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守護者は優秀な犯罪者

次の日。

面接だったが、面接に来るなと言われていたため、お昼過ぎから王宮に行くことになっていた。

ゾーイも午前中は家を探すとのことで、時間を決めて王宮の外で待ち合わせる。

王宮の中には大聖女の姿でならゾーイを連れて顔パスで入れるので楽だからだ。


(人と外で待ち合わせって久々だな~)


大聖女の姿になっていると、美少女過ぎてよくないなと思ったので、そのままの姿で入り口から少し外れた場所で待つ。

ゾーイは瞬間移動で来るらしいから、外れていても問題なかった。


(待ち合わせって暇だな。久々すぎて忘れてた。そうだよ。だから元の世界にいた時は駅に着いてから電話とかにしてたのに)


何かするにも中途半端すぎて、失敗したと思いながら暇すぎて色が変わった石畳の数を数える。

トイレにも行きたくなってきたが、トイレの中にいる時にゾーイが来ても困るので我慢した。


「ミユキちゃんじゃないか」


突然、遠くから声をかけられる。

顔を上げると、知らない男性が立っていた。

服装は兵士のようだが、相手の顔に覚えがない。


(誰だっけ?)


「えぇっと」

「またこっそり中に入りたいなら入れたげるよ~! 来るの楽しみにしてたんだよ」


(ん……? 王宮の中?)


嫌な記憶を思い出す。

ユラの記憶の中にいた私の姿のメイナと話していたのって、この人?


「誤解です。私じゃないんです」

「いや、君だよ。ミユキちゃんじゃないか」

「捕まった聖女が私の姿に化けていたんです。私じゃないんです」

「そういう話は聞いてるけど、でも顔もスタイルも同じだし。違うって証拠もないしな」


距離が近くて、後ろに下がる。

瞬間移動をしたいけど、私の身分証を見ているなら四級聖女だと知られているから、瞬間移動もできない。


「本当に違う」


話が通じないと抗議すると、フッと、突然目の前が暗くなり、男が遠ざかった。


「ごめん遅刻した」


いつの間にか後ろにゾーイがいた。

なぜか後ろからギュッと抱きしめてくる。


「あ~、相手がいるから、もうヤリたくないってことか」


男は興味を無くしたように呟く。

こちらに背を向けて歩いて行ってしまった。


「ごめん。今ここで揉めると、殺しにくくなるから」

「そんな簡単に殺しちゃだめだよ」


ゾーイは何も言わなかった。


「話を聞いても信じない人っているんだね」

「人間は信じたいものを信じるから」


そんなものなのかな。でも、世界は違ってもそんなものだったかもしれない。

そもそも変身ができない人達から見れば、話を聞いたとしても信じられないだろう。

気持ちが沈んだけど、気を取り直して王宮に入らないとと思いなおす。


「さ、もう行こう」


大聖女の姿に変わって、王宮に瞬間移動する。

いきなり変身したら目立つだろうけど、抱きしめられている人間が誰かなんて誰も気にしないだろうから助かった。

王宮に入って歩く。


「ごめん。自分、ちょっとトイレ」


目的地のドアの前まで来て、突然ゾーイが瞬間移動してしまった。

そういえば、トイレに行きたかったことを思い出す。


(ゾーイが帰ってきそうな頃に交代で行こう)


部屋をノックして中に入る。

中でリツキとチハラサさんが選考をしていた。


「ああ。大聖女様。おはようございます」

「ニッシー。おはよう~」


リツキは私を変な呼び方にしていた。


「二人ともおはようございます」


まぁいいやと思いながら、リツキの隣に座る。


「チハラサさん。いい人いました?」

「うん。リツキ君のおかげで助かりました。彼も優秀ですね。今日にでも選考を終わらせられます」

「俺は決まった人にだけ今日連絡入れるって言っただけだけどね。不合格の人にまで連絡すると大変だから」

「他にも、既婚者に絞ると辞めにくくていいなど、色々助言をもらいました。若いのに素晴らしいですね」

「大聖女に惚れても困るので、心配の芽は潰したほうが良いですからね」


ニコニコと笑うリツキに、苦笑する。

トイレに行きたかったが、ゾーイが帰ってこないなと思った。


(……!)


「ごめんなさい。お手洗い行ってきます」


立ち上がって、トイレに瞬間移動する。

トイレの中にゾーイはいなかった。


姿を消してから、もう一度ゾーイの元に飛ぶ。

屋根の上に出たが、目の前には誰もいなかった。


地上が騒がしいので下を見ると、兵士が倒れていて、まわりに人が集まっていた。

その兵士は、さっき私に話しかけてきた男だった。


「殺しちゃったの?」


見えないまま呟く。


「ごめん」


どこからか、ゾーイの声が聞こえた。


「心臓麻痺にしか見えないだろうから、大丈夫だよ」


そういう問題じゃない。

人を殺させてしまったことと、自分の善悪の基準の合間で正しいことが分からなくなる。

だけど、心の隅ではホッとしている自分もいた。


今までは違反をして勝手に門から入れたからこそ人には言わなかったことでも、もういいやと思えば人に言うだろう。

私という人間の名前が、そういう人間だと噂が一人歩きするのは正直いやだった。


「部屋に帰ろう」


身体を何かに掴まれて間近に声が聞こえた後、瞬間移動をする。

次の瞬間には、チハラサとリツキの前に立っていた。


姿を現すと真後ろにゾーイが現れて、思わずビクッとした。


「そこにいたの?!」

「大聖女ってすぐ殺されそうだよね」


ニコニコ笑っている。


「トイレに行ってたわけじゃないの?」


リツキの目は真っ黒だった。


「トイレに行こうと思ったんだけど、ゾーイが帰ってこないことに気付いたから迎えに行ってきた」

「ちょっと人に呼び止められちゃって」


適当な嘘をついているがリツキは全く信じていないらしく、目が真っ黒のままだ。


「色恋沙汰ですか? 子どもではないんですから、職場に私情を持ちこむのはやめてくださいね」

「大丈夫ですよ! 仕事します」


冷静なチハラサに、ゾーイは元気に書類を手に取り、リツキは真逆に無言で答えた。

私は、困ったなと思いつつも、しばらくはトイレに行けないなと思いながら書類の整理を始める。

夕方になる頃には、またしてもくたくたになっていた。





夕食後。

みんなでフォーウッドの書類を色々調べる。

アンリの希望でミルクティー飲みたいというので作って持っていくと、リツキが怒っていた。


「本当に今日のことを教えてくれないと今後コイツとは一緒にいさせられないんだけど」


我慢できないと言うようなリツキに、ゾーイは迷惑そうな顔をしている。

アンリは自分が関わっていない時の話なので、無言で私を見ていた。


(別に私を助けただけなのに、いい迷惑だよね)


「もう殺しちゃったから本当のことを話してもいい?」

「まぁ、ミユキが良いなら」

「ゾーイが悪いわけでもないし、嘘つくのもよくないしね」


話しながら、三人にミルクティーを配る。

二人は手も付けないが、ゾーイだけは手にカップを持った。


「説明すると、王族を殺した夜、メイナが私に化けて、その~いかがわしいことをして、裏口から王宮に入れてもらってたんだけど」

「は?」

「聞いてない聞いてない。いかがわしいって何? セックス?」

「たぶん……ユラの記憶だから、わかんないけど。で、話を続けると、その男が、今日私に絡んできてね」


リツキとアンリは無言になってしまった。


「私じゃない、他の聖女が化けたって言っても信じてくれなくて困ってたんだけど、ゾーイが穏便に対処してくれたの」

「でも、あとからトイレ行くって嘘をついてその人殺しちゃって。それがあの時」


分かりやすく説明する。

ゾーイだけが話を聞きながらミルクティーを飲んでいた。


「殺していいだろ。よくやった。それならいいや」

「その場で穏便にする必要もなかったんじゃない? 殺すのは後にしたって痛い目にあわせたらいい」

「穏便にしとかないと、殺すのが上手くいかなかった時に揉めてたから怪しいってなるだろ」


冷静なゾーイに、冷静になれないリツキは真剣な目をして私を見る。


「そのメイナって奴もミューは助けたいの? 馬鹿なんじゃないか? 牢屋に入れておかないとまた同じことするだろ」

「僕もそう言ってるけどダメなんだ」

「メイナには腹が立つけど、法律を作れば大丈夫だと思うし、きっと過去の色々なことでああいうことをしちゃったんだと思うから……」

三人とも納得できないという顔をしていた。

多数決にしたって正反対すぎる。私の方が間違っているということなのだろうか。

それに、二人は人を殺すことに躊躇がなさすぎる気がするし、リツキも同じくらいな感覚な気がする。


「それに今日の人も、メイナが騙しただけで殺されるほど悪いことはしてないよ。三人の感覚、おかしくないかな」

「殺された人にも必ず悲しむ人もいて、困る人もいる。三人とも人を殺すっていうハードルをもう少し上げないと正しい国は作れないよ」


三人とも、表情がまったく変わらない。

そんなことは当たり前に分かってるけどという感じだった。


「ミューはさぁ……ああもう、なんかイラついてダメだ。外走ってくる」


リツキが外に走っていってしまった。


「アイツがメイナの記憶見たら殺してんだろうな。僕も殺したかったけど、ミユが泣きそうだから裁判までは生かそうって殺さなかったし」

「ミユキの言いたいことも分かるけど、今日の奴は王宮の門番としての役割を全うしなかったから王族が死んだんだから、殺されて当然だからな」


二人の意見を聞きながら、確かにあの人がメイナを追い返していれば、二人はあんなことにはならなかったのだと気付く。


「確かにそう……だね」


それに、二人とも私のために努力してくれたのに、文句をいうのも良くない。

でもいつか細い塀の上を歩く猫のように、その道が簡単で安全だと思っていたのに落ちてしまう事もある。その時に自分が裁くのは絶対に嫌だった。


「それに二人がしてくれたこと、正直、ホッとしてる自分もいるから、ありがとうって言いたいけど……ごめん」

「別に気にしなくてもいい」


アンリはそう言って、冷めたミルクティーを飲む。

ゾーイは何も気にしていないようで、フォーウッドの書類を分別していた。

正しい判断は難しい。なにが正しくて、何がやりすぎか分からないまま、私も書類を整理した。




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