ドロテア・ゾーイとお泊り会
魔王城で食事を終えて、ドロテアの部屋に三人で行く。
ゾーイはちょっと嫌そうだったが、ドロテアのベッドはアンリより少しだけ大きくて三人くらい余裕で離れて寝られるので問題はないだろう。
女子会みたいなお泊り会は本当に久々だし、私も楽しみだった。
「なんで独身最後にお泊りしたかったの? 別に結婚してからもできると思うけど」
「魔王の子供は育成が早いから、五ヶ月くらいで生まれるのよ。だから結婚したらその覚悟をしなければならないの」
「五ヶ月?! 内臓は大丈夫なの?!」
「だから神聖力が高い聖女じゃないと、魔王の結婚相手にはなれないのよ。いろいろケアができないから」
「なんか大変だな。そんなリアルな事情だとは思ってなかった」
みんなでソファに座りながら二人が話すのを聞く。
ふと、お泊り会だからネグリジェを持ってきたことを思い出した。
自分のものだけどネグリジェなんてフリーサイズだから二人も着られると思って、一回しか着ていないのを持ってきたのだ。
「じゃあ、今日は楽しもう。私はねぇ! 三人分のネグリジェを持ってきたよ」
「そのデカい袋、全部中身ネグリジェなのかよ」
「なんかアンリがネグリジェを死ぬほど買う趣味があるから、一回しか着てないからみんなで着ようと思って」
「自分とはサイズが合わないから嫌だ。あと趣味じゃない。なんか透けてるし」
「透けてないの選んできたよ。サイズもそんな違うかなぁ」
「私ともサイズが合わないわね。胸部分に引っ張られて美しく着られないわ。でもそうね見本に着てみてくれない?」
「でもみんな着ないんでしょ。私だけは嫌だ」
「見て気が変わるかもしれないし。それにこれしか寝る時の服持ってきてないんでしょ?」
それもそうかと思って着替える。
ドロテアはニコニコっと笑い、ゾーイは目をそらした。
「こうやってミユキはドロテアの言うことを聞くんだなと理解してしまった」
「可愛いでしょ。筋が通ってると納得するのよ」
「なんかバカにしてない? 嫌だったら断れるよ」
だって二人とも断るとは思ってなかったけど、他に寝巻を持ってきていないのは確かだし。
とりあえずネグリジェを着る。
「着れた。かわいい。なんでみんな着てくれないの」
「可愛いわね。でもわたくしは足とかがけっこう出ちゃうから無理よ」
「透けてるじゃないか。下着見えてるよ」
「これ透けてるうちに入るかな? もっと家の透けてるよ。しょうがないから着てるけど」
私の言葉にゾーイはなんだこいつという顔をした。
足なんか座ったらどうでもいいし、ダブルガーゼみたいな素材だからちょっとは透けるけど服だって透けるから良くない?
でも、二人は着てくれそうもないから仕方ない。諦めよう。
「じゃあゲームやる? 恋とかの話する?」
「まずは、お酒のむわよ~妊娠したらもう飲めないんだから」
ドロテアはお酒を三種類とグラスを取り出して、三つ置いた。
「自分はこれ飲もう。ミユキはこっちの甘いのがいいんじゃないか?」
「そうね。ミユキにはちょうどいいかも」
二人が薦めてくれたお酒を入れると、金色だった。
「それじゃ良い夜にしましょう」
ドロテアの言葉のあと、みんなでお酒を飲む。乾杯とかしないらしい。
飲んでみると、金色のお酒なのに牛乳っぽい味がした。
「なんかチチカカポの乳の味がする。ゾーイの神聖力入れてほしい」
「いいよ」
ゾーイが神聖力を入れてくれる。チョコ味のお酒! 嬉しい!
「ゾーイの神聖力ってどんな味なの?」
「私が作ったカーマみたいな味をもうちょっと美味しくした味!」
「えっ、わたくしにも飲ませなさいよ」
ドロテアが言うので、お酒を渡すと、一口飲んだ。
「美味しいわ。シェフを呼んでちょうだい!」
「自分がシェフだなぁ。なにもしてないけど」
「私もゾーイの神聖力の味好き。でも中毒者が出そうだから、他の人には薦められない」
「なんだよそれ」
ニコニコとゾーイが笑っているので、神聖力が褒められるのは悪い気分じゃないらしい。
結局、ドロテアと私はゾーイの神聖力入りのお酒を飲むことになった。
「そういえば、なんか前に聞いてきた男を喜ばせる方法とかは分かったの?」
「あ、聖女を助けに行くときに二人に私からイチャイチャするって約束したやつ! そういえばサービスすること自体忘れてた!」
「なんてことを約束してるんだよ」
「だって一人でガラレオ行っちゃダメだっていうし。約束しなかったらゾーイはまだ塔の中だったよ」
「いや人を助けるのにミユキがそういうことをしなきゃいけないのは可哀想だろ」
「別に大丈夫だよ。自分から言ったし。忘れてたけど」
「まぁ本人がそういうならいいけど」
「なんか、遠い昔のことみたいね~ついこの前のことなのに。ミユキが来てから色々ありすぎるわ」
「塔から出してもらえてよかったよ。ありがとう。いくらでも酒に神聖力入れてあげるよ」
「やった~。美味しい」
ゾーイにチョコのお酒を作ってもらって、続けて飲む。
けっこう酔ってきてる気がする。
「ミユキ。こっちに来なさいよ。わたくしの親友なんだから」
ドロテアに手招きされて行くと、なぜか膝の上に座らせられた。
「重くない? 近くない?」
「神聖力あるから別に。近いのは別によくない?」
「ドロテアって胸がおっきいね」
「愛が詰まっているからね」
「すげー酔ってるんだろうけど、どこから止めたらいいのか分からない」
「そういえば、ゾーイが聖女宮の女に手を出してるって噂が来てるんだけど」
ドロテアの言葉に、ゾーイがハァ? という顔をする。
「誰だよ。出してないよ。襲われかけて聖女宮は出たけど」
「聖女宮出たのって、そういう理由なんだ」
「なんか泣いてるから部屋に入れたら発情してきた。ビックリだよ」
「なんだかんだゾーイってそっちもイケるのねと思ったらやっぱり嘘だったの」
「どっちもそっちも好きじゃなきゃ嫌だな。だるいし」
そうだよ。とりあえず仲良くなるところから始めるべきだよ。
性からはじめるのは良くないと思う。心から思う。
「急に襲うのは性犯罪だから良くないと思います!」
「そうだな。でも最近はみんな診療所で神官と一緒にやってるから、上手くやってるみたいだよ。平和だね」
「ゾーイは、王宮とか男の人ばっかりで嫌な目にあってない? 大丈夫?」
「別にないかな。大聖女に気に入られてるってことで、なにもないよ」
「わたくしはミユキの親友だけれど、ゾーイは親友なの?」
「わかんない。でも大事。人殺しちゃうけど。でも、私の大切な人、みんな殺しちゃう」
ゾーイから親友とは言われてないから、自分から言うのも良くないかと思って言葉を選んだ。
だけど、考えているうちに私のせいで人を殺してしまったなと思い出して悲しくなった。
私を大切に扱ってくれる人は全員人殺しだ。いつか逮捕されてしまうかもしれないし私の近くにはいられなくなってしまうかもしれない。悲しい。
二人は少し困った顔をしてこちらを見ていた。
「ドロテアは殺してない?」
「殺してるわよ。力の強い聖女も神官もみーんな人殺しなの。レイナード姉妹だけじゃない? 仕事で殺してないの」
あっさり言った。
フォーウッドが自身の立ち位置をよくするために聖女や神官に人には言えないことをさせてきたせいで、みんなの倫理観も価値観もおかしくなってしまったことが本当に腹立たしい。性や殺しに慣れても将来に役立たない。他人を道具として扱っていると同じことだ。
「レイナード姉妹は、殺し慣れてなくて可哀想な結果になったな」
「ドロテアもゾーイもアンリも殺そうと思えばフォーウッドなんて殺せたはずなのに、あいつのせいでみんな辛いことになった」
「育った環境がそうだとね。わたくしもメイナと同じ感じになりそうだったけど、最初に相手の玉を潰したら二度と呼ばれなくなったから、あの子もやればよかったのよ。まぁそのせいで立場は悪くなるし扱いも悪くなるし給料も減らされたし、ろくなことがなかったから気持ちは分かるけど。フォーウッドには逆らわなかったのにミユキには嫌がらせするし、ぜんぜん分からないわ」
「まぁ自分にも分からないけど、ミユキが初めて優しくしてくれたから、どのくらい優しくしてくれるか期待して試したくなったんじゃないか?」
二人の話を聞きながら、メイナのことを思い出す。
今日、目的地にたどり着いた時、メイナは本当に初めてこんなことをしたという顔をしていた。
アンリが私にこの方法を教えてくれた時のように、彼女も同じ気持ちになったんだと思う。
「今日ね、メイナと手を繋いで空の上をぴょんぴょん飛びながら目的地の工場まで行ったんだけど。メイナ喜んでたよ」
「は、あれをやったの? メイナは犯罪者なのよ?」
「だって思い出した時なんのために生きてきたかわかんないとか言ってたし。こういうのやったことないんだろうなって思って、しばらくできないって思ったらやるしかないって思ったから。たぶん逃げないって思ったし」
「今回は大丈夫だったかもしれないけど、王になるなら二度とやったらだめよ」
「でも、神聖力あげて一緒に飛んだらね、泣いてたよ」
私の言葉に、二人は黙りこむ。
たぶん神聖力をあげたというのがいけないんだと思うけど、たぶんアレは自分で飛ぶのが一番楽しいからやらせたかった。
「えーと。ぴょんぴょん飛ぶってなに?」
ゾーイが不満そうに私を見る。
「ゾーイ。手」
「うん?」
手を出してきたので、手を掴んだ。
「いちにのさん、はい!」
ゾーイの手を掴んだまま瞬間移動する。
一瞬で魔王城の上。夜空の中だった。
「うわぁ!! なんだ」
「こうやって飛ぶ」
瞬間移動を繰り返す。目的地もないけれど、これはこれで楽しい。
ドロテアは私の腰を掴んだまま、一緒に飛んでいた。
「あーぁ、酔ってるから危ないわよ。寝かせるからゾーイが魔王城に帰らせて」
「うん。わかった」
その声を最後に、意識が遠くなる。
目を閉じる瞬間に、少しだけ楽しそうなゾーイの顔が見えた気がした。
ふと目を覚ます。
めちゃくちゃ近くにゾーイの顔があった。
(近っ、寝てる)
えぇ、と思ってまわりを見回すと、ドロテアはいなかった。
状態を確認するに、おそらく壁際にゾーイが寝ていて、私が真ん中で、私がぐいぐい端に来るもんだから、こうなったっぽい。
どうしよう。後ろにいくかと考えていると、近くにあった顔がこちらを見ていることに気付いた。
「えーと」
「……なんで」
顔が真っ赤だったので、やっぱりこういうのに慣れてないんだろうなと思う。
何でもなにも、私だって分からない。
身体の上にあった手が退けられたので、少しだけ離れて身体を起こした。
「おはよう」
「おはよ……」
「寝てる間に壁に追いやったのかこうなってたけど、わざとじゃないよ」
「まぁ。自分の手が乗ってたし、やったんならこっちがやったんだろ」
ゾーイはうつ伏せになって寝てしまった。
「私、人の記憶見すぎて、こういうの慣れてるけど、ゾーイは慣れてないんだね」
ちょっと面白くなって言うと、身体を起こしてこちらを睨んだ。
煽ったみたいになったかもしれない。
「昨日のミユキが酔ってた状態の記憶見る?」
そういえば昨日の最後のほう、記憶覚えてないな。
「うん。見る」
なんか煽った感じになったから、断るわけにもいかないなと思ってしまった。
ゾーイも起き上がって額を合わせる。
(う、顔が近……)
みんなおでこを前に出して合わせる感じなのに、今回は顔自体が近かったので流石に照れてしまった。
でも慣れてないんだろうから、言ったら悪いなと思って黙っておく。
チョコ味の神聖力が絡みつくのが美味しいなと思ってしまった。
記憶の中の私は、会話は所々覚えているが、まぁ酷かった。
そもそもなんでドロテアの膝の上にいるのかが、今もちょっとよく分からない。
最後に空中散歩している時は、ネグリジェから足が丸見えだわ、ドロテアが落ちそうだわで本当に酷かった。
「アンタたち朝からなにやってんのよ」
声をかけられて、神聖力が離れていく。
額を離して声の方向を見ると、ドロテアがいた。
「昨日の私は本当に酷かった」
「あ、記憶を見てたのね」
「他になにがあるの?」
ふと横を見ると、またゾーイがうつぶせで寝ていた。
小学生の頃のリツキみたいと思いながら食事をして、楽しいお泊り会は終わった。
これには入れたらマズい、朝何であのポーズになってるのかっていう奴がXにあるので、読みたい人は良ければ読んで下さい。メディア欄にあります。なんで聖女があんなになってるのか、色々まぁ分かると思うんですけど、書いてみた感想は百合だな!でした。そういうキャラじゃなかったのに。なんでだよ……。