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ユラの護送と二つのキス

あれから三日が経った。

私は魔王城で、魔王のかわりに書類を決裁して、それを魔王に確認してもらっていた。

魔王にゾーイが門番を殺してしまったことを報告したら、もう殺したと思っていたらしい。

アンリは事件後からしか見ていないから事件の前は抜けていただけで、生き残っていたことが分かったらいずれにしろ処刑されていたとのことだ。


王城のほうの仕事は人がたくさん入り、昨日の段階だと上手く回っているらしい。

聖女と神官を働かせる事業もやっと始まり、聖女は日中、ほぼ聖女宮にはいなくなった。

デイヴィスが驚きの頑張りようで、ゾーイは調整とモーリスへの橋渡しで済んでいるとのことだ。


「聖女ちゃん。悪いけどさ、ユラちゃんの記憶を見るから寝かせて連れてきてくれない?」


魔王に言われて、顔を上げる。


「分かりました。あの、メイナはどうですか? 連れてきて暴れたりとかは……」

「落ちついてるよ。聖女ちゃんにガード作ってもらったから禁呪を使っても出られないし、大丈夫だろう」

「禁呪?」

「禁止されてる方法だな。フォーウッドのガードが堅いだろう? あれは自分が持つ神聖力を三倍にするために人の命をかけている」

「そんな方法が……」


でも確かに対峙した夜、メイナはアンリの攻撃もゾーイの攻撃もはじいていた。

私から見るとメイナの神聖力は二人よりかなり少なく感じていたので不思議だったが、これで納得がいく。

メイナは、してはいけないラインを簡単に超えてしまう人なのかもしれない。


魔王城から帰り、アンリのお屋敷に行く。

最近、アンリの家に行くのも事前に貝を鳴らせば勝手に仕事の部屋に入っていいようになっていた。


「アンリ~ユラを連れてくるように言われたから、モーリスさんに会いに行ってくる~」


部屋に入るなり言うと、書類を持ったアンリは私を見てへらっと笑った。



「僕も行く。モーリスには会わなくていいし、姿は消していくから気にしなくていい」


アンリは黒い板でモーリスと通話をかけて、内容を伝えると許可を取っていた。

二人で森の中の薬を作る工場に行く。

遠くからでも聞こえる明るい子どもの声に、みんな元気になって良かったなと思う。


「じゃあ、僕はそろそろ見えないようにするから、ミユは自由に行って。連れていくときは僕が背負うから」

「うん。ありがとう」


アンリの手を握っていると、スッと見えなくなる。

私も姿を消して、ユラの元に瞬間移動した。


着いた場所は、ポーションを瓶に詰めて箱詰めまでする場所だった。

子どもたちは分離させたポーションを漏斗で大きな四角い瓶に詰めていく。

瓶にシールを貼って薬効を書くと、それに合わせてユラが効能を入れていくという作業をしていた。

効能を入れ終わった瓶は、注文票と照らし合わせて確認した後、箱詰めされて、出荷するようだ。


みんな、口を布で覆って、頭も布で覆っていたが楽しそうだった。

ユラもみんなに打ち解けて、楽しそうに笑っている。


(こんな幸せ、壊すの嫌だな)


一回、部屋の外に出てから、ノックをして室内に入る。


部屋に入った時、ユラの身体が固まった。


「お医者様……」

「ユラさん。少しだけ違う場所に来てもらって、記憶を見させてもらいます」

「はい」

「寝てる間に全部終わるので安心してください。酷いことはなにもしないので」

「わかりました」


全てを諦めているのか、ユラは即答した。

ユラに眠るように神聖力を入れると、先ほどまで笑っていた顔が簡単に眠りに落ちた。

ラベルを貼っていた女の子が眠ったユラを支えて、私の顔をジッと見ている。


「あの。人を殺したって本人から聞いてるけど、本当ですか?」

「本当だけど、ユラさんが悪いというよりは、結果的に殺しちゃったって感じかな」


女の子の言葉に、できるだけ優しく返す。

まわりの子供たちが、わらわらと寄ってきた。


「……酷いことにはならないよね?」

「ユラちゃん、みんなにすごく優しいのに」

「昨日からやっと笑えるようになったのに」


口々に話す言葉を聞きながら、ユラはみんなと仲良くなったところだったんだと気付いて、胸が苦しくなった。


「そうなるように頑張ってるし、そのために今から連れて行くの。ユラさんが戻ってきたら、また仲良くしてね」


明るくみんなに言うと、子どもたちは小さく頷いた。

女の子からユラを預かって、瞬間移動して部屋を後にする。

建物の外に出ると、アンリが姿を現した。


「ユラは助かってほしいな」


悲し気な顔をしながらユラを背負うと、家に一度戻ってから魔王城まで連れていく。

ユラを引き渡すと今日は早めに家に戻った。






早めに家に帰ってから、フォーウッドの書類を整理していた。

仲間になっていた貴族の名簿も見つかり、手紙などから裏をとってまとめている。


貴族裁判。これだけ証拠があるし王族の裏切りとかを話して、身分を剥奪しなければならない状況だったと説明したらどうにかならないだろうか。

名簿も所持していると話せば上手くいく気がする。ポーションプールも残ってたし、うまくいけば何とかなりそう。三人が帰ってきたら色々聞こう。


使う書類をまとめ終わったら、不意に眠くなった。

ずっとずっと頑張っていたせいかもしれない。

朝が早い私には耐えられなくて、眠ってしまった。




……?


気付くと、口の中に舌があった。


「うぅ」


誰……と思うけど、寝ていたのでよく分からない。

深く眠っていると少し起きたところで起きても目が開かなかったし、身体も上手く動かない。

それをいいことに、ずっとネロネロされる。


そのうち、騒ぐ声が聞こえて解放された。

後ろでリツキに対して怒っている声が聞こえて、リツキだったんだなと思う。

顔を拭かれて浄化をかけられたのを何となく感じた。

そのあと、もう一度軽く口が塞がれて、そのまま寝かされる。

起きなきゃと思ったけど、たぶんもう一回くらい眠ってしまった。




「なんか、キスした?」


起きたら晩御飯の準備ができていたので、食事をしながら聞く。

最近は凄く忙しいので料理も習いに行けていないが、アンリが食事を持って帰ってきてくれていた。

三人は気まずそうな顔をしている。


「俺がした。そしたら怒られた」

「僕はミユを優しく起こせとは言ったけど、襲えとは言ってない」

「気付いたら半分脱げてたから驚いた」


リツキが白状して、二人が文句を言っている。

半分脱げてた????!!!!


「脱げ……ゾーイもいるとこで?!」

「なんか興奮しちゃって。でも事故なんだって。脱がしてないよ!」

「ミユ、大丈夫だ。スカートが半分……うーん、そうだな、そのくらい上がってたくらいだから」


なんなのその含みがある言い方! 全然安心できない!!


「スカートはかわいそうだから自分が直した。こいつは去勢した方がいいかもしれない」

「本当だよ。ちょんぎろう……」


ゾーイは少し顔を赤らめながら言っていた。

どんな惨状だったんだ。寝てたからあんまりよく分かっていないけど、ちょん切った方がいいのは確かだ。

リツキの場合、たぶん殴っても喜ぶからだめだ。殴っても喜ぶ奴は罰を与えるのがむずかしい。


「だからごめんって! 反省してます!!」


両手を合わせて謝るリツキに冷めた視線を送る。

ユウナギ邸での感じをゾーイにも見られたって感じかなと思うけど、嫌すぎる。

私のプライバシー! 私の尊厳を大事にしてほしい。


(でも、そのあともう一回あったような?)


だけど、ぼんやりしていたし、目を閉じていたからよく覚えていない。

まぁいいやと思いながら食事を終えて、三人にフォーウッドの資料をまとめたものをプレゼンして貴族裁判に備える。

魔王にプレゼンした方がいいと言われたので、それもそうだなと思ってその日を終えた。




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