ガラレオで裏切った貴族の名簿を探せ!
翌日。
見事に仕事を辞められたリツキとゾーイとガラレオに行く。
「フォーウッドのお家から名簿を頑張って探すよ!」
全員の姿を透明にさせつつ、士気を上げる。
今日のリツキは目が真っ黒で朝からくっついてるし、なぜかゾーイもどんよりしていた。
「午後はできれば王宮にいくから、頑張ろうね」
「ごめん。自分はちょっと家を探したい。聖女宮から出たいんだ」
「……そっか。わかった」
きっと聖女宮でなんかあったんだろうなと思ったけど、今までも異常だったから出た方がいいんだろうなと思う。
フォーウッドがいなくなって神聖力が高い聖女は聖女宮に住まなければいけないというルールが無くなって良かった。
モーリスみたいに二度と聖女宮とは関わりたくないとなったら大変だから、保護してあげないと。
「最悪うちにきてもいいよ」
「ええ……」
「嫌だよ。前のあいつの状況と一緒じゃん。昨日はいちごチョコとかいって喜んでたし、いやらしい」
リツキは犬みたいに後ろから私を抱えたままゾーイをチラリとみる。
「ポーションだけでエロいと言われる日が来るとは思わなかった」
「ポーションなんて死ぬほど魔族領にもアンリの家にも卸してるんだから、いやらしいことないでしょ」
「でもなんかやだ……」
嫉妬深いなと思いながら、三人でポータルに乗ってガラレオに到着する。
洞窟内が虫が凄いのは分かっていたので、一瞬でフォーウッドの家まで移動した。
建物の中に入って、ガードをかける。
室内を見回りながら、あれ、教会がないなと思った。
「中に誰もいないな」
「室内を誰かに荒らされた形跡もないね。痕跡のこしたくないから手袋とかしてくればよかった」
「ああ手袋ね……膜でいいか」
リツキは自分の手に膜をはって、こちらに寄ってくると、手に膜をはってくれた。
ゾーイはそれを見ながら、自分の手に膜をはる。
「ゾーイ、最初から薄いの作れるんだ」
「薄く作れると食器とか洗わなくて済むから便利なんだよ。塔に閉じ込められてたから練習した」
「その手があったか。便利! 洗うの大変な時は誰かにやってもらおう」
気を取り直して三人で書斎に入る。
フォーウッドの書斎には、いくつか鍵がかかっている引き出しがあった。
全部の鍵を探して開けるとなると手間だし、こんなに目立つところに隠すかなぁ、と思う。
ゾーイもそう考えているようで、探しながら室内でフォーウッドの神聖力が残っているところを探したりしていた。
「神聖力を使うことに慣れているフォーウッドがこんな所に隠すとは思えないけど、神聖力で隠している所もない」
「そうだよね。あるとしたら教会かな。でも見当たらない」
「教会? そんなものあったっけ」
「前来た時は、建物内にくっついてたけど、今はないんだよな」
「移動してみよっか」
場所を思い出しつつ、瞬間移動をする。
パッと辿り着いた場所は、暗かった。
「暗いな」
ゾーイが光の玉を作って明かりをつける。
フォーウッドと戦った時から時が止まったかのような教会の中にいた。
「ロウソクがある。つけよう。あと、フォーウッドの神聖力も探す」
ゾーイがパパパと蝋燭を灯して、神聖力で何かをしている。
そして、前にフォーウッドが立っていた場所を見た。
「あそこから神聖力を感じるな」
「あの場所、レイナード姉妹から神聖力を奪う仕掛けがあったみたいだよ」
「それだけじゃない」
祭壇に近い、二段ほど上がっている階段部分まで歩いていき、床をチェックする。
「何かあるけど硬いな。無理に壊したら中のものも吹っ飛ぶ仕掛けとかがあるのかも」
「フォーウッドを攻撃した時、そこから絶対退かなかったから、なにかあるかもしれないね」
「たぶん、本人の神聖力でここが繋がってて開くようになっていたと思うから、もう開かないな」
階段を撫でながらゾーイが言った。
自分が死んだときに、家と切り離せるなら、まずいものを隠しておくには最適の場所だ。
戦闘を想定するのなら、地面が抉れる程度の攻撃がきて、自分と一緒に隠しておきたいものも一緒に燃えてしまった方がいいだろう。
実際は神聖力無効という想定外の力で拘束されて終わってしまったけれど。
「神聖力無効で壊したらいけると思うけどどうなんだろう」
「できることっていえばそのくらいしかないよね」
リツキの言葉に同意していると、ゾーイが驚いてリツキを見た。
「神聖力を無効にできるの?」
「リツキは勇者だから神聖力を無効にできるの。だから魔王も半殺しにした」
「こっわ。化物じゃん」
「化物ってなぁ」
リツキは文句を言いながら、床をバリバリ壊していく。
ガードみたいなものがあるのか、穴を開けて手を入れてからゴム板を広げるようにグッグッと穴を広げていった。
「ミュー。手が痛いから応援して」
額に汗をかきながら渋い顔をしていた。
「リツキ、がんばれっ、がんばれっ! かっこいいよッ」
「うーん! 頑張る!」
「何だコイツら」
茶番をしている私達の横で、ゾーイは開いていく穴をただ見つめていた。
ガードに人一人入れる程度の穴を開けたあと、神聖力無効をかけながら、同じ大きさの板を壊すと、中には人一人が腰まで入れそうなスペースがあった。
「本当に何事もなく穴が開いた」
「身体が小さくないと入れないかもな。ミュー入れる?」
「うん。入る」
下に瞬間移動すると、中には宝飾品やよくわからないものや、書類が置いてあった。
よく分からないガラクタに見える物も、きっと高価な何かだと思うが私には全然分からない。
「書類だけ外に出すね」
「ミユキは体力がないんだから、神聖力で軽くしながら運ぶんだよ」
「あ、そういう手があったんだ。ありがとう」
いいこと聞いた。全然思いつかなかった。
神聖力を使いながら書類を運ぶと、昨日とは比べ物にならないくらい楽でスイスイ上に運べる。
「すごく楽。もう少しで終わるよ!」
「ミユキって凄く賢い時とバカな時の落差が激しいな……」
「だからミューは可愛いんじゃん。一生懸命だし」
「確かにねぇ」
書類の数は、そんなに多くなく、あっという間に上に運び終えた。
中を探っていると、手紙が入った箱も出てきたので、それも外に運び出す。
もう隠れているようなものはなさそうだったので、二人の元に瞬間移動した。
「お疲れお疲れ。さぁ持って帰ろうか」
ゾーイが膜に包まれた書類の束の上に座りながら言う。
これなら全部の書類に身体がくっついているから、運ぶのが簡単そうだ。
私達を連れてパパパッと瞬間移動でポータルを経由しながら帰る。
帰宅まで五分もかからなかったので、凄いな~と素直に感心してしまった。
「とりあえず中は夜調べるとして、家を探さないと。ミユキは彼氏と一緒に王宮に行くんだろ?」
「うん。明日リツキに面接してもらわないといけないから、チハラサさんにリツキを会わせないと」
「えっ、面接って何のこと?」
「チハラサさんって人が人が苦手らしくて面接ができないんだって。でも大聖女の姿は美しいから私は面接に向かないらしくて」
「ミューは元も可愛いから面接なんてしちゃだめだよ。仕方ないな。俺しかいないならやるしかない」
「ただのアジア人だから、可愛いことないよ」
恋は盲目って奴だなぁと思いながら、ゾーイと別れてリツキと王宮に行く。
リツキはチハラサさんとすぐに打ち解けて明日の面接でやることや、仕事のことなどを話していた。
私は私で神聖力を使いながら、昨日と同じ整理整頓を進める。
面接ができるほど綺麗になった頃には、夕方になっていた。
その日は、四人で食事をしたあとに、書類を見て疲れ切って寝た。
ゾーイはアンリの家をまた借りたようだ。
「ゾーイが女に目覚めたら困るから、いつでも借りていいって言った」
アンリはそう言っていたが、そもそも目覚めるもなにも、ゾーイは女性だ。
よくわかんないなと思いながら、まぁいいかと思いつつ三人で眠った。