情報共有して良いことと悪いこと
夜。
仕事が終わった後に一人で魔王城に行く。
赤ちゃんはよく眠っていた。
ドロテアにチハラサとアカタイトのことを包み隠さず全部記憶で見せることにした。
私から記憶を見たドロテアは、怒るかと思いきや怒らなかった。
「チハラサって王子だったの。それに神聖国を狙っているなんて。それなら話が変わってくるわね」
「助けてもいいの?」
「もちろん。売られた喧嘩は買わないと。それに国交は増やしたほうが得だし、チハラサの能力が高いのは今までの仕事で分かる。どうみてもこちらの味方だしね」
「私達の世界の技術を持った人が来たらすごく得だよ。アーロンさんレベルもいるって言ってたし」
「アーロンレベルの人材ねぇ……。資源があまりない代わりに人が湧くのなら面白いわね」
「技術がある人は特別な能力がないらしいから、神聖力があるひとは基本的にはこっちに流れてきて、技術力がある人はアカタイトに流れてるのかも」
ドロテアはそうねぇと言いながら、少し考えているようだった。
「魔王が今回ポータルを設置してきた国がアカタイトに近いから、それを使うといいわ。海を渡るのに三時間くらいかかるけど」
「そんなに近いんだ! 三時間なら頑張れば空中散歩でもいけそう」
「気楽ねぇ。わたくし達も手伝いたいけど、子どもの世話もあるし魔王は仕事が溜まっているから、今回は大して手伝えないわよ」
「うん。赤ちゃんは今が大事な時期だから、気にしないで! ポータルだけ使わせてもらえるだけで本当に助かる。ありがとう」
今相談を受けてもらってるだけでも大感謝だ。
子どものいる親には、こんな危ないことには参加してほしくない。
「そんなことより、なんでゾーイがご褒美って騒いで弟君が許すような感じになってるのよ」
「えっ、えっと。なんかぁ……ゾーイが私のこと恋愛的に好きらしくて」
突然、なんかいけないことを聞かれてる気がして、恥ずかしくなって意味不明に手をぐにぐにと動かす。
「なに照れてんのよ。前からそう言ってあったでしょ」
「本当にそうなんて思ってなかったし。で、ゾーイが仲間に入れてって二人に言いまくって話しあった結果、少し許されてる」
「えっ、横からとろうとかじゃなくて、仲間にって……変な奴ね。それでミユキはどうしたいの?」
「どうしよう……本当に。浮気はしないって思ってるし言ってるけど、いなくなっても嫌だし、遊び人になっても困る」
「現状維持で頑張るしかないわね。わたくしはミユキの親友だから、私に内緒にしてたら嫌だけど、素直に言ってくれたから見守るわよ」
確かに親友だもんね……内緒、は、よくないか。
「あの。なんか、ね。これ誰にも言ってないけど、ゾーイ、私に勝手にキスしてたらしいよ……」
「はっ? いつ?」
「建国の前らしい。寝てたから知らないし覚えてない。ドロテアは親友だから言っておく。二人に言うとどうなるか分かんないから」
「そうね。言わない方がいいわ。殺されちゃうわよ」
「でも、言わなかったら、誠実じゃない気がする」
「なんでもかんでも素直に言えば丸く収まるなんてガキの言い分よ。知らなかったんだから忘れなさい」
「……そうだよね。この前のアンリの様子見てたら、串刺しにされると思う」
「そうね。顔の良い神官なら、そのくらいやりかねないわ。弟君は殺そうと思ったら即死だろうから我慢するでしょうけど」
そうだよね。やっぱり言った方がリスクがある。
「それにしても! あの女やっぱりやっといてすっとぼけてたのね! ミユキもボケッとしてるからされちゃうのよ。このお馬鹿!」
そう言いながらドロテアはプリプリと怒った。
勝手にキスされたのに怒られたのは納得いかないけど、話を変えたほうがいいのかもしれない。
「あと聞きたいんだけど、ゲームとかアイドルを国で売るってちょっとおかしいから、どうやって広めたらいいのか教えて?」
「アイドルっていうのも知らないし、なんのゲームを売りたいの?」
アイドルの説明を軽くする。
「うーん……じゃあ、貴方が自分のお金を出して、誰かにやらせてみたら? 資金提供って感じで」
「国ではやらない方がいいもんね」
「そうね。公共施設とかならいいと思うけど、娯楽は私財でやらないと問題になるわよ」
「分かった! ありがとう。ドロテア、トランプで一回遊ぶ?」
「トランプ?」
「作ろうとしてるゲーム!」
ポケットからトランプを取り出してテーブルに乗せる。
「いいわよ。お茶を入れるわね」
「ありがとう!」
難しい話ばっかりさせてるから、たまには友達らしく遊ぶのもいい。
だって、結婚したって赤ちゃんがいたって、人間に娯楽は大事なんだから。
ドロテアとは、トランプでスピードをした。
スピードは、1から順にどんどんトランプを重ねていく遊びだ。
ボロ負けだった。私が弱いわけじゃない。ドロテアが強すぎる。
気をつけてプレイしていたのに、キャッキャと笑って音を立ててトランプを重ねてしまい、赤ちゃんが起きてしまった。
「これ売れるかも……」
赤ちゃんをあやしながらドロテアが楽しそうな顔をしていた。
「他にも色々ゲームができるんだよ。他の3人で試した時は、お金をかけて難しいゲームしてハマってた」
「お金もかけられる遊び方もあるの? 一応多めに作ってこっちにも売って」
「わかった~ありがとう! 元の世界では、なんかそういうのでお金稼ぐ人もいたよ。間違えると財産がなくなるから怖いけどね」
トランプをしまって、魔王城から家に戻る。
色々難しいことばかり話してしまったけど、楽しんでくれてよかった。
家に戻ると、ポータルの前にアンリが立っていた。
「ただいま~」
「話を聞いたけど、アカタイトに行く気?」
すごく怒っている。
怒っているけど怒っている理由がわからなくて、とりあえず気軽に接することにした。
「うん。今許可とってきたところ。アンリには今から話そうと思ってたけど……ポータル使えば3時間ちょっとででいけるらしいよ。もっと短縮できるかもしれないけど」
「僕が行かないって言っても?」
「そっか……それは仕方ないよ。アンリはアンリでお仕事があるし」
「違う……僕らは夫婦なんだよ? ミユに危害が及んだら僕が正気じゃいられないっていうのが分かってて、勝手に決められるのは腹が立つ」
「まだ確定じゃなかったから。でも、ほとんど決定だもんね。勝手に決めてごめんなさい」
「そう。僕も行くけど、少なくとも今日の昼にミユの口から聞きたかった」
確かに帰ったら話そうとは思ってたし、確定してからの方がいいかなと思ってたけど、アンリが行く気なら仕事を急がなきゃいけなくなるし、リツキから聞いちゃったのなら嫌だよね。気遣いが足りなかった。
それに旅行だもん。新婚旅行とか思ってたのかもしれない。それなら余計ショックだ。
「気遣いが足りなくて本当にごめんね。楽しい新婚旅行にならなそうだし、昼に聞きたかったよね。記憶見る?」
「見るけど……結婚してから初の遠出だっけ? 嫌だアカタイトなんて何もない暑いところが新婚旅行なの!」
「アカタイトって暑いんだ。服を考えないと」
そう言いながら、額を合わせるために近づく。
素直に目を閉じるアンリが可愛いなと思ってしまって、そのまま額ではなく、口をつけた。
「ん、む……機嫌直すためにやってる?」
「好きだから、した」
機嫌を直してほしいって気持ちもあるけど、好きだからそう思うんだから、嘘じゃない。
言えない秘密をまた一つ抱えてしまったのも申し訳ないし、よく考えたら死ぬかもしれないことを勝手に決めてきたらそれは怒ると思った。
「本当にごめんね。私もアンリが命にかかわることを勝手に決めてたら怒るのに、勝手に決めちゃって」
「分かってくれたならいいけど」
私の言葉にアンリが少し微笑んで、もう一度キスをし返してくれる。
なんとなく何度かしてしまって、記憶を見せるのはどうでもよくなってしまった。
「そういえば、アンリに相談があるの。アンリが一番なんだけどね」
ぽよぽよと惚けた頭で、トランプのことを思い出して聞いてみる。
「ジュディとシャーリーに私の私財からお金を渡して、トランプを作って販売してもらうのと、アイドルを探してもらおうと思うんだけどどう思う?」
「えぇ? ジュディはミユ付きで雇ってるから好きにしていいけど、シャーリーは難しいな。本人が楽しんで仕事してるから」
「そうなんだ。本人が楽しく仕事してるのに、変にお願いしたら気を遣っちゃうよね」
「トランプも、貴族で売らないと布ナプキンの時みたいに、最初に作ったのに他の奴に市場をとられるよ。でも本当に僕は手いっぱいだ」
「お薬も防水シートもすごく売れてるもんね。真似されてもいい気がしているけど、どうしたいかジュディに聞いてみるね」
薬とかはともかく、私が欲しいものは元の世界にあったもので、私のアイデアじゃないから私の利益にするのは少し抵抗がある。
布ナプキンも他の人が改良していって、今ではみんなに安価で行き届いてるし悪いことばかりじゃないと思うけど、ジュディは傷ついていた。
考えなきゃいけないなと思いながら、遅い晩御飯を食べた。
ドロテアは後日、ゾーイを呼び出して本気で怒りますが、ゾーイは忙しいのにこんな話かよ、うるせーなコイツ程度にしか思っていないのであった。