ちの整理をつけな」


そういうと、アンリは身体を離した。


「これ以上くっついてると、この前みたいに具合悪くなりそうだから」


「そんなに回復してるんだ!」


すごい! 汗もかいてないのにストレスフリーだ!


「じゃあ、僕はもう帰るから、ちゃんと加減してポーション作りなよ」


「うん! ありがとう」


パッと消えたアンリが少しだけ汗をかいているように見えて、人によって熱さは違うのかもと思う。

そういえばいつの間にか僕って言ってたし、話し方も前より話しやすそうだった。


(女って嘘をつき続けるのも大変だったんだろうな)


魔王とか未来とかいろいろ衝撃なことばっかりだったけど、ちゃんと真面目に考えないとなと思いながら、ポーションを作ることにした。

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