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素直で単純な分だけ壊れやすい。

ご飯を3人分テーブルに並べる。

照り焼き肉に焼いた野菜を添えたのと、肉の具沢山スープとパン。

アンリはナイフとフォークとスプーンがひとつずつなことに驚いていた。


「じゃあ食べて! いただきます~」

「いただきます」


リツキと二人で挨拶をしてから食べる。

アンリは私達を見ながら、止まって私の顔を見た。


「いただき、なに?」

「あ。ごめん。命をいただきますって意味で元の世界で食事の時に言ってたんだよ」

「なるほど。文化の違い」


納得しながら、肉を切って食べはじめる。

口にあったのか、続けてもう一口食べていた。


「うん。美味しい。やっぱり口に合う」

「良かった。やっぱり喜んでもらえると嬉しいね」

「ミューは料理が上手なんだ。中学から母親の代わりに食事作ってたから」

「たまにだよ。それにそんなに上手でもないし」


三人でどうでもいい話をしながら食べる。


「弟はいつからミユが好きなんだ?」


アンリがもぐもぐと食べながら質問する。

リツキが呆れながらスープを飲むスプーンを止めた。


「ここで聞く話?」

「他にいつ聞ける?」

「まぁ、えっと……分かんないな。13歳くらいにはもう? 覚えてない……最初から可愛かったけどな」


ええ、初耳だよ。


「そんな前からなんだ。ぜんぜん気づかなかった」

「そんな前からアプローチしてるのにダメなのか」


アンリが呆れたような顔をしている。


「ミューが鈍すぎて……くっついても疑問をもたないから」

「だって小学生からだから、よくはしゃいで絡んでくる動物みたいな印象だったんだよね」

「動物」


ガーンという顔をしている。

でもそうだったからしょうがない。


「弟。そんなにみだりに女性を触ってはいけない」

「ミュー以外にはやってないよ! どっちかっていうと他の人間は不快だよ!」

「なるほど……なら、ミユを魔王に盗られないようにしないとな」


あ、まずい。


「魔王?」

「あれ、まだ言ってないのか?」


アンリがこちらを見る。

私だけが気をつければいいし、リツキがどうにもできないことだと思ったから言えなかったのだ。


「言ってない。工夫すれば避けられると思うし、言いにくかったから」

「バカだな。弟の協力がないと、ベッタベタ触られて避けられなくなる」

「どういうこと?」


リツキはスープを飲み干しながら、少し緊張した様子だった。


「アンリ、説明してくれない?」

「仕方ないな」


アンリは嫌々と言う感じでリツキに説明する。

最初はパンを食べながら聞いていたリツキの手が止まり、次第に目つきが悪くなった。


「で。ミューは大聖女なの?」

「この際だから言うけど、神様にはそう言われた」


アンリはやっぱりねという顔をする。

リツキは肘をテーブルについて、顔を隠すように額を拳の上に置いた。

下を向いたまま、なにもしゃべらない。


「でも、大丈夫。アンリが神聖力を隠す方法を考えてくれたから、四級聖女のふりをして生きられるよ」


場を明るくしたかったので、明るく言う。

だけど、リツキの様子は変わらなかった。


「ミューはさ。欲しいものがあったら、どうやっても手に入れる人間がいるって思いもしないよね」


励まそうとする私に、リツキは暗い声で返した。

そして、顔を上げると、ニコッと笑う。


「大丈夫だよ。ミュー。俺が魔王を殺してあげるから」


話す声は、先ほどとは正反対に明るかった。


「え?」

「俺がこの世界に来る時の選択肢は、魔王になるか、勇者になるかの二択だったんだよね」

「でも、ミューは絶対悪い側に送られる性格じゃないから、勇者になったんだよ」


困惑する私とは反対に、リツキはペラペラと喋る。


「あ~……全部理解できた」


それは、心から納得したという声だった。


(リツキの様子がおかしいけど、おかしいということしか分からないな)


「でも、次の魔王になれる可能性があったってことは、魔王は死ぬ可能性が高いってことだ」

「今の魔王を殺して、俺が次の魔王になればいいよ」


殺すって、本気で言ってる?


属国扱いのこの国に住む私たちが、トップをとれると思えるのも凄いけど、人を殺せると言い切るのも怖い。


「本気で言ってる?」

「いつだって本気のことしか言ってないよ。ミューが勝手に嘘だと思ってるだけでさ」

「本気ならどう考えても殺せないような立場の人間を殺そうとするのは、やめてほしいんだけど」

「だって、次の魔王が現れたら、また大聖女を欲しがるだろ? 俺がなったほうが早いよ」


どう止めたらいいんだろう。


勇者という立場の人間は、なにを目的で連れてこられたんだろう。

私は平和に生きたいし、できればリツキにだって平和に生きてほしい。


「ミユ。お前の弟、やばいぞ」

「権力で人をどうこうしようってほうがやばいだろ」


リツキは、冷静に見えたけど明らかに余裕がないだけのように思える。

それを取り繕うと、こういう感じなのだというのは、いま知ったけど。


「リツキ。失敗の確率が高いことを言うのはやめて。ばれないようにしたら今までどおり暮らせるんだよ」

「絶対なんてことは世の中にないんだから、殺したほうが確実だ」

「魔王は弟の数十倍は強いから無謀だ」

「確かにそうだね。計画は練らないと」


話がかみ合ってるような、かみ合っていないような会話が上滑りしてるような感覚。

時間をかけて落ち着かせていかないと無理なのかもしれない。


「リツキ。ご飯食べ終わったら流しに持って行って。今日はアンリの分もあるから、私が洗う」


話を変えたくて、ぜんぜん違う話をする。

リツキはこちらの顔を見てから、少しだけ悲しそうな顔をして席を立った。


「うん。ご馳走様。ありがとう。ちょっと俺、部屋で計画を練ってくるね」


リツキは笑って食器を台所に持っていく。

アンリはその様子を見ながら、目を伏せた。


(いきなりお通夜みたいな空気になっちゃった)


食事の時は楽しい気持ちにさせたいのに、アンリには申し訳ないことをした。


「せっかく食事に来てもらったのに、ごめんね」

「いや。良くないタイミングで、良くない話をしただけ。でも今日で良かった」

「良かったのかな」

「ミユが一人の時にあんな発言されたら、たぶん怖がる」


確かに……と思ってしまった。


「それは、うん。ちょっと混乱してるだけだと思うけど」


食べ終わった食器を重ねて、アンリが立ち上がる。


「食事。美味しかった。ありがとう」


自分も食べ終わっていたので、慌てて私も席を立った。


「ところで、明日から、この家で勉強しようと思うけどいい?」


アンリに歩きながら聞かれる。


「あ、わかった。まだ神聖力の使い方が分からないことが多いから助かるよ」

「じゃあ、明日の午前中来るから」

「うん。ありがとう」


二人で、食器を流しに置いた。



アンリが私を見る。

少しだけアンリほうが背が大きいけど、同じくらいの背なので自然と顔が近くなってしまった。


ごく自然に、アンリの腕が私を抱きしめる。


「ミユが嫌になら、どちらからも助ける」


耳元で聞こえた声は、いつもより緊張をしているように思えた。


「どういう……」

「どっちに転んでも、ミユがかわいそうだ」


身体を離したアンリは、そのまま後ろに二歩下がる。

見えた顔は、無表情が多いアンリにしては、花咲くような笑顔だった。

たぶん、無理に笑顔を作っているんだろうなと嫌でも気付いてしまう。


「えっと……ありがとう」


意味もよく分からずお礼を言う。

アンリの姿が、瞬きをする間に部屋から消えた。


(……どういう意味)


食器を洗いながら言葉の意味を考える。

どちらからも助けるって、どうしてアンリが。どうやって?

身体が楽になったから、神聖力をくれたって意味かもしれない。そのほうが、まだ気が楽だった。


(少なくとも、自分のことを心配していることだけは分かる)


深く考えると意味を間違えると考えてしまう。

好意的に考えようと思いながら、食器を洗い終えた。

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