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友達の範囲を配偶者に聞かれる晩餐

家で食事を全員で食べる。

今日はモーリスは来ないらしく、メイドたちには外に出てもらった。


「で、なんでゾーイが家にいるわけ」


アンリは不機嫌そうに言った。

リツキは気まずそうにしていて、ゾーイは何でもないという顔をしていた。


「今日、リツキとゾーイが喧嘩したんだけど、なんかゾーイが恋愛的に私を好きすぎておかしくなった」

「おかしいのは結婚前からだろ。よくここまで我慢できたなとは思ってるけど」

「えっ、結婚前からおかしいのに気付いてたの? 私はぜんぜんそうとは思わなかった」

「いくら僕達が殺しに慣れてても、普通に好き程度の奴の為に何人も殺さないよ」

「ああ、確かに。言われてみたらそうかもしれない」


アンリの言葉に、ゾーイはあっさりと同意した。

ありがたいなとは思ってたけど、やっぱり特別な感情がのらないとやらないことなんだ。


「で、ミユはどう思ってるの?」

「二人には誠実にしたいし、ゾーイが変な人たちと性に乱れた生活するのも嫌だから困ってる」

「そんなことを言ってミユを脅したのか。良くない」

「いや、実際誘ってくる奴は多いし。でもユキじゃなかったら誰でも一緒っていうか」

「まずはお友達作りから始めようよ。なんでいきなりエッチなことになるの?」

「だってハグもダメだっていうし。でも気持ちなんてそう簡単に変わらないから、無理に変えるしかない」

「まぁ一年以上変わらなかったしなぁ」


不服そうな顔をするゾーイを見ながら、リツキはパンを口にほおり入れた。

そんなに? ハグをしちゃいけないっていう反動でゾーイは自分を変な環境に身を置こうとしてるの?

なら、ハグくらいしてもいいけど。別にそんなの今までだってしてたし、ドロテアにだってしてるし。


「そんなに重要ならハグくらいいいよ。二人もいいでしょ? キスとかはだめだけど本当に好きな人ができるまでなら」

「ハグくらいで落ち着くとは思えないけどな。でもミューはそうしたいんだろ」

「そうしたいっていうか、ゾーイは人格も頭もいいのに変な遊び方するのは嫌だし、いなくなるのも嫌。でもすぐにまともな人とは出会えないよ」

「うーん……そうだな。友達がするくらいのことはしていいよ。俺も遊び人のゾーイは嫌だし」

「友達ってどこまでしていいの。口にキスするのはだめなのはわかった」

「ハグだけだよ。ハグだって最近のことなんだから我慢しろよ。ほら、あいつの目を見ろよ。ゾーイを殺しそうだよ」


リツキは呆れ気味にアンリを指さすと、アンリは冷えた目でゾーイを見ていた。


「ミユの優しさは純粋な好意なのに欲深すぎる。求めたら気を遣って良いっていうかもしれないけど、内心は傷ついて泣くから欲で進むな。ミユを泣かせたら殺す」


アンリは冗談でもなく、真面目な表情で言いきった。

ゾーイは少し肩をすくめると、食事を口にほおりこんで飲みこんだ。


「リツキンを刺して殺しそうになったって話だけは聞いたよ」

「うん。死んで良かったけどね。ミユが死なせたくないって辛そうな顔するから仕方なかった。でもゾーイは殺せるから許さない」


優雅にアンリは肉を切る。

私は場の状況についていけなくて、なにも食べられなかった。

ゾーイは何てことなく食べてるけど、二人は穏やかに話しているようで敵意がすごい。

リツキだけは、なんでもないように食事をしているあたり、想像していた範囲のことなのだろう。

一年以上仲良くしてたし、この前は殺さなそうだったけど気のせいだったみたいだ。

連れてきても大丈夫かなと思ってたけど、甘く考えすぎていた。


「待って、すごく良くない空気になってる。殺すとか殺さないとか。ゾーイも殺しちゃいやだよ。みんなで仲良くしてよ……」

「ミユ。勘違いしてるけど男だったら友達でも許さないから。キスしたい友達なんて友達じゃない。男だったらいつ襲われても不思議じゃないし」

「……そうだよね」

「ただ、ゾーイは一年以上耐えてるし、対応がいいし、いなくなるとミユも仕事も困るだろうから、とりあえず傍にいるのを許している」

「まぁ、俺もそんなところだけど。同性じゃなくて、ゾーイが敵対しないように立ち回るのが上手いからだと思う。こいつは同性でも気に喰わなかったら許さない」


二人の話を聞きながら、ゾーイは少し考えた後にフォークを皿の上に置いた。


「じゃあユキとはハグだけしとく。勝手に先走って傷つけるかもしれないなら、今はそうするよ」


すべてどうでもいい感じで、話をまとめる。

ゾーイは納得していなくても迷惑でも、反論はせずに流すところがあるので、本心がまったく見えない。

ただ納得していないことはごまかすので、ハグしかしないというのは確定らしい。

みんなで食事をし終える。

完全に空気がお通夜だ。

この良くない空気を変えたいけど、どうしよう。

あ、そうだ。昨日トランプが来たんだ!


「そうだ! 仲直りにみんなで私の部屋でゲームしようよ!」

「そもそも喧嘩してないよ。でもゲームってなんの?」


アンリがさっきの真顔とは正反対に爽やかな顔をしながら言った。


「トランプ! この前ね、お泊り会の時にゲームがないのが寂しくてジュディに頼んだものが昨日できたの、絵はまだ描いてないけど!」


瞬間移動で全員を自分の部屋に移動させる。

私は奥の戸棚に走っていって、小さな包みを持ってきた。


「じゃーん! これがトランプだよ!」

「うわっ、久々に見た! なかったんだよな!」


リツキが手に取って、包みから取り出すと、楽しそうにペラペラとめくる。

アンリがハートマークを知らなかったから、トランプはまだこの世界にはない。

ないものは作ればいいのだ。


「この国の紙はそんなに強くないから神聖力で強化したよ。テストで遊ぼ」

「ミユが元いた世界のゲーム?」

「うん。こっちにもゲームはあると思うけど、遊びたかったから」


みんなでベッドの上に座って、カードを切る。

トランプを知らない二人は興味津々だった。

カードを配って、みんなでババ抜きをすることにした。


「あ、この絵、ユキの絵だ。本当に途中なんだね」

「今日やると思ってないからまだ下書き。でも数字とかは清書されてるから大丈夫。いっぱい作るなら画家に頼みたいよね」


ババ抜きは子どもでもできるので、初心者の二人でも分かりやすい。

ババ抜きは意外とアンリが弱かった。


「ミユにババをひかせるのが可哀想になるから、ミユ抜きでやれば勝てるのに」


アンリはそういいながら悔しそうな顔をした。

いろんなゲームで遊んで、トランプを知らない二人も素早く色々覚えていく。

三人がハマったのは、ブラックジャックだった。

カードの合計が21点に近い方が勝つというゲームで、少額のコインを同じだけ出すと、かけて遊んでいた。

私には難しかったので、この前のお泊りで作ったチョコ味のお酒をのみながら三人の様子を見る。

三人とも真剣な顔でプレイしていた。

さっきまで殺す殺さないという話をしていたとは思えないから、本当に本心が見えない。

けれど楽しそうだから、ゲームを提案して良かった。


(うーん。これは大量生産してもよさそう。エッチな本を規制したから印刷所が暇になるかなって思ってたからよかった)


でも、こういうのって広めたいけど国主導で売るのって普通じゃないかも。よく考えたらアイドルも、国主導アイドルは変かも。

お酒を飲んでいて眠いけど、今日の私は冴えている。


「よく考えたら、アイドルとかゲーム販売って国が主導したらおかしい?」

「国がやる規模にしては小さいなとは思ってた」

「まずいかなとはちょっと思うけど、この世界のルールはちょっとわかんないんだよな」


ゾーイとリツキはそんなことを言いながらも器用にプレイしている。


「トランプは楽しいし売れるだろうけど、僕のところは今やってるだけで手いっぱいだ。販路も違うし」

「うーん。明日チハラサさんに聞いてみようかな。あ、この家に入れていい? 安全なところでアカタイト国の話したいんだって」

「だめ。この家はスパイも考えて限られた人間しか入れないから。モーリスのとこにして」

「アンリの実家ね。分かった」


話しながら、お酒に酔って眠くなってきたなと思う。


「ユキ、眠そうだね。こっち来て横になれば」

「なんでお前のとこなんだよ」

「女の子だからユキが傍にいないと怖いなって」


ゾーイが慣れない声色を出しながら言った。

そうだ。女の子だからね。私がいないと。


のそのそとゾーイの方に行って、ゴロンと横になる。

今日は本当に疲れた日だった。横になると、とたんに力が抜けて気持ちがいい。


「ミユは信じるな。オエーでしかないのに」

「この棒演技で信じる奴いるんだ。これ終わったらお開きな。寝てるミューが可愛いからどいつも信用ならない」

「この中だと自分が一番安全安心でしかないけどね」

「そんなわけないだろ。こっちは夫婦なんだから、お前が一番危ない」


文句を言うアンリの言葉を無視してゾーイの手が私の頭を撫でる。

みんな安全安心だと思うけど、と思いながら眠ってしまった。




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