真面目な会議中、胸に顔を埋める。
夜。飲み物の用意をして魔王城に行く。
一人でいこうかと思ったのに、アンリとリツキとゾーイまで来た。
最近魔王城に行きすぎて、二人とも心配になったらしい。
アンリとリツキには、本とボニーの話を詳しくは話していないから、どうしようと思いながらドロテアと会う。
「ミユキだけだと思ったのに、三人も来たのね」
魔王はまだ出張から帰っていないらしく、部屋はがらんとしている。
ドロテアがスッと全員を瞬間移動させて、テーブルを挟んで向かい合わせに三人掛けのソファがある応接室に移動した。
「勝手に座って。一応ミユキがガードをかけて。あと、何の用?」
ガードをかけて、みんなが座るのを見ながら、持ってきた紅茶をいれる。
さっそく本題に入ろうと切り出すことにした。
「ボニーさんにアカタイト国をガラレオみたいに潰してほしいって言われたけど、ばれたら国際問題だよね?」
「アカタイトを潰してほしい? こっちに利がないじゃない。だめよ」
アンリとリツキが怪訝な顔をする中、ドロテアは呆れたように言った。
「でも、奴隷とか酷い目にあってるみたいだし、可哀想だよ」
「そんな国はいくらでもあるわよ。国はね。お互い不可侵であることが条件で和平が保たれているの。ガラレオは例外よ」
そうなのかと思っていると、アンリが小さく手を上げた。
「ちょっと話が見えないけど、なにがどうして話が通じてる? ボニーとかいうのは誰? 1から説明して」
「ボニーさんは、例のエッチな小説を書いてた人なんだけど、その内容がガードがある部屋の中を見られるような内容だったから、探して見つけたの」
「ガードの中を見られる? 僕とミユのそういうのも見られてたってこと?」
「大聖女のガードは破れないらしいから大丈夫だよ」
私の言葉に、アンリはホッと胸を撫でおろす。
「で、ボニーさんは結婚式でチハラサさんの奥さんって紹介された人なんだけど、その人がアカタイト国出身で酷い目にあってたみたいなんだよね」
「ああ、あの人……チハラサさんの奥さんなら、じゃあチハラサさんもアカタイト国の出身っぽいな」
ぼんやりと話すリツキにそのセンがあったか、と驚きながら見る。
確かに、それなら失われたと言われている神力が今もあることを知っている理由にも合点がいく。
「ボニーさんは自分にはアカタイトの足枷があるって言ってた。じゃあチハラサさんにも何か逃げられない事情みたいなものがあるのかな」
「ミユキ。待ちなさい。どうしてボニーとそんなに仲良くなってるの? 話すなって言ったわよね」
「この前、お泊り会の時に街で会って、危ないところを助けてもらって仲良くなったの」
「危ないところ? ミユ、なんの話? ちゃんと話して」
アンリが不機嫌に言う。
ああ、あの店の話をしないと通じない気がするけど、どうしよう。
(あれ? ボニーさんが持ってきた事件の資料。あれって、なにか理由があるんじゃない?)
だって、ボニーは無駄なことを話していなかった。
なら、あれだって何かのヒントで持ってきたのかもしれない。
「えっと、今日、リツキに処理を頼んだ事件あったよね。貴族が黒幕のやつ」
「ああ。アレだろ。ダンスクラブみたいなところで、美人だけ気絶させてヤッてたって奴。処理したよ。シュリクって貴族だったな」
「あの事件を明るみにしたのは私達なの。遊びにいったらジュディがいなくなっちゃって、探して店を壊しちゃった」
「そこでボニーと仲良くなったのね」
「ああ、だから男たちの足が折られてたのに、それをした犯人は見つからなかったのか。っていうか昼だとしてもクラブに行くなよ」
「そこはゴメン。昼なら危なくないかなって思って」
あきれ顔のリツキとは反対に、アンリは顔色を悪くしていた。
「危ないところはだめだって言ってあっただろ。ジュディはそんなに美人じゃないけど、そんな店に行くなんて危ない。だめだ」
「ごめん。もう行かないけど、その時はゾーイが飲み物のむなって言ってたし、一人の時間はなかったから危なくなかったよ」
そこでハ、と気付く。
ゾーイを見ると、具合悪そうにしていた。
(大変だ。また壊れてしまう!)
「ゾーイ、ハグだよー」
仕方ないと思いながら座っているゾーイに近づいていくと、うぅと言いながら抱きついてきた。
位置的にゾーイの顔が胸の位置に来たが気にしないことにする。
「ミユキ、どういうことなの。ちゃんとしなさいって言ったでしょ」
「だって、一昨日の事件で嫌なことを思い出してゾーイが壊れちゃったから」
私の言葉にドロテアはああ、という顔をする。
男性の二人は何も分からないので、不機嫌な感じだった。
「ゾーイが変になったのミユのせいじゃん。ミユの胸に顔を埋めるなんて、僕の胸なのに」
「俺の胸だよ。なに言ってんだ」
「私の胸は私のものに決まってるでしょ! やましい二人とは違ってゾーイは心に傷があるんだよ。塔に閉じこめられてたし。可哀想でしょ!」
「やましいだろ。とりあえず最近の奴だけでも記憶を消せ。そのたびにこんなになってたら本人のためにもならない」
はっ、そうか! その手があった。
「ゾーイ、記憶を消そう」
「事件の黒幕のシュリクって貴族がアカタイトと繋がってるか調べるまで消さない」
胸に顔を埋めたまま静かに言った。
一応頭は働いているらしい。
「なんて? ボソボソ言うなよ。顔離せ」
「こっちまで聞こえないよ。あ~殺したいけど、国がまわらない」
アンリは文句を言いながら手を動かすと、ゾーイもアンリの方を見ないで手を動かす。
パンパンと何かが弾ける音がした。
「喧嘩しないで。ゾーイはシュリクって貴族がアカタイトと繋がってる可能性があるからまだ消さないって」
「今聞いたから安心して消されろよ。大丈夫だよ。ミューってピンポイントで記憶を消せるらしいし」
「ミユも、ゾーイを友達として大切なのは理解したけど、僕らの前でそういうのは許さないよ」
珍しくアンリが怒っているので、確かにいくら相手が弱っていても、優先順位があるなと思った。
私にとっては、ショックで落ちこんでる友達がいたら、それがどういう目で見てるにしたって慰めてもいいと思うんだけど。
「ゾーイ。辛いなら消したほうが良いよ。もうあの店のことも解決したし大丈夫だよ。前言ったとおり、あんまりこういうの良くないし」
「うぅ……じゃあ消して」
観念したのか、顔を上げて額を出してくる。
額を合わせて店の裏側の犯罪部分だけの記憶を消した。
辛い気持ちなくなれ~とついでに神聖力をかけておく。
ふ、と目が開いた。
「あれ、本当になんかそこだけ思い出せないな」
ゾーイはスッキリした顔でそう言った。
「それにしても弟君が殺そうとしないなんて凄いわね。絶対殺すと思ってたのに」
「そうなんだよ。ゾーイは嫌いじゃないんだって。リツキにも他人を大切にする心ができたの」
ハグを止めて少し離れると、へへとリツキの自慢をする。
私の自慢の犬くらいの気持ちだ。
「なんなんだよ。俺のその狂人のイメージは。結婚したから余裕ができただけだよ」
「僕も人で遊ばなくなったから、ミユがいると更生させられるんだと思う」
潔癖なアンリが遊んだことなんてあったっけ。私がファーストキスだよね? 聞き間違いかな。
考えていると、ドロテアがトントンと指でテーブルをノックした。
「それで、もし貴族がアカタイトと繋がっていたとして。だから何なの? アカタイトを攻める要因にはならないでしょ」
「理由があれば他国を侵略していいことなんてないからね。ガラレオは内部と繋がって侵略してきたからであって、本来は悪いことだよ」
ドロテアとアンリの言葉に確かにね。と思う
「わかった。侵略しない。あともうよくわかんないから、私も一回メイナの記憶を見て、チハラサさんに首の話を聞いてみようかな」
「そうね。それでチハラサがしらばっくれたら放っておいていいわよ。もうメイナの判決は出てるんだしね」
ドロテアがもう疲れたという感じで言ったので、話しすぎたと思う。
「ドロテアごめんね。疲れてるのに」
「いいのよ。こっちに聞かないでアカタイトを攻めて国際問題になったら、こっちだって危ないんだから」
「分かった。勝手なことはしない」
「次はミユキだけで来て。目の前でイチャイチャされるなんて嫌な気分よ。こっちは魔王がいないのに」
「そうだよね。ごめんね」
「ゾーイも次はわたくしの胸で回復しなさい。ミユキはだめよ」
「ええ。嫌だ。男も女も触りたくない。あと心臓の音が聞こえなそう」
ゾーイは嫌そうな顔をする。
リツキはそれを見て立ち上がると、私の背を押した。
「ゾーイもよこしまじゃねーか。帰るぞ」
「心臓の音聞いてるらしいし、よこしまじゃないよ。記憶消したら離れたし」
「はぁ。女の子じゃなかったら殺すところだし、僕は事業をしてミユとイチャイチャしたいだけなのに、大変すぎる」
話しながら魔王城を後にする。
ゾーイが二人に仲間に入れてほしいと言い、嫌だ帰れと言われているのを見ながら、どうしたらいいんだろうと考えていた。
顔まっすぐ行ってるので、心臓の音なんて聞こえているわけがない。