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四十六話:発見

 俺の研究が始まって数週間経った。ずっと拘束されているわけでなく、普通にそこら辺を回ることができた。流石にチナテラトから出ることはできないが。


 ただ、研究材料になった男とかいう不名誉な呼び方をされ、完全に人々からナメられることとなった。完全にやらかした。


 治癒や特殊型、それに異能の調査に研究者二人は精を出していて、かなり忙しそうだ。なんでも最近の論文の材料にするらしく、期限が近いのだそうだ。


「何であの人は新しい分野でしか論文を書かないんだ。今わかっている分野を掘り進めるのだっていいじゃないか」


 そうサントスさんがよく愚痴をこぼしていた。この前ストレスが溜まりすぎてオッドアイということできつく当たりすぎたことを謝罪された。


 今の俺は二人にとって論文を書き上げるきっかけになった救世主のような感じらしい。


 しかし、なかなか一向に調査は進まず、難儀しているらしい。前例がない特殊型に貴重な治癒、それに、紐を消し去ったよくわからない属性。


 治癒は結構進んでいるらしいが、時間はかかるようだ。これは俺の魔力を使ってやろうとしていることが問題らしい。


「君の魔力を抽出して薬を作りたいんだ」


 ソレイユさんは治癒に対しての最終結論がこれらしいが、魔力を抽出した後にどうやって作用させるかが難しいらしい。


 なんでも、治癒魔法の素になる魔力だけ異常に密度が小さいらしい。今までの治癒魔法使いの五分の一程だった。


「塊くん、君どうやってこの弱すぎる魔力から治癒魔法出してたのさ」


「なんかこう、風魔法で圧縮して強めて出してました」


 右手から風、左手から治癒の素をだし、パン、と音を立てて手を叩いてみせた。そうすると左手から白い光が出てきた。


「なるほどね……それは違うグループからの協力貰わないと……サントスくん、今度行ってきて」


「自分で行ってくださいよ……」


「私が人付き合いに向いてないの君が一番知ってるよね?」


 風の人工回路を造ってもらってそれと組み合わせて使う、ということに決定したようだ。


「西の国に秘密で流通させたらめっちゃ抑止力になりそう。だから売れるね」


「そうしたらあなたもミニマリスト卒業してくださいよ。また備品のお使いさせられるの嫌ですからね」


 かなりあくどい会話をしているのが聞こえてきたが、確かにこれ間接的に王様への恩返しになるんじゃね? 俺までにやけてきた。


「みんな……どうしてそんなにニヤニヤしてるの……」


 一人だけ置いてけぼりのアズサを見て、ちょっと申し訳なかった。でも、つられて笑い出したしやっぱりいいか。


 治癒方面はいい進み具合だ。そして特殊型。これに関しては、同じ属性の特殊型は二人以上存在できないこと以外何もわかっていないらしい。


 今まで研究できた特殊型はたった一人のみ、120年前もさかのぼるらしい。ちなみに水属性。二つの物を合体させる能力を持っていたという。


 これは水素原子結合の具現化という線が一番有力らしい。特殊型はその自然現象の特徴を具現化できる人物のであると仮説がたった。


 俺は今、帯電と電磁力と、微妙なところだが電波探知ができるので、雷、というか電気の特徴を着実に覚えていることになる。


「もしかしたら、いずれ塊くん本人が自然現象そのものになるかもね」


「え? テンリ君雷になっちゃうの? 消えちゃやだ」


「うーん、そういう意味ではないよ潔癖ちゃん」


 潔癖ちゃん、人に触れないことからついたあだ名だ。そういう意味ではないよ、ソレイユさん。


 とはいえ、話すわけにもいかないからな。アズサ本人がすごく嫌がるだろうし。


 とりあえず、特徴型に関しては生活に役立てるとかは諦めて、単純に原理とかを探す方向でいくらしい。全部は無理なのでこの先ちょっとずつ。


 そしてもう一つ、それは紐を消し去った訳わからん属性のこと。これに関してはもうお手上げ状態。どれだけ文献を漁っても前例が一つも出てこない。


 これがわかったら大変なことになるだろうが、それができなくてもどかしそうにしていた。


「ああ……これだけ色々わかったらもう休んでもいいよね……うんそうしよう、もう休も……」


「暇ならこれお願いね」


 なんだか闇を垣間見た気がする。サントスさんに聞いたら、日中の仕事が死ぬほどきついらしい。ただ定時は保証されているので、毎日ぐっすりだそうな。


「でも、あの人は命がけで研究してるから、多分俺より遥かにきついはずなんだ。それを喜んでやれるのは、もう感服さ」


 だからこそ、振り回してくるあの人についていける。そう笑って言っていた。なんだかんだで信頼関係はしっかりしてるんだな。


 ちなみに今日のお使いは魔力増幅石。王様がヌシとの戦いの時くれたあれだ。俺の魔力を跳ね上げたら、もしかしたらその属性が見られるかもしれないと思ったかららしい。


 イメージしなくともある程度はその魔法の効果は出てくるため、やってみようということになった。


 今日は俺とアズサもお使いに同行している。結構な量施設を見て回り、特にやることがなかったのだ。


 道行く人にサントスさんは挨拶されている。人前に出てくるのは主にこの人なので、人からの信頼が厚いようだ。


 他の研究員との仲も良好で、軽めに世間話をすることもある。ただ、たまに妬みの声が聞こえる時があった。俺についてのようだった。


「あんないい研究材料、どうしてあんな変人のところに……」


「結局、異物は異物のところに集まっていくんだな」


 それを聞いて、サントスさんが拳を強く握りしめながらも微笑みを崩さなかったのを、俺もアズサも見ていた。


 言い返せないのはよくわかる。地位や信頼が低い人間が言い返そうとすると、その人の評価は下がるから。ソレイユさんがこれ以上悪く言われるのが嫌なのだろう。


「サントスさん、もう、思う存分俺を研究してわかったことぶちまけちゃってください」


「言いたいこと全部言って、ソレイユさんの凄さを見せちゃいましょう」


「……ああ」


 なかなかに熱い会話を繰り広げながら、石を買って施設へ戻った。


「お帰り! さあそこその石を存分に使ってくれたまえ、私に大発見をさせてくれ!」


「できるかはわからないですけど、やれるだけ」


 右手で石を握りつぶしながら魔力を通す。そして限界まで高めた魔力をしばらく流し続けたのだが、何も起こらない。


「うーん、こりゃダメかな。多分まだまだ魔力が足りないや」


 ええ……限界の魔力をさらに高めても足りないって、どうなってんだよ。


「私の魔力も貸す? ……って、待って待って……」


「え? 何、どうしたの?」


 いきなりアズサが慌てだしたのでどうしたのかと聞いたら後ろを指差した。振り返ったらソレイユさんとサントスさんが倒れてうずくまっていた。


「大丈夫ですか!?」


「だ、だいじょ……ゲホッ! ……大丈夫じゃないね」


 吐血までした。これはヤバいと思い、すぐに治癒魔法をかけた。二人ともそれで元に戻ったようだ。かなりピンピンしている。


「今の何……?」


「塊くん、これは呪いだね」


 呪い、魔法と対になっているような力である。一部の魔物が持っている力で、人間は使えないらしい。


「この魔法の属性は呪い? いや、まだほんの少ししか権能が明らかになっていない。これは副産物と考えるのが妥当か」


「ソレイユさん、呪い付きの魔法って、魔法の原理を根幹から覆しますよ」


 魔物が持っていて人間には使えない、魔法とは反対の力。だからこそ人間が魔法の一部として持っているのは相当ヤバいということのようだ。


「塊くん、君本当になんなのさ」


 あれだけ興奮していたソレイユさんですら呆れ果てる始末だった。あまりにも規格外で頭を痛めたらしい。椅子に座って動かなくなった。


「サントスくん、頭痛薬取って」


「残念、ちょうど切らしてますね。買ってきますよ」


 そう言って、めんどくさそうに施設を出たサントスさんだったが、その直後に争うような声が聞こえた。


「だから、彼は俺達が研究する権利があると、しっかり上から認められたじゃないか!」


「ふん、君等は究明までが遅すぎるんだ。私ならもっと早く、もっと隅々まで解き明かせるさ」


「そうやって急いできたから今まで沢山の研究対象が消耗して使い物にならなくなったんだろうが!」


 施設を出てみたら、サントスさんと中年の男が争っていた。男は俺を一瞥して、かなり怒った様子で言った。


「話にならないな。とにかく、その少年は私が研究するのだ! 邪魔をするな!」 


 男が何かを合図した。次の瞬間、数匹の魔物が出てきた。ちょっと待て、国の中で魔物放出って、こいつ何やってるのかわかってんのか?


 魔物はネズミのようで、こちらを睨みつけて牙を向けた。町の中で戦うのはあまりよろしくないだろうが、仕方ない。


 俺が剣を抜き、しばらく動かない状態が続いていた。だが、違和感がした。すごく遠くから妙な存在感がした。そこを探知してみた。


 反応したそれは、電波を詳しく判別できない俺にすらわかるほど、大きかった。

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