力を貸してほしいお願いと、ややこしい結婚話
魔王城から帰って、みんなで食事をする。
相変わらずアンリのお屋敷のご飯は美味しかった。
「そういえば、明日私が釈放されるらしい! 通達するって言ってたから、ジュディを迎えに行くね」
「良かった。僕は忙しいから、ミユ、僕の分まで優しくしてやって」
「分かった!」
私の時は勢ぞろいで迎えに来てくれたけど、後の二人もどうでもよさそうだ。
でも、私とシャーリーでお祝いしたらいいや。私のために頑張ってくれたから、三人でご馳走を食べたりしよう!
だけど、そういえば王になるので忙しいんだ。それも言わないと。
着ている服のボタンをプチっと外す。このためにネックレスをつけてきたのだ!
「そうだ! 魔王からプレゼント貰ったんだよ。他人が変身を解除できないネックレス! これつけるなら大聖女の姿で王様になってもいいって」
ネックレスを見せつける。
「ミューが女王になるの?」
「なる! でも、知識も体力も能力も色々足りないから、みんなの力を貸してください。お願いします!」
頭を下げる。
親しき中にも礼儀あり。お願いするときは丁寧にしたほうが良いと思った。
「いいよ」
アンリは一言だった。
「もちろん。でも役職変わるなら仕事やめていい? ミューの護衛したい」
「別にやめていいよ。お金はあるし、やらなきゃいけないこといっぱいあるし」
「やったー! 明日やめてこよっと」
リツキは楽しそうだった。
「自分も?」
「うん。ゾーイもお願いします」
「いいけど、表に出なきゃいけないなら変身したいな」
「魔王にゾーイの分のネックレス頼んでるよ。作るの大変らしいからもう少し時間かかるかも」
「もう頼んでるんだ。人数に入ってるんだな」
ゾーイは少し照れていた。
アンリとゾーイは賢いから、いま裏で頑張ってくれている人達と上手く渡り合えると思う。
リツキは私と同じでこの世界の知識が足りないけど、外交にちょうどいい。
他人に興味がない分、シビアな調整もしてくれそうだ。
もし目が真っ黒になって力が暴走しそうな時も、私が王様ならたぶんリツキは引いてくれる。
(我ながら、完璧な布陣。私が無能でもなんとかなる)
「役職とかは、どんな感じが必要か明日か明後日に、今王族の代わりに仕事をしているチハラサって人に会って話を聞いてくるね」
「自分も行く~」
ゾーイが言ってくれて助かった。
「ありがとう。誰かに来てほしかった」
「俺も行きたいけど、仕事を辞めるのが先だからな」
「いきなり辞められても困ると思うから、問題がないところまで辞めちゃだめだよ」
「逮捕されたから大丈夫だと思うけどね……」
「僕、家の仕事が……でも、これから神殿の仕事になるんだよな。やったことないけど……うーん」
やっぱりアンリは自分の事業を進めたいみたいだ。
アンリは賢いけど、モーリスさんも賢いから、それぞれしたい仕事をしてもいいかもしれない。
私ができないばかりに好きでもない仕事をするのは良くない。
「アンリは家の仕事してもいいよ。だって聖女の仕事は私かゾーイの管轄にすればいいんだし」
「あ、本当に? それは嬉しい。モーリスも神殿の仕事ばっかりやってるし」
「みんな生きたいように生きられるのが一番」
ニコッと笑うと、三人もにこっと笑った。
それが難しいことは分かっているけど、目標として掲げておくのは大切だよね。
「ミユは今後どうしたいか決めてるの?」
「王族が国を売ってたって証拠を集めて、仲間の貴族の名簿とかを見つけて貴族の前で告発しようと思う。ちゃんと納得させられたらメイナとユラは殺されないかもしれない」
「ちょうど貴族裁判をしないといけないからいいね」
「貴族裁判? そういえば二週間後にやるって言ってたけど、なにそれ」
「知らないのか。 貴族が関係ある裁判は貴族裁判が行われる。今回は国王が殺害されたから、代わりに魔王が裁判をするけど」
「私は最初からアンリからこの国は魔族領の下だって聞いてたから魔王が裁判しても違和感ないけど、他の貴族は納得してるの?」
「半々って感じかな。まぁでも、納得するしないは関係ないよ。とりあえず貴族の名簿を見つけないとな」
「私がガラレオのフォーウッドの家とかに行ってみるよ! ポータル使う許可はとってあるし」
元気に言う私に、話を聞いていた三人はハァ~……という顔をする。
結局ガラレオには、リツキが辞めるのを待ってからリツキとゾーイを連れていくことになった。
夜、三人でベッドに入る。
真ん中が私で左右が二人だ。
「明日、私、大聖女の名前で登録するから、住民登録みたいなの二個になるから、二人と結婚できるんだって」
「片方がミユで片方が大聖女と結婚ってこと?」
「うん。ドロテアが醜聞にならないように配慮してくれた。大聖女はニシダって名前にしようと思ってる」
「西田って、苗字じゃん。思い出すな~もっとカッコいい名前にしたら?」
「別にニシダって悪くないと思うけど、そっちの基準だと変なのか」
アンリが不思議そうな顔をする。意味が分からない人にとっては響きは悪くないらしい。
ゾーイとかドロテアと似た感じだから、それはそうなのだった。
「やっぱりニシダでも平気だよね。どっちと結婚するかはそっちが決めていいよ。中身は一緒だし」
「え~ミューがいい……大聖女の姿は勃たないよ……たぶん」
「僕だってミユがいい。それに普段はミユの姿なんだからいいだろ」
「大聖女が表に立つときは、配偶者としてどっちか一緒にいるってパターンも出てくるだろうから、そっちも考えて」
「それじゃあ、俺がなったほうが良い気もするけど、えぇ~……ちょっと大聖女の姿になってみて」
「しょうがないな」
起き上がって大聖女の姿になる。
大聖女の姿の方が美しいんだから文句を言わないでほしい。
「ちょっと俺の上に座って」
起き上がって言われたので、跨って座る。
リツキは少し考えこんでいた。
「うーん……アリか? いけるのか? ミューに戻って」
言われて元に戻る。
「なに!!!! かわい!!!! 足に乗ってるの!!!!」
リツキは倒れた。
そんな馬鹿なことある?
アンリはそんなリツキを冷めた顔で見ている。
「僕にも同じことしてくれる?」
「しょうがないな」
確認しないと分からないこともあるもんね。
変身して起き上がったアンリの足元に座った。
「ん~……ミユのはずなのに、他人感が凄い」
アンリは口をへの字に曲げている。
やっぱり潔癖っぽいから、こういうのは苦手なのかもしれない。
可哀想なので、元に戻った。
「かわいい……無理だよ。他の女とイチャイチャできる素質が僕にはない」
「そのうち飽きるかもしれないから、その時は変身するね」
「飽きない~」
アンリは私を抱きしめると、そのまま後ろに転がった。
「俺だって飽きないし、他人とはイチャイチャできないけど」
「ミユもなかったけど、お前の見た目、前と違ってたらしいじゃん。でもミユは頑張ったんだからお前は頑張れよ」
「なんでコイツがそれ知ってんの?! 嫌なんだけど!!!!」
(あ、アンリに話したことがバレてしまった)
どうしようと思ったままリツキを見ていると、アンリは私をよしよしと撫でる。
「なんでもなにも、ミユとお前、ぜんぜん見た目が違うからね」
「そりゃそうだけど……でも、本当にミューはよく頑張ったよ……最初からくっつきまくってゴメン」
「今はもう慣れたから」
喧嘩にならずにすみそう! よかった!
「今なら、こいつに半殺しにされたのも許せる」
「えっ、なにそれ」
「ミユが落ちこんでたから、いっぱい串刺しにしといた。でもちゃんと治療はしたよ」
「全然内臓治ってなかったからミューのポーションで自分で治したよ。途中まで女だと思ってたから油断した」
アンリが女のふりをしてた頃、そんなことあったの?
串刺しにしたなら、さすがに気付くと思うけど……でも確かに痛かったってリツキが言ってたことあった。
今思うと、リツキが痛かったわざわざ私に言うってことは、相当痛かったってことだよね。
うーんと思い出す。
(あ)
血だらけになって帰ってきたことがあったことを思い出した。
あまりに真っ赤だったから倒れそうになったけど、アレがソレってこと?
「あの、真っ赤になって帰って来た時?」
「そうそう。よく覚えてたね。凄い痛かった」
「アンリ、やりすぎだよ! 殴ったくらいだと思ってた!!」
「あのくらいやっとかないと、ミユがムリヤリやられると思ったから仕方ない。襲ってくる変質者が家にいるって最悪だし」
確かにねぇと思う。
リツキだったから許せたけど、嫌な人だったら地獄だよ。
そうじゃなくても義務感で二人と抱き合ってた頃は本当にメンタルが最悪だったのに。
「いま理解したけど俺はよくないことをした。でも中身がミューだからイケる気もしたから頑張ってみる」
「よく言った。頑張れ。僕はミユと結婚したいから」
「俺だってしたいけど! 俺のほうが愛が深いだけなんだ……ミュー、そろそろこっちおいで」
行った方が良いのかな? と思って立ち上がろうとしたら、アンリに腰を抱えられてぺシャンとなった。
「だめ」
「お前~……!」
二人がぎゃあぎゃあと騒ぎはじめるのを、なんか大変な人生だったな~と思いつつ傍観する。
これからも大変なんだろうなと思いながら、目を閉じた。