お仕置きとハグとチョコの味
次の日、聖女宮に個人を特定できる形での小説は禁止と書いたポスターを貼った。
大聖女姿の私とゾーイが貼ったので、流石に誰のことを指しているのか分かるだろう。
家に戻ると、自分の姿に戻ってから魔王城に行く。
ドロテアのいる場所に瞬間移動をすると、ドロテアの部屋に出た。
「あら。二人とも。早かったのね」
「えっと……なにやってるの?」
部屋の中に、木の椅子に縛り付けられてる女性がいた。
赤茶色のクセのある二つに分けた三つ編み。
こげ茶色のワンピースがびしょびしょに濡れている。
見た目が小さくて可愛らしいので、かわいそうな感じだ。
「ボニーが書いたって言うから。おしおき」
「えぇ。こんなこと自分は望んでないんだけど」
ゾーイが引きながら言うと、ボニーが目を開けてこちらを見た。
青ざめていると思いきや、よく見たら顔が紅潮しているので、なんか変な感じだ。
「すみません。情報収集で覗き見をしているうちに、お二人に欲情してしまって」
「えっと。あの。これって拷問? そんな酷いことしないでいいよ」
ビショビショのまま謝罪するボニーに思わずかけよって、椅子にくくりつけているロープを外す。
ロープを外してもボニーはそのまま座っていた。
「ちゃんと罰は与えなきゃだめよ。感覚同期を本に書いて良いって許可を出してないのに書いたんだから」
「友達でしょ。酷いことをしたらだめだよ」
(ストレスと寂しさでおかしくなってるんだ! 魔王と喧嘩でもしたのかも。ハグをしたらマシになるかな)
立ち上がってドロテアに抱きつく。
なんかふわふわだった。顎あたりに胸がきたので、何も見えない。
「えっと? あらかわいい。ミユキに危険が及ぶことをするボニーが悪いのに、優しいのね」
「わぁ」
ギュッとドロテアに力強く抱きしめ返されて、声が出てしまった。
「えっ、もしかして恋人なのこっちっすか?」
「どっちもこっちも恋人じゃないよ。そもそもドロテアは既婚者だし、私も相手いるし」
「そうだよ。なのに自分とユキとのエロい本をいっぱい書かれて気まずいよ!」
「えっ、今ユキ呼びなんすか。熱い! それにゾーイさんはミユキさんが好きでしょう?!」
「え、は、何言って」
「余計なお世話だという言葉をボニーは知るべきよ」
ドロテアが横に手を動かす。
ボニーの口が固まった。
モゴモゴと口を動かしてから文句のようにスカートのすそを絞ると、ビシャビシャと床が濡れる。
「ボニーさんってチハラサさんと結婚してるのに、ちょっと変な人だね」
「ああ、それは嘘。他の貴族と結婚してるけど、チハラサが結婚してないと揉め事が起きるからって嘘を頼んだみたい」
ああ、リツキが独身を警戒してるからかな。気を遣わせてしまった。
ところで熱い。くっつきすぎ。ずっと抱きしめられている。
「ドロテアの身体が熱い~。そんなことよりボニーさんになんでガードがある部屋に入れるか聞きたいんだけど」
「仕方ないわね。じゃあ私は子どもを見てくるから、ゾーイは服を乾かしてボニーを話せるようにして。ミユキはお茶を入れなさい」
ドロテアは私を解放してから、お茶のセットを指さした後フッと消えてしまった。
お茶は冷めたら美味しくないから、ゾーイと一緒にボニーさんの髪を乾かしながら浄化をかける。
「ユキ、大丈夫?」
「うん。情熱的すぎてビックリした。昨日のゾーイにした時はすぐ逃げられるくらいだったのに」
「コイツに餌を与えるのはやめろよ。見ろよ。目がキラキラしてて怖い」
言われるままにボニーを見ると、ニコニコしていた。
拷問をされても大丈夫で、あんなにエッチな本を書くなんて、頭がおかしくなってるんだ。可哀想に。
「頭がおかしくなったのは、やっぱり寂しいからなのかな。ハグなんて別にボニーさんにしてもいいけどさ」
「めちゃくちゃ頷いてる。怖。絶対くっついちゃダメだよ。もう乾いただろ。お前はもう木の椅子に座れ。ソファに来るな」
騒ぐゾーイを見ながら紅茶を入れてソファに座る。
ゾーイが不安そうな顔をしながらボニーの口を解放した。
「昨日、ゾーイさんとミユキさんはギュッとしたんすか?」
ギュッと口がまた閉じられる。
「コイツなんなんだ」
「別にやましいことじゃないのに、ゾーイが過剰反応するから悪いことをしてるみたいになる」
「そんなことよりボニーさん。なんでゾーイの部屋に入れたの? 口を解放するけど、ゾーイって怒ると普通にすぐ殺しちゃうから口に気をつけてね」
はぁ、と思いながら、ボニーの口を開く。
「知ってます。前、ミユキさんを助けるのに殺しちゃったことあったっすもんね。いやー、ロマンスでした」
「口に気をつけるという意味を分かってないぞコイツ」
「でもミユキさんが大聖女とは思ってなかったんでビックリだったっす」
「えっ、知ってるの」
「そりゃあ。でも知られたら嫌そうだから、そういうのは書いてないです。別にそういう目的で書いてないし」
覗き見できてたんだから、それはそうか。
でも、殺したことを知ってるってことは、結構色んな所に入れるってことだよね。
これって、三級聖女ができることじゃない気がする。
「ボニーさんは三級聖女じゃないってことなの? でもガードを壊すってことはしてないんだもんね」
「秘密っす。金詰まれても命奪われても言わないっす。でもヒントなら、今後も小説を書かせてくれるか、サービスかで出しますけど」
「小説はだめだよ。ゾーイの生活を覗き見もだめ。犯罪。絶対NG。サービスはものによる。卑猥なのはだめ」
「しょうがないっすね。でも国王に無茶言えないんで、あたしをギュッとするか、ゾーイさんをギュッとしてください」
「そんなことでいいの?」
でも、求められると欲を感じて嫌だなぁ。
「ユキ、こっちこっち。そっちは多分、罠がある」
ゾーイが立ち上がったので、まぁいいかと思いながら立ち上がって、ワーと抱きつく。
「これでいいか」
「ゾーイさんのギュッと度が足りないっすね」
ボニーがパンっと手を叩く。
身体が勝手にギュッとくっついた。
「うっ」
少しうめいたゾーイからチョコの味がする。美味しい。
「チョコの味がした。おいしい!」
「はぁ? 変なこというなよ。口閉じろ」
なぜか顔を真っ赤にして焦っているゾーイが私を離そうとするが上手く離れない。
私はそもそもハグをしようと思って行ったわけなので、大人しく成り行きを見守っていた。
「くっそ。こっちも罠……っていうか離れないな。神聖力じゃないのか」
「ヒントっす。満足したら離すんで大丈夫っすよ」
「なんなんだ……こいつにユキがくっついてたら、もっと酷いことになってたんだろうな」
「卑猥なことはだめって言ったから大丈夫だよ」
「アイツを信じるなよ。それにしても、この力なんなんだろう。他の国にも神聖力に似た力があるとは聞いたことがあるけど」
「そうなんだ。覚えてる?」
「頭が働かないからな~」
少し気だるげな疲れているゾーイを、ボニーはニコニコとみている。
私も出力を上げて身体を離そうとしてみたが、できなかった。
(大聖女の私が離せないってことは、本当に神聖力は関係なさそう)
でもゾーイはなんか照れてるし汗をかいてるけど、こっちはドロテアより熱くなくていい感じだ。
見上げると目が合ったので、なんとなく少しだけ恥ずかしくなって目をそらす。
不意に、視線の端に何かが見えた。
「これってどういう状況かしら」
ドロテアだった。赤ちゃんを抱きかかえている。
「ドロテア~! なんかボニーさんの要求をのんだら離れなくなった。神聖力じゃないみたい」
「あぁ。ミユキって疑うことをしない時があるのよね。言いたいけど、わたくしも契約があるから言えないし」
「かわいいっすね。ミユキさん。ゾーイさんが一緒にいるわけです」
ゾーイが手を上げてボニーに向けてブンと手を振る。
ボニーが手で払うと、ドロテアが慌てて手を振った。
ドン、と音がして、天井に何かが当たってヒビが入る。
赤ちゃんがキャッキャと笑った。
「まったく。わたくしにはゾーイの攻撃は防ぎきれないのよね。アンタたち、人んち壊すのやめなさいよ。もう帰りなさい」
「ごめんねドロテア」
「ミユキは何もしてないでしょ。はぁ……ボニーはミユキを解放して。神聖力をあげるの止めるわよ」
「それは困るっす」
フ、と身体をくっつけていた力が無くなる。
ドロテアがチラリとこちらを見ると、ボニーの頭がカクリと力なく垂れた。
「はぁ、やっと解放された」
ゾーイがヨロ、と私から離れてソファに座りこむ。
「ミユキ。悪いけどボニーを気絶させたから連れて帰って。ゾーイは殺すかもしれないから」
「わかった。私がちゃんと連れて帰るね」
「別に殺さないよ。まだ情報を得てないのに」
「言っとくけれど、ボニーは本当に殺されても言いたくないことは言わないし、攻撃に出ると危ないから変なことはしないでね」
「あと、わたくしは契約を結んでいるから言えないけど、ヒントをあげる」
「ヒント?」
「チハラサに聞きなさい。あと二人はボニーとはあまり話さないように。嘘も普通につくからね」
真面目な顔をするドロテアに、あ、冗談じゃないんだと頷く。
その後、ボニーはゾーイが背負って帰って、王宮の前で目を覚まさせて帰ったらしい。
私はというと、ゾーイの家が覗かれないように一応私がボニーさん専用のガードを張った後、チハラサに話を聞くために王宮に向かった。
これから一日おきの更新となります。 番外編( https://ncode.syosetu.com/n2748ko/ )は明日更新します。