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六十四話:消えるまでは

 真っ暗な空、静寂に包まれたこの空間、まるで僕の存在を感じさせないかのようだ。いや、もはや比喩にもならない。断定だ。僕は今誰にも気づかれない。こちらレズリーです。


 それほどまでに気配を消して歩いている。学園で散々暴れ散らかして、僕は指名手配された。できれば姿を見られたくないのだ。


 いやはやしかし、彼らの顔を見るのは数カ月ぶりだ。この短期間で彼らはどうなったかな? 僕を見て驚いた顔が容易に想像できる。


 ニヤけが止まらない。アレクからはきっとこの世で最も醜悪とか呼ばれてる顔だ。だって仕方ないだろ。面白いんだから。


 さて、そろそろ会えるかな。


「それが君たちの命日になれば、いいんだけどなぁ……痛っ!」


 なんだこれ? 何もないのに通れないや。うっすい膜……みたいな? ……これ魔力だ。


「お前さん、何用かの?」


 目の前に現れた、宙に浮いてる体つきのいい爺さん。普通の人間じゃないな。こいつか、かしらの言ってた魔導之使つかいって。


「用? なんのことでしょう。僕はただの旅人です。偶然ここを歩いていただけです」


「魔力が高い者しか触れない結界を張っておる。滅多に人が来ないここに人が来るなど、よっぽどの目的があるに違いないわ」


 へえ……考えてるね。残念。こんな化け物と戦ったら後々キツいし、なるべく穏便に済ませようとしたんだけど……無理か。


「別にいいじゃないか、魔力の多い人間がここ通ったって」


「よくない事情があるものでな。せっかくできた弟子が殺されかねん。お前さんから強大な殺意を感じるのでな」


「わかる? じゃあどうするのさ。僕をここで倒していく?」


「そうする他あるまい」


 戦ってみたい。でも勝てる気はしない。取りあえずやるべきことはやっておかないとね。そう思ってそれを結界に貼り付けた。


 結界の魔力に吸収されて同化した。もう剥がれない。成功だ。もう帰るだけだ。だけど、ちょっとくらいいいよね?


「じゃあ、抵抗させてもらおうかな」


 少しだけ強めに行こう。フルスロットルで行きたいけど、そうしたらひとたまりもない。どうせやるなら全力で戦いたかったけど、残念だ。


 腕に魔力纏って、実体化させて、殴る!


「あらよっと!」


「弱いわ」


 何発も何発も殴るんだけど、全部杖の先っぽで受け止められる。かなり圧縮した魔力で相殺してきているようだ。


「なにこれ! 全然通らない! こんなの久々だ!」


「通らないのが久々なら、通されるのはどうじゃ?」


「うん、それも久々。できるならね!」


 一切、隙はなかった。そろそろやつの魔力は凍結しだしている頃だった。なのに、僕の胸に手が当てられた。


「発勁」


 稲妻が走ったようだった。全身が痛い。待って、これ内部からぶち壊してる。どんな発勁の威力だ。僕がぼろぼろになるなんて……。


 待って、これ中枢がいかれた。やべ、調子乗るんじゃなかった。逃げよう。足に魔力集めて、これでよし。


「またね!」


「……あんまり深追いはできぬな。それより奴は結界に何をした? ……調べねばならんな」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 あー……やっべ、調子乗るんじゃなかった……。なんとか逃げられた。追われたらまずかった。うまく動けない。内部からおかしくされてる。これは僕の弱点だ。


 にしても、なんで追いかけてこなかった……あぁ、いなくなってる間にその"弟子"に手を出されるのが怖かったのか。助かった。


「お前が戦うの好きなのはわかるが、それは俺の仕事だろうが。後悔するなら、初めから調子に乗るな」


「その声はぁ……頭ぁ……久々ぁ……だねぇ……」


 真っ黒なローブに顔を包む。絶対他人に見えないようにしているが、僕と、あと一人は知ってる。僕ら二人しか知らない。優越感ドバドバだね。


「ようやく仕事が終わった」


 仕事、それは力による国の制圧。国をぶっ潰して手籠めにしてきたのだ。あんまり大きくないけどね。たった一人で突っ込んでから五ヶ月経った。


 それまでの間は頭が作った人形が色々こなすようになってた。


「しっかり糸は溶け込んだみたいだな。だけどあのジジイは抜かりなさそうだ。結界解かれたらまずいからな……さっさと連絡しとくか」


 早速そのもう一人と頭は連絡を取る。


『おい、糸埋め込めた。この場所覚えといてくれ。早くしないと座標わからなくなるかもしれない』


『あいよ。この俺様の天才的な頭脳が、脳細胞が、この場所の全てを記憶してやるぜ』


『ちょっと待っておくれよ、天才的脳細胞は僕の役割だろう。僕の立場を取らないでおくれ』


『心配すんなよ、テメエには拷問好きのレッテルが残るだろうさ』


『ならよかった』


『よくねえよアホが』


 悪人が仲睦まじく生活してるの、必死に努力するやつへの最高のアンチテーゼだ。気分いい。いいぞ、終わるまでのこの時間、最高に充実してるぞ。


『あとは結界ぶっ壊せれば終わりだな。俺、ちょっと集中してくる』


『……マジで?』


『ホントに?』


 頭の"集中"、めちゃくちゃ長いんだよな……帰ってきて早々これか……。


「ちょっと短めでいく。今回は三ヶ月だ。」


 三ヶ月……まあマシかな。酷いと一年かかるもんね。まあ組織は頭抜きで成り立つようにしてるからいいけど。


 というか、組織形成に必要な全てを頭が集めて、運営は頭抜きでやって、最後の仕上げに頭。なんだこれ。裏切り考慮は……してないな、頭のことだから。


 頭、あんまりおつむ回らないもん。自分でも言ってるけど。「俺は無能」、それが頭の口癖だけど、組織成立まで持ってった時点で人よりできるよ。


『それじゃ、俺は行くぜ。こいつが終わったら、もうすぐだな』


 もうすぐ、それは僕たちの行動原理。


『俺達が全部、手に入れる』


 エンゼルランプ、その花言葉は、支配。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 弟子入りして一ヶ月、適度に体を動かし、温泉に入り、ようやく魔力回路と筋肉が元に戻った。


「ついに……完治だ……」


 この日をどれだけ待ちわびたことか。これで俺はようやく魔法を学べる。


「爺さん……俺、いいんだよな……?」


「修行、開始じゃ」


「うおっしゃぁぁぁ!!」


「テンリ君、一緒に頑張ろう! 」 


「あんたは回路おかしいから魔法使うなって言われてるじゃない」


 この一ヶ月間で、俺達がここに来た経緯をあらかた話した。アズサの体の構造も聞いた。


 旅をしていたら何故か狙われてて、アズサもそいつらを裏切って殺されかけて、ここに来たこと。それを聞いて、心当たりはないのかと、爺さんに何度も聞かれた。


 ない。本当にない。強いて言うなら目がなんか関係しているかもしれない。


 それで、話は変わって爺さんはアズサの体についても聞いていた。体がほぼ魔力でできているというのだ。


「こんなの見たことないからの。取りあえずお前さんがアズサを救いたいのなら、これをどうにかしなければな」


 魔力、爺さんはそれをアズサに通し、体内の状況を読み取った。その結果わかったこと。本人が言う通り、アズサは一度死んでいる。


 腐りかかっていた全ての器官を"停止"させ、体を魔力というエネルギーで満たし、魔力で動く魔物のような状態になっていた。


 そしてアズサが使ったあの馬鹿げた威力の魔法、あれはアズサの異能、「蓄積チャージ」によるものだった。


 アズサが「ファイア」と呼んでいるものだ。ファイアを撃つまでに撃った魔法と同じ分のエネルギーが蓄えられていき、それを放つとそのエネルギーと魔力が乗算されながら出ていくと言うものだった。そしてファイアを撃つとそれはリセットされる。


 簡単に言うと、ファイアを撃つまでに撃った魔法の二乗の威力のエネルギーをぶっ放すということだ。馬鹿げている。


 ただ、生命活動に必要な魔力を消費しすぎたせいで体が保ちづらくなった。それがアズサの体にヒビとして現れた。


 俺は今まで、何度もアズサの魔法に助けてもらっていた。それは、アズサの身を削る行為だった。


「アズサ、知らずに魔法撃たせて、ごめん」


「いいよ、全然。私がやりたくてやったんだし」


 穏やかな笑顔で俺を肯定する。この顔を、俺は守りたいと思った。アズサを元に戻す、それはもはやアズサを生き返らせるという行為に等しい。


 だから何だ。俺はやってやる。さぁ、まずは何をしたらいい? どんな内容でもかかってこい。


「手始めに、この森百周してきて」


「はい?」


 拒否権などない。森に放り込まれ、もう走るしかない。膨大な時間がかかるのは目に見えているので、磁力使おう。うまく使えるかな……。


「アズサ、お前さんは本当に言わなくていいのかの?」


「いいんです。私があと一年も生きられないなんて知ったらテンリ君はもっと無理すると思います。だから、私は頑張って、知られずに消える方法を考えます」


「……敬語使うななんて、言い出せる空気じゃないわい……」

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