表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/180

最後の餞は、明日への希望

あっという間にドロテアと魔王の結婚式二日前になった。


あれから、ものすごいニュースになった。

メイナの話は、新聞が貴族憎しで連日報道を続けたため、減刑を望む嘆願書が山のように連日届いている。

聖女と神官はメイナの姿が違うことを知っていたけれど、自分達も虐げられていたので誰も何も言わなかった。


建国に関しても、腐敗した上層部が消えたことと、現状が幸福度が上がっているとのことで新しい夜明けだと好意的に捉えられていた。

幸福度の理由は、診療所の増設と治療の値段が下がったことでシャーリーのように働きたくても働けなかった者が働けるようになり、建国に合わせて雇用が増えて、相乗効果で豊かになったらしい。

今後は貧民層に対する政策を行わなければならないとは思うけど、それは建国後の話だ。


リツキは貴族とのやり取り、アンリはモーリスと工場の新設や診療所の国外需要への対応と、本当に大変だった。

ゾーイは聖女宮とチハラサと私、モーリスといろんなところに配慮して動いているので一番暇がなさそうだった。

私はというと招待客のために料理を決めたり装飾をしたりと大変だったが、マナーの先生のグリエルマに依頼して、足りないところはいい感じに配慮してもらった。ミユキの声と同じだと思われても困るので、ちょっと声を低くしたが誤魔化せているのかは分からない。




そして今日は、メイナを僻地の工場に連れていくため、魔王城までやってきた。

部屋に入ると、神聖力をギリギリまで抜かれたメイナが大人しくベッドに座っている。


「こっちの椅子に座ってもらえる? 今から禁呪の方法を記憶から消すけど、他に抜きたい記憶がある?」

「ありすぎて、抜いたら記憶が無くなってしまうわ」


立ち上がり、椅子に座りながらメイナが笑った。

その笑顔が寂しそうで、気持ちが暗くなる。


額を合わせて神聖力を絡めると、禁呪に関する記憶を消していく。

比較的簡単に記憶は消せた。


「今から収容所に私が送るから、目隠しするね」

「あなたが送るの?」

「みんな忙しいし、私が行動制限かけた方が一番確実だから」


言いながら目隠しをして、私とメイナを神聖力で離れないように繋ぐと、ガードをとる。

ドロテアに手を振ってから個人用ポータルで自分の家に戻って、街の端まで瞬間移動をした。


「ねぇ。こんな雑で良いの? 私、逃げちゃうわよ」

「メイナが逃げたって良いことないから逃げないよ。今から行くとこの方が男の相手しなくていいし、マシなんだから」


目隠しをとりながら言う。

目隠しの下から、少し驚いた顔をしているメイナの目が出てきた。


「別に、もう男の相手なんて嫌じゃないけど」

「それ以外の生き方を楽しいって思える方が人生の選択肢が増えるでしょ。いつまでも若くないし、そのうち胸も垂れるんだよ」

「神聖力で若返ることができるのよ。そんなことも知らないの?」

「私、あんまり神聖力の使い方知らないもん。他にたくさんやることあるし。じゃあ行くよ」

「行くって、瞬間移動でいける距離なの?」

「いちにのさんでジャンプね」

「話を聞きなさいよ」

「いち、に~の、さん、はい!」


メイナの手を握りながらジャンプして、空高く瞬間移動する。

あっという間に空の上だった。


「いやぁ!」


メイナは驚いて自分のスカートを押さえる。

私は笑いながら、パッパッと瞬間移動した。

ぐんぐんと変わっていく景色に、いつもながら楽しいなと思う。

横のメイナも慣れたようで、少しだけ楽しそうな顔をしていた。


(待って。まわりが森ばっかりで、この方角で合ってるのか不安になってきた)


「地面に一回降りたいけど、どうやって降りたらいい?」

「あなた降り方を知らないでやってるの?」

「いつも他の人がやってくれるから。でもメイナは神聖力が少ないから無理だよね」

「少しくれたら、できるけど」


瞬間移動をしながら神聖力を渡す。

フッと地面に近く瞬間移動して、そのまま地面近くで止まった。


「あなたみたいなめちゃくちゃな子初めて」

「私ふつうだよ。あとごめん。私達、迷っているかもしれない」

「え? 囚人を護送中に迷うとかあるの?」


地図を取り出して場所を確認する。

メイナまで地図を見ていた。


(日が出てるのがこっちで、行く場所はあっち……)


「ちょっとずれてるわね。こっちに行かないとだめよ」


メイナが方向を指し示す。

なるほどねと思った。


「神聖力あげるからメイナが飛んでみる?」

「私、犯罪者なんだけど」

「メイナの話が新聞に載って、刑を軽くしてほしいって嘆願書がいっぱい届いたんだ」

「だから、何?」

「刑が軽くできるかは、まだ決められない。でもね今日のこれは、思い出した時にこんなことがあったって思い出せるようにって、私からのはなむけ」


神聖力をメイナに入れる。

たぶん、全員にバカだと怒られるだろう。でも、これが私からあげられる最後のプレゼントだ。


「メイナは馬鹿だよ。今までだって逃げようと思えば逃げられたのに馬鹿なことをして犯罪者になった。それで妹とも会えなくなって僻地に収容される」

「それはそうね」

「でもメイナは頭も悪くない。それはこれからの人生で自分で理解できると思うし、安心して住める場所を用意してもらってる」


神聖力をあげるのをやめて、ポケットに地図をしまう。


「さぁ行こ。逃げたいなら逃げればいいけど、この道より安全な道はたぶんないよ」


私より高い背を見上げると、メイナは私の手を掴んで、瞬間移動をする。

グングンと過ぎていく木々。

ふとメイナを見ると、泣いていた。


メイナは地図も読めるし、いろんなことも知っている。

ただフォーウッドにお前の使える武器は美貌と性しかないのだと信じこまされてしまっただけだ。

虐待は脳を縮ませるという。狭い価値観は狭い行動範囲しか作れず酷い結果を導いた。

それを罵るのは簡単だが、誰が彼女を救ってくれるというのだろうか。


地上に工場が見える。

メイナが私を連れたまま、地上に降り立った。

ふわりと優しい着地で、私もちゃんと立つことができる。


「楽しかったでしょ。私、これ大好きなの」

「はじめてやったけど、おもしろかった」


メイナは楽しそうだったし、もう涙は止まっている。

紅潮した頬が子供のようだと思って、やってよかったと心から思った。


瞬間移動で、モーリスの元に行く。

ドアを叩くと、モーリスが驚いた顔をしてドアから出てきた。


「ミユキさん。ポータルから来ると思ってました」

「瞬間移動で来ました。これメイナ。自分でここまで来たから優しくしてあげて下さい」

「自分で? どういう意味……」


メイナをモーリスに渡すと、行動制限をかける。

これで一応、メイナは逃げられないはずだ。

自分とメイナを繋げていた神聖力も切る。


「メイナ・レイナードです。よろしくお願いします」

「ああ、よろしくお願いします。ではこちらに」


モーリスがメイナを階段の上に案内する。

私は付いていかず、その背中を見送った。


「では、モーリスさん! メイナをよろしくお願いします」


二人に手を振ると、二人も手を振り返してくれた。

メイナは、ここで神聖力でポーションに効果を与えつつ、孤児院のように子供を育て生きていく役割を与えられる。

女性の観察員もいるし、上手くいけば育てられた子供たちは、彼女の精神を支える礎となるだろう。

美しい外見が問題なら変えればいいし、それを含め小さなコミュニティで生きていく訓練になるので彼女にとっては幸せな刑だと思う。


室内にあるポータルに乗ると、あっという間にアンリのお屋敷に着いた。

フッと目の前にアンリが現れる。


「あれ、メイナは?」

「もう届けちゃったよ。瞬間移動で送ったの」

「は? 逃げられる。やめなよ」

「別に神聖力をあげたけど、自分で工場まで行ったよ」

「なにやってんの? 相手は犯罪者だよ」

「大丈夫だったし、泣いてたよ。たぶん楽しかったんだと思うからやって良かった」

「本当にミユは、危機管理能力がないし、どういう思考回路してんの?」


呆れるアンリの頭をワーッと撫でる。


「今日は、ドロテアのとこにゾーイとお泊りしてくるから、リツキと仲良くしてね」

「嫌だ。まぁ忙しいからいいけどさ」


ボサボサの髪のアンリに手を振って、透明になってからゾーイの元に瞬間移動をする。



移動すると王宮の事務室で、ゾーイは事務室でチハラサに何か指示をしてもらっている。

ゾーイはドロテアとのお泊り会に最初は行かないと言っていたが、数日前に心配だからと来ることになった。

仕事が終わったら、どっちかが迎えに行くという話をしていたけど、早く来すぎたみたいだ。

大聖女の姿になって、姿を現す。


「あ、大聖女様」


チハラサはこちらに頭を下げた。


「こっちの仕事をぜんぜんできなくてすみません。承認印くらいしか押せなくて」

「いえ。こちらも建国関係で沸き立っているのか要望書が減っているので全く問題ありません。建国日までに尽力させていただきます」

「特別にお給料増やす書類出してください。承認するので」


コソコソと言うと、チハラサは笑う。

私は知っている。彼が王宮に関しての様々なことまで気にかけて動いてくれていることを。

正直、彼がいなかったら、前の国王の段階でこの国は終わっていただろう。


「自分、もう帰ります」


突然ゾーイが私の手を掴んで瞬間移動をする。

次の瞬間には知らない家に飛んでいた。


「いきなりだったからビックリした。ここゾーイの家?」

「うん。大聖女の姿だと仕事にならない人間が出るから、もう帰ろうと思って。もう元の姿に戻っていいよ」


言われて元に戻る。

まわりを見回すと、アンリの一人暮らし用の家と似たような作りだった。


「アンリのお家と似てるね!」

「あの家が気に入ったから、似た作りの家を契約したんだよね。さ、行くよ」


ゾーイが荷物を持って、私と一緒に家に帰る。

私も荷物をまとめておいたので、それを持って魔王城に向かった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ