トランプ事業とゾーイの決意
翌朝、私の世話をしてくれるジュディに昨日の話をしてみる。
「アタシがトランプを売る、ですか?」
「お金は私が出すから、売り上げがあがったら返してくれたらいい。人を雇ってもいいよ」
「うぅん……アタシは、もう年齢も30すぎて嫁に行きそびれましたから、ずっと続く収入があればいいと思ってましたけど…でも」
「30過ぎても綺麗なのに、この国だとだめなの?」
「そうですね。それにアタシは美人の部類じゃないですよ。せいぜい普通レベルです。だから難しい……アタシは家族を育てるために身体を売ってましたし、シャーリーの足が悪くてそんな余裕がなかったんで、まぁ運命です」
身体を? そんなこと知らなかった。
だから色々なアドバイスが上手いのかもしれない。
「聖女様。そんな顔をしないでください。別に男と結婚するだけが幸せの在り方ではないですよ」
「それは分かってるけど……」
「あと作るのは問題ありませんが、販売や販路を開くのは嫌なので、貴族の方と組みたいです」
「貴族?」
「はい。女が商売しても、裏に男がいない限り舐められます。せっかく作ってもすぐに類似品が出るのは癪ですし、聖女様のお世話もしたいです」
「今の働き方ができるくらいの軽さがいいってこと?」
「はい。責任を持たなければ大きな利益は得られないのは知っています。ですが、アタシは聖女様の側にいたいんです」
(私の側にいたいなんて……嬉しい。でも上手く気持ちを言葉にできない)
「嬉しい……私も一緒だよ」
でも私に貴族の知り合いなんてアーロンさんくらいしかいないし。
アーロンさん引き受けてくれるかな。あれからあんまり太ってないから健康上は問題ないと思うけど。
立ち上がって、手紙をサラサラと書く。
トランプを売りたいけど、現状暇がないから組んでほしいこと。この計画には紙を強化させる私の神聖力が必要なこと。
こちらから出せる金額。今は私に時間がないので一番信頼をおける者に仕事を頼んだので、今すぐ話を聞きたいなら出向いた者に聞いてほしい、などだ。
本来なら、仕事を組むなら私が出向いた方がスマートだ。ジュディはゲームで遊んだこともないし、不安だろう。
けれど、本当に今の私には時間がない。今日時間をとるのは無理だし、できることなら私抜きで進めてほしい。
「これ、アーロンさんのお屋敷に届けて返事をもらってきて。話を聞きたいと言われたら、守秘義務の紙にサインしてもらって話して」
守秘義務の紙を取り出して、それはそれで別の封筒に入れる。
私は国王で、アーロンさんの取引先としては上等だと思うから、女性一人で行かせても危ないことはないと思う。
アーロンさんがトランプを作りたくとも、何度も紙を擦って遊ぶ紙の強化には、私の神聖力がいる。話しても問題ないだろう。
「トランプはこれ。見せてもいいよ。ただ、絵は下書きで、これからプロの絵を書く人に頼むと言っておいて。下手だから」
「聖女様の絵は可愛らしいですけど、これではダメなんですか?」
「子供っぽいから、ちゃんとした画家の人に書いてもらいたい。お金も、ここの棚、私とジュディしか開けられないけど、ここに入ってるから」
棚の引き出しを開ける。
中には馬車ひとつ買える程度の金額が入っている。
「ジュディには手付金として、月給分渡しておく。交通費も含めてかかるお金はここから出して。用途もメモしてね。作る数は組む貴族と考えよう」
「聖女様。信用してくれるのは嬉しいですが、あまりに無防備すぎます。屋敷を堅牢にしても、アタシが悪者だったらどうするんですか?」
「お金で動く人間だったら、もういくつも私から抜き取る手段なんてあったでしょ。ジュディは信頼関係を壊すことをしないよ」
ジュディの手付金をパッパと分けて、本人に渡す。
お金を受け取ったジュディは、少し困った顔をした後に、決意をするように顔を上げた。
「分かりました。信頼に応えるように動きます。ついでに頼む画家の人も探してきますね」
ジュディが両手を広げたので、ハグだと思ってハグをする。
普通は握手かもしれないし、使用人の侍女と親しくしすぎるのはおかしいのかもしれないけど、私達の距離感はこれで良いと心から思った。
その日も、死ぬほど仕事をした。
仕事場を引っ越したので集中できたが、リツキの仕事は貴族方面、ゾーイの仕事は総合的な取りまとめと全く違うので、二人とも死にそうだった。
私も大変だったけど、私の上がいないというのは案外気楽なもので、お茶を作ってあげる程度の余裕はあった。
たぶん、二人が私の分の苦労を引き受けている気がする。
私は好意で人に仕事をさせている国王なのだと思うと微妙だけど、私が選べる選択肢の最善がこれだったのだから仕方ない。
他人の幸せは誰かの不幸の上に成り立っていると聞いたことがあるけど、不幸の底を上げることができるなら、多分未来は明るいのだから。
「ユキ。そういえば、うっかりディヴィスにアイドルの話しちゃったけど、国ではやらないんだよね」
仕事終わりにゾーイに話しかけられた。
「あ、そうなんだ。ドロテアに聞いたら、国でやると問題が起きるからやるなら私財でやりなさいって言われた」
「だよね。忙しすぎて頭が変になって話してちゃったけど、断ってくる」
「私がお金払うんでいいなら、ディヴィスがやる気ならやってもらいたいかも。でもゾーイは忙しいから話からは抜けていいよ。ごめんね」
「そんなにお金あるの?」
「アンリが稼いだ分の一部がこっちに入ってるのと、ブラのお金も入ってくるから、大規模な工場作って人を雇える程度に貯まってる」
「ウィリアムソンが頑なに国に入らないのは、そういう理由もあるのか」
「トランプもジュディに頼んで今、貴族の人と組んでやってもらおうとしてるとこ。貴族と組むと真似して作るのが難しくなるから」
「トランプはジュディなんだ。ユキは人にお金行ってもいいの?」
「国王の使命は国民の幸福度の底上げだから、お金より周りの人が幸せになるようにしたいの。娯楽が少ないと人はすぐに犯罪するし。この国は病気治療で訪れる人も多いから、手軽に言葉が分からない人にも楽しめる娯楽は欲しい」
私の言葉に、ゾーイは少し笑うと考えるように頭をひねる。
「ユキ、アイドルは自分がやってもいい? ディヴィスがユキと話して惚れてもめんどくさいし。自分がお金出すし。まぁ資金は追々増やさないといけないけど」
「やってもらうのは嬉しいし、私もお金は出すけど、ゾーイは忙しいでしょ」
「ユキからお金は要らないけど、爵位がほしいんだ。自分が知られたらガラレオに攫われる危険があると思ったから隠れてたけど、貴族になれば攫われにくい。まだ詳しく調べてないけど一定の財産がないとなれないらしい」
そういう理由なんだ。別に爵位なんて理由をつけてあげることはできるけど、そういう問題でもないんだろうな。
「そういうつもりなら好きにやっていいけど、まだゾーイが帰ってきて一年くらいしかお仕事してないし、私もお金出すよ」
「ユキからはちょっと。時間はディヴィスがすごくやる気だったから、夜の時間を管理にあてればいけると思う。ディヴィスは聖女の仕事より普通の仕事をしたいんだって」
ゾーイは私からお金を受け取るのは嫌そうだった。
対等にいたいとか、事業に関わらない人だからなのかもしれない。
「ええと、じゃあもしお金が必要なら、ゾーイの神聖力は美味しいからアンリに売るといいかも。高く買い取ってくれるから」
「えっ、そうなんだ。でもユキの件で嫌われてないかな」
「嫌ってたら私の側にいることは許してないよ。それに甘い神聖力の種類も欲しがってたから大丈夫」
本当はゾーイの神聖力は美味しすぎるから隠しておきたかったけど、独り占めはよくないもんね。
(お金は誰だって大事だし、もっと早く教えてあげればよかった)
みんなは良いように私を見てくれるけど、本当は欲深いし碌な人格じゃない。
反省しながらも、私はそういう人間なんだよねと心からガッカリした。
PV増やしたいよォ、ということで、どうすればいいか会議を、22:00過ぎごろから(遅くなる恐れはあります)、ツイキャスでしようと思うので、友達いないのでよければお話をしてもいいよ~というかたはXから遊びに来てください。友達いないので是非。