聖女宮の聖女が発情していた原因
次の日。
リツキは朝からチハラサさんの所に行った。
なので、私とゾーイだけで仕事をするのだが、今日はあの本の作者を調べなければならない。
「ゾーイ~。今からドロテアに会いに行くけど来る?」
「……なんで?」
「ゾーイと私のエッチな本の作者を聞きに行く。詳しすぎて変だから」
「読んだのか」
「あの小説、変だよ。あんなのガードかけてる部屋の中を見れなきゃ書けないんだから」
「そうだけど、もう引っ越し済みだから当時どういうことをされていたかも調べようがないからな」
「引っ越してからは覗かれてない? 私、まだ全部読めてない。読むの難しくて……」
「大丈夫だと思いたいけど微妙。あの本、あんまりユキには読んでほしくない。気まずくなるし」
「……うん。なんか……恥ずかしいよね」
二人でモジモジしてから、例の本を持ってドロテアに会いに行く。
家のポータルから魔王城に移動する。
一応、電話のように話せる黒い板でアポイントをとっておいたので、ドロテアは広間で待っていてくれた。
ドロテアの赤ちゃんがつかまり立ちしているのを、侍女が見守っている。
成長が早すぎると思った。
「ミユキ、いらっしゃい。ゾーイも。それが例の変な本?」
「うん。ドロテアなら聖女に詳しいと思って」
「まぁ人よりは詳しいわね」
ドロテアに本を渡すと、ペラペラと高速で本を読みはじめる。
神聖力で早く読んでいるのか、一秒くらいで一ページが読めている。
「ん……この内容。ここで読むものでもないわね」
「実はお菓子も作ってきたよ。今はドロテアにしか作ってないから腕落ちたかも」
「あら、相変わらず可愛いこと言うわね。部屋に行きましょうか」
ドロテアは、侍女に部屋に行くから子供をみているように伝えると、部屋に瞬間移動した。
ソファに座るように言われて、隣にドロテア、目の前に机を挟んでゾーイが座る。
えへへ、と思いながらカバンから昨日の夜焼いた、木の実のソフトクッキーが入った箱を取り出す。
昨日の夜、ドロテアに聞かなきゃと思って作ったクッキーだ。
朝に、元気がなかったアンリとリツキにあげたら二人とも喜んでいたので、作って良かった。
パカッと箱を開けると、紙に包まれた大きなクッキーが壊れずに入っていたのでホッとする。
「今日はね、ソフトクッキー。外側がカリッとしてるのに、中はしっとりしてるの。大きいクッキー作りたかったんだ」
「へー、本当だ。手のひらより大きいじゃん。美味しそう」
「そんなことより、この本に書いてあるアンタたちと口調が同じで生々しいわね。目の前で聞いてると複雑な気分になるわ」
「浮気してないよ。なんなら一週間前からゾーイが急にくっつかなくなったし」
「これ読んだら気まずすぎて」
「ならいいけど」
ドロテアは私たちに紅茶を出してからクッキーを食べる。
「美味しいわ。大きい木の実の他に、生地にもちょっと木の実が入ってるのね」
「店で売れる味だな~」
「喜んでもらえて嬉しい」
ドロテアが再び本を読みはじめる。
もう二冊目に突入していた。
「ユキはどこまで読んだ?」
「二冊目の途中まで。なんか、聖女同士ってそうなんだと思ってビックリして本閉じちゃった」
「よくそこまで読めたね! 自分はその前の誘い文句みたいなのが恥ずかしすぎて、次の日に回した」
「今日くらい全部忘れて何とか何とかみたいなやつだっけ。それはゾーイは言いそうだなーって思ったけど」
「言わない……たぶん」
ゾーイは珍しく手で顔を隠していた。
そうなんだよね。記憶を見られるのにも慣れてないくらいなのに、こんな本出されちゃって恥ずかしいよね。
「あー、感覚同期の方法まで書いてある。せっかくゾーイには教えないようにしてたのに」
感覚同期は、指定の場所と指定の場所の感覚を同期させられる技だ。
過去に私は、ドロテアにリツキの手とブラジャーが入れ替わったような同期をさせられたことがある。
「人をなんだと思ってんだ。別に知っててもいいだろ」
「まぁ……でもおかしいわね。これ初期の方法だわ」
「初期?」
「この方法は私が魔王に教わったのを聖女宮で広めたんだけど、同期場所が初期は舌だったのを、広める時には口内にしたのよね」
「ドロテアのせいで聖女宮がおかしくなったんだよな。最悪だよ」
「でも、感覚同期って、同じ口の中じゃ、あんまり違いがわかんなそう」
「やってみる? やると違いが分かるわよ」
隣にいるのに、ズイっと近づいてこられて、少し固まってしまう。
ドロテアが距離感が近すぎるのはいつものことだけど、発言が危ない。
感覚同期は指定する場所の感覚を他の場所と入れ替えるものだから、使いようによってはすごくエッチだ。
「え? したいの? 浮気だよ」
「堅いわねぇ」
グイッと背中を後ろに引かれて、ドロテアと距離が離れる。
ゾーイが神聖力で私の身体を引いたらしい。
「冗談でもそういうこと言うの止めな。ユキは真に受けちゃうんだから」
なんだ、冗談か。
そうだよね。ビックリしちゃった。
ドロテアは何も言わずに、首を傾げるように空を仰いだ。
「えっと。じゃあ、その初期の感覚同期を知ってる人が作者ってことだよね」
「たぶん、ボニーじゃないかしら。あの子、どこでも行けるし初期も知ってるから」
「えっ、ボニーさん? チハラサさんと結婚しててドロテアの結婚式にも来てた?」
「マジで。だから結婚式に着てった服が一番新しい本で載ってたのか。人妻のストーカーとかヤバいな」
「そんな欲望に忠実に本人の生活を覗き見て発信なんて悪質だし良くないよ。ゾーイが性的に搾取されている」
「まぁユキもだけどね。でも大聖女がガードかけたところは入れてないっぽいね。そのへんは安心だ」
「えっ、じゃあ私が二人と結婚してることも、弟とそういうことになってるってこともバレてないんだ! 良かった」
「相変わらず聞くだけだとめちゃくちゃふしだらな関係」
ゾーイに言われて、ギュッと顔をしかめる。
私だってなんでこんなことになったんだとよく思ってるのに、そんな言い方ひどいよ。
「まぁ、ミユキが頑張ってるから世界が平和だから、よくやってるわよ。明日、もう一回来てくれる?」
「明日? いいけど」
「ボニーに連絡取るけど、場合によってはお仕置しないといけないから。明日の昼にきて」
「おしおき……わかった」
少しだけ冷めた目をしているドロテアは、少しだけ怖い。
残ったクッキーと本を置いて、二人で魔王城を後にする。
仕事場に着いたのは、お昼をまわった頃だった。
伝言メモで、新聞社に行くからお昼は一緒に食べられないとリツキのメモが残っていた。
二人でモグモグとお昼を食べる。
「おしおきって何するんだろ」
「知らないし、知らない方が良い気がする。特にユキは」
ゾーイは私を子供っぽく見てる時がある。アジア人は子どもっぽく見えるから、そのせいかもしれない。
「なんかエッチな方法を広めたのがドロテアだっていうのが、意外すぎるよね」
「外見からそういう女だろ。でもさっきのさー。したいって言われたらどうするつもりだった?」
「ああ、口の? 浮気だからしないよ」
「浮気だからしないんだ。嫌とかじゃなくて」
「どうなんだろ。リツキの時に思ったけど、キスとかしちゃうとどうしても関係変わるし、遊びでやることじゃないかなって」
「弟とのことは、やっぱ後悔したことあるんだ」
「いっぱいしたよ。たぶん今でも傷つけてるし。昔のきれいな時には戻れないんだなとか思ったし」
お茶を飲みながら言うと、ゾーイがへぇ、といいながら真似するように紅茶を飲んだ。
「だからね。大事な人は気持ちは大事にしたいから深いことしない。浮気だし。流石に殺されちゃうし」
「……なるほど」
そもそもドロテアはあんなことを言う人じゃないし。
きっと、子育てで疲れはてているんだ。可哀想に。
ストレス軽減にはハグがいいらしいし、今度やろうかな。
「ドロテアは寂しいのかもね。ギュッとしとこうかな。それでたぶん満足するよ」
「確かに、それでいいかもね」
「ゾーイもしとく?」
「おま、あの本読んでいてよく言えるなぁ」
「創作と本人は別物だし意識しすぎじゃない? でも二人きりだと見られた時に怪しい気がするからやめとこう」
「そーだね。命は大切にしたいよ」
ご飯を食べ終わって、二人で仕事をする。
リツキが帰ってきた。
「明日の新聞に載せてもらうことになった~」
「お疲れ様。ありがとう~!」
立ち上がって手を広げて走っていって抱きつく。
リツキが少し驚きながら抱きしめ返してくれた。
大きいし、身体が厚くて硬い。
「えっ、サービスデー? 生きてると良いこともあるんだな」
「こんなにエッチなもので助かる世の中は、ハグが必要なんだと思って」
「エロ本を読んだらミューがおかしくなった」
そう言いながら、リツキはへへと笑っている。
やっぱりみんなストレスだらけで寂しいんだ。ハグ運動をしなければ。
「よし、次はゾーイ」
「えぇ」
リツキから離れて、わーと走っていく。
観念したらしいゾーイに抱きつくと細かった。
「ほっそい! 私が太いんだ!」
「ユキは柔らかいけど、相手からされるとなんか違うな」
言いながら抱きしめ返してくれた。
「なんなんだ。この状態。誰か説明してくれ」
リツキが呆れたように後ろから歩いて来た。
ゾーイも男の人ともやったほうがいいのかな?
でも襲われた経験がある人にそれは良くない気がするし、今はこれでいいか。
「説明はさっきしたよ」
身体を離してヨシッと思う。私もなんか元気になった。
ゾーイは何も言わず、何か考えているようだった。
帰ったらアンリにもやろうと思いながら仕事に戻る。
なぜか三人とも仕事の進みが良かった。