表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/180

初めての王宮仕事といちごチョコ

大聖女の姿に変わって、王宮に行く。

魔王の力は私が思っているよりよっぽど強いらしく、すぐに奥に通された。


「私はニシダだからね」

「大聖女ニシダね」


扉の前で相手を待っている間、ゾーイとコソコソ話す。

扉が開いて、案内の人が中に通してくれた。


室内は、めちゃくちゃに汚れていた。

いたるところに本と書類が散乱している。


奥にあった山のような書類の間から、のそりと大きな人間が出てきた。

ただ、大きい。二メートルは絶対ある大きさの男性だった。

ひげが無精ひげが生えていて、目のくまがすごい。赤褐色の髪もボサボサだった。


「大聖女様ですね……こんなところによくいらっしゃいました。話は聞いております」

「初めまして。大聖女のニシダと申します」


持ってきた焼き菓子を渡す。

チハラサは軽くお礼を言いながら受け取ってくれた。

ニ、三人いると思っていたが、一人しかいなかったので拍子抜けしてしまった。


「初めまして。ゾーイ・クーパーです」

「名前……チハラサ・バーンズです」


酷く顔色が悪い男性は、私達にソファに座るように促すが、そこにも書類があった。


「ああ……すみません。最初にエリオット付きの貴族が逃げてから、ずっと忙しくて」

「ちゃんと寝られていますか?」


話しかけながら、回復をかける。

エリオットを殺したせいでこの人に迷惑をかけるとは思わなかった。


「甘いですね……ありがとうございます。ここ二週間はまともに寝られてません。王族の方が亡くなってからは寝る時間もなくて」

「他の方が手伝っているわけではないのですか?」

「急にいなくなったので、探す暇がなく」


そうだよね。二週間だもん。

それに部屋の掃除をする人も必要だ。


「今度から王族の代わりに私がその席に座ることになるので、私も頑張ります」

「なるほど……そんな話は聞いてましたが。確か外から来た方ですよね。大聖女様は」

「はい。ですので私には知識が足りません。ですから、この人と、もう一人も一緒にお仕事することになります」

「それは心強い。もうこちらが死ぬか、仕事が滞るかのどちらかだと思っていたので」


そんな状態ではいつ倒れてもおかしくないので、私達が手伝わなければ。

でも、ゾーイは少し怖い顔をして、私の肩を掴んだ。


「ニシダ。自分達もけっこうもう仕事つまってるから、そんな軽く請け負えないだろ」

「でもチハラサさんが過労死しちゃうよ。これ何人分の仕事なんだろう」

「六人分くらいですね。エリオットの下に三人くらいついていたのが失踪で消え、二人は王族が殺されたあたりですべて連絡が取れなくなりました」

「一人でやる量じゃない! それは二週間でこうなってしまうよ」

「本来ならすぐに人を探せばいいのですが、人が苦手すぎて、面接が嫌だったんです」


勉強が得意な人って、人と接するのが苦手な人も多いもんね。


「じゃあ私がやりましょうか。面接」

「大聖女様の見た目だと、若い貴族が別の意味で寄ってくるのでいけません」

「なるほど。じゃあ男性もいるので、その子にお願いします。チハラサさんは話さないで近くにいるだけでいいので」


リツキなら上手くやれるだろうし、だめなら私が男に変身すればいいだけだ。


「分かりました。助かります。では人材募集をかけましょう。欲しい能力は分かっているので」


少し元気になったチハラサはのそっと立って机に向かう。


「今日出すので、明後日面接でも大丈夫ですか?」

「大丈夫ですけど、そんなにすぐ面接者が来るんですか?」

「来ますね。王宮勤めは人気があるので」


凄い。さすが王宮。すぐに人が集まる。


「チハラサさん。私は今、二週間後の貴族裁判の準備をしていて、それまではかかりっきりというわけにはいかないので、当然遅れます」


バラバラになった書類をまとめて整理しながら話す。



「ですから遅らせていいものは遅らせて、チハラサさんは休んでください。死ぬと一番業務に支障が出るからです」

「確かに……」

「明日もそんな顔なら私が気絶させます。大聖女なので」

「怖いですね」


チハラサは苦笑しながらベルを鳴らすと、やってきたメイドに何かを伝えて紙を渡し、持っていかせた。


「チハラサさん。さっそく仕事のやり方を教えてほしいんだけど」


さっきまで仕事を増やすことを躊躇していたゾーイが話しかける。チハラサが近寄って何かを教えていた。

近寄って話を聞くと、いろんな地域から届く要望や嘆願書を、間違いなく処理できるように資料が必要なものは資料を用意したりするらしい。

そうすることで、国王や魔王は正しく情報を処理できるとのことだ。

馬鹿でもちゃんと処理できるようになっている仕組みは素晴らしい。私も安心だ。

資料が置かれている棚や、前年度の処理したものがどこに入っているかなどをゾーイと一緒に聞く。

使った資料が全て出しっぱなし状態なので、私も掃除くらいならできそうだ。


「私は! 片づけをします!」


二人が頑張って仕事を片付けている中、一人で黙々と出しっぱなしの資料を片付けて、散乱した書類をチハラサに聞いたあと日付順に並べる。

明後日には面接をしなければいけないので、この部屋を掃除しないとどうにもならないから頑張った。



「いや、二人とも助かりました。凄まじい処理能力。素晴らしい」


三時間ほど仕事をして帰ることになった。


「いえ、少ししかできずにすみません。用事がありまして」

「ヘロヘロになってすみません。チハラサさんもちゃんと休んでくださいね」


理由は簡単。私が力仕事でヘロヘロになったことにゾーイが気付いたからだ。

二人で部屋を出ると、自分に回復をかける。


「紙ってすごく重くて、腕と足にくるね」

「筋肉ないのに自分を過信しすぎじゃないか?」


回復をかけても疲れていると思いながら帰る。

王城の廊下を歩いていると、仮面舞踏会の火を思い出してしまう。

そういえばポーションプールは今どうなってるだろうか。

貴族裁判でみんなに見せたら、インパクトを与えるには十分な気がする。


(そろそろゾーイに話してもいいよね)


「寄りたいところあるんだけど、行っていい?」

「いいよ~」


姿を透明にして、瞬間移動をする。

パッと真っ暗な空間に移動した。

よどんだ匂いが周囲に立ち込めて、思わず口を抑える。


「くっさ。なんだここ。何も見えない」

「ガードがないんだ。すぐ入れちゃった。ゾーイって明るくできる?」

「……できるけど」


ゾーイが光の玉を作る。

子どもたちがいなくなって、完全封鎖はされているが、奥にはプールがまだ残っていた。

奥に向かって歩いて行くと、匂いはどんどんキツくなる。

たぶん、もうこのポーションは飲めないんだろうなと思った。


『あんまり息しない方がいいから脳内で話すけど、この灰色の水は、ポーションなの』

『ポーション? これが?』


両側にあるプールを見ながら、ゾーイが驚いている。


『王族がガラレオに騙されて集めた、何の意味もないポーション。集めるのにいっぱい子供たちが犠牲になったみたい』

『子供に……ポーションは毒だもんな』

『今は元気にモーリスさんの所で働いてるから安心して。もう帰ろうか』


ゾーイの腕を触って瞬間移動をする。


次の瞬間には王城の外にいた。

清々しい空気に、思い切り安堵する。


「大人もあの空気は良くないから解毒したほうが良いね」

「あ~と……今の何? ちゃんと説明してくんない?」

「えっと、どうしよう口で話す? 記憶見る?」


正直、この話は口で説明するのは難しすぎるので、記憶を見るという選択肢をつけた。


「記憶見るか」

「じゃあゾーイの部屋で見せよう。うちの家でやると、万が一アンリかリツキが見た場合誤解する恐れがある」

「確かに、やましいことはしてないのに殺されることだけは分かる」


ゾーイの部屋に帰る。

ちょうどいい背もたれがなかったので、ソファのひじ掛け部分に頭を乗せてもらって反対側からおでこをつけた。


「ユラの時と違くない?」

「恥ずかしいし。しかもゾーイはなんかこういうの苦手っぽいから。はい神聖力流して」

「そんなことないけどな」


ゾーイの神聖力が流れてくる。チョコだった。


「チョコ! カーマよりよっぽどチョコだ!!!!」

「あー、ミユキの作ったカーマと味似てるよね」

「こっちの方が本物だよ!! 美味しい」

「それは良かったけど集中しなよ」


ゾーイは苦笑していた。

真剣にやらなきゃと思いながら神聖力を絡める。

ポーションプールの話と、足りなくなった杯のポーションの話、王族がなぜポーションを集めていたのかなど、次々に思い出していった。

ついでに子どもたちにポーションを飲ませる為に分離させた記憶も思い出す。

全て思い出して、おでこを離したときには、疲れていた。


「なるほど。本当にミユキって、この世界を良くしてるんだな」

「そんなことないよ。そんなことより私のポーションとゾーイのポーション混ぜたらいちごチョコになって絶対美味しいよね」

「せっかく感動してたのに台無しだよお前は」

「だってアンリのポーションと合わせたら、オランジェットみたいになるし、使い道が凄くある~」

「オランジェットは知らないけど、そんなに気に入ったならポーションあげるよ」



ゾーイにポーションを貰って、ホクホクしながら帰る。

アンリとリツキにポーションを混ぜたいちごチョコを飲ませたら、心底嫌そうな顔をした。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ