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ジュディとゾーイとのお泊り会【壊れた心編】

穴を開けた壁の向こうは、広間がある別の店のようになっていた。

異様なのは、気を失った女性が脱がされている光景と、それを別室に運んでいる制服姿の男がいることだ。

気を失っている女性の数は少なくとも三人。男性の数は十人程だった。

全員、とつぜん壁に空いた穴を見て呆然としている。


「とりあえず全員気絶させよう」

「だめだ。意識を失わせたら、知らない間に行われたことになる」

「捕縛っすね~」

「面倒だから片足を折る。やってられるか」

そう言いながら、ゾーイはその場にいる男の足をボキボキと折っていく。

激しい悲鳴がいくつも聞こえた。


「ジュディさんいるっすか?」

「いない」

「じゃあ個室っすね。ちょっと刺激が強いかもしれないですが」


ボニーは奥にある五個くらいの扉を指さす。

全ての扉に穴を開けた。


「はえー。大聖女すっげ」

「細かいコントロールは無理だけど、壊すだけならできるの」


扉を開けて出てきた男の足をゾーイが折る。

扉の向こうに全裸の女性が倒れていたので、多分そういうことなんだと理解した。

あとの四部屋からは、誰も出てこなかった。

人がいないわけではなく、聞こえてくる悲鳴で出ていったらまずいという判断をしているのだろう。


「ジュディがいない」


穴から部屋の中を覗くが、倒れている女性にジュディはいなかった。

それと同時に、店と繋がっていたトイレの穴に、沢山の人がいるのが見えた。


その中にジュディとシャーリーもいる。


(えっ、ジュディ、店の中にいたの?)


ゾーイもそれに気付いたのか、驚いた顔をしている。


「もしかして、ジュディさんってあの人っすか」

「慌てすぎて、店内にいるかどうかの確認も詳しくしなかったから、間違っちゃった」

「ユキ。帰ろう。どうせ女の子が目を覚ましたら、どういう店で犯罪か分かるんだろうし」


少し暗い顔をしてゾーイが私の手を掴む。


「そうだね。ボニーさんも一緒に行こ。今日は遊ぶ日だから」

「あたしもっすか」


少し驚いているボニーの手をとり、三人で瞬間移動をしてジュディの近くに行く。

ゾーイが透明化を解いた。


「二人とも、行こう」


静かに言うと、二人は何かを察して、何も言わずについてきた。

店から出ると、まだ陽も高く明るい。


「さっき、ジュディの所に瞬間移動したら良かったんだ。自分も気が動転してて気づかなかった」

「あれって、もしかしてアタシを探してやったんですか? 嬉しいですけど、普通にイイ感じになった男と話してましたよ」


ゾーイの言葉にジュディが驚きながら話している。

そんな短時間で知らない男性と仲良く話したことがないので、そっちにビックリしてしまった。


「まぁ、犯罪が明るみになったから良かったよね」

「わたし、あんまりよく見えなかったけど、なにがあったの?」

「あれは、狙った女だけ気絶させて客に喰わせるシステムっす。詳しい方法は言わないっすけど」

「えぇ、そんな犯罪がアレ? こわっ、最悪」


シャーリーは身を震わせた。


「ところでこの人って誰です?」

「この人はボニーさん。ジュディがいなくなったっていったら、助けてくれたんだよ」

「えっ、ありがとうございます。どっか良い店で一杯どうですか。奢りますよ」

「そんなことよりゾーイさんが具合悪そうなんで休ませたいっす」


ゾーイを見ると、確かに具合が悪そうだった。

さっきまで元気に足を折っていたのに、犯罪を見たことで具合が悪くなったんだろうか。

さっき見たフロアで脱がされて転がされていた女性を思い出す。


(……あ)


ゾーイは、意識がない中でされたのが初体験だ。

さっきので、それを思い出したのかもしれない。

しかもその後、塔に数年閉じこめられていて、いい思い出がない。

精神がグラグラになってるんだろうけど……でもどうしたらいいんだろう。


(ドロテアは止めとけっていったけど、でも)


「ハグする?」


私には慰める手段の種類がない。

とりあえず手を広げて開いてみる。


「……ん」


ゾーイが抱きついてきたので、とりあえず店を探さなきゃと思った。


「じゃあ、しょうがないっすね。おすすめの店に招待するんで、みんなで奢ってください」


ボニーがパンと手を叩くと、フッと周囲の場所が静かな飲み屋街に移動した。

やっぱり瞬間移動もできるくらいの能力があるんだとぼんやり考える。


「ここっす。貧民街の近くで高くないんでね。この時間でも多分いいだろ」


ボニーが案内してくれた店は、なんか古くて味のあるボロボロの店だった。

赤い提灯のようなものがいくつか、のれんの代わりに入口に飾られているので、日本の居酒屋を思い出した。

店の名前は酒屋バロボロン。バロボロンとはなんなのだろう。


考えていると、ボニーは店の扉を開けて奥にズカズカと入っていく。


「おっさん~! 華四人も連れてきたから、奥の部屋貸して~。あと酒と料理出して~。サービスもして~」

「お前、ボニー。準備中に来るなっつってんだろ。あ、全員かわいいな。どうぞ奥に入って~」


おっさんと言われた店の店長らしき男性は、目じりに皺をつくって微笑んでくれた。

ジュディが、心配そうに店長に話しかける。


「あの、準備中って知らなくて。本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫。ボニーだけだったら追い出してるけど、あいつが友達連れてくることないからな」


そんな親しい間柄の店に、今日知り合った私達を連れて来るなんて。

でも親しい間柄だと知れて、遠慮なく店内に入ることができた。

けれど、通路が細い店内で、向かい合わせで抱き合ったまま店内を歩くのは無理だ。

精神がブレブレのゾーイは正しい判断ができていないようだった。困る。


「ここそのままじゃ歩けないから、ちょっとだけ離れようね」


幼児に言い聞かせるように話すと、ショボショボとしながら離れて後をついてくる。

昔のリツキみたいでかわいい。大きい小学生みたいだ。

奥に行くと部屋があって、六人くらいが座れるようになっていた。

店主のおじさんが入れるようにしてガードをかける。


「おっさん~すぐ出せるおいしいの何種類か持ってきて~! 三人分くらい~! 一般に好かれそうなの~」


注文がめちゃくちゃだ。

ゾーイは一番奥の席に座ると、私を呼んで、自分の足の上を手で叩く。

座れってことかなと思って、状況も状況だし仕方ないよねと思って足の上に座った。

後ろからギュッと掴まれたので、本当に大丈夫なのかなと心配になる。

その様子を見ながら、ジュディが心配そうにこちらを見ていた。


「ゾーイさん、どうしたんです? 大丈夫ですか?」

「ちょっと嫌なことを思い出したみたいで……」


本人が傷つかない程度に濁しながら話す。

全員、今までの話の流れで大体を察して、何も言わなかった。


「とりあえず、お酒飲もうね。私はね。果実酒かな。ゾーイも飲むかな」

「同じの……」

「わたしはえっと、何がお薦め?」

「女の子なら、蜂蜜酒か花酒っすね」

「じゃあわたしは花酒」

「じゃあ、アタシは蜂蜜酒を飲もうかな」


キャッキャとしていると、店長さんが料理を持ってきた。

ボニーが注文すると、ニコニコっと笑って帰っていく。


「おっさんは女好きだけど、人情と正義を大事にするいい男だから安心してほしいっす。あと料理が美味い」


出された料理は、茶色の具がゴロゴロ入ったよく分からない煮た何かと、お米っぽい何かを焦がして野菜炒めをのせたものだった。

ゾーイは食べなかったが、他の全員で恐る恐る食べる。


「あ、美味しい! 茶色のも美味しいけど、こっちのカリカリした白いのに野菜が乗った奴もすごく美味しい」

「美味しいっしょ。おっさんの料理は美味いんだ」

「わたし、また来ようかな。お安いし」

「うん。通いやすい値段だよね。ボニーさん教えてくれてありがと!」


ジュディの言葉に、ボニーはへへっと笑う。

それにしても人の上にいる上に、抱きつかれているというのは動きにくい。

ジュディが分けて持ってきてくれるから食べられるけど、そうじゃなかったら食べられない。


「ゾーイ、食べないの?」

「吐くかもしれないから」

「でもそれでお酒飲んだら胃がおかしくなるよ? 少しだけでも食べなよ」



具がゴロゴロ入っている茶色い煮物をすくって振り返ろうとすると、やっと腕の力がなくなったので、離れて少し立ち上がると口元まで持っていく。

少し躊躇していたが、ぱくりと食べた。


「美味しい」

「もっと食べる?」

「うん」


もうこれは介護だよと思いながら、ゾーイにご飯を食べさせる。

だけど辛い目にあった子は介護されるくらいが丁度いいのかもしれない。

そう思うと、あの店にいた被害者たちは、これから全員介護を受けられるのだろうかと思った。




それからニ時間ほど食べて、食事を終えた。

花酒は、花びらの塩漬けが浮いた度数が高い綺麗な透明なお酒で、シャーリーが嬉しそうに飲んでいた。

蜂蜜酒も綺麗で、私も飲んだけど甘くて美味しいお酒だった。

全員で満腹になって、ボニー以外の四人で全員で割って支払って店を出る。

店長さんは、最後までニコニコデレデレしていた。


「奢ってもらっちゃってありがとうございま~す!」

「こちらこそ、素敵な店を教えてくれてありがと!」

「にゃにゃーっす」


シャーリーはすごく酔っていた。

ゾーイは何も言わずに静かにしている。


「じゃあ、またね」

「はいっす。個人的には色々最高っした。じゃあ」


そう言うと、ボニーは夕暮れの中に消えた。

ボニーさん、頭がおかしくもなければ、普通にすごくいい人だった。


「じゃあ、帰って私の家でお泊りしよう。飲みなおしてもいいしね」

「そうですね。帰りましょ。聖女様」

「ぷるぷるわー」

「全員の分のネグリジェ貸すから、みんなで着ない? 前にドロテアとゾーイに着てもらおうと思ったけど断られたんだよね」

「あれは、だって透けてるから」


ブツブツというゾーイをジュディは見つめて、ドンと自分の胸を叩く。


「聖女様。アタシはいくら透けてても着ますよ。自慢のこのボディを見てください」

「わたしもきるー」

「シャーリー、あんた人語を話せるようになったの」


ジュディの言葉に笑いながら、みんなで手を繋いで瞬間移動をする。

一度ジュディの家に行ってから、四人で座れるくらいのベッドがある私の部屋に移動した。




明日は番外編を更新します。この日のアンリとリツキがやってたしょうもないことや、今後出てくる話の詳しい内心とかが書いてあります。

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