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六十九話:反省会

「さて、リィレンも起きたし、二人にアドバイスでもするかの」


「アドバイスね……コテンパンにされたから色々あるでしょうね……」


 不服そうにリィレンが呟いた。俺はそんな事ないと思うんだがな。後ろから戦うやつの立ち回りとしてはかなり完璧で、相手してて嫌だった。


 むしろ俺のほうがよっぽど……


「リィレン、お前さんに言うことは特にない。中衛としては文句ない立ち回りじゃ。そもそも支援役に単体で前衛と戦わせるのは無茶振りじゃからな」


 それでもそうすることで、対応力はかなり高められるということで、この先も続いていくんだろうがな。


「それで、テンリ。お前さんにはいい意味と悪い意味両方で言いたいことがあるが……いい方は自分で理解しきってるからやったことじゃろうから省くとしよう」


 悪い方の指摘、俺はそっちを求めてたから別にいい。


「それで、俺は何がダメだったんだ?」


 いくらか自分でも反省して理解していたが、自分からの視点と客観的な視点で見た時の感想は全然違う。見ていたのが魔法の王みたいな人なんだから、なおさら説得力が増す。


「自分の移動速度を過信しすぎじゃな。障害物が置かれようがそれすらも利用して動けるじゃろ。それはいいことなんじゃが……もし何らかの理由で移動を遅くされたらどう戦う?」


 反発は誰に求められない。しかし俺の足の動きの方を止められるとそうもいかない。足を動かさずに全身でバウンドしながら前に進むというあまりにも不格好すぎる方法もあるが、剣を持てなくなるので却下。


 移動できないと間合いを詰めるだけじゃなく、トラップによる盤面支配にも支障が出る。遠隔で張れはするものの、走って張るのとでは効率が段違いだ。


 反発ありきじゃ限界がある。せめてあと一個くらい何か持たないと。


「もう一つ、移動速度に反応速度が追いついておらん。現に移動先にいきなり障害物を置かれた時避けられなかったじゃろ」


 そう。ほんとにそう。たまに俺自身が速度についていけなくなる時がある。たまに意図せず支援の攻撃にぶつかったりするし。


「目じゃな、今お前さんに一番必要なのは。あの速度をもってしても戦場を捉えられる目が必要じゃ。こればっかりはどんな経験しようがどれだけ慣れようが、時間じゃ手に入らぬがな」 


 言い切られてしまった。じゃあどうすればいいんだよ……待った、一個思い浮かんだのがあるが……危険すぎるけど死なない程度に後で試してみよう。


「まあ、こんなところじゃな。リィレンはちょっと休息が必要じゃな。それじゃそろそろ剣技の修行でも再開するかの?」


 再度剣を持ち、爺さんと剣を交える。剣を振り切って、隙で動けない腕を反発で無理やり切り返してまた剣撃を放つ。


 繰り返す行動を、繰り返し練習。俺に必要なものは繰り返して繰り返してようやく完成する。現にこの行動を四回繰り返したところで調整をミスって動きが止まり、爺さんにそこを突かれた。


 俺が成長している実感というものは確かにあるのだが、どうも遅すぎる気がしてならない。最近はとても嫌な予感がする。


 何かどうしても間に合わなくなる気がする。どうしようもなく焦っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 今日の分の修行が終わり、晩飯にありついている。ふと思う、リィレンはカリアと話して道草食ってた俺より遅く帰ってきた。


「リィレンさ、今日何してたんだ? 道草食ってた俺より帰り遅かったじゃん、やり合う前」


「道草食ってたとは、堂々と言ったのテンリ……覚えておけよ」


 まずい、言い方ミスった、今度しばかれる。


「別にいいじゃない、何してたって。あんたこそ何してたのよ」


「俺は……土から人間掘り出してた」


「土から? 冗談もいい加減にしなさいよ」


「それで、その人は大丈夫だったの?」


「ピンピンしてた。むしろ自分からああなったなんて言ってさ。左腕にさびついた鎧付けてる、子供みたいなやつ」


 机が揺れて大きな音が鳴った。鳴らしたのは爺さんだった。少しばかり食べ物が散らかってしまった。


「グスタフさん? 大丈夫ですか?」


「師匠、どうしたのよ」


 あまりにも真剣な顔をするもんだから、俺は爺さんに何も言えなかった。


「お前さんが掘り出した人間とやらは、今どこにいるのかの」


「え……多分森のどっかにいると思うけど……」


「ちょっと行ってくるわい」


 そう言って爺さんはあっという間にあっという間に森の中に消えていってしまった。あまりの行動の早さに、俺達は全員唖然としていた。


「どうしたんだろうな、マジで」


「テンリ君、掘り出した人にグスタフさんが飛び出していくくらい重要なこと、何かないの?」


「わかんないな……強いて言うならめちゃくちゃ長生きしてそうだった」


「もうそれ、人間って言うより魔物に近くないかしら」


 どうしようか。あまりにも急だったもんだから空気が静かになっちまってる。


「とりあえず、飯食ったら俺の魔法の開拓、付き合ってくれない?」


「うん、もちろん」


「あんたの魔法色々と独特で面白いしいいわよ」


 そうと決まればさっさと食い終わらせて……まずはあれを探そう。


「リィレン、この家に住んでる歴がこの中で一番長いお前に頼みたいんだけど、人体についての本、どっかにない?」


「人体? なんでそんなの……書斎にあるとは思うけど、あれ古代語で読めないのよね」


 出たよ古代語。前は覚えきれなくて、もう秘伝書とか存在を忘れそうなくらい放置してるんだよな。


「アズサ、お前古代語読めるって言ってなかったっけか」


「ある程度ならね。頑張ってみるよ」


 一生ついていきます。もうほんとに最高、アズサ様愛してる。


 リィレンに書斎に導かれ、アズサが本を探す。


「あった!」


 数分経ったくらいでそれっぽいのが見つかったらしく、アズサはその本の目次らしきものを開いた。


「それで、何が知りたかったの?」


「ああ、人間って脳って何ができんのかなって」


 アズサが目次の中からそれっぽい場所を探す。目的の場所をアズサが音読していく。


「ものを考えるのが前頭葉、感覚が頭頂葉、視覚が後頭葉、聴覚や記憶が側頭葉、らしいけど……」


「それを知ってあんたは何がしたかったの?」


 なるほど……俺のやりたいことが全部できそうだ。後は死なないようにトライアンドエラーだ。


「脳に雷魔法流す」


「え?」


「は?」


 アズサは必死俺の腕を掴んで止め、リィレンはブチギレだした。


「お願いやめて! 怖いよそれ!」


「あんた、強くなるって言ったわよね! 果たさずに雑に自殺しようとするのやめなさいよ! もっと生きなさいよ!」


「自殺じゃないし! ただ考えんのを速くして見えた情報をすぐに処理しようとしただけ! ほら、脳は電気で信号流すって言うからさ、あれを常時やって対応力上がんないかなって……」


「ん? あんたそれってもしかして、今日私が置いといた魔法を避けられなかったから?」


「そう。ああいうので詰んだら嫌じゃん」


 少し考え、リィレンは引き下がった。


「アズサ、これはあんたのためでもあるのよ。ちょっとだけ許してあげなさい」


 優しく諭すように言ってはいるが、アズサを羽交い締めにして俺から引き剥がしたから台無しだ。


「ほんとに、ちょっとだけだからね……」


「ありがとよ」


 それじゃレッツトライ。いっちょ脳みそに微弱な放電、開始。


 やってみた感じ、相当抑えて電気を流したからちょっと痺れたくらいで済んでいる。戦闘中、これを常時流して即座に反応できるように。


「だ……大丈夫?」


 俺が魔法に、"世界よ遅くなれ"的な思いを込めまくったせいでなんかゆっくりに聞こえた。すっげえ気持ち悪い。


「今のところ大丈夫……うおっ!」


 いきなりリィレンが俺に手を出してきた。


「なんてことすんだお前!」


「いいじゃない。それがあんたの魔法が成功した証よ」


 まあ、確かにな。これをやってない状態だと普通に食らって……なんだ、ちょっと視界が霞んで……横倒しになった。


「テンリ君!? これ絶対だめなやつだって!」


 なるほどわかった。リィレンが手を出した時、焦って魔法強めたんだ。世界が横向きになったのではない。ただ単に俺が倒れただけだ。


 なんか、鼻血出てきた……。


「ちょ……ちょっと! テンリ、あんた一旦魔法止めなさい!」


 意識が完全に消え失せる前になんとか魔法を止めた。なんか世界が速く感じる。これが緩急か……。


「テ、テンリくーん!!!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 グスタフは一人、森の中であるものを探していた。芽は即座に潰さねば。息吹は即座にかき消さねば。五百年前の大厄災が再臨する前に。


 そうして辿り着いた滝の隅に、それは片膝を立て、胡座をかきながら佇んでいた。それはふとこちらを向いたが、グスタフの思惑は外れ何も反応を示さなかった。


「答えよ。貴様は五百年前に世界の半分を消し去った、始まりのオッドアイ、"アールマンタ"か」


「……その名前で呼ばないでおくれよ、思い出したくないんだ。ボクの名前はカリアだ。そう呼んでくれ」


「カリア……貴様はまた世界を滅ぼすか……?」


「それはない。あんなのはもう二度とごめんだ。ねえ、キミ"マドウノツカイ"っていうんだ。すごそうだね。でもキミじゃない」


 キミじゃ、ボクを殺せない。そうひっそりと呟いた。


「久しぶりだねイワト。何してんのさそんなところで。久しぶりに話さないかい?」


 物陰に隠れた一人の人間に、完全に気配を断ち、グスタフですら気づけなかったその人間に、カリアはいとも簡単に話しかけてみせた。


「五百年振り、遂に起きてしまったか。頭は冷えたか」


「ついでに心も冷えちゃった」


 軽口を叩き合う二人からは、あまりにも重苦しすぎる重圧が感じられる。グスタフが置いてけぼりになるほどには。

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