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五十一話:始まりは気づけないもの

 アズサが言っていた伝説の魔法使いがいる国、はめちゃくちゃ小さい。国と言っていいのかわからないほどに。


 というかその周りの国も小さくて、いくつもの国が集まってようやくどっかの国一つ位の大きさになってる。


 だけど、海を隔てているせいでそこに着くまでには時間がかかるだろう。最寄りの港も凄まじく遠い。だから、目指してから数日が経っている。


 国力が微弱なようで、多分依頼を受けずに行っても大丈夫そう。かと言って、そんな国がなぜ侵略されずに今も残っているのだろうか。


 なんか、その辺りの海に魔物が多いらしい。船旅でもしかしたら出てくるかもしれないから気をつけろと地図に書いてある。この地図便利すぎるだろ。


「さて、食料確保にでも行くかな」


 アズサを引き連れて少し辺りを歩く。特段食料に困っているということはないが、日持ちする食品を増やしておいてもいいと思った。


 作るなら燻製とかだな。アズサに岩出してもらって、火を付けて……アズサ頼りだなこれ。


 しかし、全部の属性を持ってるとはいっても使う魔法は偏るな。炎とかはめっちゃ使うけど、雷は俺が使うし、土は本当に見ない。


 始めて会った時にゴブリンを倒してもらった時くらいだな。土魔法にした理由はダメージを与えすぎないためらしい。


 土属性って攻撃力が低くてメインで使ってる人をまともに見たことがない。いたら相当の猛者だぞ。


「狙撃っと」


 アズサ、早速獲物を見つけたらしい。水をレンズみたいにする魔法を覚えてから狙撃がさらに強くなったというか。


 狙撃したという場所に向かってみると、倒れているリャルノがいた。リャルノとは、緑色で、羽を生やした謎の生物のことだ。


 どこにでもいるな、こいつ。今までの旅路でも結構な頻度でこいつと会った。だから全世界の人間の食卓に乗ってるんだろうな。


「こいつ燻製にしたい。あと数体くらい捕まえたら作りたいんだけど、協力してもらっていい?」


「うん、いいよ」


 その後、割と近くに三体のリャルノがいた。まあまあの量の保存食が作れそうなので、土を出してもらい、火を付けて燻製を作る。


 近くの木がいい感じのチップになってくれるので切り刻んでぶち込む。しばらく待っているうちにかなりいい匂いがする。大体木の匂いだけど。


「ねえ、テンリ君……」


 アズサが何かを話したがっている。ここ数日こんな感じだ。何か話したいけど伝えづらくて言葉に詰まる、昔よくあった。


 だけど俺の場合、言葉に詰まる必要すらなかったな。だって何話そうが母さんは話を聞いてくれなかったからな。俺が勝手にそうなっていただけ、悲しいな。


「どうかした? 何でも話してみろよ」


 もしかしたら隠していることを話してくれる気になったのかもしれない。そんな期待、抱くんじゃなかった。アズサが話そうとしているのはもっと、別のことだった。


「私ね……もう君と一緒にいられないんだ。旅を……終わりにしないといけない」


 ーー心が締め付けられるのを感じた。今、なんて言った? 俺との旅は終わりって、いきなりすぎるだろ、まだ二ヶ月しか経ってないのに……。


 いや、でもこの旅は俺がやりたいと思ってやってるだけだ。アズサには合ってないのかもしれない。ただ、それでも……


「どうしてだ? 急にいきなりそんな事言われても頭が追いつかない」


「私ね、呪いの進行を抑えるのに西の国へ行かなくちゃいけないんだ。でもその国はオッドアイを問答無用で殺してしまうから」


 お前の呪いって、 進行とかあるのか? なら一人で行かなければならないのも納得だ。でも、ここからアズサ一人で西の国って、遠すぎる。 


「でも、西までってかなり遠いぞ。俺でもとんでもない時間がかかるのに、お前一人って無茶だ。それでも一人で行くのか?」


「行く。どうしても一人で行かないといけない理由がある」


「それは何だ」


「それは……ごめん、言えない」


 ーーアズサは多分、俺との旅が嫌だったのかもな。だから何が何でも離れようとする。


 じゃあ、今までに見せたあの心からの笑顔はなんだ? どんな思いであんな顔してた? もう心の中がぐちゃぐちゃだ。


「わかったよ。行っていいよ」


 いいよ、それだけ俺から離れたいのなら。俺が勝手に一緒に旅したいな、とか思っただけだし、終わりにしたいのなら拒む理由はない。


 でも、俺がそう言ってしまった時、心に浮かぶものがある。俺に見せた心からの笑顔、好きだった笑顔。俺が、

そうさせているのかもしれないとか思ったらたまらなく嬉しい。


 俺がそう思ってたのも、全部俺の勝手で、無駄だったのかもしれない。


「でも、また会えるといいよね……」


 ぼそっとアズサの呟く声が聞こえた。何なんだよ、どっちだよ。俺が嫌なのか、そうじゃないのかはっきりしてほしいよ。


「……そうだな」


 アズサがこちらを凝視する。聞こえてたのか、とでも言わんばかりに。なんか少し目が潤んでいる気がするのは気のせいだろうか。


 もうアズサが何をしたいのか全然わかんない。でも今やるべきは港に向かうことか。


 港の近くに馬車的なものの乗り場がある。だからこそ行かなければならないのだが、別れを実感して妙に足は動かない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『予定していた進路を外れた。恐らく裏切った。こっちから動くしかない。俺が向かうまで誰かに足止めさせとけ』


『あんなに恐怖で縛ったのに? 残念だねキンレンカ。オッケー、誰か向かわせるよ。で、どうするつもりなの?』


『殺す。問答無用だ。道具にすらなり損ねた裏切り者のカスはこの世には必要ない』


 散々間近でオッドアイの情報を探らせ、色々と役に立ってもらったな。だが、もう役割を果たせないというのなら、始末するしか、ないよな。


『ああ……でも大体手が空いてねえな。まともに空いてるの、性格が悪いやつとお人好ししかいねえぞ。あと雑魚ども』


『じゃあ性格が悪いやつ以外にしろ』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 干し肉が出来上がったのでまた走り出す。しかし、あんなに話をしたあとだから雰囲気が悪い。それを紛らわせるために無心ではしる。


 その最中、木にもたれかかった魔物を発見した。体が灰色で、背中には管のようなものがある。


 どこかぐったりしているように見えたので、少し話をしに行ってみた。


「あの、大丈夫ですか?」


 ふと思ったのだが、魔物に話しかけたところで答えは帰ってこないかも。だって話せる個体少ないからさ。


「ええ? いや、心配なく。16日くらい何も食べてないだけですし」


 それは心配するし、だけ、なんて言わない。魔物と人間で価値観が違うのはわかるんだけど、流石に驚くって。


「いや駄目ですよそれは! 何で食べないんですか!? もしかして食料持ってないけど狩りができないとか?」


「狩りはできますよ? ただ生き物を殺すのが苦手で……無駄な殺生をしないようにしていたら、ね」


 何だそれ……いくらなんでも度が過ぎるって。放っておいたら何も食べなさそうだし、とりあえずなにかあげよう。


「あの、さっき大量に干し肉作ったんで食べてください」


「いいんですか? でも申し訳ない……いや、好意を無駄にする方が申し訳ないな。ありがたく頂戴します」


 その魔物は手渡した干し肉を、噛みしめるように少しずつ食べる。一つ一つはあまり大きくないのに、一つ食べきるのにかなり時間をかけている。


「いや、助かりました、ありがとうございます。私の名前はラブカ、ドープマンです。まあ、この種族性別ないんですけどね」


 ドープマン、背中にある管を体のどこかにくっつけ、膨大な量のエネルギーで強化する魔物だったっけ。かなり珍しい魔物だったはず。


 エネルギーから自然発生する魔物で、群れは作らずに一人で暮らす。戦い方は個体によってまちまち。性格も然り。個体差がデカい魔物なのだ。


「どうしてこんなところに?」


「いやはや、私はある団体に加盟しているんですけれども、その一人が裏切りましてね。そいつを探しているところです」


 裏切り者探しね。中々物騒なことをしているようだ。興味本位で見つかったかどうか聞いてみた。


「ちなみに、見つかりました?」


「わかりません。私目が見えないもので、頼りのエネルギー探知器官も転落しておかしくなりましてね。それが治れば見つけられるんですけど」


 あらあらあら……散々なこと。何だか可哀そうだな……ちょっと手伝ってあげたい気がしてきたな。


「じゃあ、その器官治すの手伝いましょうか?」


「そこまで……ありがとうございます。ではもう少しだけ甘えさせてもらいましょう。いい人ですね、貴方」


「えっ……あっ……」


 アズサがかなり焦っているように見える。あっ、あんだけ離れたがってんのにそれはいささか酷なことだったか……ごめんね。


「アズサ、早く離れたがってたのにごめん。でも少しだけ助けてやらない?」


「いや、そういうことじゃない……」


 そういうことじゃない? じゃあなんだろう。何がそんなのに嫌なのかわかんないけど少しだけ我慢してもらおう。

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