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謎の力の正体とアンリとの感覚同期

王宮に行って、チハラサに会おうとしたけどお昼でいなかった。

仕事部屋に戻ると、リツキが机からギロッとこちらを見る。


「機嫌悪い?」

「ミューが浮気してるから」

「してないよ。したらリツキかアンリが殺しちゃうし」

「しない理由を愛にしてほしい! あと、じゃあなんで、なんかゾーイがフワフワしてんの?」


リツキが先に帰ってきていたゾーイを指さす。

ゾーイはえぇという顔をしながら、手を広げて自分の身体を確認していた。

昨日と今日、何も言わずに魔王城に行ったから怒っているのかも。軽く説明したほうがいいのかもしれないな。


「今日はちょっと人に言われてゾーイとハグすることにはなったけど、ドロテアにもしたよ。やましくないよ!」

「やっぱりやってんじゃん! なんでいきなりハグばっかするようになってんだ」

「ドロテアが変な感じだから寂しいのかなって思って。たぶん魔王と喧嘩でもしてるんじゃないかな。ゾーイは本当に流れで」


説明をすると、リツキは少し落ち着いてきた。


「ゾーイは、ミューが抱きついても大丈夫なわけ?」

「大丈夫の基準がわからないけど、心配するようなことはしてないし、する気もないよ」

「そうだよ。なんならドロテアの方が情熱ハグだったよ」

「情熱ハグってなんだよ……まぁ、わかった」


爽やかに言うゾーイに、リツキは仕方ないという顔をする。

全部隠すよりは、言える範囲のことをちゃんと言った方が喧嘩にならなそう。


「よかった。あとね午前中、この前のエッチな本を書いていた作者の女の子と会ったの。その件で午後チハラサさんと話してくる」

「わかった。まぁBL本といい作者が女の子のことはよくあるよな。内容もかわいいし」

「いや。エグイよ。リツキンは読まない方がいい。近いうち燃やす」


ゾーイの言葉に、リツキは自分の本かなぁという顔をして、手元の書類を揃える。

チハラサが独身だということも聞くつもりだから、リツキは連れていけないし上手く誤魔化せてよかった。

それに、ボニーがチハラサと繋がっているとしたら、チハラサが情報を掴む速度が早すぎるという理由にも説明がつく。

色々分かってからリツキとアンリには話したほうが良さそうだ。



午後。

大聖女姿になった私は、空き部屋にガードをかけてチハラサとゾーイと一緒に入った。

机を挟んだ向かい側のソファに、チハラサが一人で座る。


「例の本の話でしたっけ。新聞には載りましたよね」

「ご助力いただいてありがとうございます。それで、ボニーさんの話なのですが」


チハラサの肩がピクリと揺れた。


「本当は結婚していないらしいですけど、でもチハラサさんってボニーさんとけっこう密に連絡とってますか?」

「……接触したのですか?」

「例の本の一部に、ガードがかかった部屋に入らなければ分からないような内容が含まれた本があったので作者を探したらボニーさんでした」


色々ごまかしながら話す。

チハラサは大きく溜息をついた。


「なるほど……結婚のことは騙してしまってすみません。あまり大聖女様まわりの色恋事に巻き込まれたくなかったもので」

「それは、問題ありません。こちらこそ気を遣わせてしまいました」

「ボニー嬢に関しては。そうですね。取引をしています。性格に難はありますが彼女が出す情報は仕事も早く正確なので」

「ドロテアにはチハラサさんに聞けと言われたのですが、彼女はなぜガードがかかった部屋に入れるんですか?」


私の言葉に、チハラサは一瞬驚いた顔をする。

それから少しだけ目を伏せた。


「……もう上にも知られているということですか。いや、しかし……こちらにも話せることと話せないことがあります」

「言いたくないことは言わなくても大丈夫です。私にもチハラサさんに内緒にしていることはありますから」


大きな体がもぞりと動いてから、こちらをチラリと見る。

そして、両手を胸の前で祈るように重ねた。


「ボニー嬢の力は、アカタイト国の神力です。神聖力とは違うものですが、親和性があるものです」


ゾーイが身を乗りだす。


「あー、そうだアカタイトだ。思い出した。でも神力はもうないって聞いたけど」

「使える者がごく一部だったので、表向きでは無くなったことになっています。アカタイトは小国ですから」

「アカタイトって建国の時に謁見に来てないですよね。一応、謁見の時には事前に挨拶をしにきた国のことは調べて覚えていたけど、記憶がない」

「そうですね。来ていません」

「あの頭がおかしい女、アカタイトの偉いヤツとかなわけ? そんなら来なくても不思議じゃないけど」

「そこまでは……。ただ知るかぎり大聖女の神聖力は破れませんが、神力を上手くかけると普通の神聖力のガードは通れるようになるらしいです」

「私の神聖力は破れないんですね」

「おそらく大聖女のほうが神に近いので、人間の力とはまた別なのでしょう」

「でも、私が神力で拘束された時、解こうと思ったんですけど、どうにもなりませんでした」

「そんなことをされたのですか? なんてことを……そうですね。大聖女様は、コントロールの勉強をしないと難しいかもしれません」


遠慮しがちに言われて絶望的な気持ちになる。

練習しても上手くできないことはあって、そのひとつが神聖力のコントロールだ。


「コントロール力は練習してもゴミなのに!」


私が嘆くと、チハラサとゾーイは変な顔をしながら笑いをこらえていた。


「神力っていうのは、ほぼ神聖力と同じ使い方? なんか自分がエロい目で見られてて嫌だから対策したい」

「ボニー嬢はゾーイさんがお好みですか。そうですね……ゾーイさんはコントロールが上手なので、大聖女から神聖力をもらって使って下さい」

「自分に取り込まないで使うってことか。了解。色々練習がいりそうだな」

「大聖女。すみません。今日はこのくらいでも大丈夫ですか? 急ぎの仕事があって」

「あ、わかりました。すみません」


突然立ち上がりながら申し訳なさそうに言われて、あわててこちらも席を立つ。

色々気になることはあったけど、こちらでも調べてから聞くことにした。






夜。アンリと一緒に寝ることにした。

アンリの顔色が最近ずっと悪いからだ。


「この前、本を見せたのは悪かったから、記憶消すね」

「ああ、顔色が悪いのはあんまり寝られないせいだから本は関係ない」

「なんか前から夢見が悪いって言ってたよね」


アンリは前から夜中に起きることがある。

でも、理由は教えてもらえない。


「まだ理由を言う気にならない?」

「うーん……」


考えながら、アンリは天蓋を見る。

それから、決意をするようにこちらを見る


「メイナがミューの姿になって手を切るのが忘れられないんだ」

「メイナ? あ、あの屋根で話しあった時?」


思い出すと、アンリはメイナが化けた私が腕を切る所を目の前で見ていた。

凄惨な光景は、遠目でみていた私より、アンリの心を深く傷つけていたらしい。


「記憶消そう?」

「でも、記憶を消すと、同じことがあった時に対処できない」


何度か消そうか考えていたのか、簡単に返事をされる。

同じことがあったところで問題ないから消せばいいのに、真面目だから我慢する方向を選んでしまうのだ。


「大丈夫だよ。私大聖女だし。腕切ってもたぶん生えてくるよ」

「おかしいな。僕の奥さん化物じゃないはずなんだけど」

「似たようなものだよ~! えっと日付っていつごろだっけ。ピンポイントで消すように頑張る」

「ミユ、最初の頃に比べたら変なところも隠さなくなったけど、明るくなったよね」

「嫌いになった?」

「そんなわけない」

「じゃあ消しちゃお。大丈夫だよ消しても何も変わらないから」


私の言葉に少し笑うと、アンリが手帳を見て、日付を教えてくれる。

ベッドに寝転がったアンリにおでこをつけて神聖力を絡める。柑橘系の味が美味しい。


「ぅ」


アンリの喉が鳴る。

問題の記憶を消した。

時間にして十数秒の話だ。


「消したよ」

「えっ、もう。あれ? 確かに……うっすら残ってるけど消えてるな。すごい」

「すぐ消せるから、嫌なことは忘れた方がいいよ」

「うーん。でもミユとの大事な記憶が消えるのって寂しい」


寝転がりながら、微妙な顔をするアンリがとてもかわいい。


(そうだ。本に書いてあった感覚同期の、アンリにやってみよう。でもどこと同期したらいいんだろ? 似たような場所?)


「アンリ! ちょっと新しい神聖力をアンリに使ってみていい? キスするやつ」

「聞かなくてもやっていいよ。そんなのいくらでも」


へら、と笑ったので、なんとなくこんな感じかなと思いながら、キスをしてみる。


「!!」


アンリがビクッとしたので、すこし面白くなってしまった。

もう少し続けようと口を重ねると、アンリの手が二人の顔の間に入って、私の舌を指で挟んだ。

間違えたかも、と思ってキスするのを止める。


「ちょ、ミユ。どういうこと? なんでキスするとさ、下の……言いたくないけど! やめなよ」


顔を真っ赤にしたアンリが少し怒った顔で抗議した。


「本で読んだから……嬉しいかなって」

「あの変な本! ミユに悪影響しか与えない」

「嫌だった?」

「嫌だったってより、人間には開いてはいけない扉がある。こじあけるな」


少し怒った顔をしながら、アンリはスルスルと自分の服を脱ぐ。

本当に怒ってはいないことは分かるので、アンリの足に遊ぶように寝ころんだ。


「でも僕がやる分には面白そう。やり方教えて」

「やだよ~相手私じゃん。なんでアンリはよくて私はダメなの」

「じゃあ場所を変えてよ。位置が悪い、位置が」


笑いながらアンリが部屋の明かりを消す。

本に書いてあった感覚同期を試した結果、癖になっちゃうかもと思った。

アンリの顔色はすっかり良くなっていたから良かったけど、こちらはヘトヘトになる夜だった。






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