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逃げられない抱擁に疲れる朝と、魔王からの要請に困る昼

翌朝、気まずそうな顔のリツキに話しかけられた。

昨日、魔王の話で行き違いになってから会うことはなかったので少し緊張する。


「俺は本当に殺したいけど、ミューの意思に従おうと思う」


顔色の悪いリツキは、あまり寝ていないようだった。


「……なんで」

「嫌われたくないから」


叱られた犬のような表情で、心が痛む。

他人が自分のために意見を変えてくれることが当たり前だとは思わない。


リツキのように思ったまま動く人間には特に。


(ここまで長い時間私を慕ってくれる人は、あまりいないだろうな)

(改めて考えると、自分はリツキの好意に甘えて、なぁなぁで色んなことをしてもらってる)


好き嫌いは恋した人間の勝手だとは思うけど、私も私で保身で利用している。


「あと、これからはちゃんと意識させようと頑張るから、本当に嫌だったらちゃんと言って」


リツキは、なにも言わない私の顔を覗きこむ。

顔が近すぎて、一歩下がってしまった。


「えっと……意識させる?」

「例えば、後ろから抱きつくんじゃなくって、こうやって前から」


そう言うと、脇の下に腕をを入れる形で前から抱きかかえられた。


「わっ!」


そのままリツキを下にして、床に転がる。


「あ、危ない!」

「組み敷いたら密着できないし、重そうだし、怖がりそうだから」

「ちょ、こういうのはダメだって!」


肩の部分にリツキの口があたる近さで、抱きかかえられたまま重なっている。


(近い、近い! 普通やる体勢じゃない!)


怒りたいのに、さっき意見を変えてもらったことを聞いたせいで言いにくすぎる。


「ミューの身体ってちゃんと抱くと細いよね」


背骨を確認するように撫でられる。


「ぴっ」


変な声が出た。

肩にリツキの息が荒くかかって、男なんだなと思ってしまって逃げたくなる。


「ちょっ、やめ、恥ずかしいって」

「恥ずかしいは嫌じゃないよ。怖いとか嫌だったらやめる」


嫌ってなんだろう。知らない人だったらゾッとするんだろうけど。どこまでがその範囲なのか……。

でも、これはダメだ、逃げないとって気持ちがすごい。


「付き合ってないのに、こういうのは変だよ!!」


もう逃げたいと思って、身体を起こそうとするけど、腕で阻まれて上手くいかない。


「腕、外してって」

「なんで譲歩してるし、くっつくの大丈夫なのに、付き合ってくれないの」

「ええ??!」


確かに……? いや、こんなにくっつくのは大丈夫じゃないけど。


「俺たちに血の繋がりはないから、少なくとも幼馴染みたいなものだと思ってもらわないと、前進できないし」


問題は、私が異性として見てないせいだけど、なんでと言われたらどうなんだ?

私の肩に口を当ててるリツキの息で、身体が熱い。

ぐっと上半身を離して下を見ると、目が合ってしまった。


「でもリツキは私がいやなこと、しないよね?」


穏便にすませたくて、質問する。


「すっごいやりにくい質問するね。それを今確認してんのに」


熱いな。


「離れて……。そろそろ出かける準備しないとまずいんじゃない?」

「ミューが限界?」


少し疲れた顔で言うと、リツキはやっと腕を外してくれた。

よたよたとリツキの身体の上から離れる。

神聖力は強くなっただろうけど、なんか疲れてしまった。


「なんかミューってちゃんと抱きしめると、甘い味がするんだね」

「……知らないよ」


よろよろとしながら準備を始める。

リツキは元気なのか、自分の部屋に帰るとスッキリした様子で戻ってきた。



「あ、今日からアンリが家で勉強を教えてくれることになった」


言うの忘れてたと思って朝食を食べながら話す。


「え、なんでうち? ミューは家から出ないほうがいいからいいけど」

「なんか、変質者が出るかもしれないからだって」

「そりゃ、家にいたほうがいいな」


納得したというようにリツキが頷く。


家の持ち主に許可がとれて良かった~と思った。








と、思っていたのに。

今日はいつもの時間をニ時間すぎても、アンリはやってこなかった。


(どうしたんだろう)

(でも、なんか朝の一件からヘロヘロだから、瞬間移動をしていいのかわかんないな)


悩みながらお茶を飲んでいると、玄関のチャイムが鳴った。


「アンリだ」


パタパタと玄関に行って、扉を開ける。

門に知らない神官がいた。


「えっと……」


門まで行くと、神官は門の間から紙を差し入れる。


「ミユキ様に招集命令です」


紙を受け取ると、神官は瞬きをする間に消えた。

瞬間移動は一級聖女しかできないんじゃないっけと思ったけど、リツキにも神聖力があるのだから、神官にも一級レベルはいるということだろう。


その場で紙を読む。


「今日、魔王の要請により、聖女全員、ポーションを作るために神殿に集合……」


魔王が好みの味のポーションを見つけたいから、全員に作らせるってことかな。


(まずいのを作らないと気に入られてしまう)


背筋が寒くなった。


「ミユ」


背後から弱く声をかけられる。

振りかえると、門の外にアンリがいた。

大きなカバンを斜めがけしているが、いつもより元気がなさそうだった。


「遅れた。ごめん」

「それはいいけど……弱ってない?」

「ポーションとか朝買ってたから……ポーション一本欲しい」


理由はわからないけど、神聖力切れを起こしてるのか。


「直接わけるよ」


基礎の授業はやってるので、わけるくらいはできる。

門をあけてアンリの手を掴んで、引き入れながら神聖力を分ける。


「ミユの神聖力は本当に甘い……」


アンリはホッとしているようだった。

神聖力分ける時って味するの?


「私、回復もそうだけど、どのくらい入れていいのかわかんないから、止めていいところで言って」

「わかった。ミユの負担にならない程度にもらう」


アンリは鑑定を使って私の頭上を見る。


「は?」


アンリが頭上を見たまま固まっている。


「なんかちょっと具合が悪いから、神聖力が少ない?」

「いや、逆。いつもの倍くらいある」

「ええ? 確かに、なんか今日は長時間抱きつかれて……うーん……」


私の説明に、アンリは機嫌悪そうにうなる。


「ミユ。必要以上に抱きつくなら怒らないとだめだ」

「私が言うから魔王を殺さないって言ってくれたから、怒りにくくて」

「その話と、弟にサービスするのは違う。問題の切り分けを行わないと」

「そうだね……次からはそうする。じゃあ、いっぱい神聖力あげるね」

「複雑」


手を繋いで神聖力を渡しながら家に入る。


「もう大丈夫」

「良かった」


手を放すと、アンリが額の汗を拭った。


「貰いすぎなくらいなのに、これでやっといつもくらいか」

「今日って、神殿に行かなきゃいけないから、神聖力削らないといけないもんね」

「うん。送り迎えはわたしがやるから問題ないけど、ミユ、これを飲め」

「ポーション?」

「四級聖女が作ったポーション。ギリギリまで神聖力を落として同じ味が再現できるか確かめる」


アンリから渡されたのは、透明に近いが、少し濁った薄いポーションだった。


「四級の……ありがとう」


これを買うために遠くまで瞬間移動したから、あんなに疲れてたのか。悪いことした。

蓋をあけて飲んでみる。

甘味はない、薄くて草みたいな味だった。


「まずくはないけど……美味しくもないね。草味の水みたい」

「作るのに時間がかかるから、色も濁るんだ。とりあえず間に合うように神聖力をポーションに入れていこう」


アンリはカバンの中を開ける、

中にはポーション瓶が山ほど入っていた。







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