ジュディとの再会とゾーイの本心
次の日
ジュディに変身して、ジュディを迎えに行った。
まだ朝も早かったのに、ジュディが変身した私が建物前に立っていたし、シャーリーもいる。
「ごめん、遅刻?! こんなに早いと思わなくて」
「聖女さま~!」
「この国は、前日に釈放扱いになった人の食事は作らないんで、出るのも早いんです」
二人は笑いながら私の元に寄ってきた。
リツキだけが早いわけじゃなかったのか。悪いことをした。
ジュディの手を掴んで、パッとジュディとシャーリーの家まで移動する。
「一回中に入ってから、ご飯食べに行こう」
三人で中に入って、見た目を元に戻した。
思わずジュディに抱きつく。
「なんですか。お風呂入ってないからくさいですよ」
「くさくないよ。でも気になるなら浄化をかけるね」
苦笑するジュディに浄化をかける。ジュディが私の身代わりをしてくれたから、すべてが上手くいった。
でもそのかわりにもう会えなかったらどうしようと不安だった。
「ジュディ本当にありがとう。なにか酷いことをされなかった?」
「全然。暇でした。あっちもこっちが犯罪者と思ってないみたいで。暇すぎて看守とゲームしてましたね。あ、上品なやつですよ」
ジュディは快活に笑って服を着替えに行った。
「やっぱり聖女様の見た目で三人も殺すのは、無理がありますよ~」
シャーリーが笑う。
それを見ながら、あいまいに笑った。
もう戦争を阻止した段階で何人殺したかわからないけど、見た目が優しくて得してるみたいだ。
三人で食事に出かける。
おごるから、おすすめの良いところを紹介してと言ったら、喜んで連れて行ってもらえた。
ジュディがお薦めの料理屋さんは、女の子受けが良さそうなロマンチックな白とペイルブルーを基調とした店だった。
果実がなる樹がたくさん店の中にあり、夜になるといたるところに蝋燭が灯るとのことだ。
三人で食事をする。
おすすめだけあって、海産物もすべて美味しかった。
「本当に釈放されて良かった。大丈夫だと思ってたけど、最初は気が気じゃなかった」
「けっこう決意してたけど、こっちとしては呆気なかったですね。すぐ出られちゃって」
「本当に良かったし、ジュディとこうやってご飯が食べられて本当に嬉しい」
「私もですよ。聖女様」
「わたしもそういう思い出ほしい~!」
なにも覚えていないシャーリーだけが、気楽に叫ぶ。
ユラは覚えてなくても色々あるように思えたけど、シャーリーは本当に大丈夫なのだろうか。
「シャーリーは目を覚ましてから、後遺症みたいなのない?」
「ぜーんぜんないです。本当に飲まされたのかなって感じ」
「それならよかった」
少しだけしんみりとしながら、残っているご飯を食べる。
「そういえば、これ返してもらいました」
身分証を渡された。
財布がいまだにどこにあるか分からないけど、身分証くらいしか大事なものはないから、これだけでいい。
「ありがとう。財布はまた作らないとね」
「聖女様がお財布を作ったんですか?」
「うん。カードを入れる奴がなくて。簡単だけどね。今日は袋にお金入れてきた」
ポケットから布の袋を取り出す。
二人はその袋を見て固まった。
「聖女様って、本当になんでもできるけど、裁縫は壊滅的ですね」
「巾着袋で下手だと思う日が来るとは思いませんでしたよ」
「なんでもできないけど、そんなに酷い? 一時期買い物にも出られなかったから作ったんだけど。そんな酷いなら買わないとね」
「わたしで良ければお財布を作りますよ」
「アタシもどんなのがいいか教えてくれたら作ります」
そんなに酷いかなと思うけど、二人が朗らかに笑ったので、まぁいいやと思う。
三人で財布の構造についてああでもないこうでもないと話す時間はとても楽しかった。
二人を家まで送り届けてから、アンリの家に行く。
食事をした店でオシャレな焼き菓子が売ってたから、沢山買ってジュディとシャーリーにもあげた。
日持ちがするみたいだし、王族の代わりにお仕事をしている側近の人にもお近づきの印としてあげるのだ。
「アンリ~お菓子かったけどいる~?」
部屋に入らせてもらいながら言う。
「ミユの作ったお菓子以外は要らない。飲み物のほうがいいんだよね」
苦笑しているアンリの横にモーリスさんもいた。
「あ! モーリスさんまで! 焼き菓子いりませんか?」
「私もいらないかな。口の中がパサつくからね」
「ご兄弟そろって似てるんですね~」
「そうだね。趣味も似てるから。魔王から連絡が来たから書類を作っておいたよ。女王様になるんだって?」
「ユラとメイナを助けるためにはこれが最善だったので」
「アンリからも色々聞いたけど、私も神殿の仕事が続けられるみたいで嬉しいよ」
促されてソファに座る。
目の前のテーブルに書類が置かれた。
最初にこの世界に来た時にサインさせられたものと同じものだ。
ササっとサインしてしまう。
これで大聖女ニシダさんの誕生だ。
「あの時は、一緒に神聖力も石に登録しましたけど、今回はどうなるんですか?」
「神聖力を測る石って言うのは、基本的に強度が神聖力の量で分かれてるんだ。だから最初の頃に受付の石が割れただろ?」
「そういえば」
「あのあと、次は最大量まで使えるものに変えたんだけど、他の人間には言ってないんだ。それに、最近はあの石を使ってないだろ?」
「確かに顔パスになってますね」
「もう君は石では測れないんだよ。壊れる。だから大聖女は石の登録はしない」
モーリスの言葉にそうだったんだと思う。
知らない間に、モーリスさんに助けられていたみたいだ。
「知らない間に色々親切にしてくださいまして、本当にありがとうございます」
書類を渡しながらお礼を言う。
モーリスは穏やかに笑った。
モーリスとアンリに別れを告げた後、貝を叩いて急いでゾーイの元に向かう。
二件しか寄ってないし、朝から出ていたのに、もうお昼を過ぎていた。
「ゾーイ遅れてごめん~!」
「いや、別にいいよ。忙しかったし」
ゾーイの部屋に直接入ると、机に向かっていた。
「お菓子食べる? ジュディの出所祝いに食べた時に買って来たの」
「あー、昼食べてないから食べる」
クッキーを選んでもらうと、流れるように開けてボリボリと食べていた。
「ちょっと待ってて。もうちょっとかかるから」
「うん」
ソファに座りながら、チハラサと会ったらどんなことを話そうかと考える。
考えているうちに、昨日ゾーイの変身のことでドロテアに言われたことを思い出した。
(そうだ。早めに不安を解いてあげたほうがいいよね。それに勝手に個人情報を話しちゃったし謝らなきゃ)
いくら理由があったって、二人の間で知り得た情報を勝手にいうのは良くない。
センシティブでもないし問題ないと思ったから話してしまったけど、スパイだとか大事に考える問題だったのなら、考えが浅すぎた。
ジッとゾーイを見ていると書類をまとめ終わったようで、硬い紙に挟んでいる。
「さっきから何! 見られてると落ち着かないんだけど」
「謝らないといけないことがあって……」
「何。見つめる前に言えよ。何事かと思うじゃん」
「あの~。魔王とドロテアと会ってた時の話なんだけど変身を固定するネックレスの話あったでしょ?」
「うん」
「あの時に魔王にゾーイはたぶん、兵器作ってたから私達に迷惑かけたくないと思ってるって話しちゃった」
怒られるかなと思いながらビクビクしながら話す。
ゾーイはこちらを見ながら少しだけ目を見開いた。
「……それ、誰かから聞いたの?」
「兵器の話はゾーイから聞いたから、たぶんそうかなって思って。だって結婚とか興味なさそうだし、気を遣ってるし」
「それだけで?」
「うん」
私の様子に、ゾーイは大きく溜息を吐く。
「ミユキって、マジで本当に時々鋭いよね。兵器の話は聞き流されたと思ったんだけどな~」
「鋭くはないけど、兵器がお城の横にあったのと、ゾーイのガードは他より厳重だったから、けっこう重要人物なんだろうなって思ってたから」
「そうだね。兵器は最初にどっかから持ってきた設計図をこの世界でも使えるように自分が設計しなおしたから、自分が最重要人物だった」
「私は、ゾーイがスパイだと思われるのが嫌だとか考えてもなかったから、気楽に話しちゃった……ごめん」
「まぁ、ミユキはそういうこと考えないよね」
話しながら、ゾーイは色々考えてるようで、椅子の上で小さく揺れていた。
しばらく目を閉じていたと思ったら、急にゆっくりと立ち上がる。
「うん。知られたなら気が楽だ。そう。ガラレオにばれたら連れ帰られる危険もあるから変身したかったんだよね」
「連れ帰られるのは困る。私が賢い人が欲しいから連れて帰ってきた人材なのに!」
「清々しいくらい理由が明確だった」
「もちろん。聖女を助けたいとは思ったけど、ゾーイは賢くて強いって知ってたから最初に助けようって思ったんだもん」
力をこめて元気よく言う。
理由なんて明確であるほうが分かりやすい。私は国のために働いてもらいたいから連れてきた。それでいいじゃないか。
「なんか、みんながミユキに懐く理由がわかるな……怖いわ」
少し顔を赤くしたゾーイは、照れて横をむく。
なんで色気のない時にそういう言葉が出るのか分からなかったが、まぁいっかと思った。