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能力がない聖女と、姉を探していた弟

白い神殿、漂う厳かな香り。

聖女というのは、性格もよく、清く正しいものだと思っていた。


「新しく聖女が来たというので会いに来てみれば、無能だなんてね」


一級聖女のドロテアは、金色の髪をかき上げ、私を見下ろしながら笑う。

身体の線がくっきりと見える黒いドレスが妖艶な雰囲気だった。


ただ歩いていたところを、相手に足をかけられてよろけて、ぶつかられて倒れたのが今の状態だ。

なぜ一級聖女と言われる人物がこんなことをするのかは分からないが、悪意があるということだけは分かった。


「……失礼します」


頭を下げて、立ち上がる。

ドロテアの付き人がオロオロとしながら、私達を交互に見ていた。


「あら、謝罪がまだだけど」

「謝罪?」

「貴方がわたくしの足にぶつかって、身体をぶつけたんでしょう?」

「……逆じゃないですか? それでは失礼しますね」


スカートの汚れをはらいながら言うと、それ以上は聞かずに歩き出す。

後ろでなにかを騒いでいたけど、どうでも良かった。

わざわざ倒れてあげたんだから、無視くらいしたっていいだろう。


(それにしたって神! もう少し優遇してほしかった!)


昨日、家族で乗った車が事故に遭って、この世界に来た。

いわゆる異世界転生という奴だろう。でも、見た目も生前と変わらなければ、能力も現状たいしたことない。

神がいうには、私は大聖女らしい。

だけど、その力を使うには、恋愛的なパワーが必要らしい。

なので、今の私は道端の枯れた花を一本復活させるくらいで精いっぱい。


今日、神聖力を測る試験をしたら、四級聖女だった。

その場にいた人間がすべて苦笑いしたことから、それが大した能力ではないと理解して嫌な気持ちになった。

もっと異世界転生したら楽に世界を獲れると思ってたけど、人生はそう楽にいかないようだ。



(地道に生きていこう! 頑張ってたら四級聖女でも楽しく生きられるよ!)

(初めて会った聖女も嫌なやつだったけど、いつか多分バチが当たると思うし、気にしない!)


悪い考えを消すように頭を振りながら、聖女宮への道を歩きはじめた。






「ミュー!」


遠くから名前を呼ばれる。


(え?)


ミューと言うのは、美幸という私の名前のあだ名だ。

だけど、こんなところであだ名で呼ばれるとは思わなかった。

声の方向を見ると、遠くから走ってくる男が見えた。


茶色の髪がぴんぴんと跳ねているところは、どことなく私の弟に似ている。

だけど、その姿は、どう考えても元の身長より20センチは大きい。

しかも号泣していた。


「探したんだよ! 見た目は同じにしてくれるようにお願いしたのにさ! 見つからなくて」

「えっと、どなたですか……?」


驚きながら、手に持った自分の荷物をギュッと掴む。

泣きながら近づいてくる男なんて、どう考えても怪しすぎた。


「律樹だよ! 家族で乗った車が事故ったから、神様に言ってミューを連れてきてもらったんだけどさ」

「リツキ……? 確かに弟はそういう名前ですけど、見た目が違うんですけど」


似ているけど、うちの弟は、もっと小さい日本人っぽい高校生だ。

目も普通の茶色で、ハーフっぽくないし、こんな茶色と緑が混じったような複雑な色彩はしていない。


「かっこいいでしょ! ミューの好みに寄せた!」


笑顔で笑いかける顔は、元の弟と同じく陽キャっぽかった。

うーんバカっぽい! 確かに私の弟っぽい。


「私の弟なら、私が今はハマっていたアプリの名前が言えるはずだけど」

「戦乱浪漫! 好きなキャラは死宮東二!」



当たってる。

死宮東二は推しキャラで、ハーフのキャラだった。

今の目の前の人物に似ているかといえば、そんなに似ていないし、弟の方がまだ近かった。


「え……本当に弟?」

「そうだよ。見た目を死宮に寄せたから、ちょっと変わってるけど、面影はあるだろ?」


確かに面影はあるというか、弟の方が近いけど。


「心配ならもっと話そうか。そうだな。事故に遭う前に食べたのはうどん! ミューはキツネうどん!」


……確かに、事故に遭う前に食べたものはきつねうどんだ。


「え、本当に本人?」

「そうだって! 転生してどこいたの? 俺ね、勇者になったから、家も貰ったんだよ。一緒に帰ろ」


畳みかけるように言うと、弟は私の手を握ろうとした。


(え、えぇ……話が早すぎる!)


「あの、私、聖女宮に住むように言われてるんだけど」


パッと手を縮めて、拒否をする。

本当に弟だとしても、命令に背くのは良くない。

さっきの聖女もろくでもなかったし、聖女が沢山いるところなんて住みたくないけど。

それでも、異世界に来てツテもないのに好き勝手したら良くないと思った。


「えーと……? じゃあ、ちょっと神殿に話に行こうよ」


有無を言わさない勢いに押されて、弟と神殿に向かう。





聖女宮がある神殿は、歩いて30分もかかった。

くたくたになりながら、聖女宮以外に住んでもいいかと神官に話しかける。


「え、四級? 三級以下は別にいいですよ。あそこで住所登録はして言ってくださいね」


こちらに簡単な質問をしたあとに、足の先から頭まで見て神官は半笑いしながら言った。

能力がないと馬鹿にされるのがデフォルトなんだなぁと思う。


「なんだあいつ。なんか馬鹿にしてない?」

「最近、聖女が現れる頻度が多いみたいだから、四級は要らないんじゃない?」


ランク付けがあるという時点で、対象の人間が多いということだ。

見た目もアジア人、成績も悪いんじゃ、いてもいなくても一緒なのだろう。


(聖女というものにこだわらずに生きていったほうがいいのかもな)






神官から言われた窓口に向かう。


「住所登録ですね。では住所と名前を書いてください」


紙を渡してくれた受付の女性は、とても感じが良かった。


(住所がわからないな)


「リツキ、住所書いてくれない?」

「うん」


リツキが、ペンを持つと、サラサラとよく分からない文字の文章を記入した。

話し言葉は勝手に翻訳するようになってたけど、そんな文字書いたことない。


「えっ、なにその文字! 私、書けないよ」

「思い浮かべれば神聖力で書けるけど、書けない? 名前も名前を書くでいけるよ」

「そんな力は……書けるのかな?」


四級でも頑張って書けてほしい。

ペンを持ちながら、名前を書くと念じる。

ちっともペンは動かなかった。


(やっぱり四級じゃダメなのかな……)


「おかしいな……」


リツキが私の手に、手を添える。

ビョン! とペンが手から跳ねた。

天井まで飛び上がると、そのまま床に落ちる。


「ええ……? なにしたの?」

「何もしてないよ」


リツキも困惑していた。

とりあえず、ペンを持ってもう一度つよく念じる。


(名前! 書いて!!)


ペンは今度はスラスラとよく分からない文字を書いた。


「書けた!!」

「良かったね~」


ホッとして書類を窓口に提出する。


「では、本人確認のために、この玉に神聖力を入れてください」

「わかりました!」


(神聖力。入れ入れ!)


玉にむけて、力をこめる。


ビシィッ


「えっ」


玉が真っ二つに割れた。


「ご、ごめんなさい! 壊すつもりはッ」

「あの、ミユキ様。本人確認はできたのですが、本当に四級ですよね?」


「そう言われましたけど……」

「そうですよね。そう書いてありますし。じゃあ、もとからヒビが入っていたのかしら」

「どうしましょう」

「大丈夫ですよ。ミユキ様、こちらで片づけておきます」

「あ、ありがとうございます」


女性が優しく微笑んでくれたので、言葉に甘えてお任せする。


「勉強会があるので、明日も必ず神殿までいらしてくださいね」


「わかりました」


頭を下げて窓口から離れた。


「玉、壊しちゃった」

「元から壊れてたんだよ。たぶん」


そうだよね。別に恋愛関係ない状態だったし。

条件付きの大聖女なんてバレたら、無理に結婚とかさせられそうだし、隠しておきたい。


リツキが手を繋いでくる。

弟はわりと手を繋ぎたがるクセがあったので、やっぱり弟なのだろう。


「ミューと会えて良かった!」

「そうだね」



嬉しそうにブンブンと腕をまわすリツキを見ながら、やっぱり弟なんだなとほほえましく思う。

知らない土地で、知っている人間がいて本当に良かった。





リアナの予言書があまりにリピート率が悪いので、これは多分女性から求められているものと違うのでは?!読者様に対して申し訳ない!私も読者も人生が短いのよ!とちょっと糖度高めのヤンデレが出るのとか書きたいな~と思ってはじめてみました。どちらももうちょいやってみて、反応がいい方を完成まで頑張り、悪い方は自分自身の人気が上がったら頑張るしかない~と思っています。どっちも好きなんですけど、こっちは恋愛の柱が大きいです。楽しんでいただけた方をデータでとらえて続けていこうと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします~!

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聖女としての苦悩や弟との再会が温かく心に残りました
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