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八話:入寮

「くっそ、早く休みたいのに……」


「本当にそうだよね。こんなハードなことを入学初日に2回やらされるとは思わなかったよ」


 共に精神的に疲れていて、意気投合した。


「マジであんな森の中どう探せっていうんだよ」


 しかし、アズサはそこではっとしたような顔になった。何か気付いたことでもあったのだろうか。


「もしもだよ、高い木に登れたら周りを見渡せると思うんだけど、それさえできればな……」


 フッフッフ。あーっはっはっは!その手があったか!精神的に参りすぎていて真っ先にやるべきことが分からなくなっていた。


「それなら任せろ!俺多分登れる!」

 

 岩に登りまくっていたので、恐らく登れるだろうと思ったのだ。岩登りには自信があるので、はっきりと断言した。


「……」


 あれ?アズサ何でそんなに震えてんの?


「天は、我らに味方した……よかった……」

 

 ……いくらなんでも早すぎやしないですかね。

 

「喜ぶのはまだ早い。それは寮についたときまで取っておこう。」


 方針が決まったということで、早速校舎を出て森に入る。目についた一番大きな木に登り、上から見渡す。どこかに寮はないか……あった!1つだけ。恐らく外の寮は木に隠れて見えなかったのだろうが、その1つだけはむき出しになっている。


 しかし、それが意味するのは、その寮は結構高い位置にあるということだ。俺なら行けるかもしれないが、アズサは大丈夫だろうか。


 でも、こうしている間にも枠が埋まっているかもしれない。とりあえず行ってから考えよう。


「アズサ、あそこに向かって魔法で目印つけられる?」


「任せて!」


 火事にならないほどのちょっとした炎を出してもらい、そこに向かって突き進んでいった。魔物とかは特に出ず、順調に進み到着できた。


 だが、やはり立地が高い。俺には登ればそうだが……


「アズサ、これ登れる?」


 即座に首を横に振った。まあ、さっきの木に登る話からして予想はついていたが。どうするかな……


「おぶっていけないか試したいんだけどいい?」


 その言葉を発した瞬間にアズサの顔が青ざめていく。


「無理無理、絶対無理!あ……ごめん。君におぶられるのが嫌とかそういうわけじゃなくて……でもどうしても理由は言えないんだ。ごめん」


 ガチ拒否されて心がへし折れかけたが、俺が嫌というわけではなさそうなので安心した。しかし、それだと代替案が必要だな……ちょっと待って。


「あれ使えそうじゃない?」


 それは普通に生えていたツタ。これをロープ代わりにしていけば、普通に岩を登るよりはマシだと思った。


「これを補強できればな……」


「私ヒモ作れるよ。こんな感じで2本を組み合わせて……」


 一瞬で作ってしまった。これで準備完了。俺が岩の上に登り、ヒモを垂らす。アズサはそれを掴み、岩を登る。ただ登るよりはマシなんだろうが、めちゃくちゃ辛そう。


「あ、握力なくなってきた……」


 目に涙を浮かべて訴えてくる。


「頑張れ!俺も引っ張るから!」


 幸い、アズサの体重は軽い。だからかなり引っ張りやすい。アズサも最後の力を振り絞り、互いにラストスパートをかける。


「ん……あと……もう少し……」


「うおらあああああ!!!」


 互いに全力を尽くし、ついに登り切ることに成功した。もう腕が限界です。まだギリギリ上に上がるけど。

アズサはまともに手が握れなくなってるな。


 というか手以前に息が上がってしまっている。しばしの休息を取りたい。だが、


「アズサ、先着順。早いとこ入っとかないと」


 休憩してる間にウサギとカメみたいな大惨事になるのは避けたい。そんな事になりでもしたら間違いなく心が折れる。悲鳴を上げる体にムチを打ち、俺達は立ち上がり、ドアを開けた。


「おおっ!やっと一人目が……2人いるか。どっちにせよいらっしゃい!」


 前言撤回。休んどきゃよかった。まあ結局中で休むからそんなに変わらないか?


 んでもって出迎えてくれたのは小さな女の子。疲れ切った俺達にとっては癒やしでしかない。しかし、まず最初に寮長みたいな人に挨拶を通すのが礼儀ではなかろうか。


「寮長さん呼んできてくれないかな。まずは挨拶を通すべきかなって」


 しかし、その子はきょとんとした顔で言う。


「あたしだけど。寮長」


 ……なんだって?そんな事言われても信じらんないんだが。何?健気に頑張るタイプの子?


「信じらんないって顔してるな。あたし人間じゃないからさ、寿命長いのよ。今72だけど、人間換算だと10歳くらいになるのかな?」


 ああ……異世界だしこんなこともあるよね。しかし人間にしか見えないほど見た目に違和感がない。気になったので何の種族か聞いたら、


「あたし、制約で種族言っちゃいけないんだよね。だからごめんね」


 んー残念。人間に近い魔物って本当にいるのかなって思ったけど、まだわかんなそう。とりあえず、色々と疲れた。


「あ、やっべ、眠い……」


「うん、私もちょっと眠い……かな……」


 二人共もう睡魔に負けかけだ。足がふらついてきている。多分、眠りにつくのも時間の問題だろう。


「あなた達の部屋一階に優先してあげるから、もう寝ていいわよ」


「ありがとうございます……」


 案内されるがままに寝室に誘われ、俺達は眠りについた。


「夕飯時には起こすからね。それじゃ、おやすみ」


「おやすみなさい……」


 そのまま、言葉を発するのも眠りにつくタイミングもほとんど一致しつつ、俺とアズサは眠りについた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「そろそろ夕飯だよ〜、おいで〜」


 声をかけられて目覚めた。なんで目覚められたんだろう。俺寝たら起きない人なのに。


「ふあ〜、おはよう」


「ああ、おはよう」


 扉を開けた瞬間いい匂いが立ち込めてきて、階段を駆け下りた。見てみればごちそうの山。


「うおおおおおお!!?」


「おいしそ……なんでテンリ君ないてるの!?」


「おやおや、こんなに泣くなんてみっともないね。全く……」


 クラスで絡んできたあいつがいた。なんだよ、まだ絡んでくるのか?今それどころじゃない……


「ほら、これで涙を拭きたまえ。見てられないからね」


 ………………


「なんだい、一体どうしたんだい?」


「お前いいヤツだなあ!!」


 正直誤解してたよ。おまえただのいいヤツじゃん。ごめんなマジで。


「俺さ、貧乏で今までこんな飯食ったことねえんだよ。他の人からもらったりもしたけど、基本的に一日に食えるものは魚の切身一つときゅうりだけでさ……」


 少なかった。貧相だった。でもそれは商店街の人もそうだった。人が来なくて、あまり利益が出なかった。それでも彼らは俺に食べ物を恵んでくれていたのだ。それを思い出してまた涙出てきた。本当ありがとうございました。


「それじゃ今日からは目一杯食べて目一杯楽しもうか。大丈夫。今日から……君は……ウウッ」


 やばい。この男まで泣かせてしまった。済まない。そしてありがとう。


「泣かせてくれるじゃねえかー!!!」


「こっちまで、なんか来ちゃうな……」


 気がついたら寮長さん、アズサを含めた6人まで泣いてしまっていた。やばい。本当にいい人しかいない。神様ありがとう。


「今日は今までの悲しみを取っ払って、思いっきり食べるぞー!」


「オオー!」


 そこから全員が意気投合して、話が弾みに弾んだ。


「みんなどこから来たの?」


「うーんわたしはねえ……」


「なんのためにここに入学したの?」


 ワイワイガヤガヤ、といった音がぴったりだった。そして、ここまで話が弾んだのにはもう一つ理由があった。


「なんでこんなにうまいんだよ!ヤバすぎだろ!」


「ああ、こんないいもの久々に食べた」


 そう、寮長のメルティスさんが作った飯がめちゃくちゃ美味い。まさに至高なのだ。だから全員のテンションが爆上がりしているのだ。でかい鶏の肉とか、たくさんの魚の刺し身とか、野菜いっぱいのサラダとか。


 今日一日でこんなに疲れることと幸せなことを体験するなんて、まるで人生を一日に圧縮したようだ。明日死ぬのかな……。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「なんか激動の一日だったな、今日は」


 今日一日を振り返るのだが、情報量過多で頭がこんがらがった。


 でも、あの寮探しには意味があったと思う。あの達成感、目的のために建てた様々な作戦、状況に適応する能力、それらを養わせるためだったのではないかと思う。


 ここまで考えられているのなら、教育も相当なものだろう。俺はそれを最大限利用して強くなってやる。全ては選択権を得るために。それを心に固く誓って眠りについた。

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