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八ヶ月後

八か月後。


王宮の私専用の執務室に、リツキとゾーイがいる。

私専用なはずなんだけど、二人はこの部屋に席を移して、ずっとここにいた。

厚いガードがかかったこの部屋の中では、私は大聖女ではなくてミユキのままで居ていいことになっていた。

とはいえ、ミユキのままでいると休み時間にリツキがイチャつきたがるという困ったクセがあるせいで、基本的には大聖女のままでいる。


「大聖女。新しい決定と承認分」

「もうやだよ~」


無情にもバサッとゾーイが私の机に報告書を置く。

最近、チハラサが私に物事を決定させるように報告書を変えてきた。

難しいので時々チハラサに聞いてなんとか処理しているけど、いつまでも甘えてはいられないなと思う。


「次、記憶を消す時期を教えてほしいって質問が来てるけど、いつ?」

「半年後。次は民間の人も受け入れることにして、失恋とか軽いのは受け入れないことにしよう。キリがない」


聖女や神官の致命的な記憶は、ここ半年でほぼ消すことができたように思える。

私が指の骨を潰したサラ・デイヴィスは酷い記憶だけじゃなくて、モーリスとの記憶以外に他の失恋まで依頼してきた。恋多き女すぎるし、恋より指を潰された記憶は消さなくていいのかと思ってしまった。


あれからもう一度ガラレオに行って、残留していた聖女と神官に意志を聞いたら、全員この国に戻ってきた。

私が大聖女だとばらしてしまった神官は、笑いながら言わないでくれることを約束してくれたので、多分大丈夫だろう。



メイナは囚人ではなく、普通に労働者のように働いているらしい。大人数に合わせた家事をしてきたことがないので苦労しているとのことだ。

それでも子供たちの面倒を見ている今の方が幸せそうだと聞いた。

ユラは子どもたちに混じって仕事をしているが、最近一番年長者と恋人のような感じになっていたので、モーリスが性教育の授業をしているらしい。

どこまでの抑止力になるかは分からないが、本人たちが後悔しないように生きていけたらいいと思う。


リツキが書類をまとめて、ケースに入れる。

そんな時間かと思って、ミユキの姿に戻った。


「今日は新しい家に行くから、そろそろ明日にまわそう」

「アンリがここに来てくれるらしいから、待ってよう」

「本当に自分も今日行っていいの? ミユキも初めて家に入るんだろ?」

「ドロテアと魔王も来るから。今日はパーティーだからゾーイも一緒に行こう」


ニコッと笑うと、ゾーイも晴れやかに笑う。


「ありがと。ウィリアムソンの家の料理人を新しい家に引っ張ってくるんだから、モーリスさんも気の毒だよな」

「兼任だよ。最近、ユラのほうの子どもたちに、ここから出ても生きていけるように勉強を教えていて忙しすぎて帰れてないらしいから」

「先生を雇った方がいいと思うけど、あの人っていつも自分でやってるというか苦労人だよなぁ」


目の前に、フッとアンリが現れる。


「……疲れた」


疲れていた。

続けて魔王とドロテアが現れる。


「新しい家にポータルを設置し終わったわよ」

「ドロテア、赤ちゃんは? 置いてきて大丈夫なの?」


三か月前に子どもを産んだドロテアは、もう見事なスタイルに戻っている。

お手伝いさんがたくさんいるので今日のパーティーには赤ちゃんを置いて参加してくれるとのことだ。


「大丈夫よ。ちょっと心配だけど、魔王が今日のために頑張ってくれたから。貴方のうちと繋がってるからすぐ帰れるし」

「聖女ちゃん。オレの扱いが業者みたいなんだけど。本当に一国の王をなんだと思ってるんだ」


魔王は心底疲れていた。

アンリは私には優しいけど口も悪いし態度も悪い。失礼がないといいんだけど。


「なにがあったのか分かりませんが……うちのアンリがすみません」

「頼んでいたことを終わらせてもらうよう頼んだだけなのに」


そう言いながら、アンリはニコニコしながら箱を持ってきた。


「やっと作り終わった」

「うぉ。アレ? ギリギリじゃん」


リツキが喜びながら寄っていった。

そして二人で私の近くにやってきて、箱を開けた。


中には、ペンダントトップが二つある。


「ミユ、ネックレスを出して」


言われて、服のボタンを少し開けてネックレスを外に出す。

二人がペンダントヘッドを一つずつ手に取った。


「俺のこれは、俺の力をミューが使えるようになるやつ。神聖力無効とかが使えたら安心だから」


そう言いながらリツキはペンダントヘッドを私のネックレスに当てる。黒い石の中央に緑色が少し見える。

神聖力を加えたのか、簡単に私のネックレスにペンダントヘッドがくっついた。


「僕のは、本当は命がなくなりそうなら自分の命をあげたかったけど、だめだって言うから危ない時に僕を強制的に召喚する機能」


重いことを言いながら、アンリもペンダントヘッドを私のネックレスに当てる。黒い石の中央は少し金色になっていた。

リツキのペンダントヘッドと驚くほど対称的にネックレスにくっつく。

ペンダントヘッドを補強するように、花咲くように細い銀細工が現れてすごく可愛くなった。


「かわいい、け、ど、でも、なんでこんなものを? なんか凄い効果が付いてるし……」

「本当は指輪が良かったんだよ。結婚指輪。でも大聖女姿の時に隠さないといけないって言うからさ」

「これ、結婚指輪の代わりなんだ! 嬉しい、ありがとう!」

「本当は建国日にあげたかったんだけど、魔王も僕たちもそんな暇が一切なかった」


二人はそう言いながら首元に手をあてると、元の私が使っていたものと同じようなデザインのネックレスが出てきた。

ゾーイがウ、という顔をする。


「ミユキとお揃いが良かったのにこの二人とお揃いになった」

「俺も不快だよ。なんでデザインが同じなんだ」

「僕も思ったけど、できてから修正はできないから仕方ない」

「似ちゃったけどちょっとは違うぞ。そもそもオレはデザイナーじゃないのに多くを求めるな。でも君ら以外は作ってないから良いじゃないか」


仲良く話している姿を見ながら、ジーンとしてしまう。

結婚指輪じゃないから感動するタイミングを失ったけど、すごく嬉しかった。


「なんか、監視機能とかついてそう」

「頼まれたけど可哀想だから断った。こいつらの感情に従うと聖女ちゃんのプライバシーがゼロだ」


ゾーイの言葉に、魔王が冷めた顔で言う。よっぽど断るのが面倒だったらしい。

ユウナギ邸で覗き見していたと知った時はなんて奴だと思ったけど、魔王がまともで本当に良かった。


「素敵なネックレスを作ってくれてありがとうございます」


魔王に言うと、魔王とドロテアが微笑む。

きっとすごく大変だったんだろう。こんな一介の人間のために頑張ってくれて嬉しい。


「二人とも本当にありがとう! ずっとつけるし、大事にする!」


感謝すると、ふたりは照れながら笑っていた。

二人は笑って私のおでこと頬にキスをする。


(諦めないで動いてきて良かった)


もう一度人生を繰り返したとして、同じ結論に辿り着くのなら同じ道を選ぶだろう。

受け身でいることは責任がなくて楽だ。他人にとって都合のいい態度は他人にとっては受け入れてもらいやすい。

けれども、自分を大事にしてくれない人に当たった時は不幸になるし、自分が望む未来を得にくい。

本当に自分を思っているなら、相手は自分を尊重してくれていると分かったから。

だからこそ、ちゃんとした意志を持って生きるようになって良かった。



「じゃあ、そろそろ家に行くか」

「私ね、この前ドロテアに手を繋がなくても全員瞬間移動する方法を教えてもらったんだ。それやってみる!」

「どうせミユのことだから、空中散歩をするつもりなんだ」

「もちろん! 記念だしね」


明るく言うと、二人は笑いながら両方の手を繋いできた。


「手を繋がなくても大丈夫なんだけど……」


二人は何も言わないまま、微笑んで私を見る。

後ろにゾーイがくっついてきた。


「いや、なんでお前まで来るんだよ」

「ドロテアと魔王が夫婦で手を繋いでるのに、一人は寂しすぎるだろ」

「俺らも夫婦なんだけど」

「一人多いから、まぁいいかなって」

「仲間外れは可哀想だからいいよ。腰に掴まってて。今回の方法は落ちないと思うから」

「ミユキ、ありがとう」

「あ~家を貸さなければ良かったかもしれない」


三人が仲良く話しているのを聞きながら、これからもこんな感じなんだろうなと思う。


歴史を見た時に、内情がこんなことになっているなんて誰も分からないだろう。

でも歴史なんて後世が見てもいいように改ざんされるものだから、これでいい。




「じゃあ、いくよ!」



両手がギュッと握られて、後ろにも体温を感じる。

ふと横を見たら、ドロテアと魔王がこちらを見ていた。



「いーち、にーの」



自分の力で踏み出せる心があるから、もう未来への恐怖は何もない。

どんなに頑張ったって、100年後に私たちは生きていないから。

せめてこの長いようで短いこの人生を、愛しい人たちと共に生きていきたい。

この世界が永久に続くように願いながら。



「さん!」



目の前に夕暮れの空が広がる。

オレンジ色の世界が、夜明けを告げる朝焼けに見えた気がした。






















制限付きの大聖女・終















最後まで読んでいただきましてありがとうございました!

詳しい後書き的なものは活動報告にあります。

もしかしたら続編も書くかもしれません。ブクマや評価などしていただけましたら、今後の指標とさせていただきますので、どうぞよろしくお願いします。ゾーイをどうしたらいいんだ。

ある意味正しくも綺麗でもない話を私と一緒に歩んでいただきまして本当にありがとうございました。

今後ともよろしくお願いいたします。花摘猫でした。

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