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六話:必然

 森を歩き始めて1日経った。別に、食料がなくなったとかそういったことは起こっていないが、全身がめちゃくちゃ痛い。デコボコした道の中をある続けただけでなく、近道のために岩や木に登ったのが問題だった。


 だが所詮筋肉痛だ。動いたほうがかえっていいという情報もあるし、遅れるのも嫌だからとりあえず歩き続けている。


 道のりはもう残り半分をきっているし、これなら明日には到着できるだろう。それがわかっているのにまた岩を登っている自分がいる。どっちにせよ結果は変わらないのに。だって早く着きたいんだもん。まさに朝三暮四である。目的のためとなると視野が狭すぎるのが悩みだ。


 岩を登りきった。そうしたら目の前にゴブリンがいた。群れではなく、単独だったのはまだ救いだ。ただ、めちゃくちゃこちらを敵視してきている。


 ー見なかったことにしよう。そう思って頭を引っ込めたがゴブリンがこちらを凝視してくる。無理だなこれは。


 なので開き直ることにした。岩から思いっきり飛び出し、ゴブリンと対峙する。フッ、俺はあのヌシを倒したんだ。ゴブリン一匹程度、敵ではない!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ジカイナはあることを思い出した。


「そういえば、あの小僧の、テンリの魔法、あれは石で増強したものだったから、今何かしらに襲われたらまずいかもしれん」


 あの石は魔力増強装置である。あれがあったから電撃がタンギレンを倒すことが出来た。


 石の力がない今、テンリに出せる火力などたかが知れているのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 全く威力が出ない。よく考えたら、俺の力ってあの投げつけられた石を砕いたときに強くなったから、あれがないと、俺って弱い?


 まずい。カスみたいな威力の電撃しかでなくてトラップすら設置できない。今ゴブリンにボコボコにされてしまっている。


 別に、ヌシと比べたら全然かわいい攻撃だが、何度も何度も棍棒で叩かれているので痛い。何だこれは。一時期強かったやつが他のやつとの戦いで消耗して他の奴にボコられるこの世の真理かな?


「イキるんじゃなかったーー!神様ごめんなさい!誰か助けてーー!!」


 この状況から逃れるすべがない。いくらゴブリン一匹と言っても人間より力は強いようなのだ。だから腕っぷしでなんとかするとかは無理だ。俺は神がいることを知っている。だから神頼みする。ああ誰か助けて。


「右に避けて!」


 誰かの声がした。こんなところに俺以外の人がいるとは考えられないが、俺はその言葉を信じて右に避けた。


 次の瞬間ゴブリンに向かって岩が落ちてきた。それが見事に直撃。ゴブリンは逃げていった。


「お、おぉぉ……」


 驚くのも無理はないだろう。その"魔法"を撃った本人を視認できないほど遠くから撃っていたのだから。射程がとんでもなく長い。


「大丈夫ですかーー?」


 そう俺に呼びかけながらそいつは俺に近づいてきた。華奢な感じの女の子だった。


「キャッ!」


 デコボコ道を走ってきたので途中でコケている。意外とドジな人?……失礼だし顔に出ないようにしないと。


「あの、大丈夫ですか?」


 なぜか今度は俺が心配する側に回っていた。明らかに俺より強い彼女に、思わず手を差し伸べていた。


「あ、心配なく。一人で大丈夫です」


 その手を借りずに、彼女は元気そうに立ち上がってみせた。なんでだろう?普通に初対面の人に手を借りるのが嫌なのか、潔癖症なのか。あまり深く聞かないでおこう。


「いきなり人が襲われている所に出くわしたので、ちょっと焦って発動が遅れてしまいました。ごめんなさい」


 助けてくれただけ大した人なのに、どれだけ謙虚なのだろうかこの人は。人の鑑かな?


「いえ、そんな細かく気にしないでください。助けてくれてありがとうございました」


「どういたしまして。君はこんな所で何してたの?」


 「俺は、魔法の学校へ行こうとしてたんですけど……気がついたらあんなことに……」


 その話を聞いて、彼女の顔が輝いていく。この話にそんな要素あるか?ー人の不幸で喜ぶタイプではないと信じたい。んなわけ無いか、人助けてるんだから。


「え!?君も魔法養成学園に行くの!?私もなんだよ!」


 そういうことか!仲間がいて嬉しいってことか。俺もー!待てよ……これ友達ゲットチャンス!?前世は友達できなかったからな……。そんなものに出くわしたことがないのでよくわからないが。


「君も嬉しいの?そうだったら嬉しいな」


 あれ?また顔に出たか?まあでも隠す気もないし別にいいかな。嬉しみオーラを振りまいたらあっちも喜んでくれそうだし。


「ねえ、君はなんていう名前?」


「俺はテンリ・トオヤマです。君はなんていうんですか?」


 名前を言ったとき、彼女が一瞬怪訝そうな顔をした。何か引っかかることがあったような、そんな顔だ。


「ごめんなさい、何か気に障りました?」


 そんな俺の問いかけを聞いて、彼女は即座に首を振った。


「いや、なんでもないよ。わたしの名前はアズサ。アズサ・シュウヤ」


 アズサ、という名前になんか引っかかる。日本でよくつけられる名前のような気がしたのだ。となると、あっちがあんな顔をしたのも似たような理由なのか?


 しかし、それはありえない。それだと彼女も日本出身ということになる。だから彼女がなんであんな顔をしたのかは結局わからない。


 結局、その引っ掛かりは寝て忘れてしまった。しかし、野宿の際当然アズサも一緒だった。女子と寝る、なんてことは、姉や妹がいなかった俺にあるはずがないので、緊張して眠れなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「そういえば、あのとき私だけタメ口になっちゃってたね。もうこの際、お互いタメ口で喋らない?」 


「えっいいんですか?」


 おっと、いきなりだったから敬語が出てしまった。しかし、お互いタメ口となると、距離はかなり近いのではないだろうか?


「それじゃあこの際聞くけど、俺と友だちになってくれたりは……」


 しないか。さすがに会って1日目だ。いきなりそこまでいくのは……


「もちろん!こっちこそ大歓迎!よろしくね」


 あっ……。俺の中で何かがプツッと切れた。その瞬間涙が溢れてきてしまった。


「ええっ!?なんで泣いてるの?大丈夫?」


「ごめん……友達できたの初めてで。ウウッ」


 今までいじめられていたので、リアルで友だちができたことがなかった。だから、友だちができたということがたまらなく嬉しいのだ。この世界で友達なんかできないと思っていたし。


「そうだったんだ……じゃあ私が最初だね。何だか変な気分だよ」


 もう神じゃんこの娘。なんでこんなに俺を幸せな気分にさせてくれるんだよ。


 その時、王様の言葉を思い出した。


「オッドアイはバレないようにしろ。お前の生活が破綻しかねん」


 そう、バレたらそこで友達関係は終わりなのだ。そんなの嫌だ。だからオッドアイだけは絶対にバレないようにしようと心に固く誓った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 2日ちょっと歩き続け、ついに俺達は魔法の学校に到着した。ちゃんとした名前は『ファルシェール魔法養成学園』だった気がする。長いから魔法の学校でいいや。


「大きいね……なんか威圧感がするな……」


 そう。とてつもなくでかい。アルライムの王宮よりでかい。まあ、あれは王様本人があんまり大きくさせなかったらしいけど。


「俺達、本当にここで勉強するのか?実感わかない」 


「うん、本当にそうだよね」


 はにかんでアズサは笑う。本当に圧倒されているようだ。心なしか足が震えといるような気がした。


 入口から校舎に入り、入学式会場へと向かう。入学式は春と秋の2回行われているらしい。俺は一週間ほど前にこの世界に来た。凄まじいタイミングの良さである。


 予定されている校長の話が始まる時間になるまでソワソワしながら待つ。俺やアズサだけでなく、周りの人たちも似たような感じで、会場全体がそんな雰囲気に包まれている。


 ついに時間になった。魔法で瞬間移動とかではなく、普通に扉から入って、ありがちな卓上に上がっていく。詳しいことは分からないが、どうもこの世界の魔法は想像より自由度が低いらしい。


 校長がおもむろに口を開いた。


「入学者諸君、ごきげんよう。私の校長のドレイク・アン・リヴェルだ」


 聞こえてきたその声は厳かで、辺りを一気に静寂に包んだ。まさに統べるものといった感じである。そこから、よくある長い話を聞かされるのかと思ったら、事態は斜め上に進んでいった。


「私は長ったらしい話をするのが好きではないので単刀直入に言おう。この学校は身分なんぞ関係ない。完全実力主義である。」


 なるほど。これなら仮にオッドアイがバレても気にされないかもしれない。……最もバレるつもりもないが。


「だが、強いものにばかり教育を集中させ、弱いものをおろそかにするというわけではない。我が校では全員の実力を上げることを理想としているからだ」


 じゃあ、弱いものがいつまで経っても弱いまま、ということは起きづらいということか。なかなか徹底された教育理論だと思う。


「そして、実力を上げるには、教育のレベルをしっかり合わせなければならない。高すぎても、低すぎても駄目なのだ。そして、それは諸君も例外ではない」


 ん?それってどういうこと?周りがざわつき始めている。なんか嫌な予感がする。


「そのため、諸君の実力を早急に測る必要があるのだ。よって、今から諸君ら全員に魔法限定で乱闘し合ってもらう。20分後までに裏の広場に集まるように」


「はい?」


 全員が間の抜けた顔をしてしまっている。この瞬間だけは、間違いなく会場全体の意見が一致しただろう。


『何考えてんの?』


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