魔王とドロテアの結婚式
ドロテアと魔王の結婚式当日になった。
大聖女姿で正装を着る。ミユキの姿で作ってもらった服だから、ちょっとだけジュディにデザインを変えてもらって違う感じになっている。
リツキもアンリも正装を着ていた。
式の流れは建国祭の時とほぼ同じらしいので、参考のためにきちんと見ておかなければならない。
個人用ポータルから魔王城に行く。
ゾーイも個人用ポータルを使って来るらしいが、正装を受け取るのが今日ということで、遅れるらしい。
式を控えた魔王とドロテアの部屋に行った。
「ドロテア、魔王ご結婚おめでとうございます!」
元気よく室内に入る。
室内にはドロテアしかいなかった。
だけど、ドロテアのドレス姿は美しかった。
身体の線は見えるけれど裾や袖が長く伸びていて豪華な布地をふんだんに使っており、頭の黒いヴェールは金糸のようなものでキラキラと光っている。とても荘厳で今までも美人だったけれど、凄まじい美貌だなと思ってしまった。
「ドロテア!! すごくキレイ!!!!」
「あら、ミユキ……って大聖女姿なのね。戻ってほしいわ」
「嫌? こっちの方が可愛いのにな」
パッと元に戻る。
この部屋にいる時くらいはこれでいいだろう。
「やっぱりこっちのほうが落ち着くわ~」
「スカートの布とか、頭の布とかすごく長いけど歩けるの?」
「神聖力で浮かせられるから。魔王は最終確認中よ」
「そうなんだ」
「ねぇ。ミユキ。お願いがあるんだけど」
「いいよ。何でも言って」
「パレードの時ね。わたくし、お花を降らせようと思うの。その時にミユキにも光の粒を降らせてほしいのよ」
「光の粒? 私、光を出したり形にするの無理みたいなんだけど……」
「呪文を書いてきたから、これを使えば多分大丈夫。コントロールが難しいミユキ用に細かく指定してあるわ」
紙をドロテアからもらったので、読んでみる。
全部読み終わると、薄ピンクの光の粒がキラキラと降り落ちた。
「うわ、できた~きれい!」
ただの幻想のようなふわふわキラキラとした薄ピンク光は、頭の上に落ちてきても危ないとは思えないだろう。
「これをわたくしの結婚式のパレードと、あなたの建国祭の時のパレードの時にやるの。貴方たちも結婚みたいなものだしね。わたくしたちの友情の証で、民が喜ぶのよ。最高でしょ」
「友情の証……いいね、素敵!!! うん。がんばる!」
そんなの最高過ぎる。頑張るぞ!!
アンリとリツキは私が手に持った紙を盗み見ると光の粒を出していた。アンリは薄い黄色でリツキは薄い緑色だった。
「ちょっと。アンタたち。わたくしとミユキの友情なんだから邪魔しないでよ」
釘をさすドロテアに曖昧に二人は笑う。
そんな時、魔王がフッと現れた。
「テア、式にいくよ~」
「あら、もう時間?」
「魔王、ご結婚おめでとうございます!」
三人で挨拶をすると、魔王はニコッと笑った。
「三人ともよく来てくれたね。そろそろ式だから移動して」
魔王の言葉に、ドロテアと別れて大聖女姿に戻ると、式場に行く。
大きな教会には、色んな人がもう座っていて、中にはチハラサらしき後姿もあった。
「チハラサさん!」
声をかけると、チハラサはこちらを振り向いて会釈した。
「大聖女。目立つので声は抑えてください。あとこれ、うちの進行表です。似たような流れですので確認しつつ私達の進行に役立てましょう」
「あ、ありがとうございます」
五枚ほど同じ進行表を貰う。
やはりすごい。実質国を動かしているだけある。
「あとこちら、妻です」
横にちょこんと座っている人物を紹介する。クセのある三つ編みは、どこかで見たことがあった。
「初めましてェ~」
「ボニーさん」
「はて、なぜ名前を?」
「ドロテアさんから聞いたことが……初めまして。ニシダです」
「あ、なるほど。ボニーです。恥ずかしいですね」
聖女宮にお泊りした時に変身したボニーの本物がここにいた。
テレテレと恥ずかしがっている様子はとてもかわいい。
チハラサと別れて、紙をリツキとアンリに渡す。あと二枚はたぶん、ゾーイとモーリスの分だろう。
三人で席に座っていると、モーリスさんがやってきたので、紙を渡す。モーリスの服装は、正装だが体格が大人っぽく、やはりアンリとは違っていた。
「遅刻するかと思った」
ゾーイが現れた。
黒い正装だが、斜めのレースでできたパレオみたいなものがついたスーツのパンツルックで、なんかおしゃれだ。
「ゾーイの正装おしゃれだね。はい。これチハラサさんから」
「なにこれ。あ、うちの進行表か。確認のためって感じだね」
ゾーイは私の前に座りながら言った。
音楽が流れて式が始まる。
魔王とドロテアが中央の道を歩くと、ヴェールが重力がないようにひらめいていた。
神聖力を使ってドレスを操ると、観賞魚のように裾がひらめいて美しい。
流れるように式が進行していくが、進行表とほぼ同じだと分かった。
ふと横を見ると、アンリとリツキの顔色があまり良くなかった。
(……お腹でも壊れたかな?)
考えているうちに、教会の式が終わる。
二人で書いた結婚書という書類を書くあたりも、進行が一緒だったので、自分たちがやる内容が大体理解できた。
次はパレードだ。
魔王城からポータルがある位置までパレードをするらしいので、その区間私はドロテアと約束した友情の証をみんなに知らしめなければならない。
ウキウキしながらみんなで外に出る。二人は相変わらず元気がなかった。
ゾーイとモーリスがトイレに行ってる間に二人に話しかける。
「二人ともお腹痛いの?」
二人は渋い顔をしていた。
リツキが深く溜息を吐く。
「ミューは気付かない?、あの結婚書みたいのの代わりに建国届を俺達書くじゃん」
「そうだね」
「大聖女の名前になるってこと」
「……あ」
「僕、ミユがいいのに。結婚の方がよかった」
二人の言葉に、絶句する。
確かにそうだ。
二人ともニシダと結婚したくないという感じだったのに、おかしなことになる!
「ぜんぜん気づかなかった」
私もしぶい顔になる。
トイレから戻ってきたゾーイがドン引きしていた。
パレードは国民の熱狂的な歓迎をうけてスタートした。
花で飾られた立派な馬車に二人は乗り手を振る。
正装から普通の服に着替えて、私も二人のパレードを見る。
ゾーイ以外は全員、仕事が大変なのでパレードを最初だけ見てサッサと帰ってしまったので、屋根の上に登った。
ドロテアが白い花を降らせたので、私もピンクの光を散らす。
瞬間移動をしながら散らしているのだけど、花とピンクの光の粒が舞い散る様子はとても美しかった。
(建国届のことは後で考えるとして、今はこれをちゃんとやりきらなきゃ)
呪文をブツブツと言いながら、光の粒を降らせていく。
ゾーイが私が手に持っている紙を見る。
「ミユキがあのピンクの光の粒を降らせてるの?」
「うん。私達の建国祭の時もね。ドロテアが花を降らせてくれるんだって。だから友情の証なの」
「ふぅん」
つまらなそうに呟いて光の粒を出している。淡いオレンジ色の光の粒だった。
「ゾーイは帰らなくていいの?」
「大聖女を一人で置いて帰れるわけないだろ。でも屋根の上だし、ミユキに戻っても良くない?」
「別に一人でも大丈夫なのに。でも、ありがとう。姿はミユキに戻ってもいいとは思うけど気になる?」
「うん。じゃあ戻って。危ないから」
そんなものかなと思いながら、光の粒を出しながらミユキの姿に戻る。
パレードはやがて街に入って、やっと終着地点に着いた。
花が止んだので、光の粒を出すのをやめる。
「やっと終わったから、下で何か食べようか。ゾーイ付き合わせたしおごるよ」
「別にいらないけど、喉かわいたからなんか飲もう」
下に降りて、適当な飲み物を買って飲む。
久しぶりに街に降りたけど、アーロンさんがいい仕事をしたのか、街が臭くなくなっていた。
「街が臭くなくなってる!」
「前臭かったのか? ぜんぜん匂いなんてないけど」
「外で飲み物なんて飲めないくらいだったよ。やっぱりプロに頼むといい仕事をするんだね」
馬車の上で演説する魔王を二人で見る。
隣のドロテアはニコニコしているが暇そうだった。
『ドロテア~!』
脳内に語りかけると、ドロテアがこちらを見てパァっと微笑む。
そして、沢山花を舞散らせた。慌てて私もたくさん神聖力を使って薄ピンクの光の粒を舞い散らせる。
あまりに沢山の花と光の粒が降ってきたので、まわりの人たちがわぁっと声を上げて喜んでいた。
屋根の上から見たのではわからない光景を見て思わず私も嬉しくなる。
『うちの国でやる時は、自分も花を散らせようかな』
脳内にゾーイが話しかけてきた。
『ゾーイならきっと薄いオレンジの綺麗な花が咲くのかもね。今やってみたら?』
『今? ちょっと花のぶっつけ本番は失敗すると悪いから光の粒にしようかな』
そういうと、私が出す光の粒よりふわふわとした薄オレンジの光を降らせる。
二種類の光と桜吹雪のように舞い散る白い花を見る国民の目は幸せそうだった。
ドロテアが嬉しそうに私達二人を見る。
『ありがとう』
脳内にドロテアの声が聞こえた。
花も光もすぐに消えてしまうけれど、人々の脳内に刻み込まれた幸せな記憶は後まで残るだろう。
その役に立てたことが、心から嬉しかった。